ライトノベル作法研究所
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  5. 眠れる森の美女公開日:2012/05/03

眠れる森の美女

蛇麻呂ぅ!さん著作

 むかーしむかーし、とある小さなお城に大変美しい魔女さまがおりました。
 その魔女さまは、銀色に輝く長い髪をたたえ、妖艶さを感じさせる紺碧色の大きな瞳、そしてその上に載せた、黒色のとんがり帽子が特徴的です。
 着ている服もまた特徴的です。魔女を連想させるような黒いマントを羽織り、白く美しい、脚や腕を惜しげもなく露出した黒のワンピースを着こなしています。
 その小さなお城には王さまも兵士も、ましてや使用人もいません。ただ魔女さまが一人住んでいるだけです。
 一人だからといって寂しくはありませんでした。なぜなら、魔女さまには数が少ないけど、二人の親友がいたのです。
「おーほっほっほ、おーっほっほっげほ、がはっ、おえっ!」
 お城の一室、魔女さまの高笑いが響きます。そしてむせました。
「あーあ、慣れない高笑いなんてするから。はい魔女さま、お水どうぞ」
 人間をベースとした姿で、顔の部分が鏡になっておりスーツを着ている。そんな容貌の生き物、鏡さんが魔女さまにお水を差し出しました。魔女さまは一気に飲み干します。
 この鏡さんが、魔女さまの親友の一人です。
「あー、死ぬかと思った。よし、じゃあいつものいくわよ」
 魔女さまは鏡さんに、キラキラと輝いた目を向けます。
「いつものって、アレですか?」
「そう、アレよアレ。この世で一番美しいのは……って奴よ」
「すいません、タップダンスしたいんで後にして下さい」
「そんなもんいつでもできるでしょうが! ほら、さっさと準備しなさい」
 魔女さまは、表紙に『台本』と書かれた冊子を鏡さんに突きつけます。そして、深呼吸をして艶やかに喋り始めました。
「鏡よ鏡よ鏡さん、この世で天下一美しいのは、だ・あ・れ?」
「すいません、吐きます」
「吐くな」
 魔女さまは鏡さんの鏡面中心辺りを手で押さえ込みます。
「アンタなに吐こうとしてるのよ!? 二日酔いでもしたの!?」
「いや、目に汚物が映ったもんですから。あ、鏡面の間違いか」
「汚物言うな! ……ああなるほど、そういうことね」
 魔女さまは、手を合わせて妖艶な微笑みを見せます。
「美しすぎるアタシに酔ったわけね」
「うぼえ」
「きゃあああああああああ!」
 鏡さんが大量の水銀を床にぶちまけました。魔女さまは大きく後ろに飛び退きます。
「あー、すっきりした。魔女さまありがとうございます。胃袋が掃除されました。まあ胃袋あっても吐くものがないんですけど」
 鏡は鏡面を撫でて、気楽そうに息を吐きます。
「嘘付け! 水銀がたっぷり広がってるじゃないの!」
「まあまあ、いいじゃないですか、別に汚いわけじゃないし」
「そういう問題じゃないわよう……」
 魔女さまは、部屋に掛けられてある雑巾を取ってきて水銀を拭きながら、泣き出しそうな声を漏らします。
「思わぬアクシデントがありましたが、さっさと終わらせてキャバクラ行きたいんで台詞読み上げますね」
「あんたキャバクラなんか行ってるのね……まあいいわ、読みなさい」
 魔女さまは雑巾を放置して立ち上がります。
 鏡さんは台本を開いて、抑揚のない声で読み上げ始めました。
「えー、それはもちろん魔女さまにございます。魔女さまに勝る美貌の持ち主などいるはずがございません(笑)」
「笑うな」
「魔女さまの美貌は素晴らしく、この部屋の中では二番になるほどでございましょう」
「さりげなく天下一否定したわね!? というか二番ってことはアンタが天下一!?」
「俺は鏡の世界でイケメンで通ってますよ? たぶん白雪姫にも負けないんじゃないんですかね?」
