ライトノベル作法研究所
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  5. ヒュプノフィリア公開日:2012/02/29

ヒュプノフィリア

akkさん著作

  ※ 人によっては不快に感じるような表現があります。
    グロテスク、過激な表現を含みます。苦手な方はご注意ください。






  ★0★

 夢を見た。
 存在しないはずのもう一人の私が哀しそうに泣きながら、眠ってる私を見下ろしてる。
 ごめんなさい。私がダメな子だから。



  ★1★

 満月の夜。真っ暗な部屋。
 私の枕から芽が生えた。
 あっという間に芽は成長して、小さな木になり、黒い花が咲き、枯れ、一つの種が実った。
 まん丸で小指の爪くらいの大きさの種は、深い黒の奥に星のような光がきらめいてて綺麗だった。
 これは夢だ。体の感覚が希薄でとても楽だから、夢だって分かる。
 私が自分のベッドで布団を肩にかけて座りながら、ぼーっと種を見ていると、
「こんばんは、愛しい里々愛(りりあ)」
 と子守歌を唄うように独特の節をつけたしゃべり方で、誰かが話しかけてきた。おおらかに包み込む父親のような低い声と、あやしつけるように優しい母親のような高い声が、同時に重なって聞こえる不思議な声だった。
 誰なの……?
 声のした方を向くと、部屋の壁からぬるりと数本の細い腕が生え、声の主は徐々にその巨大な体を、ズ、ズ、ズ、と這い出させていく。『それ』は私の体の数倍はあり、部屋いっぱいにしき詰まる。
 圧倒された私は声を失って布団の端をギュッと握り、ベッドの隣にある窓に背を預けた。
『それ』は綿でできた脳味噌のような形の体が中心にあり、そこは顔も兼ねていた。胴体部分なのに顔だと判断したのは、左右バランスの取れていない大きな目がついていて、しきりにまばたきを繰り返しているからだ。
『顔』の周囲にはびっしりと腕が生えていて、一本一本が別々にうごめいていた。腕は触手のように異様に長く、手の部分はこれまた巨人の手のように大きかった。よく見ると、足はなく、宙に浮いていた。
 全体像はまるでロールシャッハテストのように左右対称だけど歪で、不気味な形の蟹のようにも見える。
 ズズッ、とこっちへ近づいてくるだけなのに、無数の腕で掴まれて捕食されてしまいそうな威圧感があった。
「逃げないでください。我の名はヒュプノス。夢の種を実らせた愛しい里々愛を迎えに来たのです」
 混声合唱のように重なる声が耳障りで、耳を塞ぎたくもなりながら私は聞き返す。
「ひゅぷのす……?」
 どこかで聞いたことがある単語だ。確か――眠りの神様の名前? そう思うと、たくさんの手で人を救うと言われる千手観音のように、その腕が神々しくも見えてきて、
「……様」
 私は遅れながらも、そう付け加えていた。
「さぁ夢の種を手に取るのです」
 ヒュプノス様は腕の一本を動かして、小さな木に一つだけ実った種を指さした。
「種を飲み込めば、起きている間でも夢を見ていられるようになります。世界そのものを大きく改変することはできませんが、自らを伴う世界だけを改変できるのです。そうまるで、夢を見るように」
「夢……?」
「そう。眠る度に夢を見たのでしょう? とても強い苦しみが、痛みが、悲しみが、あったのでしょう? 種は『強い想い』を養分にして生まれます――さぁ、種を飲み、夢を見ましょう。里々愛は夢を望んでいるはずです」
 私はいつの間にか種を手にしていた。
 けど、思いとどまる。
「それだけなの……?」
 そんな上手い話がある訳ない。私は警戒していた。簡単に手に入るものなんてないことくらい知ってる。
 耳にするおまじないなどは、大抵、何かの代償を要求されるものだ。
「察しが良いですね、愛しい里々愛」
 不安げな私の表情が映ったヒュプノス様の大きな瞳が細められた。
「願いどおりの夢を見られる代わりに、毎夜、悪夢を見ることになります」
 それは現実で苦しまない代わりに、夢の中で苦しむことになるということ。
 唯一の逃げ場だった夢を失うということ。
 視界の隅で、指先の種がきらめく。
 私は――。



  ★2★

 飛び起きた。
 真っ白い天井が見える。シンプルな白い家具で統一された、自分の部屋だった。
 私はシーツと布団をはねのけて、肩で息をしていた。
 怖い夢……。夢であることを疑うくらい、いやにはっきりとした夢だった。
 ふと手の中の硬い感触に気づく。今いるのは夢じゃなくて現実なのに、握りしめた手の平には夢で見た黒い種があった。
 寒気がした。
 とても臆病な私は怖くなってしまい種が飲めなかったから、握ったまま目が醒めたのだ。でもまさか、夢の外にまで持ってこれるなんて……。
 不気味なものに見えてきて、私は手から種を落とした。
 カーテンの隙間から差し込んでる朝の光とは対照的に、私の気分は暗かった。もっと眠ってたい衝動に駆られる。でも、
「里々愛、朝よ」
 ママの声に思考はかき消される。
 部屋の外から呼ばれたので返事をして、中学校の制服である、紺色のブレザーと緑と黄色の交差したチェックのスカートに着替えた。
 壁際に立てかけた姿見に映るのは、いつもの病気みたいに細くて白い私。長くて黒い髪は、表情を隠すためのカーテンにするために伸ばしていた。
 階下のリビングでは朝ご飯の用意が整っていて、
「おはよう里々愛」
 ピシッとしたスーツ姿できっちりと髪も髭も整えたパパは、柔らかく微笑む。
 今日は仕事の日らしくスーツを着て髪をあげているママは、忙しそうにバタバタしながら聞いてくる。
「朝ごはん食べられる?」
 黙ってうなずいて、作り笑顔を見せる。
 本当は食べたくない。でも食べないと倒れてしまうし、パパとママに心配してほしくないから、無理にでも飲み込むことにした。
 食パンに手を伸ばし、吐き気を我慢しながら、水で飲みこむ。飲み込んだものがすぐに喉から逆流しそうになるのを必死に押さえこんだ。
 我慢してるのをパパとママに悟られないように、表情は平静を保った。
 そそくさと全て飲み込み、ごちそうさまの意味で手を合わせて、食器を片づけてから、通学カバンを肩にかけ玄関へ向かう。けどママに呼び止められる。
「あ、里々愛! お弁当、忘れてる」
 あ……。
 ママの優しい笑顔が辛かった。お弁当をカバンに突っこんで、心配かけないように再度笑顔を作って小声で言う。
「……行ってきます」
 家から中学校までは歩いて十分くらい。私は遅刻しないように家を出た。
 声が飛び交う教室は苦手だった。鼓膜が震えることが嫌いな私は耳がむず痒くなるからだ。話をするのも苦手だったから、二年A組の教室へ入ると、いつも通りに私は自分の席に着いてそのまま動かない。
 教室では長い髪のカーテンが役に立つ。顔を隠してたら誰も近づいてこないから。
 私は目を閉じて、できるだけ自分が空気に溶けて消えるようにって意識を遠くに向ける。
 本当はしゃべりたいし、寂しい。でも話をするには声を出す必要があるから、これでいいんだ。仕方がないんだ。
 欠陥だらけの私なんかが、誰かと仲良くなれるわけがない。せめて平穏に、何事も無いように一日が過ぎ去ってくれればと願うばかりだった。
 授業に耐え、休み時間は眠り、やがて昼食の時間になる。
 一番嫌いな昼の時間だ。狭い教室に閉じ込められて、食べることを強いられるから、逃げ場がない。
 食べたくないけれど、一人だけ違うことをしていると変な目で見られる。教室にはそんな空気があった。
 担任の先生に心配された挙句、義務だと言ってパパとママに報告でもされたら敵わない。
 お弁当を開ける。本当は美味しい物なのだろうけど、そうだとは思えない自分が異常なんだって思い知らされる。
 舌を引きつらせながら口に食べ物を入れる。じわっと唾液が分泌される。飲み込む。喉がごくりと鳴る。食道を滑り降りて、体の中に食べ物が入る。体の中にある空洞を意識してしまう。滑った私の内側が、ぐにゃりと歪んで……。
「きゃああぁぁっ!」
 と誰かが悲鳴を上げた。
「せんせー!」
 周囲が騒がしくなった。
 私は人前で吐いてしまっていた。ずっと我慢できてたのに、とうとうやってしまった。胃液をまき散らしたことがすごく恥ずかしかった。
 机を汚しちゃった……。拭かないと。視線が集まってる。大丈夫だって言おうとしたけど、言葉が出ない。とにかく手にした布で机を拭いた。お弁当の包みだった。
 自分で吐き出したものを見て、また吐いた。自分の中にドロドロした液体が詰まってるのを想像してしまって、喉を掻きむしりたい衝動に駆られる。
 でも我慢しなくちゃ……。
「大丈夫、天羽さん。気分悪いの? 保健室に行く?」
 と担任の先生が聞いてくる。
 パパとママが会社から急いで帰ってくる姿を想像して、それだけは避けなくてはと思い、
「……平気です。のどを詰まらせただけですから」
 って答えた。自分の声に頭が痛くなった。
「雑巾持ってきてー」
 とか誰かが言ってる。
 視線にさらされて惨めな気持ちになった。迷惑しかかけられないことが恥ずかしかった。ここにいることが間違ってるような気がした。
 午後の授業は上の空で、気づけば下校時刻になる。
 重い足取りでとぼとぼと家に帰る。パパもママもまだいない家は、時計の針が動く音が聞こえるくらいに静かだった。二人とも夜にならないと仕事から帰ってこない。
 私は自分の部屋に入るなりベッドに伏せ、冷たい枕に顔をうずめる。ひどく疲れてしまってた。
 眠ってしまおう。体の感覚を忘れていられる眠りだけが私の生きる糧だった。
 その時、何かが指先に触れる。
 指先でそれをつまむと、夢で手にした黒い種だった。丸い粒の奥がきらりと輝いている。飲んだ方が良いって導かれてるみたいだ。って思った。
 悪夢が代償だという言葉を思い出して怖くなる。けど、また明日からも、こんなに意味の無くて、疲れるだけの、辛くて苦しい一日を乗り越えていくの? 何日も、何週間も、何カ月も、何年も……耐えていくの?
 無理だ。
 絶対にできない。
 未来に待ち構えている長い時間に眩暈がした。
 逃げたかった。
 今いる現実から。
 ただ辛いだけで、何一つ楽しいことなんてない。だったら、どうして生きてるんだろう。生きていくことが正しいことなんだろうか。……生きてる意味なんて何も分からない。
 今の私を治すには、自分の体を好きになるしかないんだろうけど、変わることなんてできなかった。
 好きになり方がわからないのだ。生き方がわからないのだ。
 口の中で唾液が溢れるのが気持ち悪い。飲み込むときの喉に詰まるような感覚が気持ち悪い。体の中で胃とか腸に食べ物が移動して、動いているのが気持ち悪い。
 ……まるで体の中に巨大な芋虫を飼ってるみたい。
 私は食べることが苦手だったし、それどころか、物心ついた時から体の全てが苦手だった。食事も、呼吸も、発声も、排泄も――体を使う何もかもが気持ち悪く感じる。
 自分がこの『体』という檻に閉じ込められてるのが受け入れられない。
『自分』が嫌いだから、何も好きになれなくて、私はこの症状を勝手に『嫌い嫌い病』って名付けていた。
 嫌い嫌い病のことは、誰にも言ってない。だからパパとママは、私がそこまで悩んでるって知らない。どうしても耐えられなくなった時はいつも『体調が悪い』ってごまかしていた。
「体調が悪い」と言っただけで、パパもママも血相を変えて心配をしてくる。
「ちょっと顔色悪い?」
「熱でもあるのかい?」
「病院に行こうか?」
「ああ、何か悪いものを食べさせちゃったかしら?」
 会社を休むし、顔を真っ青にしてアタフタする。
 私には過剰なのがすごく負担だった。
 誰もが普通にできることができないことで、迷惑なんてかけたくない。そんなとんでもない欠陥人間は生まれてこなければ迷惑もかけなかったのに。って申し訳なくなってしまう。
 だから一緒にいる時は、じっと私の挙動を見つめているパパとママに、作り笑顔を見せるようになった。
 仕方がないことなんだ。
 両親が私のことをとても大事にするのには理由があるから。
 それは『心々愛』のこと。
 私は双子だった。『心々愛』と『里々愛』って書いて、『ここあ』と『りりあ』と読むってママが言ってたのを覚えている。
 でもママの胎内で心々愛は消えてしまった。私に吸収統合されてしまったって話だった。詳しい原因はわからないけど、ごくまれにそういうことが起こるそうだ。ママはショックで流産しかけて、パパもひどく悲しんだらしい。
 ややこしい話、私は生まれた時から一人っ子だったけど、本当は双子だったらしいのだ。
 だからここにいる私は、二人分の命を抱え込んでるようなもの。二人分の期待を抱え込んでるようなもの。パパとママが過保護になるのも無理はない。
 でも私は大事にされるほどに、自分がここにいることが、自分だけが生まれたことが申し訳なくなる。嫌い嫌い病のせいで期待に応えられないダメな子だから、すごく悔しくなる。
 もういないはずの心々愛にも、どうして不完全なあなたの方が生まれてきたの? って責められてるような気がしてしまう。
 パパとママに嫌われたくない。二人を失望させたくない。二人を安心させたい。――そして心々愛の分までちゃんと生きなければならない。
 だから私は無理をしてでも毎日を生きているのだけれど、どうしようもなくなった時この世界から消えてしまいたくなる。
 ベッドでうずくまる私は、種をきつく握りしめた。
 でも消えれば、パパとママが狂ったように頭を抱えて落ち込むのが目に見える。そして、私の頭の中に現れる、私と同じ年まで成長した心々愛が、私とそっくりな顔で、みすぼらしく生きる私に語りかけてくるのだ。
「あーあ。私の体を奪っておいて、もったいない。そんなんだったら、私が産まれたかったのに。返して。返して――」
 ごめんなさい心々愛。
 謝っても謝っても、頭の中に住み着いた心々愛は許してくれない。汚いものを見るようなさげすむ目で私をなじる。
「返して。返して――」
 呼吸が苦しくなることで呼吸を意識してしまい、さらに息を吸うことが困難になった私は、うなだれながら、震える指先を口元へ近づける。飲み込むことは苦手だから、また嘔吐してしまいそうになる。 
『自分の体が好きになった私の夢』が見たい――。
 私は種を飲み込んでいた。



  ★3★

 体がひどく熱くて、痛みがお腹を突き抜けて、背中が破裂しそうだ。
 背中から膿がはじけて出るような解放感に、まるで羽化でもするみたいに目の前が白くパアッと開けた。
「あぁあぁぁっ!」
 私は体をのけ反らせて声をあげ、全身をビクンと痙攣させる。
 すぐに脱力し、その場でうつ伏せになった。
 苦しかった呼吸が少しずつ楽になっていく。
「オハヨウゴザイマスデス、里々愛」
 機械でいじったみたいな妙に高い声が私を呼んだ。
 誰?
 まるで早送りみたいな感じの声だって思う。
 寝転がったまま体を反転させて上を向くと、私の握り拳よりも少し大きいくらいの小さな綿の塊が浮いていた。綿の塊がしゃべった?
 綿の中心に目が一つあった。腕はなく、薄くぼんやりと発光している。ひ弱な蝋燭の灯りみたいだ。自分の周りだけが見えるのは、その綿が照らしてくれてるからだった。
 その場で起きあがり、地面にペタッと座りながら見渡すと、周囲は森のようで、あまり側面に枝の無いまっすぐな白い幹に囲まれていた。
 どこまで続いてるんだろう? 闇に覆われてて遠くまでは見えなかった。頭上は高い位置に葉が茂っていて天井みたいになってて空が隠されていた。
 平坦で柔らかいふわふわの落ち葉の地面は、まるで布団の上みたい。
 私はいつの間にか、いつも眠る時に着ているピンク色のパイル地のパジャマを着ていた。
 綿が言う。
「ワレハ、夢ノ世界ヲ導ク者。夢ヲ統括スル『ヒュプノス』ノ一部デスガ、我モ又『ヒュプノス』デス」
 良くわからない……。要はヒュプノス様の分身みたいなものだろうか。
 大きいのは『様』だったけど、今、目の前にいるのは小さくてどことなく可愛らしいから、
「あの……ヒュプノス……ちゃん?」
 私は『ちゃん』付けにした。
 しゃべり方もヒュプノス様と違って、ちょっとおかしな敬語で、気を許せる感じがした。
「ここは……?」
 声を出すことが嫌じゃないから夢なんだろう。
 体も自由に動かせる。
「夢ノ世界デス。種ヲ飲ンダ里々愛ハ、以後、眠レバココヘ来ルコトニ、ナリマスデス」
「真っ暗で、怖い……」
 ここはとても暗くて静かだ。私は闇の奥から何か飛び出してきそうな錯覚を覚え、身を硬くした。
 ヒュプノスちゃんいわく、時間は経っても闇が晴れることはなく、
「永遠ニ夜ナノデス。朝ガ訪レルコトハ、アリマセンデス」
 とのことだった。
 心細くなった私に、ヒュプノスちゃんはまばたきを繰り返しながら言う。
「トコロデ里々愛、背中ヲ見テクダサイデス」
 背中がほんのりと暖かいと思っていたら、蝶のような羽が生えていた。
 左はルビーのような赤に黒い縁取りがある綺麗な羽で、右は真っ白で部分的に透明に透けている稀薄な感じの羽だった。
 しかも自分の意志でパタパタと動かすことができた。腕が四本になったみたいな感覚だった。
「飛べるの……?」
「空ハ飛ベマセンガ、夢ヘト飛ビ立ツコトガデキルデス。コレデ、現実デモ夢ヲ見続ケルコトガデキマスデス」
 私は話を聞きながらうなずいた。
「羽ハ、里々愛ノ体内ニ入ッタ種ノチカラガ、肩甲骨ノ辺リカラ漏レテ、形ニナッタモノデス。羽ノ色ハ、閉ジ込メタ夢ノ色デモアリマス。里々愛ハ、トテモ赤イ印象ノ夢ヲ、種デ閉ジ込メタノデショウ」
「……あの……左右の色が違うけど?」
「ハテ、ソレハ、前例ガナイノデ、ワカリマセンデス」
 ヒュプノスちゃんは私の周りを、考え事をするようにグルグル回った。光る綿飴が飛んでるみたいで不思議な光景は、私に昔絵本で見たティンカーベルを思い出させた。
 もう一度羽を見ようと、首をひねって背中の辺りに目を向けた時、遠くから小さな灯りが近づいてくるのが見えた。
 何だろう? と私が立ち上がると、
「『種ヲ狩ル者』」
 とヒュプノスちゃんがつぶやいた。
 かるもの?
 意味が理解できなくて、私は首をかしげる。
「里々愛、アレニ近ヅイテハ駄目デス」
 近くなってくる丸い光。遠くなのではっきりと見えないけど、一つの人型の影が見えた。
 影は木の幹を避けながら私に向かって突き進んできくる。
「逃ゲテクダサイデス。『種ヲ狩ル者』ニハ、出会ウベキデハ、ナイデス。危険デス」
 ヒュプノスちゃんが警告する。
「種ヲ奪ワレテ、シマイマスデス」
 ……どういうこと?
 次の瞬間、人影の足元から、巨大な腕がせり上がった。腕は勢いよく私に向かって迫ってくる。威圧的な腕に私は怖くなって身をすくめた。
 私と暗闇から迫る影の間にあった木の幹が、水面の波紋のようにグニャリと歪み、腕は障害なく私との距離を詰める。
「早ク逃ゲルデス!」
 ヒュプノスちゃんが喚くけど、ありえない光景に射竦められた私はすぐには動けない。慌てて地面を転がりながらも腕から背を向けた。影とは反対方向へ私は走り出す。腕はすぐ側まで来ていた。
 あまり運動が得意ではないので早く走れない。追いつかれちゃまずいって思ったから、後ろを振り返らずに必死に走った。
 呼吸が苦しくなるのも構わずに、足を前に前に進める。
「アレハ悪夢デス」
 と機会を通したような高い声でヒュプノスちゃんが言ってる。
 悪夢?
 まだ追われてるのかどうなのかもわからないけど私は走り続けた。白い幹の立ち並ぶ景色が流れていく。落ち葉で足を滑らせそうになる。危うく木の幹に顔からぶつかりそうになる。
 悪夢って何?
 似たような景色なので前に進んでる気がしないことが、余計に私の恐怖心をあおりたてる。
 走って走って、ようやく周囲に何の気配もなくなった。とても静かな森が返ってきた。私の荒い呼吸だけがうるさかった。
 足がガクガクと震えて立てなくなって、私は白い木の幹を支えにして地面にへたり込んだ。頭の中が混乱していた。
 呼吸が落ち着いてきた頃、ヒュプノスちゃんが言った。
「詳シイコトハ、明日ノ夢デ、オ話シマショウ。今夜ノ夢ハ、モウスグ醒メルデス」
 私が顔をあげて、宙に浮く綿の塊を見ると、その綿の体がパカリと割れ、頭の上に当たる部分から砂時計が出てきた。
 こげ茶色の木の枠に、透明なガラスの器。中の砂は夜空を粉にして閉じ込めたみたいな深い紺色だった。
 この瞬間にも上から下へとサラサラと砂は落ちていて、あと少しで全て下に落ちてしまいそうだ。
「砂ガ下マデ落チ、又ヒックリ返シテ、全テ下ヘト落チルマデガ、夢ノ中デ滞在デキル時間デス。逆ニ言エバ、一度眠レバ、必ズコノ時間ハ、拘束サレマス。今夜ハ羽化ニ、時間ガカカリマシタノデ、コレデオ終イデス」
 ヒュプノスちゃんの光がゆっくりと消えていって、闇が広がってくる。私は真っ暗な森に飲み込まれていった。
「待って、まだ聞きたいことが――」
 有無を言わさず、世界は黒に覆われていき、
「愛シイ里々愛、行ッテラッシャイ。里々愛ガ夢見タ世界ヘ」
 私の意識は暗転した。



  ★4★

「里々愛、起きなさい」
 と遠くから呼ぶママの声に、私は慌てて目を醒ます。
 ……夢?
 明るくて、今が何時で何処なのかもわからなくて混乱する。目に映るのは暗い森じゃなくて、自分の部屋の見慣れた白い天井だった。
 壁にかかっている時計を見ると、時間は七時十分。どうやらもう朝らしかった。長い間眠ってしまってたみたいだ。部屋で種を飲んでから後の、現実での記憶がなかった。
 ひどく汗をかいていた。でも自分が自分ではなくなったみたいに体が楽だ。まるで夢の中みたい。
 でも、夢じゃない。
 私は不思議な感覚に戸惑った。
 確かに自分の部屋だし。頬っぺたをつねってみると……痛いけど。
 深呼吸してみる。呼吸することも嫌じゃない。
 けど体が苦手だという感覚が無い!
 嘘……。
 全然平気で、まるで生まれ変わったみたいだ。
 本当だったんだ。本当に私は、私の体を好きになれたんだ!
「すごい、すごいすごいっ!」
 私はベッドから跳ね起きた。
 お腹に手を当ててみる。気持ち悪い芋虫のような内臓の存在感が無かった。自分の声も嫌じゃないし、狭い箱から解放された気分だった。
 そういえば、声を出しても平気だった。
「これが種のおかげ……!」
 私は落ち着きなく体を動かしてみる。
 自分の体が嫌いじゃないってとても楽だ。
 涙がボロボロと零れてきた。すごい解放感だった。初めて生きることを許されたような気がした。
 でも、浸っていられない。朝なんだから、学校に行かなくちゃ……。
 姿見の前で急いで制服に着替え、髪を後ろでゴムで縛りポニーテールにしてから、リビングに向かった。
「おはようママ!」
「おはよう里々愛」
 今日は仕事じゃないママは、エプロンをつけて朝ごはんを並べながら口をポカンと開けていた。私の顔を覗き込んでくる。
「昨日、疲れてたのかすぐに寝ちゃうんだもの。心配したけど、元気そうね。声もいつもより元気だし。顔色も良いし――髪結んでるのも珍しいわね」
 ママの言葉に反応してパパも私を見る。
「どうした里々愛?」
 体の感覚が嫌いじゃなくなったら、目の前を隠す髪がうっとうしくなったのだ。
 朝ごはんはいつもの食パンだけど、口に入れた途端に私は、おいしい! って感激して、涙が出そうになる。でもパパとママに変に思われそうなので我慢した。
 夢中で食べていると、
「夜ご飯食べてないからお腹空いてたのね」
 ってママが笑いながら言った。
 お腹が空いてる時って、みんなこんな感覚を味わってたんだ。ずるい。幸せって感じがする。私は初めてトーストを二枚食べた。
 食器を洗い終えると、ママがお弁当の包みを手渡してくれる。
「はい、お弁当」
「ありがとうママ」
 お昼ご飯も楽しみになって、自然と笑顔がこぼれてしまった。
「行ってきまーす」
 と弾む声で告げて、家を出る。
 苦しみから解放された自分を通してみる世界は、一新されていた。風も音も匂いも平気で、何もかもから祝福されているような気分になる。
 私は軽い足取りで学校へ向かった。
 耳を塞ぎたくなるような教室のざわめき声も、今日は平気だった。声をちゃんと聞くことができる。
 いつもだったら机に突っ伏してるけど、そんなこともしなくて良い。この調子なら休み時間の度に眠る必要もなさそうだ。
 教室を見渡してみる。クラスメイトの顔もまともに見たことなかったなと思いながら、時間を潰していると、
「天羽さん……」
 突然名前を呼ばれてビクッとした。
「昨日は、大丈夫だった?」
 私の机の正面に立っていたのは、お下げ髪で背の低い女の子。眼鏡の奥の小さな目を丸くして私を見ていた。名前は確か――東堂美瑠さん、だったと思う。
 昨日のことがあったからか、心配そうな表情をしていた。
 私は無言でうなずいてから、しゃべっても平気なことを思い出す。声を出すのが嫌いだったから、無言で意志を伝える癖がついていた。
 恐る恐る、
「……大丈夫」
 って言ってみる。
 私の言葉を聞いてから、東堂さんはホッと息を吐き、表情をほころばせた。
 そのままどこかへ行ってしまうかと思ったけど、東堂さんは引き続き私に話しかけてくる。
「あの……天羽さん、何か良いことあったー? そのー……ポニーテールしてるのとか初めて見るし」
 何と説明すればいいのだろうかわからず、私は慌てる。上手く答えられる程、私は柔軟じゃなかった。
 そのまま起こったことを話しても訳が分からないと思うし……。
 しゃべり慣れてない私は焦ってしまい、口から出たのは、
「良い夢を見たの」
 だった。
 東堂さんはポカンとした顔になる。
 変なこと言っちゃった。って私は後悔する。
 と、その時。助け舟のチャイムが鳴って私は胸をなでおろした。
 東堂さんが自分の席に戻る前に私に言った。
「天羽さんってそういうことで嬉しくなるんだね。意外ー」
 やっぱり変な目で見られてしまった。
 結局、話し相手もいない私は、休み時間も自分の席から動くことはなかった。でも昼休みに無理をする必要もなくなったので、学校にいる間、今までみたいに無理をして苦しいなんてことはなくなった。
 お弁当もちゃんと食べられたのだ。美味しかった。いつも捨てちゃっててごめんなさいママ。
 帰り道、これでパパとママにも心配かけずに済むって気持ちがふつふつとわき上がってきて嬉しくなった。ちゃんと生きていけるなら、心々愛にも責められなくて済むって思う。
 私は体が軽くなったように感じた。苦しむことがないなんて、まるで夢みたいだ。
 視界が歪むから、何度も目元を拭った。



  ★5★

「オハヨウゴザ――」
「夢ってすごい!」
 私は夢でヒュプノスちゃんに会うなり飛びついた。
 手で掴むと、ヒュプノスちゃんはふわふわでもこもこだった。触られるのは苦手らしくジタバタと暴れて私の手からスルンと逃げる。
「あ……ごめんなさい、嫌だった?」
 って私はすぐに謝る。
 ヒュプノスちゃんは甲高い機械的な声で、
「イイエ。里々愛が幸セソウデ何ヨリデス」
 と言った。
 ぼんやりと光っている綿の灯りは昨晩と同じように浮きながら、クルクルと私の周りを回り始める。
 周囲は相変わらず真っ暗で、ぼんやりとした光に照らされた範囲が見えるだけなので心もとない。白い木の幹だけが、柱みたいにまっすぐに乱立してるのが見える。
「デハ、今夜ハ、順ヲ追ッテ説明スルデス」
 と光る綿は、私の顔の前で動きを止めた。
 私は「わかった」という意思表示を首の動きで示した。
「里々愛ノ種ハ、一ツダケシカ、アリマセン。シカシ種ハイツカ、チカラヲ使イ果タシテ消エテシマイマスデス」
 ヒュプノスちゃんは中心にある一つ目を瞬かせながら淡々と続ける。
「夢ヲ見続ケルニハ、沢山ノ種ガ必要ニナリマス。ナノデ『悪夢』カラモラウノデス。――種ハ『悪夢』ガ持ッテイルノデス」
 悪夢。昨日も聞いた単語だ。
「悪夢ハ人ノ形ヲ、シテイマスデス」
「……もしかして、昨日会ったのが『悪夢』なの?」
「ソウデス」
 私は闇を見渡し、その奥から、ヒュプノス様の言う『悪夢』がこっちを見ていることを想像して身を縮めた。
「里々愛ガ種ヲ『悪夢』カラ獲得スルヨウニ、逆ニ『悪夢』モ里々愛ノ種ヲ食ウタメニ襲ッテキマス。ナノデ対抗スル必要ガアリマスデス」
「でも、どうやって……」
 昨日の腕を思い出し身震いする。
 あんなものに敵うわけがない。
「目ニハ目ヲ。『悪夢』ニハ悪夢ヲ。『悪夢』ニ有効ナノハ悪夢ダケナノデス。昨晩ノ腕ハ『悪夢』ガ悪夢ヲ発現サセタモノデス。同様ニコチラモ悪夢ヲ使ワナケレバナリマセン」
 何だかややこしい。つまり、
「『悪夢』っていう人の形をした影から種を奪うには、悪夢っていう魔法みたいなものを私が使わなければならないってこと……?」
「ソノ通リデス。我ハ区別スルタメニ、人型ノ『悪夢』ヲ、ソノママ『悪夢』。里々愛ノ言ウ『魔法』ヲ『メア』ト呼ンデイマス」
 メア……悪夢って意味の英語、ナイトメアの略だろうか。
「『メア』ハ己ノ恐レテイルモノガ、形ニ成ッタモノデス。里々愛ガ種ヲ飲ム前ニ、我ガ、『悪夢を見る代償に悪夢を見ることになる』ト言ッタノハ、ツマリ嫌デモ自ラ悪夢ヲ見ナケレバ、現実デ夢ハ見続ケラレナクナル、トイウ事ナノデス」
「そんなこと……」
 何かと戦わなければならないって話は聞いてなかったから、騙された気分になる。
「デキナケレバ、種ヲ失ッテシマイマスデス」
 二の句が継げなかった。
 落ち葉が敷き詰まっている足元に視線を落とす。足の指でくしゃっと葉っぱを潰す。
「種ヲ落トス悪夢ヲ倒シテ、夢ヲ見続ケマショウ。里々愛」
 臆病な私はすぐに返事ができない。
「メアって、私でも……すぐに使えるの?」
 今まで得意なことがあまりなかったから不安だった。
「心配シナクテモ、呪文ヲ、クチニスルダケデ、羽ガ、チカラヲ貸シテクレマスデス」
「呪文?」
「――『フィリア・フォビア』」
 その言葉の響きは、たくさんの歪んだものを内側からズルズルと引きずり出しそうな、妙な耳障りだった。
「コレヲ唱エルダケデ、怖カッタコト、苦手ダッタコト、悲シイコト、痛イコト――里々亜ガ夢ヲ見ルコトデ、避ケラレルヨウニナッタモノガ、湧キ出テキマス」
 ヒュプノスちゃんが私の顔のすぐ近くで止まる。
「デハ里々愛。夢ノ時間ハ、限ラレテイマスデス。サッソク、種ヲ探シニ、行キマセンカ?」
「でも……」
「夢ヲ見続ケタイノデショウ?」
 私はしぶしぶうなずくしかなかった。
 重い足取りで直立した白い幹の間を進み始める。
 相変わらず、同じところをグルグルと回ってるんじゃないかって錯覚するくらい、ずっと変わらない森が続いていた。
「コノ世界ハ延々ト森シカアリマセン」
 とヒュプノスちゃんに教えられて、ぞっとした。もしもヒュプノスちゃんからはぐれて暗闇に置き去りにされてしまえば……。
 私は光る綿を見失わないように後に着いて行く。
 不安で押しつぶされそうで、すぐにでも夢から醒めてしまいたいって思いながら歩いた。けど、砂時計の砂はまだ折り返し地点にも達していないに違いない。
 無言でいると不安が膨らむから、私は口を開く。
「そういえば、まだ聞いてなかったんだけど、『種を狩る者』ってのは何だったの?」
 前を進むヒュプノスちゃんは器用にくるっと反転して、こちらへ目を向けながら飛ぶ。前を見ずに幹を避けながら飛んでいる。
「『種ヲ狩ル者』ハ、トテモ長ク夢ノ中ニ巣食ッテイル、上位ノ『悪夢』デス。ツマリ、誰モ、彼女ヲ倒セナイ位、強イ『メア』ヲ操ルトイウコトデス。夢ノ世界ニ来タバカリノ里々愛デハ、キット、太刀打チ、デキマセンデシタデス」
 あれ?
 どこか言葉が引っ掛かったけど、何が変なのかわからない。
 だからそのまま話しを進めた。
「そっか……。ヒュプノスちゃんは私を助けてくれたんだね……」
 変なしゃべり方であまり感情も感じないけれど、助けてくれたんだって思うと、今こうして進む道を照らしてくれてることも頼もしくなってくる。
「結果的ニ、ソウスルコトガ、最善ダッタデス」
 ヒュプノスちゃんの言う通りにしていれば、すぐに種を失ってしまう事態は避けられそうな気がした。
 見様によっては、幼い頃にアニメで見たみたいな、魔法少女がつれてるパートナーみたいだなって思って、私はそのふわふわした後姿を見つめて小さく笑みをこぼす。
 そうだ、悪夢をやっつける魔法少女になったって思うのはどうかな。
 ちょっと幼い考えかもしれないけど、そうやってごまかさないと、夢の中とはいえ戦うのは怖かったのだ。
 できればこのまま、ただ暗い森の中を歩いてるだけで時間が過ぎ去ってくれれば良い。悪夢に会いたくなんてない。
 けど、遠くにぼんやりと灯りが動くのを見つけてしまう。
 私は立ち止まって、一点を見つめて息を飲む。
『悪夢』がいるのだ。
「行ケマスデスカ?」
 ヒュプノスちゃんは『逃げろ』とは言わなかった。
 勇気を振り絞って立ち向かうしかなかった。戦って種をもらわないと夢は見続けられないんだ。
 私はうなずいて息を飲み、足を前に進める。
「羽ハ守ッテクダサイデス」
「どうして?」
「羽ハ、チカラノ溢レテイル場所ノ栓ヲシテイルノデ、失エバ、種ガ排出サレテシマイマス」
 私は赤と白の蝶の羽をピクッと動かしてから、小さくうなずいた。
 木立の間から一体の『悪夢』がぼんやりとした明かりに照らされて見えてくる。女の子の姿をしているみたいだけど、陰になってて良く見えない。
 メアを使わないと――。手を前にかざし構える。
 何が起こるのかわからなくて怖くなり目を閉じた。
 確か、
「フィリア……」
 と声を出した私の足の先を、何かがチクリと刺す。
「痛っ!」
 呪文は途切れてしまう。
 足に絡まってるものを見る。茨だ。悪夢の使うメアのようだ。
 裸足の足から血が滲んでいた。
 茨は意志を持ったように動き、執拗に私の足首に絡みついていた。払おうとしても、指に棘が刺さり痛くてできない。夢なのに痛みには現実味があった。
 後から後から何本もの茨の蔦が、すねに、膝に、太ももに絡んでくる。払う指も痛くて追いつかない。すぐに私は動けなくなってしまい、
「あぁ……!」
 焦って声をあげた。もがけば、もがくほど皮膚が裂けて痛くなる。
 茨にまみれた悪夢が私に近づいてくる。その人の形をした悪夢の下半身にも、私と同様に茨が絡みついていて、血が流れていた。
 よく見ると悪夢の両足は自転車のものみたいな大きな車輪で、回転しながら前に進んでくる。歪に曲がって錆びた車輪が、キィと軋んで鳴る。
 人のようで人じゃないその姿は不気味そのものだった。そして何よりも、私は血に目が行った。私の体の中にも流れている、血。
 このままでは悪夢に飲み込まれてしまう。私は痛みをこらえながら、震える声で、呪文を途切れ途切れに発音していた。
「フィ……リ、ア……フォビア――!」
 途端、背中が熱くなり、視界に広がったのは赤だった。静脈から零れた血のような、黒ずんだ赤。
 私の足元から滑り出た赤い肉が、茨を侵食して混ざり合っていく。
 目に悪いほどの赤は、血であり、肉であり、内臓の色だ。私の怖いものの色だ。
 真っ赤に湿った巨大な芋虫が地面から現れ、意思を持ったようにヌメヌメと私の足元をのたうつ。
 これがお前の中身だと主張するように私の足首に絡みつき、私のお腹によじ登ってきた。
「どうして私に……!?」
 と訴える。
「メアハ自ラヲ含メ、全テヲ侵食シマス。耐エルノデス、里々愛」
 巨大な肉の芋虫は私の胸を這い、首をぐるりと緩く締め、その生暖かい体で頬を撫で、口から中へ入るために唇をこじ開けようと、もぞもぞと、ミミズが巣穴を探すようにうごめいた。
「精神ガ衰弱スレバ、メアハ、チカラヲ失ッテシマイマスデス」
 メアを発動すると、自らも傷ついてしまうのだった。でもその方法でしか、相手と戦えない。根比べみたいだ。
 内臓が口から入り込んできて体を支配される感覚に震えながらも、意識を保つ。
 私は肉の箱に閉じ込められた自分の体内に、内臓という芋虫を飼っているような感覚を持っていた。それがメアとして形になったのだと思った。
 ふと向けた視界の奥では、血管の走った肉色の蛇のようなものに両手両足を絡め取られながらうめく悪夢がいた。私のメアで動けなくなったようだった。
 次第に悪夢は、脈動する肉に埋もれていってしまう。
 戦っているものが悪夢だとしても、人の形をしたものが苦しげに悪夢に飲み込まれていく姿を見て私は、耐えられなくなる。
 何これ……。
 すごく気持ちが悪い……。
 おぞましい光景に胃液が逆流してくる。
 私は絡みつく内臓と茨を必死に振り払って、這いずりながらもその場から逃げ出していた。
 怖い……怖い……。
 呼吸が詰まって声が出ない。
 ちぎれてもなお、肉と茨が私にへばり付く。恐怖に負けてしまった私には、もう目の前の状況なんて見えていない。
「里々愛。種ヲ」
 と言うヒュプノスちゃんの言葉は耳を通り抜けていく。
 落ち葉をかき分けながら地面を這う。右足をクンッと引っ張られる。赤黒い森から伸びた一本の肉蛇が、人の形になっていて私の足首を掴んでいる。
「放して!」
 と声を絞り出す。
 私はうつ伏せの体勢のまま足元に目を向けて――声を失った。
 足首にしがみ付いていた、表面に血管の浮いた湿る赤い肉は、私と同じ顔をして私をにらんでいた。
 心々愛だ。
 って思った。
 メアが形になっただけってことくらいわかってる。それが本当の心々愛じゃないってわかってても、動揺は抑えられなかった。
 私は左足でこそぎ落とすように、右足を掴む偽物の心々愛を蹴って振り払っていた。
 必死だった。ごめんなさい。胸が押しつぶされそうなくらい痛む。
「里々愛ノメアガ勝ッテマスデス。今ナラ種ヲ奪エマス!」
 ってヒュプノスちゃんが上から言ってるけど、そんな場合ではなかった。とにかく私は、すぐにでもこの場所から、少しでも遠くへ行きたかった。
「里々愛、凄イデス。里々愛ノメアハ、相手ヲタチマチ飲ミ込ミマス!」
 褒められてるみたいだけど、嬉しくなかった。
 荒い呼吸を繰り返しながら、地面を這う私は問う。
「ねぇ……夢を続けるのには、こんなことを繰り返さないといけないの?」
 ヒュプノスちゃんが頭上から告げる。
「ソレガ、代償ナノデス」
 悪夢は自らも酷く傷つける。
 私はひたすら逃げて、逃げて、逃げた。何も見えなくなるところまで行って膝を抱えて丸まる。
 砂時計が裏返るまで私は木の陰で震え続け、結局種は奪えなかった。