 鏡さんが『白雪姫』という単語を言った瞬間に、魔女さまは眉間にしわを寄せました。しかし、口元はなぜか緩んでいて、イライラ混じり喜び混じりといった、どこか矛盾を感じる表情でした。
「白雪姫、ねえ」
「あれ、ご存じないんですか~? 巷で、天下一の美女って言われてる人ですよ~?」
 鏡さんは魔女さまをおちょくるように、体を右に左に傾けます。
「……知ってるわよ」
 魔女さまはぶすっとむくれた表情で、小さくつぶやきました。
 すると、鏡さんは魔女さまの正面に立ち、また右に左に体をくねらせ始めます。
「そうですよね~、美しさに関してはやたらこだわりを持っている魔女さまが、ま・さ・か・知らないわけがありませんよね~。ええ? どうですか~、自分の親友が褒められるのは? 気分がいいですかあ? どうなんですか? 魔女さま~」
「割るわよ」
「すいません、調子乗りすぎました」
 鏡さんは動きを止め、両手を上げて降伏の意を示します。
「確かに、親友が褒められるのは気分がいいわよ? でも、私が天下一の美女じゃないって言うのは、ちょっと気分が悪いわ」
「俺も毎日魔女さまの顔見て気分が悪いっす」
「仏の顔も――」
「三度まででしょ!? まだ三度いってませんよね、ですからその握りしめた拳を収めて、痛い!」
 鏡さんの制止もむなしく、魔女さまの鉄拳を食らいました。そして鏡さんは床に膝をついて呻いています。
 魔女さまの方も痛かったのか、手をヒラヒラと振って、手に息を吹きかけています。結構強く殴ったようです。
「どういう計算してるのよ。今までの含めて百度は越えてるわ、甘んじて受け入れなさい。……確かに、白雪はきれいよ? でもね、アタシほどじゃあないかなって思うのよ」
「鏡見たらどうですか? ちょうど俺がいるし、あ、だめ、やっぱり見ないで、またリバースしちゃう」
 鏡さんは鏡面を魔女さんから逸らします。
「……もういいわ、呆れてなにも言えないし。それに、白雪が一番ってことは、アタシだってわかってるしね」
 魔女さまは大きなため息をつきます。
「あれ、そうなんですか?」
 予想外の反応だったのか、鏡さんは素っ頓狂な声を出しました。
「んで、自分が天下一の美女じゃないってことは自覚できたんですよね? それで、どうするんですか? もうこの茶番も意味ないでしょ?」
「茶番言わないでよう……本当に、天下一になってる気分だったんだからあ……」
 震える声でそう言うと、魔女さまは床に転がり、頭の上のとんがり帽子を深く被り顔を隠します。
「いや、あの、まあ魔女さまだって綺麗だとは思いますよ? そんじょそこらの女は敵いっこないと思いますし」
 鏡さんはうわずった声で魔女さまを褒めたたえます。
「慰めはいいわよう」
 魔女さまは寝転がったまま体を鏡さんから背けました。ダンボール箱に収まりそうなその小さい背中からは、どこか哀愁を感じます。
「いや、ほんと慰めじゃないんですってば」
「さっきだってアタシのことボロ雑巾みたいに言ってたじゃない、今更いいわよ」
「あ~、あれは冗談なんですよ~だから機嫌直して下さいよ~」
 鏡さんは寝転がった魔女さまに近寄って、魔女さまの体を揺さぶります。
「そ、そういえば、そろそろ白雪さんの誕生日ですね!」
 鏡さんは話題を逸らすかのように、大きな声を上げます。
「はあ? 言われなくてもそんなこと知ってるわよ」
 とんがり帽子の被りを浅くして、その大きな目をつり上げて鏡さんを睨みつけます。
「ほらほら、まだプレゼント決めてなかったでしょ? だから、いつも通りプレゼントを考えないと!」
 鏡さんに言われて、魔女さまは体を起こし、指を顎に添えて考え始めました。
「そうねえ、なに贈ろうかしら? 待って、今年で白雪は成人した……そうだわ!」