  ★6★

 汗が全身から噴き出していた。パジャマがぐっしょりと湿っている。
 私は夢を思い出し、ぶるっと体を震わせた。とても嫌な夢だった。
 体の感覚が元の嫌いな状態に戻ってしまったような、おかしな錯覚に不安になるけど、変化はなくてホッとする。
 綺麗な空気を吸いたくなり、ベッドの横にある窓を開ける。朝の空気はとても清々しくて、徐々に気分が落ち着いてきた。
 しばらく呆然としてたけど、時計を見て我に返って、急いで制服に着替えて髪を後ろで縛る。
 顔を洗ってからリビングに向かう。
「今日も顔色が良いな里々愛」
 とパパが言う。
「最近、体調がいいの」
 って私は応える。
 夢のせいでちょっと気分は悪かったけど、以前の私が今の私よりももっと沈んだ顔をしてたからそう見えるんだろうって思った。
 夢の中では辛かったけど、それでも、今の私は嫌い嫌い病が無くなって、とても穏やかな心でいられるのだ。
「里々愛が元気だとパパ嬉しいよ」
「ママだって嬉しいわ。里々愛の体調が良いと安心するの」
 二人は心から嬉しいと思っているように笑った。私もつられて笑ってしまう。朝ごはんは、おいしかった。
 今日の中学校も、何事もなく時間が過ぎていった。あんなに嫌いだった何もかもが、日常の一風景になっていた。
 ホームルームが終わり、帰る準備をしていると、小柄な眼鏡の女の子が私の机の隣へきた。東堂さんだった。
「……一緒に帰らない?」
 と言われる。
 私は自分の席に着いたまま固まった。
 これは一体どういうことなんだろう。どうして私を誘うのだろう。
「ね、いいでしょ?」
 東堂さんは私の机に両手を乗せる。
 こういう時にどうすれば良いのかはわからない。断る理由もない私は無言でうなずいた。けど思い直して、
「うん」
 って声に出して言ってみた。
 見る見る東堂さんの表情が明るくなり、
「決まりねー」
 とぎこちなく笑った。
 私たちは校門を出て、ゆっくりと通学路を歩く。誰かとこうして一緒に帰るなんて中学校に入ってからは一度もなくて私は緊張する。東堂さんの方へと視線を向けられない。無言が苦しくて、全身から変な汗が出ていた。
 沈黙を破ったのは東堂さんで、
「実はー……。あたし天羽さんと話してみたかったんだー」
 と言う。
 以前の私だったら、ありがた迷惑だって眉をひそめてただろうけど、今の私にとっては素直に嬉しい言葉で、ただただ戸惑ってしまい何も言葉にできない。
「だってね。天羽さんって気になる存在だったし」
 東堂さんは周りに誰もいないことを確認してから、
「笑わないでねー」
 と念を押した。
 私はうなずき、それから「うん」と答える。
 前を向きながら話しをしていた東堂さんは、ちらりとこちらを見た。
「天羽さんね……眠り姫みたいじゃない?」
 眠り姫……?
 童話のだろうか。
「なんか休み時間とか、授業中とか、昼休みも、よく眠ってて、誰とも口を利かなくて。なんだか近づきがたいオーラがあって……。体弱そうだし。いつも長い髪の毛で顔を隠してるけど、よく見ると、お姫さまっぽい顔してるし」
 そうなのかな……?
 喜んでいいのかわからないけど、お姫さまっぽいっていうのはちょっと嬉しくて照れてしまう。
「天羽さん、ちゃんとしてれば綺麗だなって思って――あ、変な意味はないの。あの……私、遠くから見てたんだー。でも天羽さん、私に近寄らないでって感じだったでしょー?」
 近寄られると耳障りだったから、そういう空気を出してたのかもしれない……。
「でも最近は何か表情が変わった気がするね。表情が軽くなったっていうか。髪もポニーテールにしてるし……」
 東堂さんは体を前に倒し、眼鏡越しに私の顔をそっと覗き込んできた。
 私は何か答えようと思った。
 でも上手く考えてることがまとまらなくて、思っていることがそのまま言葉に出てしまう。
「私、東堂さんと、話ができてうれしい」
 東堂さんの顔が赤くなっていき、彼女は二歩、三歩、私の前に進んで、そのまま歩き出した。変なことを言ってしまった……。と私は小さくため息をつき、自分と同じ制服を着た背中を見つめる。
「そうだ、天羽さん!」
 東堂さんが振り返った。
「良い夢を見たって言ってたでしょ? あれが一番、天羽さんと話してみようって思った理由なんだー」
 確かに言った覚えがある。
「最近はどんな夢を見た?」
 その質問にドキッとした。
「えっと……」
 と口ごもってると、
「あたし夢占いに凝ってるの。夢には意味があるんだよ」
 と言ってカバンから出してきたのは『夢のお告げで夢占い』という一冊の本だった。シンプルな表紙の分厚い本だ。
 東堂さんは照れ笑いをする。
「あたし昔からこういう本が好きなの。だから、天羽さんが教室で夢の話をした時、天羽さんともっと話してみたくなってー。思い切って今日は話しかけてみたんだけど……。天羽さんも……夢とか占いとか興味ある、かな?」
 東堂さんは上目づかいで聞いてくる。ちょっと……気になるかも。と思って私はうなずく。
 夢占いと聞いて、私は種を飲む前に良く見ていた夢を思い出していた。
 ――存在しないはずの心々愛が私と同じ姿にまで成長していて、哀しそうに泣きながら眠ってる私を見下ろしてる夢だ。
 いつも責められている気持ちになって、夢の中で動けない私は何度も『ごめんなさい』って謝っていた。
 あの夢には、どういう意味があったのだろう……。意味を聞いてみようかなって思うけど、内容を話すのは恥ずかしい。それに、テンションのあがった東堂さんは一人で話し進めてて、上手くタイミングも切り出せなくなった。
「吉夢っていう良い夢と、凶夢っていう悪い夢があるらしくて、わかりやすいもので言うと……茨の夢は凶夢でー『困難』とかって意味なんだって」
 悪夢が使ったメアが茨だったから、私の脳裏に昨日の夢がよぎった。
「夢ってそのモチーフに対して、そのイメージのままの意味であることが多いんだー。茨だったら、痛いとか、触れられない、とかそういうイメージから、行く手を遮るものとしてイメージされるみたい」
 東堂さんの話を聞きながら、メアとはつまり凶夢と言い換えられるのかもしれないって想像する。悪い夢を倒すことによって、夢の種という希望が手に入るのかな……。それってやっぱり、魔法少女みたいだ。
 東堂さんは良い夢はこんなのだとか、悪い夢はこんなのだとか、面白い話をしてくれる。私は聞きながら、何度も相づちを打った。素直に感心しっぱなしだった。
「あたしも、天羽さんと話ができてうれしいなー」
 と別れ際に言われた。
 私もうれしかった。
 人の話を聞くだけで楽しいなんて、声を聞くことが苦痛だったのが嘘みたいだ。
 何もかもを気持ち悪く感じていた前の自分だったら、こうして東堂さんと話すことさえもできなかった。こんな普通で当たり前のことさえも苦手だった。
 種を失いたくないって気持ちが強くなっていた。
 夢を見続けたい。
 そのためには、夢の世界で怖い悪夢に耐えられるだけの強い私にならなくてはならないのだ。



  ★7★

 普通の夢は見られない。眠れば否応なくヒュプノスちゃんの待つ暗い森にいた。
「オハヨウゴザイマスデス。里々愛」
「おはよう、ヒュプノスちゃん」
 ここへ来ると気分が沈む。前は現実が嫌いで、眠りが救いだったのに、今では眠りと現実が逆転してしまってた。
 でも私は気を取り直して、ヒュプノスちゃんに宣言する。
「今日は種を手に入れられるようにがんばってみる……」
 灯り代わりの小さな綿の塊は、くるりと一回空中で弧を描いてから、
「ガンバリマショウ、里々愛」
 って言ってくれた。
 ぼんやりと光るヒュプノスちゃんは私を導くように森の中を進み出し、私は後に着いて行く。
 白い幹の群れを見ていると、生々しい赤に染まる森を思い出す。それだけで気持ちが悪くなって口元を手で押さえた。
 相変わらず単調な景色の暗い森を進む。
 裸足の足で落ち葉を踏む音が鳴る。
 ほどなくして、悪夢と思われる光を遠くで見つけた。
 私はごくりと息を飲む。
 おそらく向こうにいる悪夢も、私を見つけたんだろう。距離が縮まっていく。
 怖かった。
 逃げたかった。
 でも、種は必要だから踏ん張った。
 白い木立の奥の闇からゆらゆらと動く灯りが近づいてくるにつれ、悪夢の姿がはっきりとしてくる。
 普通の人の形をしていた悪夢の周りにシャボン玉のようなものが浮かび始め、透明な泡は次第にくすんだ肌色に染まっていく。
 メアだ。
 泡の球体は膨れていき、様々な顔になる。どれも苦しそうに歪んでいて、部分部分が黒く腫れていて、直視するに堪えない。見ただけで恐怖を感じるその姿は、到底まともに向き合えるものじゃなかった。
 悪夢は様々な大きさの無数の顔に埋もれていく。
「フィリア・フォビア!」
 そして呪文を唱えた私のメアも発現する。赤黒い世界が広がり始め――。
「……ぃ」
「ドウカシマシタカ里々愛?」
 背後から話しかけてきたヒュプノスちゃんを振り返り、私はすがりつくように腕を伸ばした。いざとなると、自らの怖いものと正面から向かい合うことができなかった。
「……怖い」
 綿の塊を胸に抱いて、その場から走りだす。
「又、逃ゲルノデスカ?」
 悪夢のいる方とは反対へ突き進む。
「ダメ……無理……怖いよ。私には無理だよ……」
 相手のメアを見るのが怖い。自分のメアと向き合うのも怖い。
 またあの赤い内臓の芋虫に絡まれるなんて。またあの肉でできた心々愛の苦しげな表情を見なければならないなんて……。頭がおかしくなってしまう。
 白い木々の間を息を切らして走る。
 つまづいて転んでも、逃げ続けた。
 その夜は、悪夢と戦えないまま、砂時計はひっくり返り朝が来た。
 一度逃げ出すと、悪循環にはまってしまう――。
 次の日の夜も、怖くなって自分のメアを発現させるのができなくなった私は、悪夢に立ち向かえなくなった。
 それでも眠らなければならない以上、夢の森に来てしまい、嫌でも悪夢には出会ってしまう。
 遭遇する悪夢は皆、それぞれ違うメアを駆使して私を襲ってきた。
 針金のような体を持った悪夢は、木の幹を鉄格子に変え、地面を金属製の棘で埋め尽くしていった。上下に動くミシン針がバネが軋むような音を立てながら、私の体に穴をあけようと迫ってきた。何かの工場にいるかのような金属のぶつかる音がキンッ。キンッ。と耳の奥まで響いて不快だった。
 影に包まれたように真っ黒の悪夢は、近づいてくれば無数の蟻がたかっているから真っ黒に見えるのだとわかった。悪夢がうめき声をあげると、口である部分から大量の蝿が吐き出され、落ち葉を蛾の死骸に変え、両手の指先がボロボロと見たこともない羽の生えた幼虫に変わって、私の肌を這いずりまわった。森の中は虫の巣穴のようになってしまい、私は足の裏でムカデやナメクジや毛虫やミミズを踏み潰しながら走って逃げた。
 どの悪夢も恐ろしかった。見たものを追い詰める悪夢は、まさに凶夢だった。
 必死に逃げて、逃げて、逃げて、逃げ続けた。
 朝起きると、いつも全身が汗でびっしょりと濡れていて、枕元は涙で湿っていた。
 これが、代償なんだ。
 覚悟していたとはいえ辛かった。
 何よりも辛いのが、普通の悪夢だったらうなされて目覚めてしまうけど、代償の夢は砂時計がひっくり返るまで何があっても冷めない点にあった。それに普通の夢だったら目覚めれば記憶から薄れていくけど、代償の夢ははっきりと記憶に残ってしまう。
 私は毎朝ベッドの上で、逃げ切れたことに安堵して顔を覆い涙を流すようになった。
 ――魔法を使って、敵を倒して、幸せを守る。
 大きく見ればそんな単純な構造なのに。どこか歪んでしまってて、まともに達成できない。
 物語の主人公の魔法少女だったら、愛やら夢やら希望やらでやってのけちゃうのかもしれないけど、そもそも私は無力な少女だった。怖くて何もできやしない。毎晩毎晩、なすすべもなく私は逃げ出してしまう。
 ヒュプノスちゃんは無感情な甲高い声で、
「種ノタメニ、戦イマショウ?」
 と言ってくる。
 申し訳ないけど、それには応えられない。
 ごめんなさい、ヒュプノスちゃん。
 木にもたれかかって座る私はガタガタ震えるばかりで、まだ種は一つも手に入ってなかった。



  ★8★

「おはよう里々愛」
「おはよう、パパ、ママ!」
 って元気に挨拶をして平穏な一日が始まる。
 朝ごはんは美味しいし、学校では休み時間は楽しみだし、授業も落ち着いて聞いていられるし、昼休みはお弁当が楽しみだ。
 それに放課後になると、仲の良い東堂さんとお話ができる。私は東堂さんと一緒にしゃべりながら帰るのが恒例になっていた。彼女とする話は楽しかった。
 東堂さんはオカルトとかそういうのが好きらしくて、色んな本を見せてくれた。
 東堂さんの見せてくれる本に興味を持つ。今まで知りもしなかったことが、たくさん溢れていた。
 夜ご飯はパパとママと一緒に、三人で食べる。
 今晩のメニューはカルボナーラスパゲッティ―だった。クリームソースがとてもおいしかった。明るい食卓は、お腹以外も満たしてくれた。
 そして、すぐに一日が終わり、眠る時間になる。怖い時間になる。
 ベッドへ入るだけでまるで夢に引き寄せられるように眠ってしまうので、なかなかベッドには入れない。
 眠くてもできるだけ我慢して起き、夢を見るのを後回しにしていた。でもずっと起きていることなんてできない。どんなに嫌でも眠らなくてはいけないのだ。
 時計の針は午後十一時を回り、家の中が静かになると、下の階から声が聞こえてきて私はハッとする。
 ……ママが泣いてるようだった。
 昔、私が幼稚園児の頃にも、ママが夜中に泣いていたことがあった。ママの声で起きてしまった私は、悲しそうに泣いているママから、信じられない告白を聞いてしまう。――心々愛の存在を知ってしまう。
 私、また何かしてしまっただろうか。
 私のせいで泣いているのだろうか。
 だとしたら、大丈夫だと言わなければならない。
 私は階下へ向かう。廊下の板がギシ……と軋む。心臓の鼓動が早くなっていく。
 リビングに灯りが付いていたので、顔をのぞかせ、
「ママ……?」
 と呼びかける。
 泣いているママと、その肩を支えるパパがいた。パパが私を見つけて反応する。
「里々愛か……」
「どうして、ママ泣いてるの?」
 乾いた声で私は聞いた。
 すると、
「里々愛が元気そうなことが嬉しくてな」
 とパパが代弁してくれる。パパの眼尻にも、よく見ると濡れた跡があった。
「パパとママにとっては、里々愛の笑顔が一番の幸せなの……」
 ママが鼻をすすりながら言う。
 嬉しそうなパパとママの顔は、泣いてるけど笑っていた。私のせいで泣いていることには違いないのだけど、以前のような罪悪感はなかった。
「悲しそうな顔をすることが多かった里々愛が、最近はよく笑うようになったし」
「声も明るくなったみたいだわ」
 二人は顔を見合わせた。
「パパもママも里々愛のことがとても大事なんだ」
「里々愛、もう悲しい顔は見せないでね」
「里々愛にもしものことがあると思うと心配で心配で堪らなくなる」
 パパとママの言葉に息が詰まる。
「大丈夫だよ。パパ。ママ」
 って私は言った。
 けどこのまま種を手に入れることができずに夢が醒めてしまえば――。
 今日みたいな誰しもにとって当たり前に思える毎日も、夢が醒めてしまえば私にはできなくなってしまう。毎日が楽しければ楽しいほど、夢が醒めてしまうのが恐ろしい。
 醒めたくないよ……。
 だからどんなに怖くても、メアに慣れなくてはならない。
 私は眠い目を擦りながらベッドに向かった。



  ★9★

 森の中、私は震えている体を我慢しながら前に進んでいく。
「ヤット気持チガ固マッタデスカ?」
「夢が醒めるのは、嫌だから……」
 しばらく暗い森をさまよっていると、いつものように悪夢に遭遇する。遠くに灯りを見つけたのだ。
 私は先にメアを発現させて、その勢いで、目を瞑ったまま種を奪ってしまおうと思った。でもいざメアを使うとなると、全身がこわばり、呼吸が荒くなる。
 どんどん悪夢が近づいてくる。
 意識が悪夢の持つ光にしか行かなくて、何かヒュプノスちゃんが言ってる気がするけど、よく聞き取れない。
 渇く喉を無理やりこじ開けて、私は呪文を唱えようとした。
 けど――。
 大きな腕に体を掴まれてしまう。
 すでに目の前まで悪夢が迫っていた。
 こんなにも悪夢と接近するのは初めてで、私はその姿をまじまじと見つめてしまい、そのあまりにも普通の少女である形に声を失う。
 悪夢は短くした髪が中性的な少年のような女の子だった。白地に水色のギンガムチェック柄のパジャマを着ている。夜の闇のような瞳が印象的だ。
「里々愛『種ヲ狩ル者』カラ、逃ゲテ下サイデス!」
 とヒュプノスちゃんが忠告してくれてたことにようやく気付く。
「この子が……『種を狩る者』……?」
「トニカク、メアヲ発現サセテ逃ゲ――」
 ヒュプノスちゃんの言葉は遮られた。
 種を狩る者が無表情で、
「黙ってて」
 と低く言い放ち、私のすぐ目の前にまで悠然と歩いて来たのだ。
 手を伸ばせば触れられる距離だった。私の背中を冷たい汗が這う。
 羽を失えば種を奪われてしまうから、守らなければならないって言われていたけど、今、私は体の自由を奪われている。下半身と腕を太い指で握られ、背中の羽は無防備にさらされていた。
 身動きができない。悪夢に種が食べられてしまう……。
 突然の夢の終りの予感に、目の前が真っ暗になり、私はガチガチ鳴る歯を堪えながら、途切れ途切れに呪文を口に、
「フィ……フィリア――!」
「しっ」
 人差し指で唇に触れられて、唱えられなかった。
 彼女の指は冷たかった。
 まっすぐな冷たい夜色の瞳が、私の視界の中心を射抜いている。
 とても澄んだ目だった。
 で、私は気づく。
 羽?
 種を狩る者には羽があった。
 蝶のような形の、薄桃色の羽だ。
「珍しい羽の色。この前逃げた子……」
 と種を狩る者はまたしゃべった。夜風のように冷たく澄んで、深夜にひそひそ話をするようなしゃべり方だった。
 悪夢が言葉を話せることが意外だった。
「里々愛! 早ク呪文ヲ!」
 と言ったヒュプノスちゃんも腕に捕えられてしまう。手の中でヒュプノスちゃんはもごもご言ってもがくけど逃げ出せない。
「種を狩る者さん……?」
「ボクには夜って名前がある」
「夜さん……?」
 何よりも会話が成立したことに驚いた。これはどういうことだろう。もしかしたら、話が通じるのだろうか。
 私は今まで『悪夢』に、『怖い夢』というイメージが固まった化物的な印象を持っていたけど、『悪夢』にはちゃんと理性があるのかもしれない。
 種を狩る者――夜さんは、観察するようにまっすぐに、震えている私の顔を見つめてくる。
「里々愛って名前?」
 と聞かれてうなずく。
「逃げなくていいから、里々愛。ボクはすぐに種を奪う気はない。種がいらないっていうんだったらすぐにでも奪うけど」
 私は首を左右にブンブンと振った。
 夜さんは「わかった」と言うようにうなずいた。
「あ……あの、夜さん。私の種を食べようとしない……の?」
「ボクは、むやみに夢を奪わない」
 と一蹴された。あきれた表情になった夜さんは言う。
「ヒュプノスは嘘つきだから信じるな」
「酷イデス夜。余計ナコトハセズニ、種ヲ奪ウデス」
 私の考えを遮ったのはヒュプノスちゃんの声だった。でも私の側で暗闇を照らしてくれるヒュプノスちゃんは、巨大な手の中にまだいる。
 夜さんの側には別のヒュプノスちゃんがいたのだ……。
 頭の中が混乱する。
「ねぇ、ヒュプノスちゃん」
 問いかけの言葉を放つ自分の声が、少し震えていた。
「私、自分の夢の中だから、そこに他人が関与してるって思ってなかったんだけど……。『悪夢』ってもしかして、私と同じように種を飲んで夢の世界に来てる子なんじゃないのかな……?」
 だとしたら、とんでもない思い違いをしてたことになる。
「だって、夜さんにも、この前の茨の悪夢を使ってきた女の子にも、灯り――良く考えればヒュプノスちゃんみたいなのが、いたし……。そういえば、ヒュプノスちゃん『誰モ、彼女ヲ倒セナイ位、強イ『メア』ヲ操ルトイウコトデス』って種を狩る者のことを教えてくれた時に言ったよね……。あの時もちょっと変だって思ったんだ。良く考えれば『誰も』って変じゃない? 誰かと、夜さんと、私の夢が一つの夢で繋がってないと、その言い方はおかしいよ……? 私、騙されてたの? ねぇ、ヒュプノスちゃん」
 一度大きく息を吸って、気持ちを落ち着ける。
 でないと叫びだしてしまいそうだった。
 夜さんが強く目を閉じると腕は消え、ヒュプノスちゃんと私は解放される。
 私はヒュプノスちゃんを見つめるけど、綿の塊には表情がないから何を考えてるのかわからなかった。
「我ハ、我ガ正シイト思ッタコトヲ、里々愛ニ話シテイマスデス。真実ヲ知ルコトガ、良イコトトハ限リマセン。本当ノコトヲ、教エテイタラ、種ヲ奪イ辛クナルデショウ? 我ハ里々愛ニ、夢ヲ見続ケサセテアゲタカッタ、ダケデス」
 ヒュプノスちゃんの目が大きく開かれる。
「余計ナ苦シミヲ抱クノハ、害デシカナイト、我ハ判断シマス。我ハ最愛ノ里々愛ノコトヲ、最善ニ考エテイルノデス」
 でも騙されていたことに変わりはなかった。
 味方だと思っていたヒュプノスちゃんが異質なものに見えてきて、夢の世界で何を信じればいいのかわからなくなる。
 今知ったことが、本当だとしたら、
「種を無くした人は――」
「夢から醒めてしまう」
 と夜さんが答えた。
「夢を見てる人たちって……みんな、夢を見なければいけないような人だよね?」
 夢は想いから生まれるってヒュプノス様が言っていた。
「そうだろうね」
 という肯定に、息が詰まりそうになった。
 でも足が車輪になっていたり、体が針金だったり、
「悪夢は人の形をしてなかったけど……」
「メアを発現させると皆そうなる。自分のことは客観できないだろうから気づかなかったのか?」
「え……」
 私もあんな異様な姿になってるってこと?
 夜さんは目を細めてから肯定する。少しうつむくと顔が陰になって表情が良く見えなくなった。
「私たちって、ヒュプノス様に、良いように踊らされてるの……?」
 左右に首を振り否定する夜さんは、
「一つだけできることがある」
 と言いながらゆっくりと顔をあげ人差し指を立てた。
「選ぶこと」
「選ぶ……?」
「里々愛も自分で選択すれば良い――。種を奪うか。奪わないか。そのためにはまず知ること。置かれてる状況の把握だ。だからボクは、皆に、ヒュプノスが言わない本当のことを教える」
 ヒュプノスちゃんが夜さんを避けてた理由は、本当のことを教えて回ってるからなんだと思った。
 それはヒュプノスちゃんにとって不都合なんだろう。
「ボクは騙されて食い物にされるのは嫌だ。それを見過ごす自分も嫌だった……。だから選んだ。今のやり方で狩る側になることを選んだ。ボクはヒュプノスの食い物にはならない」
 夜さんが言い、夜さんのヒュプノスちゃんが何を考えているのかわからない一つ目を瞬かせた。
 私は動けなかった。
 人の幸せを奪わなければ、自分は幸せではいられない。それが全てだったら、なんて救いのない世界なんだろう……。
 私の口をついて出た言葉は、
「誰かの種を奪うこと以外に、種を手に入れられる方法はないのかな?」
 だった。
 数秒後に夜さんが答えた。
「そんな方法があるなら、とっくにボクがやってる」
 悲しげに目元を細めるその表情は、嘘なんてついてないことを表していた。
 夜さんのヒュプノスちゃんが口を挟む。
「種ハヒトリニ、ヒトツデス。ダカラコソ想イガ込メラレ、現実ヲ捻ジ曲ゲルダケノチカラガ内包サレルノデス」
 逃げ道なんてないのだ。
 夜さんは、
「里々愛、次に会った時は、奪うことを選んだとみなす」
 と宣告する。
「種は生きていくのに必要だ。里々愛は食べると言ってたけど、確かにその通り。食べ物みたいなものだ。ボクらは何かの犠牲の上で生きている。肉だって野菜だって食べて生きてる。それが普通。夢の中では種を食べなければならない。餓死なんてしたくなければ、誰かの夢を食べなければならない」
 夜さんの声は淡々としていた。
「弱者は食べられて当然。抵抗なんてできずに、強い者に食い物にされる……。生きるとはそういうこと。ボクは絶対に夢を見る前の自分に戻りたくないから、種を奪い続ける」
 私はその場から動けずに、暗闇の奥へと去っていく夜さんを見送った。
「『種を狩る者』ノ言葉ニハ、耳ヲ傾ケナイデクダサイデス。我ハ、自ラノ幸セヲ、第一ニスルベキダト、主張シマスデス」
「話しかけないで、ヒュプノスちゃん」
 その夜以降、私はヒュプノスちゃんと話をするのを避けるようになった。何を信じればいいのかわからなくなったのだ。
 どこへも行きたくなくて、夢の森でうずくまってばかりいた。私は選択を先送りしていた。悪夢……と呼ばれる他の子を探して歩かないし、灯りが近づいてきたらすぐに遠くへと逃げるように離れた。



  ★10★

 空には午後の太陽が照っている。
「夢占いに興味あるの」
 と帰り道、隣で歩く東堂さんに言ったら、
「貸してあげるよ」
 って目を輝かせながらすぐに言ってくれた。
「天羽さんが夢に興味を持ってくれてうれしいよー」
 眼鏡の奥で目が笑っていたけど、
「もしかして嫌な夢でも見るの? 目の下にちょっとクマができてるー」
 と問いかけられる。
 私は笑ってごまかした。
 東堂さんの家に寄り、本を受け取り胸に抱える私に、彼女は言った。
「その本に書いてあることが全てじゃないからね。夢はモチーフだけじゃ、全てを図れないこともあって、印象とか直感も大事なんだよー。同じモチーフでも、その人が持つ、個人個人の記憶と結びついてることもあるから、見る人によって違う意味にもなるしね」
 語る東堂さんは生き生きしていた。
 私はうなずいて、お礼を言い、自分の部屋に『夢のお告げで夢占い』を持ち帰った。
 ベッドに入ることにためらうようになっていた私は、眠る時間が遅くなっていたので、本を読む時間ができたのだ。だからずっと気になっていた夢を調べてみようと思った。良く見ていた――心々愛が眠ってる私を見降ろして、悲しんでいる夢。
 家に着き、さっそく私は自分の部屋で机に向かい、分厚い本のページをめくっていく。
 ――存在しないはずのもう一人の私が哀しそうに泣きながら、眠ってる私を見下ろしてる夢。
 悲しんでる夢は『その人を失うのではないかという不安』
 眠っている夢は『目を背けている』
 私はごめんなさいと何度も謝るくらいに、悲しみを感じていたと思う。印象から言えば悪い夢のようだった。
 ――心々愛は、私が死んでしまうんじゃないかって思って泣いてて、私はそれから目を背けていた。
 それが夢の意味。
 たぶん、私が勝手に心々愛に抱いていた気持ちが形になったものだったんだ。
 私は、本を閉じてから、ベッドに伏せてため息をつく。
 誰かのものを奪うことは、とても重いことだ。と頭の中で繰り返していた。
 種を奪った子が私の頭に住み着いて、
「私の夢を奪ったのに……」
 なんて責めて来た日にはきっと耐えられなくなる。種を奪えば奪うほど悪夢は肥大して、抱えきれないほどに重くなるのが目に見えていた。
 それは、心々愛の体を奪ってしまったこととよく似ていて、久しぶりに私の中に、繰り返し私を責める心々愛の声が聞こえてくる。
「『また』誰かのものを奪うの? 私の時みたいに?」
 声を聞きたくなくて頭を抱える。
「返してよ」
 と私は責めたてられる。
 嫌い嫌い病は自分に課せられた罰だったんじゃないか。って思った。
 同化してしまった心々愛が私の体を欲して、体から私を追い出そうとしてたから、自分の体が自分の物のようじゃなく感じて苦しかったのかもしれない……。
 心々愛のものを奪っただけで、こんなにも責められて苦しいのに、さらに奪っていくなんて、私にできない……。
 眠りたくない。ベッドが怖くて布団に入れない。できればずっと起きていたい。
 その晩、私は部屋の灯りをつけ、机に向かった。
 何もしていないと眠気に負けてしまうので『夢のお告げで夢占い』を開いて、今までの悪夢のことを調べることにした。対峙したメアの記憶を反芻して、索引からページを開く。
 茨の悪夢は、困難。車輪は前に進む吉夢だけど、歪んで錆びてたから凶夢になるみたいだ。足が悪かったのかもしれない。
 針の悪夢は、気がかりなこと。檻は拘束だし、何かにずっと縛られて気にしてたのかもしれない。
 虫の悪夢は、嫌悪感。全身が覆われていたから、何か自らの体にコンプレックスがあったのかもしれない。
 それ以上意図的に調べるのが怖くなって、私は適当にページをめくる。
 眠くなってくると、洗面所に行き、顔を洗った。
 午前一時になった。
 こんな時間まで起きていることなんて初めてだ。
 やがて椅子に座っているのが疲れてきたので、私は床のマットに寝そべって本を開く。色々な夢の意味が頭に入ってくる。文字を追う。
 目を休めようと本から目を離し、体の力を抜く。長いまばたきをして、腕に顎を乗せる。瞼を閉じる。
 少しだけ、ほんの少しだけ休もう。そう思っていたのに。
 睡魔には抗えなかった。
 気づけばいつもの夢の中にいる。



  ★11★

「里々愛、モウスグ種ノチカラヲ使イ果タシ、夢ガ醒メテシマイマスデス」
 暗い森の中、ヒュプノスちゃんが甲高い声で忠告してきた。
 私は唇を噛むばかりで返事を返さない。
「夢ガ醒メテシマッテモ、イイノデスカ?」
 良いわけがなかった。
 パパとママの笑顔が崩れてしまう。また過剰に心配をかけさせてしまう。
 それに、東堂さんとも話せなくなる。声を聞くのも、自分で声を出して話をすることも嫌いになったら、一緒になんていられない。きっと避けられるようになるだろうし、自分からも避けるようになってしまう。
 また何も食べられなくなり、苦しみに耐えるだけの、生きている意味が分からない日々を過ごすのだ。何もかも元通りになってしまうのだ。
 夜が明けて朝が来て、穏やかな一日が始まる。
 夢で気疲れしているせいか、無理をして起きているせいか、体が重たかった。種の力で夢を見ていられるということを意識してしまい、何事もないのに不安定な気分になった。
 晩ご飯の後、ぼんやりしていた私に、
「何か悩んでるのかい、里々愛」
 とテーブルの向かい側に座っているパパが心配そうに聞いてきた。いつも私のことを気にしているからか、パパは少しの変化にも敏感だった。
 私は作り笑顔が上手くできた自信がなかった。いつものように「大丈夫」と言ってしまうつもりが、口ごもってしまう。
 パパとママが血相を変えておろおろとしてしまうのが想像でき、何も言えない時間に焦りだけが生まれてくる。
 でもパパは、
「里々愛、大人っぽい表情をするようになったな」
 とため息をついた。
 私は突然何をと思いながら、顔をあげた。パパは眉尻を下げて微笑んでいた。
「あまり何か話してくれる子じゃなかったからさ、いつも心配だったんだ。でも……もうパパが、あれこれと口を出す必要はないのかもな」
「そうよパパ」
 とママがエプロンで手を拭きながら話に割り込んでくる。
「この前の夜に私と話したじゃない。里々愛も変わっていくのよ。いつまでも子供じゃないの。私たちも子離れしないと。って」
「ああ、そうだったな」
 寂しげに「ははっ」と笑う。
「でも里々愛」
 私は並んで立つ二人を見つめる。
「本当に辛いときは頼って良いのよ」
「パパとママは、里々愛のことが、本当に大事なんだからな」
 私は鼻の奥がツンとして、目の裏がじんわりとした。
 なんて気持ちの悪い感覚。
 って以前の、夢を見る前の私だったらそれだけで生きることに否定的になっていたと思う。けど、今の私は、そうじゃない、妙な気分になった。
 それで、
「パパとママだったら」
 か細い声が出てしまい、
「どっちかを選ばないといけないのに、どっちも選びづらい時、どうやって選ぶ?」
 とパパとママに聞いていた。
 言っておいて、自分でも曖昧でよくわからない質問だな。と思った。
「どうしてそんなこと?」
「あ、あの、学校で話してるとそういう話題になったから、その……考えてたの……」
 ママは目を丸くしながら、でもちゃんと回答してくれる。
「選ぶんだったら、ママは、里々愛が――」
「私の話じゃなくて……」
 と私は口を挟む。
 ママは言いなおす。
「その子、ができるだけ幸せになる方を選んでほしいわ」
 どっちの方が、自分が幸せになれるか……。
「でも、どっちを選んでも、辛いことが、あるんだとしたら?」
「だったら……」
 口をへの字にして考えるママの言葉を引き継いで、パパが答える。
「それでも選ぶ基準は変わらないよ。その子が少しでも幸せになる方を選んでほしい。パパは……もちろんママも、その子が選んだ答えが、少しでもその子自身を苦しめない方が良いと思うな」
 選択を迫れている子自身が、少しでも苦しまない方。
 私にとって、それはどっちだろうか。
 種を奪うことだろうか。
 種を奪わないことだろうか。
「ありがとう。パパ、ママ」
 頭を抱えてしまいそうになる私は、これ以上二人の前にいられなかった。私はぺこりと頭を下げ、部屋へと退散する。
 後は、もう。自分で選ぶしかない。