 魔女さまは、なにかに閃いたように指を鳴らしました。
「今回はリンゴを贈るわ!」
「おお、リンゴですか。白雪さんはリンゴがお好きでしたね……でも、親友の誕生日にリンゴだけなんて、みみっちいですね」
「う……なんとでも言いなさい、この贈り物がいずれ、白雪にとってかけがえのないものに変わるんだから!」
 言うなり、魔女さまは立ち上がりました。
「さあ行くわよ鏡! 今すぐに出かける準備を整えて。このプレゼントは、アタシ自身の手で贈るわ!」
「あ、すいません、俺ブレイクダンスしたいんで無理っす」
「アタシがあんたをブレイクしてやろうか?」
「二秒で用意します」
 こうして、魔女さまと鏡さんは準備を整え、お城を出発したのでした。

 一方そのころ、お城の近くにある森の奥深く。
 木で作られた一軒家の前で、一人の少女が箒を使って掃除をしていました。
「ふう……玄関周りのお掃除は終わったわねえ」
 額の汗を手の甲で拭いている少女、この少女こそが白雪姫。
 魔女さまの数少ない親友の残り一人です。
 同時に、鏡さんの友達でもあります。
 天下一の美しさに間違いはなく、太陽の光によって輝く金色の長い髪、高い身長を持ち、その野暮ったい服からは分かりにくいながらも、完璧なプロポーションを兼ね備えています。
「「「白雪姫~」」」
 家の玄関から、七人の小人が飛び出してきました。
 白雪姫は、家政婦のお仕事をしており、七人の小人は白雪姫の雇い主なのです。
「あら小人さんたち、おはよう」
 白雪姫は小人たちに微笑みかけます。
「「「おはよう白雪姫。今日は朝早くから出掛けるから、お留守番をお願いしてもいい?」」」
 小人たちは白雪姫を取り囲んで、手を取り合って回り始めました。
「ええ、いいわよ、いってらっしゃい」
「「「よーし! 今日こそは天和決めるぞー! もしくは国士無双だ!」」」
 小人たちは森の奥へとスキップしていきます。
「「「リンシャン、カイホー、麻雀大好きー、好きな役はダイサン、ゲン!」」」
 小人たちはリズムに乗って歌を歌いながら森の奥へと消えていきました。
「ふう、今日もいいお天気ねえ」
 木々の間から差す木漏れ日を浴びながら、白雪姫は見るもの全てを魅了する微笑みをこぼします。
「そういえば最近、魔女ちゃんと会ってないわね~、学校で教師やってるし、お城の維持も大変だからそんなに会えなくなるって聞いてたけど……寂しいわねえ」
 白雪姫は頬に手を当てて、小さくため息をつきます。
「昔はいっぱい遊んだな~、すっごく楽しかったわね~」
 白雪姫はくすりと小さな笑みをこぼします。
「あ、そうだ。天気がいいんだから洗濯物干さないと!」
 白雪姫は箒を壁に掛けて、家の中に入っていきました。

 その頃、魔女さまのいたお城から少し歩いて、森の中心に近づいたところに、魔女さまと鏡さんはいました。
「ぜえ、ぜえ……ま、魔女さま~」
「なによ、だらしないわね。まだちょっとしか歩いてないじゃない」
 魔女さまはリンゴの箱を抱えて早足で歩いていますが、後からついてくる鏡さんは、なにも持っていないのに、疲れて木にもたれかかっていました。
「だって俺インドア派なんですよ~?」
「そもそも鏡は屋内にあるもんでしょうが。じゃなくて、インドア派だろうがなんだろうが関係ないわ。さっさと来なさい」
「うへーい」
 鏡さんは木から離れ、よろめきながらも魔女さまについていきます。
「そういえば魔女さま、なんか手紙とか書いてましたね、あれなに書いてたんですか?」
「ん? ああ、アンタ見てたのね」
 魔女さまは鏡さんを一瞥すると、再び前を向いて歩き出しました。
「まあ、筆無精な魔女さまが何か書くのは珍しいですからね。ついつい気になったんですよ」