  ★12★

「オハヨウゴザイマスデス、里々愛」
 ヒュプノスちゃんの耳障りな声がした。
 私はいつもの暗い森にいた。白い幹が立ち並ぶのがぼんやりと照らされている。
 そして、
「今夜、種ヲ奪ワナケレバ、夢ガ醒メテシマイマスデス」
 とついに宣告されてしまう。
 私はごくりと唾を飲み込んでから、辺りを見回した。
 ピンク色のパイル地のパジャマを着た私は、裸足で落ち葉を踏みながら、直立した白い幹の森を突き進む。
 ヒュプノスちゃんが照らす小さな範囲以外は、真っ暗な闇に包まれていてどこに悪夢がいるのかはわからない。
 やがて一つの小さな光を見つける。
 私はその灯りを目指して足を進めた。
 対峙したのは、水色のギンガムチェックのパジャマを着た、ショートカットが中性的な女の子だった。夜の闇を閉じ込めたような瞳。背中に薄桃色の羽が付いている。
 奇しくも夜さんと出会ったのだ。
 無表情な夜さんが言う。
「奪うことを選択したのか」
 私の答えを待たずに、続けて夜さんが、
「フィリア・フォビア!」
 とメアを発現させる呪文を唱えた。
 彼女のメアは、以前見たものと同じ、巨大な腕だった。よく見ると、ゴツゴツしていて骨ばっているので、男の人の腕のようだ。
 巨大な腕が乱暴に私の体を地面に押さえつけた。圧倒的な力に、私は身動きが取れなくなる。
 仰向けにされた私の正面にたくさんの大きな眼球が浮かび上がり、全身を舐めるように観察される。体を毛穴までくまなく見られているみたいで恥ずかしくなる。
 自分の身に起こっていることから、目を背けたくなる衝動を堪えて、私は、
「フィリア・フォビア――」
 三度目になるその呪文を唱えた。
 途端、足元から血が滲んでいくように、赤黒い世界が広がっていく。夜さんのメアである腕の間から、血管の浮いた赤く湿った芋虫が無数に頭を伸ばす。
 私と夜さんの悪夢が混じり合い始めた。
 ごぽごぽと嫌な音を立てて、私の体から、吐き出されるように桃色の肉が溢れる。巨大な腕と私の間に隙間ができ、私は拘束から逃れることができた。
 でも肉蛇が腹部に絡みついてきた。生きた内臓に皮膚を撫でられるような異様な感覚に、私は強烈な吐き気を覚えてよろめく。
「弱者は喰われて当然」
 冷たい声でつぶやいた夜さんの体は歪み、変わっていく。
 体のあちこちに黒い穴が開き、その穴という穴から、関節がいくつもある長い人差し指が伸びる。指は低い声でうめき声をあげながら、巣穴を求めるように私へと直進してくる。太い人差し指の先は、五本の指のある手に変わり、その指先は、また小さな手に変わった。
 ぬめぬめと血で滑った芋虫は、心々愛の顔になる。真っ赤に鬱血した心々愛は人差し指に体を貫かれて、金切り声の悲鳴を上げた。
 直視してしまえば、心が壊れてしまいそうな光景だったけど、私は目を見開いていた。目の前で起こってることから、目を背けてはいけない。
 とても痛いのと、苦しいのと、悲しいのと――たくさんの負の感情だけが渦巻いてて、気を抜けば飲み込まれそうになるのを必死に我慢して、私は震える体を両腕で押さえつけ――気づく。自分の肋骨が開き、肥大した内臓が露わになっていた。
「――!」
 声にならない悲鳴をあげた。
 変貌していく私の体に、夜さんの体に開いた穴から伸びてきた舌が這う。湿り気のある嫌な音を立てて、体を汚す血を舐められる。注射器を握った腕に、隙あらば針を刺そうと周囲を取り囲まれる。
 嫌悪感にうめき声をあげて、正面を見ると、手を伸ばせば届くくらいの距離に夜さんの顔があった。私の羽を奪うために近づいて来ていたのだ。でも夜さんの体に開いた穴では、肉の芋虫が孵化し始め、懐くように頬ずりする。足元が肉に沈み、彼女は口元を歪め、荒い呼吸を繰り返す。
 私を取り囲む、注射器を持った腕が、うなり声をあげながら、私の全身に針を刺す。
 私は喉の奥から、声を絞り出す。
「よ……る……さんは」
 ガタガタと震える声は途切れがちになる。
 でも問いかける。
「パパ……が……こわい……の……?」
 私は東堂さんに借りた夢占いの本を思い出していたのだ。
 メアが何を表しているのかを知ることは、その子が何で苦しんでいるかを知ることだった。夜さんの感じていたものが私にも伝わってくる。
 注射器も舌も人差し指も、性的なものの象徴だ。それに、メアがあげる低い声がパパくらいの男の人の声に聞こえた。夜さんは夢を見る前の世界で、パパから性的な虐待を受けてたのかもしれない……。
 夜さんのパパに対する恐怖のイメージが悪夢となって、圧倒的な力を見せつける。私は体を放棄したくなって、意識を保つことをやめようと――。
 突然、
「ボクはお父さんなんて、怖くない!」
 夜さんが爆ぜるように叫んだ。声が裏返っていた。
 その目からは涙が溢れ出し、呼吸は荒く乱れていた。
『おとうさん』という言葉に過剰に反応した夜さんは、真っ青な顔になり、心のタガが外れてしまったように、
「怖くなんてない……ボクは弱者じゃない……」
 と繰り返し始めた。
「サスガ里々愛デス。メアソノモノノチカラデハ勝テナイカラ、精神的ニ攻メルノデスネ。精神的ニ衰弱サセレバ、メアノチカラモ弱マリマス」
 とヒュプノスちゃんが言う。
 そんなつもりはなかった。思ったことを口にしただけだった。
 私を縛る腕の力がわずかに弱くなり、私は赤く濡れた腕を前に伸ばす。夜さんはその腕から逃げようと身をよじるけど、私のメアは彼女をがんじがらめにしていた。
「……来るな」
 と夜さんがうめく。
 でも私は夜さんに近づいていく。
「来るな!」
 怯える表情になった夜さんは、赤黒い臓器を従えた私に向かって咆える。私の細い腕と、自らのメアである大きな腕の、区別がついていないみたいだった。
 夜さんの顔が私の目の前に来る。私は腕を彼女の肩へ伸ばし、そのまま背中へ回した。
「素晴ラシイデス里々愛! 種ヲ狩ル者サエモ凌駕シテイマスデス!」
 とヒュプノスちゃんが、少し離れた場所から感嘆の声をあげていた。
 私の指先が、夜さんの薄桃色の羽に触れる。ほんのりと暖かかった。この羽をもげば種が手に入る。
 私の喉がごくりと鳴った。体を前に倒す。
 夜さんの体は震えていて、もちろん私の体も震えていた。
 小刻みに震える指先に力をこめて――。
 そして、
「やっぱり、できない……」
 と私は声を漏らした。
 抵抗する夜さんを両腕で抱きしめた。
「できないよ……」
 夜さんの肩に寄りかかるように、身を寄せる。
「種を奪って、また力を無くせば次の種を奪う。次も、その次も……。結局、夢を見ることで、私は幸せになれるのかな? 夢を見ることで消えると思っていた、苦しいことも、悲しいことも、怖いことも、胸が痛くなることも、まだ私の中に残ってる……」
 だから。
 私は選ぶ。
「……私は」
 声がかすれた。
「――種を奪わない」
 選んだよ、私。
 自分が少しでも苦しまない方を選んだよ。
 私は両腕を夜さんから放し、作り笑顔を見せる。
 私たちの周りは、お互いのメアが氾濫し目も当てられない光景だったけど、私たちはお互いの顔を見つめ合っていた。体が化物みたいに変わってしまってても、顔だけははっきりと元のままで残っていた。
「待ッテクダサイ、里々愛!」
 ヒュプノスちゃんは私の選んだ道に納得がいかないのだろう。表情はない一つ目の綿の塊だけど、焦っているのがわかった。
 私はヒュプノスちゃんを両手で掴み、胸に抱き寄せた。
「ごめんねヒュプノスちゃん。ヒュプノスちゃんは、ただ私に夢を長く見せたかったんだろうけど、私はもう決めたの」
「夢カラ醒メルト、又、夢ヲ見ル前ノ里々愛ニ戻ッテシマウデス!」
「元に戻ってしまうのはすごく怖い。どうにかなっちゃいそうなくらい怖い……。けど、他の誰かの種を抱え込んで生きていくのは、もっと怖い。私、心々愛のことを抱えるだけでも精一杯だったから」
 だから、
「夜さん……」
 呆然としたままの夜さんを呼ぶ。
 何度も呼ぶ。
 数度目で夜さんがようやく弱々しい声で、問うように私を呼び返してくれる。
「……里々愛?」
「お願いがあるの」
 少ししゃべるだけでも唇が震えた。
 背中の赤と白の蝶の羽を動かしながら夜さんに言う。
「今夜出会えたのが、夜さんでよかった。こんなことお願いできそうなのは、夜さんくらいだから……」
 夜さんは数秒戸惑いを見せた後、うなずいてくれた。
 私は自らの決意を話す。
「種が消えてしまうのを待ってるのは怖いから、すぐに種を取りだしてほしいの。取り出した私の種は捨ててほしいな。夜さんにも、私の痛みは抱え込んでほしくないから……」
 涙をこらえるように眉間にしわを寄せた夜さんは、しばらく逡巡した後、無言でうなずいてから、夜中に囁くような優しい声で、
「約束する」
 と言い、続ける。
「……でも。生きてくことは、少なからず、誰かを犠牲にすることだって、ある」
「かもしれないけど、今はこれでいいよ」
 作り笑顔で曖昧に濁した。
「これが、自分で選んだことだから」
 夜さんは唇に歯を立てていた。
 私はゆっくりと夜さんに近づき、また二人で抱きしめ合う形になる。
 夜さんの体は暖かくて心地よかった。もうすぐ体の心地良さは失ってしまい、また嫌いになるだろうけど、この感覚を感じていたということは忘れないように覚えていようと思った。
 彼女の冷たい指が私の赤と白の羽に触れる。ためらっているのか指は動かないままだった。
「里々愛の生き方はボクにはできない。でもそれも一つの生き方なんだと思う」
 耳元で夜さんが、苦しげに大きく息を吸い、
「ごめん」
 と謝る。
 夜さんは今まで種を奪ってきたときも、その度に泣いて謝ってきたんだろう。羽のつけ根に触れる指は優しかった。
「おやすみ、里々愛」
 途端。
 背中が熱くなった。
 羽が破られたのだ。血が流れてるみたいだった。
「ダメデス、里々愛――アァ……ア……アアァ……ァァ!」
 私の両手の中でヒュプノスちゃんがもがいていたけど、もろもろになって崩れていく。
 蝶の羽が弾け、背中が軽くなった。
 体の中に冷たい空気が入ってくるみたいに、熱が逃げていく。
 体が溶けるように感覚が消えていく。
 これで、あの内臓の嫌な感覚が戻ってくるんだ。
 でも元に戻るだけ。
 私は儚い夢を見てただけなんだよ……。



  ★13★

 ……まだ朝じゃない?
 そっと目を開ける。
 暗いだけで何もない場所にいた。地面はなくて、私はゆらゆらと空中を浮いて漂っている。
 嫌い嫌い病は体に戻ってきてなかった。
 夢が終わったんだ。って思っていたけど、どうやら私はまだ夢の中にいるみたいだ。
 とても疲れた気分だった。夢を見ないで眠りたいって思って、もう一度目を閉じ――られなかった。
「――里々愛聞こえますか?」
 と呼びかけられた。
 おおらかに包み込む父親のような低い声と、あやしつけるように優しい母親のような高い声が、同時に重なって聞こえる不思議な声。
「お疲れさまでした、最愛の里々愛」
 巨大なできそこないの蟹のような姿の綿の塊が見えた。
 蟹で言う甲羅の部分が脳味噌のような綿でできており、左右バランスの取れていない大きな目がついていて、しきりにまばたきを繰り返している。
 側面からたくさん生えた腕が神々しく見えた私は、
「ヒュプノス様……」
 とつぶやく。
 大きな綿の塊は子守歌を唄うように独特の節をつけたしゃべり方で話す。
「数々の無礼をお詫びします。我の分身である小さなヒュプノスは、担当した個人にできる限り長く夢を見ていただけるように行動します。眠りの使者である我は、長く夢を見てもらうことが最善だと考えるのです。もっとも優先するべきが、あなたの世界を構成するあなた自身と言う個人だと考えるのです」
 ヒュプノス様は祈るように両目を閉じた。 
「夢は救い。私は愛しい里々愛を救いたいのです」
 私は黙って、混声合唱のような声に耳を傾ける。
「さて、ここからが本題です。里々愛は、種を失ってしまいましたが、救いはまだあります」
 救い……?
「種を失っても大丈夫なのです」
 耳を疑った。
 まだ夢を見ていられるということ?
「簡単なことです」
 ヒュプノス様は教えてくれる。
「ただ眠りに身を任せ、永遠に夢を見ていればいいのです。眠りの世界であなたは自由です。種で得た楽しかった世界を思い出して眠れば、容易に安らかな夢の世界へと落ちることができることでしょう」
 確かにそうだ。このまま目覚めなければ、夢に落ちてしまえば、考えることもない。苦しむこともない。
 それはとても楽なことで……。
「眠ってしまいましょう」
 と不思議な声に優しく促される。
 私に与えられた最後の救いを、私は受け入れてしまおうと思った。
 ヒュプノス様は最初からこうなることがわかってたんじゃないか。種を奪い合わせるのも、夢に依存させるため……。今となってはどっちでもいいけど。
 まぶたが重くなってくる。
 すごく疲れてしまったみたいだ。
 恐ろしい現実がもうすぐ襲ってくることから目を背けてしまいたくて、欲求に抗わず目を閉じ、完全に真っ暗になった視界で、私はつぶやいた。
 おやすみなさ――。
「ダメ」
 と囁く声に私の鼓膜が揺らされた。
 聞き間違いだろうか。声は私の声に似ていた。
「誰ですか?」
 ヒュプノス様も困惑していた。
 私はそっと目を開ける。
 真っ暗な中に、写し鏡のように私がいた。上を向いて浮いている私に、ちょうど平行になるように浮いている。
 その私は何も身に着けていなくて、長い黒髪が闇に広がっていた。目が合う。泣きそうな顔をしている。
 もしかして、
「心々愛……?」
 目の前の私の口元が少しだけほころばせ、私の名前を呼ぶ。
「里々愛……」
 当然これは夢だ。この期に及んで心々愛が現れるなんてどうして……。もうメアは使えないはずなのに。
 心々愛は言った。
「わたしは里々愛の心の中にいる心々愛じゃないよ。わたし自身だよ」
「そんなわけない。どうして心々愛が……存在しているの?」
「証明することは難しいから、信じてもらうしかないんだけど……。そうだ……」
 心々愛の手に握られていたのは種だった。
 丸くて黒い種はあの不思議な輝きを発している。
「種は一人に一つなのに……」
「だからこそ、これが、わたしが存在してる証拠」
 正真正銘の夢の種は、心々愛が存在している確かな証拠だった。
 でも心々愛には体がないはず。
「そう。体はないけど、私の核は里々愛のここにいた」
 と胸に手を当てられる。
「溶けて里々愛と一つになっていた私は、里々愛が種を飲んで夢を見ることで、夢の中で存在を誇示できるようになったんだ。『自分の体が好きになった私の夢』を見た里々愛は、わたしを体から外に出したの」
 背中を指で示す。
「蝶の羽が片方白かったのは、わたしがそこに宿っていたから。里々愛が夢を見るたびに私は羽という体を得て、ずっと背中から想いを募らせていたんだよ……。それで、やっと、今、わたしの想いは形になった」
 と種を大事そうに握りしめる。
「夢の中で得た体を媒介に、夢の種を実らせたのですか……? このような例外は過去にはあり得ない。よほど強い想いを持っていたのでしょう!」
 とヒュプノス様が腕を広げて感服している。
 目の前にいる心々愛が本物だとしたら、
「……ごめんなさい」
 私は暗闇の底へ沈んで距離を置く。心々愛が遠くなる。
 いつものように責められると思ったのだ。
 私が産まれてきてしまってごめんなさい。
 何度も何度も謝罪の言葉が溢れてきて、虚しく闇に飲み込まれていく。
 でも、心々愛は言った。
「恨んでなんかないよ」
 柔らかくて優しい声だった。
 私の謝る声が途切れる。口は開いたまま閉じられない。
「ずっとわたしは、里々愛の中にいたから、里々愛が苦しんでたことも悩んでたこともわかってる」
 心々愛も私のいる闇の底に降りてきて、
「声も発せられなかったわたしは、何も言ってやれなかったし、助けてやれなかった。……何もできないことが悔しかった」
 向かい合う。
「わたしね。夢の中で眠ってる里々愛を見て、自分の無力さにいつも泣いてたんだ」
 そのセリフは良く見ていた夢の光景を思い出させる。
「あれは、心々愛が見ていた夢だったの?」
 うなずかれる。
 私の中にいた心々愛の夢を、私が見ていたんだ。
「ね? わたしはずっと一緒にいたんだよ? 体は統合されたけど、里々愛の中にいたの」
「心々愛……」
「大丈夫、里々愛の苦しみは、わたしが一番わかってるから……だから……助けてあげたい」
 心々愛は私を見つめる。
「どうやって……?」
「種を飲むの」
 まっすぐに私を見つめていて、視線は逸らせない。
「私が夢見るのは『里々愛が幸せに生きていける夢』」
「そんなこと――」
「その夢があなたの望んだ夢なのでしたら、可能です」
 とヒュプノス様が口を挟む。
 だとしても、ダメだ。
「そんなのダメ。心々愛には、何も返ってこないのに――心々愛が、また私の負担になるよ。重荷になるよ」
 でも心々愛は微笑んだ。
「じゃあ、私にも返ってくるものがあればいいよね」
「そういうことじゃない――」
 と言いかけた私は、真剣な顔に射竦められる。
「約束して里々愛」
 心々愛がまっすぐな瞳で見てくるから私も見つめ返す。
 目が合ったところで、心々愛は表情を崩してとても優しい笑顔になった。
「わたしのこと忘れないで」
 私はゆっくりとうなずく。
「うん……」
 当然だった。
「わたしに責められるって怖がったり、おびえたり、しないで」
 できるかわからなくてためらったけど、
「うん……」
 とうなずいた。
「これが、最後のお願い」
 心々愛は大きく息を吸って、
「わたしのことを大好きでいて」
 震えてしまって声の出なくなった唇は、心々愛の指先で塞がれた。
 声で返事をする必要はなかった。
「絶対、絶対だよ」
 うん……。
「パパのこともママのことも、自分のことも……夢で苦しんでた他の子のことも……もちろんわたしのことも気にかけすぎて、自分を責めてばかりいた優しい里々愛は、やっと幸せになるの。夢でも、現実でも、悪いものから解放されるの。わたしからも解放されて、おかしなことに悩まなくても良くなるの」
 種を持つ指先が、口元へと運ばれていく。
「初めて里々愛の力になれるから、わたし嬉しいよ」
「やっぱり、ダメだよ心々愛……」
 私の両手は宙をかいた。
 届かなかった。
「もう約束をやぶるの?」
 と言われて、伸ばした腕の先の手をぎゅっと握る。
 眼尻に涙をためて微笑んだ心々愛は、種を口に含み、ごくりと飲み込む。
「里々愛に、どうか、良い夢を」
 と笑って見せた。
 心々愛の名前を呼ぼうと喉に力を込めるけど、もう声も届かなくなっていた。
 途端に、夢からはじき出されるように、ヒュプノス様も心々愛も遠くなってしまう。離れていってしまう。
 私は深い深い闇に落ちて、黒に包まれる……。



  ★14★

 真っ白い天井が見えた。
 朝の光がカーテンの隙間から漏れている。音はない。自分が息をする音だけが聞こえた。嫌い嫌い病はなくなっていて、体が軽かった。
 ただ、ボロボロと涙が出てきて止まらなくて、枕がびしょびしょになる。
「心々愛……」
 姿見に映る自分の姿が、心々愛みたいに見えてハッとして立ち上がるけど、そんなところにいるわけがなかった。
 自らが映る鏡へと数歩進んで、私は床にへたり込み、我慢できずに声をあげて泣いてしまう。
 ドタドタと階段を駆けあがる足音が響いて、ノックの後に、扉が開く。
「里々愛? どうしたの!?」
 当然のように心配したパパとママが駆け寄ってきた。
 ママが不安げに眉根を寄せて近づいてくる。パパもおろおろとしている。日曜日なので、二人ともパジャマ姿のままだった。
 横目で時計を見ると、時間は午前七時になったばかりだった。
「ママ……パパ……」
 今はパパとママの過保護さに甘えたかった。
「里々愛、何かあったのか?」
 ってパパが聞いてくる。
 私は首を左右に振った。上手く口では説明できなかった。
 悲しくて、苦しくて、寂しくて。でもどこか嬉しくて、暖かくて。
 ただ震えるばかりの私を、パパとママは抱きしめてくれた。重い荷物をすべてなくした私にとって、パパとママはただ優しい親でしかなかった。
「うなされてたみたい」
 ってパパとママに言う。
「怖かったのね。もう夢は醒めたのよ、里々愛」
「熱があるからうなされてたのかい?」
「それは大変、病院へ――」
 と慌てる二人は、顔を見合わせてから口をつぐみ、私を見た。
「大丈夫だよ。もう平気だから……でも、もうちょっとここにいてほしい……」
 パパとママは優しい表情でうなずいてくれた。
 泣くだけ泣いてから、朝の清々しい空気を胸いっぱいに吸い込むと、頭がすっきりしていく。
 普通でいられることという誰しもにとって当たり前のことは、今の私にとって、心々愛が見てくれてる悪夢と奪われている誰かの夢の上に成り立っていた。
 やっぱり自分を責めてしまいそうになる私は、心々愛との約束を思い出して堪えた。約束をやぶっちゃいけないって思った。
 だからってすぐに変われるわけがなく、私はごめんなさい。と頭の中で何度も繰り返す。一つ違っていたのは、そこに「ありがとう」も混じっていたことだ。
 ごめんなさい。ありがとう。
 私は胸の奥で唱える。
 心々愛、疲れてしまったら休んでいいからね。もしもある日突然、夢が醒めてしまっても、きっと私がんばるから。今から、少しずつでも生きてることと向き合ってくから。
 そう変わっていける気がした。
 パパとママが部屋から出て行った後、夢占いの本で『涙』の夢をよくよく調べると、それは浄化の夢らしかった。
 心々愛は、私を浄化するために泣いててくれてたのかもしれない。
 だから、今晩は、私が心々愛のために涙する夢を見たい。
 いっぱい泣こう。
 おやすみなさい、心々愛。

作者コメント

 ★ akkです。こんばんは。
   はじめましての方は、はじめまして。
   お久しぶりの方は、お久しぶりです。

 ★ これは世界が嫌いな少女が、現実の中で夢を見るお話です。
   ご感想などいただけましたら嬉しいです。

 ★ 本作は自らの新しい試みとして、
   音楽とのコラボをさせていただきました。
   作詞・絵・動画 を担当しています。
   ホームページから見ることができます。

 ★ では、おやすみなさい。
   どうか、良い夢が見れますように。

 ★ 参考資料
    ・学研 決定版夢占い大辞典 著・不二龍彦

作者HP 水色さなとりうむ

2012年02月29日(水)01時03分 公開

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砕けたガラス玉さんの意見 +50点2012年02月29日

 はじめまして、砕けたガラス玉と申します。
 拝読させていただきましたので、感想を述べさせていただきます。

>私の枕から芽が生えた。

 え、となりました。
 何が起こっているのか気になります。

>「逃げないでください。我の名はヒュプノス。夢の種を実らせた愛しい里々愛を迎えに来たのです」

 こんなのが来たら、逃げるのが自然だと思いました。

> どこかで聞いたことがある単語だ。確か――眠りの神様の名前?

 博識な少女です。

>「種を飲み込めば、起きている間でも夢を見ていられるようになります。世界そのものを大きく改変することはできませんが、自らを伴う世界だけを改変できるのです。そうまるで、夢を見るように」

 不思議と、ドラッグなどを思い浮かべました。

> そんな上手い話がある訳ない。私は警戒していた。簡単に手に入るものなんてないことくらい知ってる。

 賢い子だと思いました。
 良くある物語だと、疑う事を知らない子が、騙されてしまうんですよね。

>鼓膜が震えることが嫌いな私は耳がむず痒くなるからだ。

 珍しい設定だと感じました。


> 私は人前で吐いてしまっていた。ずっと我慢できてたのに、とうとうやってしまった。胃液をまき散らしたことがすごく恥ずかしかった。

 主人公に何か秘密のようなものを感じ、わくわくします。


>「……平気です。のどを詰まらせただけですから」

 ちょっと無理が……。
 このときの主人公の心理を想像すると面白いです。


> 今の私を治すには、自分の体を好きになるしかないんだろうけど、変わることなんてできなかった。

 主人公のこの症状は、いつからなのでしょう。
 先天性なら、食べ物を受け付けずに、栄養失調になりますし。

>体の中で胃とか腸に食べ物が移動して、動いているのが気持ち悪い。

 それをはっきりと、感じた事はありませんが、想像するとうすら寒いですね。


> だから一緒にいる時は、じっと私の挙動を見つめているパパとママに、作り笑顔を見せるようになった。

 こんな生活を続けることを考えると、頭がおかしくなりそうです。
 相当な、ストレスでしょう。

>『心々愛』と『里々愛』って書いて、『ここあ』と『りりあ』と読むってママが言ってたのを覚えている。

 ここは笑うところでしょうか。
 普通に西洋世界もしくは、もう少し違和感のない名前で良かったと思います。

>嫌い嫌い病のせいで期待に応えられないダメな子だから、すごく悔しくなる。

 周りの期待に応えなくちゃ、という重責から、この「嫌い嫌い病」は来ているのかなと思いました。


> 私は種を飲み込んでいた。

 自分で自分を追い込むのは悲しいですね。


>「アレハ悪夢デス」

 展開が速くていいですね。
 テンポがいいと思います。

>私は夢でヒュプノスちゃんに会うなり飛びついた。

 幸せそうで、何だかこちらも嬉しくなります。
 しかし、このまま、何事もなく、ハッピーエンドになるとは思えず、何が待ち受けているのか、少々不安にもなりました。

> 何かと戦わなければならないって話は聞いてなかったから、騙された気分になる。

 上手い話というのは、たいてい、何か裏がありますね。

>「夢ヲ見続ケタイノデショウ?」
> 私はしぶしぶうなずくしかなかった。

 主人公の気持ちが良く分かります。
 しぶしぶですよね。

> どこか言葉が引っ掛かったけど、何が変なのかわからない。

 まさか、これは、同じように種を獲得した者同士に、種の奪い合いをさせているのではあるまいな。

>砂時計が裏返るまで私は木の陰で震え続け、結局種は奪えなかった。

 何と言う酷な。

> 今日みたいな誰しもにとって当たり前に思える毎日も、夢が醒めてしまえば私にはできなくなってしまう。毎日が楽しければ楽しいほど、夢が醒めてしまうのが恐ろしい。

 ここでテコ入れが来ましたね。
 パパとママの嬉しさからの涙は、主人公を奮い立たせることができたのか、気になりました。

>「私、自分の夢の中だから、そこに他人が関与してるって思ってなかったんだけど……。『悪夢』ってもしかして、私と同じように種を飲んで夢の世界に来てる子なんじゃないのかな……?」

 核心が来ましたね。

> 人の幸せを奪わなければ、自分は幸せではいられない。それが全てだったら、なんて救いのない世界なんだろう……。

 現実も、往々にして、そうですよね。

>「パパ……が……こわい……の……?」

 何と無く、夜の悪夢が、何かについては予想はできていましたが、やはり生々しいですね。

>「種が消えてしまうのを待ってるのは怖いから、すぐに種を取りだしてほしいの。取り出した私の種は捨ててほしいな。夜さんにも、私の痛みは抱え込んでほしくないから……」

 主人公は、強くなったと思います。
 元々、優しいゆえに、苛まれていたこともあると思いますが、それでも、奪わないという選択肢を取った、主人公は強いです。

>「里々愛に、どうか、良い夢を」

 双子のもう一方が、もう一方のために犠牲になる。
よ くある展開ではありますけど、切ないですね。


<読後>
 これは、素晴らしいです。
 夢に関しても、中々、納得できるものがあり、きちんと調べている感じがあったのも、感心いたしました。
 昨年、話題になった某魔法少女アニメが記憶に新しかったため、それをつい意識してしまいましたが、それを差し引いても、この出来は素晴らしいと、私は思います。

 個人的に、このような話は、大好きだからかも知れませんが、私の中の評価は高いものとなりました。

 今回は、コラボという事なので、ホームページの方も、ぜひ見させていただきます。
 次回作もお待ちしております。

 このような素晴らしい作品を、拝読する機会を下さったことを心から感謝します。


※追記(2/29 23:05)
 PVの方も拝見させていただきました。
 本来なら、文章だけで評価するのが妥当なのでしょうが、あくまで私個人の考えとして、PVも含めて評価したいと思いました。
 それほどに、小説、そしてPVの出来は素晴らしいと思いました。
 もう少し、ボリュームを増やし、サウンドノベル形式にしても、十分に引き立ちそうだと、個人的に思いました。

作者レス

★ 砕けたガラス玉様
 こんばんは。
 リアルタイム感想ありがたいです。
 加えて、こ、このような点数をいただけるとは……! その分だけ砕けたガラス玉様に面白いと感じていただけたのでしたら、まことに光栄でございます。

 冒頭から興味を持っていただき、大変ありがたいことです。
 主人公は、考える子というか、警戒心が強い子=臆病な子を意識していました。
 鼓膜の辺り、珍しい設定だと思っていただけて良かったです。自分で書くのですから、自分らしいものが書きたいと、自分でなければかけないものが書きたいと、常々思っております。

>ちょっと無理が……。
 すいません……orz とっさの言い訳ってこういうボロが出るようなものかなと……。

>症状がいつからなのか。
 『物心ついた時から体の全てが苦手だった』としましたので、徐々に違和感を肥大させていった感じです。あまり過去のことを長々と語らせるのは嫌だったので省いてしまいました。しかし、もっとちゃんと記述しても良かったです。
 名前の件は、すいません。DQNネームっぽいのが好きなんです。甘い名前が好きなんです。

>自分で自分を追い込むのは悲しいですね。
 追い込む感じが伝わって良かったです。
 テンポは大事にしています。くるくる展開しないと面白くないと思っています。

>まさか、これは、同じように種を獲得した者同士に、種の奪い合いをさせているのではあるまいな。
 その通りでした。
 
>主人公は、強くなったと思います。
 成長を感じ取ってもらえたようでうれしいです。
 
>よくある展開ではありますけど、切ないですね。
 確かに良くある展開ではありましたね。ありがとうございますm(_)m

 最後までお読みいただきありがとうございました。お褒めの言葉、光栄に預かります。このようなお言葉をいただけますと、書いてよかったと思います。次作執筆の際のモチベーションアップにつながります。
 某魔法少女は『まどか』でしょうか。ジャンル的には、魔法少女ものの亜種のようなモノを基盤に考えたストーリーなので、共通する部分はあるかもしれません。『まどか』面白かったですね……。ちなみに私は杏子派です。一人じゃ寂しいもんな……は名言だと思(ry

 PVも見ていただきありがとうございました。動画を作るなんてことが初めてで、制作に一カ月以上かかりました。見た方、読んだ方に『何か感情を揺さぶるもの』を提供できれば、それが一番でございます。
 サウンドノベル。時間があればやってみたいですが、今の私には余裕がないかもしれません……。ああ、時間が欲しい。

 では、最後にもう一度、どう感じたか良くわかるご感想をいただき、まことにありがとうございました。
 今後ともよろしくお願いいたします。

都丸さんの意見 0点2012年02月29日

 はじめまして。携帯で何回かに分けて読んだのでもしかしたら読み飛ばした部分があるかもしれませんが、長くて読み返すのがつらいのでその都度感じていたことを思い出しながら記述します。

 まず、設定で入り込めませんでした。
 複雑だとかではなく、説明の仕方がちょっと雑だったのではないかと思います。
 設定に関してリリアが「これってこういうことなんじゃないの」と納得したりヒュプノスに反論したりするたびに、彼女が何を言っているのか、またなぜ納得しているのかがわからず置いてきぼりを食らった気分になりました。これは何度も感じました。

 種を奪う論理
 ヒュプノス(ちゃん?)からみんな「種を奪うんだ」と言われているのだと思うのですが、その理由をヒュプノスは「夢を長く見ていてほしいから」というような台詞で説明します。夢からさめないようにするために種を奪うんですよね?
その場合、1つの種で夢を見られる時間には限りがあるから他人から種を奪わなければならない、ということをもう少し読者の意識に残るような形で説明してほしかったかなと思います。書いてあったような気もしますが、読んでいる最中は私の頭からはすっかり飛んでいたのでこういう指摘をしてみました。


 以下箇条書き。
・「夢」と「悪夢」の表記がどちらも使われていた、と思うので結構混乱というか、入り込みづらかったです。ヒュプノスが「夢カラ醒メテシマッテモ、イイノデスカ?」と問う時の「夢」は普通の夢とは違うのでしょうし、思い切って造語を作ってしまったほうが混乱がないような気がしました。もしくは一貫して「悪夢」で通すかでしょうか。

・種を取られてヒュプノス様と出会うんですけど、ここの「ずっと夢を見ていればいい」というセリフにかなり違和感がありました。じゃあ最初から種とかどうでもいいんじゃん?今まで何やってたの。と悪い意味で唖然。

・心々愛が種を飲んでも夢で戦い続けることになるのでしょうし、仮に戦わずに逃げるにしても種の効力にも限りがあるはずなのでそんな彼女を考えると最後泣かせるような場面を作っても感動はしないかなと。特別、悲壮感を漂わせているわけでもないですし。ですので今回加点要素にはしていません。

・私の好みの問題も関係しているのですが、里々愛の悩みが絵に描いた餅といいますか彼女の中だけで肥大している印象で、現実感がない割に全体に占める文量としては多いので少々読むのがつらかったです。物語の中核を担うにしては弱いかなと。ですが、食べられずに吐いてしまうなどの展開は結構ありそうでよかったと思います。

・羽の色が違うのは前例のない現象だ、ということでしたけれども、この近くで双子の存在が示唆されていましたので「ああもう一人のせいで2色あるのかな」と割とすぐ予想できましたが、特にサプライズを狙った訳でもないでしょうしこれでいいのかもしれません。

・夢で戦った相手=東堂さんだった、などの展開があったら「おお」と思ったかもしれません。

・最初の方の、口に入り込もうとする部分は「うへあ」と胃に来るいやーな気分にさせられたのですけど、あとはガンガン軽くなっていく一方でしたので拍子抜けでした。(無論そんなのばかりだったら読む気が大いに削がれるのでしょうけど。)「肉色」とか「肉蛇」という単語が繰り返されますがそれで気持ち悪くなるのは最初だけで次第に慣れてしまうので、詳しくキモイ感じに描写をして変化をつけてあげてもいいのかなと。

 これだけ文句を垂れたということは興味があったということでしょうし、調理の仕方によってはすごく好みの話になったのかもしれません。執筆お疲れさまでした。

作者レス

 ★ 都丸様
 こんばんは。はじめまして。
 この度はこのような中途半端に長いお話にお時間を割いていただき、さらにはご感想まで書いていただきましてありがとうございました。

 説明が雑で納得しているのかがわかりにくいということですね。これは大変申し訳なく思います。
 同様に、種を奪う理論も分かり辛かったようで、反省いたします。
 会話でやり取りすることで説明するという流れを、もっと上手く書けるようになりたいです。

 夢の表記の件は、確かに別の造語を作ってしまった方が良いですね。確実にその方がわかりやすかったです。執筆時に、推敲時に気づけなかった私の手落ちです。

 ラストの『夢を見てればいい』は、説明不足でした。
 ヒュプノス様的には、『もっと夢を見ていたい』という意識を持って競争をさせて、睡眠=本当の夢=眠っている状態に依存させるために煽ったという感じでしょうか。とまあここでかいてしまいましたが、言い訳がましいことはあまり言いたくないですね。きちんと本文でわかるように改善したいと思います。本当に説明不足でした。

 最後は、もっと悲壮感を漂わせても確かに良かったですね。さらっと終わらせてしまったかもしれません。少しの成長が書ければいいだろうかと思っていましたが、浅はかでした。

 悩みが絵に描いた餅。要は文章量の問題でしょうか。悩みすぎて鬱陶しいのかもしれません。確かに言い得ていると思います。今後は注意したいです。
 羽の色は、若干、取ってつけたような設定になってしまい申し訳ございませんでした。

 東堂さんは、最初に考えた段階では夢で戦うようにしようと思っていましたが、どんどん話が長くなりますので、今作は短編としてまとめたくもあり、現実での対立は書くのを控えました。
 よくよく考えれば、現実での対立という部分を削ってしまったのは、物語の重要な要素を削ってしまったのと同様で、本作の設定はもしかすると短編向きではなかったのかもしれません。

 描写の慣れ。確かに、ワンパターンだったと思います。そこまで意識が回っていなかったので、ありがたい指摘です。変化は大事ですね。

 たくさんのためになるご感想、ご意見、アドバイス。ありがとうございました。
 一人で鬱々としながら書いていると、気づけない点もありましたので、大変参考になりました。もっと上手く調理できるようにがんばります。
 やっぱり人に読んでもらうことは良いことですね!