 鏡さんがそういうと、魔女さんは顔を横に向けて顎である方向を示します。
 魔女さまが見ているのは、遙か遠方にある大きなお城。バカで女たらしだけどイケメンと評判の王子さまが住んでいるお城でした。
「あのバカでかいお城に住んでるバカ王子に宛てたものよ」
「へー、なんでですか?」
 鏡さんがそう聞くと、魔女さまは大きな舌打ちをしました。
「アタシの計画の要となる部分なのよ、だから仕方なく書いたの」
「ふーん、そうなんですか……ついでに聞きますけど、リンゴに細工してましたよね。あれはなんですか?」
 鏡さんは魔女さまが持っている箱からリンゴを取り出して眺めます。
「ああ、あれね……心配しないでいいわよ、毒なんか盛っちゃいないわ」
「それはわかりますよ。あり得ないことですし」
 鏡さんはリンゴを箱に戻しました。
「少しばかり睡眠薬を注入しただけよ、致死量じゃないわ」
 魔女さまは得意げに鼻を鳴らします。
「毒と似たようなもんですけどねえ……というか、前から聞きたかったんですが、作戦ってなんですか? ぜんぜん聞かされてないんですけど」
 鏡さんは魔女さまに抗議するように、不機嫌そうな声を出します。
「あれ、そうだったっけ? じゃあ説明してあげるわ」
 魔女さまは立ち止まり、鏡さんの方へと向き直ります。
「まずアタシがリンゴ売りの美少女に変装して白雪に近づくの」
「ふむふむ」
「そして、この睡眠薬入りのリンゴを白雪に食べさせて、白雪を眠らせるわ」
「ほうほう」
「その後、白雪を家の前に寝かせる。その後は、時間が経てば計画成功よ」
「はい、質問があります」
 鏡さんが手を挙げました。
「なに?」
「俺がついてくる必要はなかったんじゃないですかね?」
「細かいことは気にしない」
 魔女さまは踵を返して歩き出します。
「ですよねー、そうくると思ってましたよ」
 鏡さんも背を丸めながらもついていきます。
「なんてのは冗談よ……あんたにも、白雪が幸せになる瞬間を見せてあげたかったのよ」
 魔女さまは鏡さんに表情を見せず、前を向き歩いたまま言います。
「え?」
「一応、あんたも白雪の友達だし、友達が幸せになる瞬間は見たいでしょ? だから、あんたを連れてきたの」
「魔女さま……」
 鏡さんは優しさがこもったような、暖かい声を出します。
「な、なによ、褒めてもなにも出ないわよ」
「夢だと思うんでおもいっきり俺を殴ってください」
 ガシャアアアン
 鏡さんの鏡面が、魔女さまが投げたリンゴによって、豪快な音を立てて砕け散りました。
「なにも、本当におもいっきりやらなくても……やばい、痛すぎて死にそう」
 鏡さんは鏡面の破片を拾い集めて自分に貼り付けます。
「なによ、お望み通りにしてあげたじゃない……あら、そろそろ白雪の家だわ」
 魔女さまは白雪姫の家を指でさします。
「あ、本当だ。でもその前に破片を拾うの手伝ってくれませんか?」
「手が切れるからやだ」
 魔女さまは鏡さんを省みずに歩き出しました。

 鏡さんは破片を鏡面に貼り付けて魔女さまに追いつき、魔女さまと一緒に木の陰に隠れて白雪姫の家を見ています。
「そういえば、白雪と会うの久しぶりね、もう一ヶ月も会ってなかったわ」
「どうして白雪姫に会わなかったんですか? きっと会いたがってますよー? 魔女ちゃんと遊べないわ~なんて言って」
 鏡さんは体をくねらせて女声を出しました。
「下手くそな真似すんな、割るわよ」
「残念でしたー! もう割れてますー、見えないんですか~?」
 二秒後。
「まさか……まだ、割る余地あり、とは……」
 魔女さまにリンゴを投げつけられ、鏡さんの破片がさらに小さくなった状態で辺りに散らばりっていました。
 鏡さんは痛みに呻きながら、鏡面の破片を拾い集め貼り付けます。