 ぜひ次回作執筆の際の糧にさせていただきます。
 最後にもう一度、ご感想ありがとうございました。
 今後ともよろしくお願いいたします。

よしぞーさんの意見 +40点2012年03月01日

 ども、よしぞーです。

 夢占いは俺も好きです。不二龍彦さんの本は俺も持っています。まぁそれはともかくとして。

 ヒュプノスの分身? のデスマス調がなかなか可愛らしかったです。エンタメなのですけれどもちゃんと、設定により深みが生まれていると思います。そのために、バランスがとれているという印象を受けました。
 エンタメ要素としては、もうちょっとなにかあってもいいかなとは思いました。夜の部分で思ったのですが、魅力的な設定があるので、しかたなかったのかもしれませんが、俺は、男性のほうがよかったんじゃないかなと思いました。関わってくる同年代の人間が、東堂さんだけでというのはちょっと寂しいかなと。そのせいか、夢世界というものを使っているのだから、スケールがでかい物語な筈なのに、なんだか受ける印象としては、物語世界がちょっとこじんまりとしてしまっている感じを受けました。だから、夜は男性のほうが、もっとバランス取れていたのではないかとおもいました。男性が出てきてもいいのかなと。ただ総合的に見れば、個人的に、とても面白かったです。

作者レス

 ★ よしぞー様
 こんばんは。
 この度はご感想を書いていただきまことにありがとうございます。

 おお、同じ本を持ってらっしゃるとは。奇遇ですね。
 何気ない時、寝る前とかにペラペラめくって読んでます。

 暗すぎる印象を緩和するために、ヒュプノスちゃんはああいうしゃべり方、かたちにしました。魔法少女のパートナー的存在を意識しています。
 夜が男性でも良かった、ということですね。確かに最初それでも……と考えていたのですが、実は本作『恋愛禁止縛り』で書いてものでございまして、それゆえ男があまりでてきません。愛はいとも簡単に世界を救ってしまう場合がありますので、どう落とすのかはとても苦労しました。リンク先の曲の作詞もしているのですが、こちらも『恋愛系禁止で作詞』ということで、本編である小説も連動し『恋愛』を感じる表現を一切なくすことにしました。そして自分で自分の首を絞める結果に……。
 物語がこじんまりしているのは否めません。仰る通り、バランスが悪いですね。都丸様からもご指摘を受けましたが、やはり現実世界との連動が薄かったからかと想定します。これではいけません。
 当初の予定では、現実で、里々愛以外にも種が必要な子が現れて――という展開を考えていたのですが、それだと100枚をゆうに超えてしまいますので破棄しました。今回はニコニコ動画でボーカロイドの曲を作って活動している方とのコラボだったので、できるだけ枚数は抑えて、短編くらいの分量で……と考えるうちにこういう形になってしまいました。言い訳は甘えでしかありません。数々の言い訳、本当に申し訳なく思います。

 面白かったとのお言葉はたいへん励みになります。いただいたご感想を元に、さらなるエンターテイメント作品を書いていきたいと思います。
 では最後にもう一度、ありがとうございました。
 今後ともよろしくお願いいたします。

★野さんの意見 +10点2012年03月02日

初めまして、★野です。今作を拝読させてもらったので、拙いながら感想を残して消え去ります。

現実と夢と悪夢。むむー、題材としてはとても面白いと思いました。特に、里々愛さんの悪夢。肉、肉、肉の世界観は結構私好みでした。自身の内臓を、体内を蠢く芋虫、みたいに表現していたのも、結構良かったです。読んでいて、今作のウェイトはそういった「えぐさ」「グロさ」に置かれているなー、と思いました。

ただ、それ以外がちょっと……。正直、何故この内容でバトルなのか、と。ライトノベルなので、確かにそういったバトル要素も必要でしょうが、今作には合っていない気がしました。
こんな事言っちゃうと、作品の根幹を真っ向から否定するようなものですが;;私としては、バトル展開より、むしろ鬱鬱とひたすらにグロやらくらーい描写の続く、しっとり系の小説の方が、内容的には合っているかな、と思いました。

えーと、読み終えて、なんだかラストが取ってつけたようなハッピーエンドで、少し肩透かしを食らった気分になりました。ハッピーエンドが嫌いな訳ではありませんが、それならばもっと主人公に降りかかる不幸を書いた方が良いと思います。最後は何やかんやで心々愛さんに助けられて、はい、おしまいではちょっと物足りません;;

結局種を奪えず、夢が覚めてしまったのに、ヒュプノス様から「永遠に眠り続けて夢を見ましょう」的なことを言われているのも、なんかおざなりだなーと思いました。心々愛さんが里々愛さんを救う場面が欲しかったのなら、いっそ、夜と戦わせてしまうとか、もう少し現実感を出してみるのも、一種の手ではないでしょうか?

などなど、つらつらと言ってきましたが、先述したとおり、作者さんの世界観はとても私好みです^^これからも、執筆活動がんばってください。

作者レス

 ★ ★野様
 こんばんは、はじめまして。
 本作にご感想を寄せていただき、まことに恐縮でございます。ご感想はありがたく読ませていただきました。以下、返信となります。

 題材、世界観をお褒めいただきありがとうございます。体が嫌いなヒロインをどう描くかは、非常に悩みました。『グロさ』を感じ取っていただけたのなら本望でございます。
 バトル展開について。以前動きの無い話を書いた際に、ライトノベル的、エンターテイメント的ではないな……。と思うことろがありまして、今回は動きを加えるということをやってみようと思い立ち、戦う=種を奪い合う。という展開にしてみました。私も基本的には★野様のおっしゃる『しっとり系』の方が好みではあります。今回はこういう形、また別の作品では『しっとり系』も書きたいと思う次第です。
 ラストが取ってつけたようなハッピーエンド。これも言い得ていると思います。最後をバッドエンドにするか、ハッピーエンドにするか、とても悩みました。でも今回はハッピーエンドという媚びに走りました。許してください。不幸を享受する終わり方も考えたのですが、あまりにも暗い話に成り下がるので却下しました。そして書いている私自身も落ち込んでいってしまったので、これは年始そうそうまずいと思い今の展開になりました。個人的にはバッドエンドもありだとは思うのですが、この状況をどうハッピーエンドに持っていくかを考えるのが次第に楽しくなり、結果こういうことになってしまいました。
 夜と心々愛の戦い。これは目から鱗です。本当にやればよかったです。しくじりました。悔しいです。この悔しさをバネにして上手い展開が思いつけるように、次回のお話を考える際に今回いただいたご感想を読みなおして、自らを鼓舞したいと思います。

 最後にも救いのお言葉をいただき、ありがとうございます。これからもがんばっていけそうです。
 では、今後ともよろしくお願いいたします。

根本勇也さんの意見 +30点2012年03月04日

こんにちは、根本勇也です。

感想がおくれてしまって申し訳ございません。
拝読いたしましたので足跡を残させていただきたいと思います。

え、商業作品ですか?
とか思ったり思わなかったり。
ちょっと自分とは別次元に立っておられる方なので、なにをいってよいやらわかりませんが、個人的に気にいったところをあげていきたいを思います。

主人公のうつ病がリアル。
喋ろうとすると吐き気を催すとか、笑えないとか。
やりすぎでなく非常に身近に感じられました。
蛇足ですが、それに伴って両親「明るくなったね」というのもよく分かりました。

で、明るくなってから、最初の同級生との会話がこれまたリアル。
というかやりすぎてなくてよかったです。
会話自体は抑えてあるのに主人公の心情描写などを含めて変化が如実に分かって好きでした。

両親の存在。
んー、けっこうゾクッとさせられました。
描写があまりなくパパ、ママだけで表現されて喋る二人でしたが、主人公との悲しい距離感が感じられて、序盤は不気味でありいろいろと感じるものがありました。
>「――」
とパパはいった。

の破壊力は相当かと。

あと、虫での表現ですよね。
個人的にはグロテスクでもなく好きだったのですが、けっこう多く感じられたのでそれは最初気になりました。
ちゃんと理由が感じられたので納得しました。

文章を褒めるのってどうなんですかね。
このレベルの方には逆に失礼にあたるような気がするのですが、とても、よかったと思います。

ちょっと、気になった点を無理やりあげてみたり……。

ヒュプノスの言葉がカタカナでかなり長いので、どうしても、読むたびにつっかえてしまった……。
いや、本当にどうでもいいですね。

>あれ?
 どこか言葉が引っ掛かったけど、何が変なのかわからない。

ずっと気になってしまいました。
ちょっと種明かしに間がありすぎな気も……しないけど、気になってしまっただけです。

なんて無理やりない感性を搾り出した結果、意味不明のことばかり書いてしまって申し訳ありません。
本当は、
『いや、さいこーっすね』
とかへらへら笑いながら呼びかけてしまいたいです。
実に無責任、実に軽薄。

とても楽しかったです。
いや。
あんな自分の作品を読んでいただいてほんとーに申し訳ない気分になりました。
創作意欲の一旦となれば幸いです。

作者レス

 ★ 根本勇也様
 こんばんは。
 この度はご感想を書いていただきまして、まことにありがとうございます。こちらこそ、ご返信が遅くなりまして申し訳ございません。

 商業作品! そこまでのレベルのものが仕上げられるようになりたいですね。文句なしに上手いと言ってもらえるような作品ができるようにがんばっていきたいです。
 リアルと感じてもらえたことは、とてもうれしいです。主人公が特殊でしたので、その気持ち、行動を表すのが難しいな……と思いながら書きましたので、ちゃんと人間が書けていたと判断できるそのお言葉は、とてもありがたいです。
 両親の存在は、あまり書きすぎたくなかったので、こういう形になりました。
 虫での表現は確かに多いですね。気をつけます。同じ表現の繰り返しになると、飽きというか、マンネリ化というか、良い効果は生まれないとは思いますので、改めたいです。
 文章、褒められればうれしいです。私自身、結構いつも弱気で、ネガティブで、自信が無いタイプですので、少しでもお褒めの言葉がいただけただけでほっとします。
 ヒュプノスの言葉がカタカナなのは、確かに読みにくいですね。そうであることを懸念しており、『、』を増やしたり、『力』を『チカラ』とあえてカタカナに崩すなどの配慮をしてみましたが、まだ読みにくいみたいです。ちゃんとした人間がしゃべっているのではないという演出で、カタカナにしてみましたが、これは考え物です……。
 種明かしに間がありすぎた気がする。というご意見。こちらも今後の作品作りの際に参考にさせていただきます。

『さいこーっすね』とか言われれば、創作意欲上がりますね。今回のことを参考に、次回もさらに良い作品ができるように邁進してまいります。
 では、最後にもう一度ありがとうございました。
 今後ともよろしくお願いいたします。

机とイスさんの意見 +30点2012年03月05日

おひさしぶりです。
机とイスです。
企画では大変お世話になりました。


作品を拝読させて頂きましたので感想を残させてください。


>「それだけなの……?」
 そんな上手い話がある訳ない。私は警戒していた。簡単に手に入るものなんてないことくらい知ってる。
 耳にするおまじないなどは、大抵、何かの代償を要求されるものだ。
「察しが良いですね、愛しい里々愛」
 不安げな私の表情が映ったヒュプノス様の大きな瞳が細められた。
「願いどおりの夢を見られる代わりに、毎夜、悪夢を見ることになります」

ヒュプノス(大)とのこのやりとりで、最後どうなっちゃうんだろう? という気持ちがふつふつと湧きました。読者を惹き込む手段としては、非常に効果的な場面だったと思います。それと状況描写と纏まりの良さは流石ですね。そのおかげでコメディ的な要素がないにも関わらず、十分に物語を楽しむことが出来ました。


気になった点としては、やはり本作がハッピーエンドとして終わってしまったことでしょうか。彼女自身は夢のようなハーピーエンド、でも読み手にはバッドエンドを彷彿とさせる終わりかたのほうが良かったかなあと個人的には思いました。
誤解のないように付け加えさせて頂きますと、別にバッドエンドでもハッピーエンドでも良いとは思います。ですが、冒頭でのヒュプノスとのやりとりが、里々愛ちゃんに不幸をもたらすものであるように暗示させていたこと、パパ、ママ、東堂さんとのやりとりが、どこか淡々としていて変化が薄かったこと、また、バトルっぽいものはあったものの、里々愛ちゃんの心の成長が無いまま自己解決してしまったこと、種を奪われた人間の成れの果て(恐怖のサンプルが)前中盤あたりで描かれていなかったこと等の要因が、終盤での逆転劇の(ハッピーエンドに向かう)ハードルを、大きく上げてしまっていたのではないかなあと。
いや、里々愛ちゃんの心理状態は十分理解できましたし、少女らしい一人称はとても楽しめましたよ。ただ、上記のせいで、彼女なりの哲学というものが伝わってこなかったので、なんとなくハピーエンドとしては盛り上がりに欠けてしまったのではないかなあと。
心の葛藤と成長、周りの状況の変化を長編で描くならハーピーエンドでもしっくり来たかなあと。そんな感じでした。


なんだか訳のわからない揚げ足取りみたいな感想になってしまいましたが、心々愛ちゃんの登場を、まだかまだかとわくわくしながら読んでいたので、現れた時には、キタ━(゚∀゚)━! という感じになり、個人的にはナイスな演出だと思いましたし、とても微笑ましい気持ちになりました。面白かったです。これが一番言いたかったことになります。

拙い感想ではありますが、
この辺で失礼させて頂きます。

作者レス

 ★ 机とイス様
 こんばんは、お久しぶりでございます。企画、一年ほど前くらいの企画以来でしょうか。感想を書かせていただいた記憶があります。
 私のことを覚えていてくださったのなら光栄です。

 冒頭にはいつも気をつけているつもりですので、最初の掴みが上手くいっててよかったです。
 彼女自身は夢のようなハーピーエンド、でも読み手にはバッドエンドを彷彿とさせる終り方。ご意見はもっともなことばかりで、うなずきながら読ませていただきました。終わり方には本当に悩みました、机とイス様にいただいたご意見も、今後、最後の締め方を考える際の参考にさせていただきます。助かります。
 ハッピーエンドとしての盛り上がりに欠ける。これは、自分で完成させてから、どこか足りないと思っていましたので確かにと思いました。なるほど、原因が分かったと思います。
 やはり、どんどん読んでもらうことは大事ですね。問題点と向き合えます。
 心々愛の登場で『キター』となってもらえて、書いた身としましてはとても嬉しい気分でございます。今後も楽しんでもらえるようなエンターテイメントな作品を作っていきたいです。

 では、ご感想ありがとうございました。
 今後ともよろしくお願いいたします。

ロランさんの意見 +30点2012年03月06日

面白かったです。全体的に隙がなくレベルが高い。
この話のオチは「心々愛が里々愛のために犠牲になる」「心々愛は心々愛で幸せになる」というものですが、しっかりと里々愛の苦しみと罪悪感を描写してるためラストがちゃんと感動的なものになっています。妄想の心々愛が「返して、返して」っていう所とか。
心々愛が「実は主人公が苦しんでいる事を悲しんでいた」というのにも伏線が張ってあってよかった。単なる自己犠牲ものじゃなくて、結局心々愛も幸せになってるのがいいですね。
主人公の行動・心情の変化に関しても、理由がしっかり描写されてたので特別違和感を感じるようなことはありませんでした。種を飲んだ後の主人公が幸せになった描写も、戦いの理由を作る重要なところ。
上記のように、基礎的な部分が守られててオチをしっかり支えているというのは地味ですが評価されるべきだと思います。

欠点ですが、他の人もおっしゃられてるように、種を奪う意味……つまり夢の続く期間をはっきりとでもぼんやりとでも説明するべきだったかと。モウスグと明かされるまでは、「あれ、もしかしたら奪わなくともずっと逃げ回ってるだけでいいんじゃない?」とか考えてしまったので……。
期限が迫ってるのも予兆のようなものがあったら緊迫感が出て良かったかも。例えば翼がくすんだ色になって萎れてくるとか。
あと、最初の朝食を気持ち悪がって食べてたのは悪夢を見たせいかと思ってたんですが、そうじゃなくて元から気持ち悪かったんですね。ここも少しだけでいいからフォローが欲しかったかな。

欠点はみな小さいものですね。
面白かったので動画のほうも後ほど拝見させていただきます。

作者レス

 ★ ロラン様
 こんばんは。
 ご感想をお寄せいただきまして、まことにありがとうございます。
『面白かったです』は一番うれしい言葉です。そう言っていただけますと、書いてよかったと思えます。『レベルが高い』もうれしいです。お褒めの言葉をいただけますと、今後ももっと良い作品を書きたいという欲求を刺激されます。助かります。優しいお言葉に甘んじず、今後も精進していきます。
 「返して、返して」の部分や、単なる自己犠牲ものじゃないという部分など、意図して書いた部分が伝わると嬉しいものです。
 種が無くなるまでの期間。夢の続く期間。それは曖昧にしてしまってました。確かにおっしゃられているように、この辺りははっきりさせた方が、利点は多そうです。羽がくすむとかのアイデアは、視覚効果も狙えますので、本作の改稿の際はぜひ取り入れたいと思います。
 朝食は、悪夢を見ているのではなくて、元々気持ち悪かった。という部分の描写のフォロー。これもおっしゃる通り、足りていなかったように思います。ご指摘いただきありがとうございます。
 小さい欠点でも、積み重なれば……とならないように、気をつけたいと思います。今後も面白いと言ってもらえるような作品を仕上げていただきたいです。
 動画もご覧いただけるということで、ありがとうございます。
 参考になるご意見ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

おちゃさんの意見 +20点2012年03月11日

 akkさま。おちゃと申します。このまえの冬祭りで、akkさまにアドバイスいただいたものです。御作、拝見いたしました。

<良い点>
・読後感が、とてもよい。未来を感じさせるラストは、とても優しいですね。
・夢占いについて、知識が深くておもしろかった。いろいろな夢の示唆するところを、物語に盛り込んでいて巧いなと思います。

<ちょっと気になった点>
・なんとなく、『マギカまどか』に似てる気がします。ヒュプノスちゃんがキュゥべえに思える。魔法少女が互いに潰しあっていくところとか。魔法少女が魔女にならないためには、戦い続けないといけない、というシステムとか。だけども私はマギカを一部しか知らない者なので、見当違いなこと言っちゃってたらほんとごめんなさい。
・ヒュプノスちゃんのカタガナ言葉には味があります。その一方で読みにくくなる。両刃の剣でしょうか。
「目ニハ目ヲ。『悪夢』ニハ悪夢ヲ。『悪夢』ニ有効ナノハ悪夢ダケナノデス。昨晩ノ腕ハ『悪夢』ガ悪夢ヲ発現サセタモノデス。同様ニコチラモ悪夢ヲ使ワナケレバナリマセン」
「ソノ通リデス。我ハ区別スルタメニ、人型ノ『悪夢』ヲ、ソノママ『悪夢』。里々愛ノ言ウ『魔法』ヲ『メア』ト呼ンデイマス」
……と、物語の重要設定を語っているはずなのですが、暗号文のように取っ付きにくい。ちゃんとリリアが途中に説明をはさんでくれているから、助かるのですが。
それでもやはり、ちょっと取っ付きにくさが残って惜しいです。
・明るくなっていくリリアに、パパママがうれし泣きするところ。「里々愛、もう悲しい顔は見せないでね」嬉しいから&いままでの過保護にならざるをえない経緯があるから、こういう言葉をママは言っちゃった、と考えることもできますが、それにしてもちょっと重たい。この台詞を言われたら、ふつーの娘でも憂鬱になりそうだな、と思いました。いや、あえてこういう重たい台詞を選んでリリアの息を詰まらせたのかもしれませんが。……わたし個人の感覚の問題かもですね。

良かった点よりも気になった点のほうがボリュームがあるような感じになってしまい、ごめんなさい。後者がかさばってるのは、より詳しく述べようと思ったからであり、良かった点が多いのは疑いありませんよ。
きれいな物語でした。
ありがとうございます。

作者レス

 ★ おちゃ様
 こんばんは。お久しぶりでございます。
 この度は返信が遅くなりまして、大変申し訳ございません。

 ラストは最初バッドエンドで考えていたのですが、どうも胸糞悪い感じになってしまいそうでしたので、捻じ曲げまくりました。どうすれば、主人公を救えるのか、必死でした。
 夢占いはちゃんと調べて書いたので、褒めていただけると嬉しいです。書き終えて時間を空けた今、夢という題材の表面をなぞっただけで、まだまだ夢を生かしきれていないとも自分で感じておりますが、問題点を把握し、次回の作品作りの際は同じ轍を踏まないようにしたいと思っております。
 私はまどかマギカを全部見ましたが、確かに似ている点はあります。それでもこの題材で書きたかったのです。で、書いて、まどかマギカという『ああいう雰囲気』の魔法少女作品が現れた以降から、これ以上あの系統を超えていくのは難しいのではないか? とすら感じました。近いような作品を作れば、似てしまうと感じるようになってしまうなぁと。
 魔法少女をベースにすれば、マスコット的な立ち位置(キュウべえ)は、主人公を誘導する役割になるだろうし……などと考えていくと、まどかマギカはベースになるような基本を押さえた作品だと思いました。それを打開するには、奇をてらったキャラクター配置や、別のベクトルの方向性を考えなければならないのですが、今作はベタな配置にとどまったせいで類似点は発生してしまいます。オリジナリティーを追及するべきだったのかもしれません。
 カタカナ、読みにくいですね。本当に。この点は、最後までどうしようか悩みましたが、結局、雰囲気重視でカタカナのまま通してしまいました。読みやすさを踏まえた雰囲気づくりは、今後の課題点です。
 ママのセリフが重い。パパとママはなんだかんだ言って、自分たちのことを中心に考えているような人たちだという感じで書こうとしていました。その結果の、里々愛のことを考えていない(思いやっているようで思いやっていない)セリフであるのです。大人、親、としては完璧じゃない人です。

 ためになるご感想ありがとうございました。ご感想に返答することで、自ら書いた者に対して、客観的に分析できるのだなと感じます。
 今後ともよろしくお願いいたします。

特効人形ジェニーさんの意見 +40点2012年03月12日

 読了しました特攻です。
 企画に出てた時の上位とかに妙に名前が挙がってくる人だし50点入ってるし(当時)読んでみるかなとか思って読んでみてすげぇびっくりしました。ああ上には上がいるっていうのか。
 点数評価ってあるじゃないですか? それなりにちゃんとしたの見つけたらカチカチ30点とか。上の方の点数をなんとなく出し惜しんでると『こいつら二つって実際意味なくね?』とか思うんですよ。『どんな時使うんだろ滅多に見ないし』『もっとばんばん使ってこかな』とかそんな感じにかちかち点数付けてて、ぼけーっとこちらの作品も拝読させていただいたんですがぎょっとしましたよ。ああなるほどなるほどって思いましたね。たまーーーーーにこんな作品が投稿されるから皆上二つ温存してんだなって。一応50もとっとくっていうかこんなのがあるんだったらさらにその上も期待できるんじゃなかろかとかムチャクチャ失礼な心境で40に抑えてますが、それはあくまでこっちの勝手な都合であなた様の作品は文句なくムチャクチャ絶対素晴らしいものなんでその辺はどうか許してください。
 許すも何も。さておき内容ですが。こりゃぁなんつーか全体的にちっちゃい頃ちょくちょく舞台で見た壮大すぎる戯曲みたいな印象ありました。デウスエキスマキナとかいう難しい単語があったけど、最後の方はそんな感じなんかな?。わちゃわちゃした展開を神様が降りて来て一切合財わーっと解決する爽快な感じの。設定世界観は細部を詰めるとか考えてなくてその膨大な想像力を垂れ流すままに、それでいて相当器用に物語の枠組みに押し込めてて。なんか言っちゃなんですが『小説』-ってよりも『物語』ーっって感じだったのかな。お話の外壁としては主人公のメンタリティがものすごい良い働きをしてたと思います。この手の主人公の見える世界がお話の世界そのものになってるタイプのヤツの中では、飛びぬけて主人公の造形が魅力的だったと。そにこれだけ壮大な設定世界観をうまぁいこと滑り込ませて練って練って膨らませて膨らませてえげついことになってます。力量差とかそんなレベルじゃないです。
 冒頭の枕からなんか生えてくるあたりでもう『やべぇおもしれぇw』と思ったのですが。その期待は最後まで裏切られることなかったですね。碌なこといえないとはこのことで思いのままにキーを叩いて無礼を垂れ流しているんですが、本当に満足のいく読書だったっていうか『こんなの読ましてくれてありがとーっ!』とそれだけ伝えておきます。というか本当なら一言コメでそれだけ書いたら良かったんじゃねとか思います。
 創作お疲れ様です。これからもがんばってください。

作者レス

 ★ 特効人形ジェニー様
 こんばんは。
 お返事が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
 ほ……褒め殺しですね……。
 楽しんでいただけたみたいで、書いた身としましては、とてもテンションがあがります。
 点数評価は、私も特攻人形ジェニー様と似たようなもので、あまり30点以上はつけません。心に残るか、何か得るものがなければつけないようにしてます。何か、30点の壁を上回るものが、特攻人形ジェニー様に伝わったのでしたら、それはとても光栄なことでございます。
>『小説』-ってよりも『物語』ーっって感じだった
 というのは、なるほどなと思いました。
 私自身『何か伝えるもの、表現できるもの』を描くのために文章という媒体を選んだので、小説が書きたいというのが第一にあるというよりも、物語が書きたいというのが第一にありました。
 まだまだ未熟な点も多々ある私ですが、いただいたお言葉を糧にもっと楽しんでもらえる、喜んでもらえる、人の心を動かせるような作品を書いていければなぁと思っています。
 ご感想ありがとうございました。
 これからもがんばっていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。

インド洋さんの意見 +30点2012年03月20日

 こんばんわ、インド洋と申します。
 拝読させていただきましたので以下に感想を。


□ よかった点

・完成度の高さ
 文章、構成、ストーリーどれも総じてレベルが高かったです。指摘できるポイントがあまり――というかほとんど見つけられないぐらいの作品でした。

・嫌い嫌い病の理由づけ
 主人公がなぜ自分の身体に嫌悪感を懐いているのか、先天性のものであったとしても吸収合併(ブラックジャックのピノコもたしか似たような病気でしたね)された双子(心々愛)という設定を置いた点はとても読みはじめで興味を惹かれた部分でした。
 複線としては見え見えになってしまう点と、生前の心々愛という存在の思い出を主人公に持たせることができない点は多少難かもしれませんが、主人公の「自分の身体が自分のものではない」という感覚に現実味を個人的に強く感じることができました。

・全体的な雰囲気
 文章力の部分にもかかわることであると思いますが、全体に漂う、暗く陰鬱な雰囲気がとてもよかったです。おそらくこの雰囲気が出せるか出せないかでこういったノリの作品の良し悪しって決まってくるものなのだと考えます。


□ 気になった点

・まどマギとの類似点
 ほかの方も指摘していることなのであまり書きませんが、私も読んでいて気になるレベルではありました。書かれている絵(内容)は違いますが、額縁と使っているカラー(絵の具)は似ているといった感覚でしょうか。しかし、もちろん模倣というレベルではないですし、そこまで気にする必要はないのかなぁとも思います(何かに似ていない作品なんてこの世にはないでしょうし、この場合、「近年ヒットした作品」という部分が引っかかった主な原因なのだとも思いますので)。
 あと、関係ないですが私も「赤」が好きです。そしてさらに関係ありませんが「緑」は絶対に許せません。

・ジャンル(魔法少女)について
 明確にいえば、本作は魔法少女ものではないのだと思いますし、そもそも魔法少女ものはロボットものと同じような理由で文章作品には不向きなジャンルであるのだと考えますが、主人公が自分のことを「魔法少女」であると思いこもうとするシーンを入れるのであれば、コスチュームや変身シーンなどの要素を追加してもよかったような気もしました(ビジュアルとしては、「羽」がありましたが、それだとちょっと弱いような印象もありましたので)。

・ヒュプノスの目的
 私が読み飛ばしてしまっただけかもしれませんが、彼(ら)の目的っていったいなんだったのでしょうか。短編の長さを超えてしまいますが、この点はもう少し掘り下げてほしかったようにも感じました。ただの神や悪魔という存在で終わらせてしまうと、ふわっとした印象が残ってしまうのは雰囲気として良い部分にも成り得るとは思いますが、個人的には拝読後、もやもやが残った感覚も大きかったです。
 この点、まどマギだと簡略的な言い方をすると「世界を維持するための乾電池集め」でしたが――うーん、やっぱり難しいですね。理由を置くとますます近づいてしまうような気も……。


 【総括】

 お話も纏まっていて面白かったのですが、やはり本作で一番よかった点は、作品全体の雰囲気だったと個人的には感じます。
 あと評価には含めておりませんがPVも拝見させていただきました。こちらも映像作品として楽しませていただいたことを最後に付け加えさせていただきます。


 拙い感想で申しわけありませんが、以上です。
 一個人の意見でございますので、何卒、取捨選択をよろしくお願いいたします。
 今後とも執筆活動のほう、ぜひともがんばってくださいませ。

 ではでは~ 

作者レス

 ★ インド洋様
 こんばんは。
 お返事が遅くなってしまいました。申し訳ありません。この度はご感想を書いていただきありがとうございます。
 よかった点と悪かった点をはっきりとあげていただき参考になりました。

 ブラックジャックのピノコってそういう設定だったんですね(無知ですいません)
 勝手につっくた嘘っぽい設定だったので、つっこまれないかなぁと思っていたのですが、前例があったのですね。

 まどかマギカは確かに方向性は似てますね。今回、他の方にも言われていることですので、そう感じてしまう要素が多々あったのだと思います。次回はもっと個性の突出したものが作りたくなりました。
『赤』良いですよねー。『緑』許せないw

 本作は魔法少女ものという基礎の形を借りた感じですね。確かに、夢であるのである程度の変身は許容範囲だったと思います。コスチュームや髪色の変身を追加しても良かったです。ビジュアルイメージは確かにその方がわかりやすくなっていましたし、もっと演出ができたと思います。

 ヒュプノスの目的の不明瞭な点。これはぼんやりとさせすぎました。
 疑問になるようなもやもやを残してしまえば、引っ掛かりが残り、エンターテイメント作品としての読後感の悪さに繋がるのではないかと感じます。

 PVもご覧いただけたようで、嬉しいです。
 初ニコニコ動画でしたが、再生数もコメントもあまり伸びなかったので、ちょっと残念なのです。動画の知識がないため、ウインドウズムービーメーカーだけで、コマ取りアニメのように一コマずつ絵を動かして作ったのですが、画質、音質がやや残念なものになり、少々悔しい思いをしております。いや、色々と手を出すのは難しいです……。

 ご感想をいただき、ありがとうございました。
 大変参考になりました。
 今後ともよろしくお願いいたします。

インド洋さんの意見 +30点2012年03月20日

 こんばんわ、インド洋と申します。
 拝読させていただきましたので以下に感想を。


□ よかった点

・完成度の高さ
 文章、構成、ストーリーどれも総じてレベルが高かったです。指摘できるポイントがあまり――というかほとんど見つけられないぐらいの作品でした。

・嫌い嫌い病の理由づけ
 主人公がなぜ自分の身体に嫌悪感を懐いているのか、先天性のものであったとしても吸収合併(ブラックジャックのピノコもたしか似たような病気でしたね)された双子(心々愛)という設定を置いた点はとても読みはじめで興味を惹かれた部分でした。
 複線としては見え見えになってしまう点と、生前の心々愛という存在の思い出を主人公に持たせることができない点は多少難かもしれませんが、主人公の「自分の身体が自分のものではない」という感覚に現実味を個人的に強く感じることができました。

・全体的な雰囲気
 文章力の部分にもかかわることであると思いますが、全体に漂う、暗く陰鬱な雰囲気がとてもよかったです。おそらくこの雰囲気が出せるか出せないかでこういったノリの作品の良し悪しって決まってくるものなのだと考えます。


□ 気になった点

・まどマギとの類似点
 ほかの方も指摘していることなのであまり書きませんが、私も読んでいて気になるレベルではありました。書かれている絵(内容)は違いますが、額縁と使っているカラー(絵の具)は似ているといった感覚でしょうか。しかし、もちろん模倣というレベルではないですし、そこまで気にする必要はないのかなぁとも思います(何かに似ていない作品なんてこの世にはないでしょうし、この場合、「近年ヒットした作品」という部分が引っかかった主な原因なのだとも思いますので)。
 あと、関係ないですが私も「赤」が好きです。そしてさらに関係ありませんが「緑」は絶対に許せません。

・ジャンル(魔法少女)について
 明確にいえば、本作は魔法少女ものではないのだと思いますし、そもそも魔法少女ものはロボットものと同じような理由で文章作品には不向きなジャンルであるのだと考えますが、主人公が自分のことを「魔法少女」であると思いこもうとするシーンを入れるのであれば、コスチュームや変身シーンなどの要素を追加してもよかったような気もしました(ビジュアルとしては、「羽」がありましたが、それだとちょっと弱いような印象もありましたので)。

・ヒュプノスの目的
 私が読み飛ばしてしまっただけかもしれませんが、彼(ら)の目的っていったいなんだったのでしょうか。短編の長さを超えてしまいますが、この点はもう少し掘り下げてほしかったようにも感じました。ただの神や悪魔という存在で終わらせてしまうと、ふわっとした印象が残ってしまうのは雰囲気として良い部分にも成り得るとは思いますが、個人的には拝読後、もやもやが残った感覚も大きかったです。
 この点、まどマギだと簡略的な言い方をすると「世界を維持するための乾電池集め」でしたが――うーん、やっぱり難しいですね。理由を置くとますます近づいてしまうような気も……。


 【総括】

 お話も纏まっていて面白かったのですが、やはり本作で一番よかった点は、作品全体の雰囲気だったと個人的には感じます。
 あと評価には含めておりませんがPVも拝見させていただきました。こちらも映像作品として楽しませていただいたことを最後に付け加えさせていただきます。


 拙い感想で申しわけありませんが、以上です。
 一個人の意見でございますので、何卒、取捨選択をよろしくお願いいたします。
 今後とも執筆活動のほう、ぜひともがんばってくださいませ。

 ではでは~ 

作者レス

 ★ インド洋様
 こんばんは。
 お返事が遅くなってしまいました。申し訳ありません。この度はご感想を書いていただきありがとうございます。
 よかった点と悪かった点をはっきりとあげていただき参考になりました。

 ブラックジャックのピノコってそういう設定だったんですね(無知ですいません)
 勝手につっくた嘘っぽい設定だったので、つっこまれないかなぁと思っていたのですが、前例があったのですね。

 まどかマギカは確かに方向性は似てますね。今回、他の方にも言われていることですので、そう感じてしまう要素が多々あったのだと思います。次回はもっと個性の突出したものが作りたくなりました。
『赤』良いですよねー。『緑』許せないw

 本作は魔法少女ものという基礎の形を借りた感じですね。確かに、夢であるのである程度の変身は許容範囲だったと思います。コスチュームや髪色の変身を追加しても良かったです。ビジュアルイメージは確かにその方がわかりやすくなっていましたし、もっと演出ができたと思います。

 ヒュプノスの目的の不明瞭な点。これはぼんやりとさせすぎました。
 疑問になるようなもやもやを残してしまえば、引っ掛かりが残り、エンターテイメント作品としての読後感の悪さに繋がるのではないかと感じます。

 PVもご覧いただけたようで、嬉しいです。
 初ニコニコ動画でしたが、再生数もコメントもあまり伸びなかったので、ちょっと残念なのです。動画の知識がないため、ウインドウズムービーメーカーだけで、コマ取りアニメのように一コマずつ絵を動かして作ったのですが、画質、音質がやや残念なものになり、少々悔しい思いをしております。いや、色々と手を出すのは難しいです……。

 ご感想をいただき、ありがとうございました。
 大変参考になりました。
 今後ともよろしくお願いいたします。

ねこマルさんの意見 +50点2012年10月10日

 別のバージョンの話も
  読みたい!!

 すっっっごーく
 おもしろかった!!

 ラスト泣きかけw

 これからも
 頑張ってください!!
 応援してます!!