 そしてすべてを貼り終わり、立ち上がりました。
「まあ、俺が白雪姫に会えないのはわかりますよねー、だって、魔女さまの食事を用意したり洗濯したりしてるんですから」
「全部私がやってるけどね」
「ほかにも、俺だけで城の維持も大変ですよー。掃除とかやったり、泥棒が入ってこないように見張ったりね」
「全部私がやってるけどね」
「あと他にも、魔法の練習したりとか、学校で教師したりねえ」
「全部私がやってるけどね、ってあんた働きなさいよ!」
「いや、働いたら負けかなって」
「このダメ鏡! よくよく考えたら、あんたがちょっとでも働いたら白雪と遊べる時間ができるじゃない!」
「人のせいに、いや、鏡のせいにするなんて、男らしく、あ、ここは言い直さなくてもいいか、男らしくないですねえ」
 一秒後。
「ふっ……いいもん、持ってるじゃねえか……」
 魔女さまの強烈なリンゴボールを食らい、鏡さんの鏡面がまた砕け散りました。
「まったく、くだらないことをしてる場合じゃないわね」
「ひょんとでふよね(ほんとですよね)」
 鏡さんは投げつけられたリンゴに豪快にかぶりついています。
「あんたが言うな、それから食わずに喋れ……って、あんたどうやって食ってんのよ」
 魔女さまが怪訝そうな顔で聞くと、鏡さんはフフンと鼻を鳴らしました。
「そこんとこは謎でお願いします」
「まあいいわ、ちなみに、全部のリンゴに睡眠薬を注入してるわよ」
 バタッ
 鏡さんが前のめりに倒れ、鏡面の破片が散らばりました。
「鏡にも効いたのね、これは驚きだわ」
 言葉の割には特に驚いた顔をしない魔女さま。
「さて……こいつは後で起こしてやるか」
 鏡さんの手を引っ張り、木にもたれかけさせます。
「じゃあ、そろそろ行こうかな……っと、その前に……」
 魔女さまは鏡さんを見ます。鏡さんは大きないびきを立てており、まったく起きる様子は見られません。
「よし、寝てるわね」
 魔女さまは頷くと、懐から小さなステッキを取り出しました。
 そのステッキの先には、星をかたどったアクセサリーが付いており、ステッキには、色とりどりのラメで彩られています。
「これ、見られるの恥ずかしいのよねー、あーあー、んー」
 魔女さまはのどを整える様に声を出し、おもむろにステッキを振り始めました。
「プリティマジカルユニバース! キュートなリトルウィッチチェンジで、リンゴ売りの少女にメタモルフォ――」
「んあ……リンゴ食って寝ちゃってました」
 刹那。
「な、なんで、俺なにも、してない……のに」
 魔女さまが甲子園球児もびっくりの豪速球を鏡さんに投げつけ、鏡さんはそっと、息をしずめました。反対に、魔女さまの息は荒いです。
「はーはー……危うく私の社会的生命が潰れるところだったわ」
 魔女さまは額に浮かんだ冷や汗を拭い、深呼吸をして、再び棒を振り始めました。
「プリティマジカルユニバース! キュートでビューティーなリトルウィッチチェンジで、リンゴ売りの少女にメタモルフォオオオゼ!」
 魔女さまは叫びながら、ステッキを指で回し、踊るように体をターンさせます。
 すると、魔女さまの体が光に包まれ、その光が消えるころには、黒を基調とした服から、赤を基調とした地味目な服へと変わっていました。
「あー、はっずかし……よし、声も変わってる。顔も……自分じゃよくわからないけど、変わってると思う」
 自分の顔をペタペタと触り、感触を確かめる魔女さま。
 そして、何かを思い出したように手首に付いてある時計を見ました。
「っと、今の時間は……えーと、午前十一時か……まずいわね。この魔法は午前十二時に解けちゃうから、制限時間は一時間。さっさと終わらせないと」
 魔女さまはリンゴの箱を抱えて歩き出します。
「あ、忘れてちゃだめだわ」
 リンゴの箱を置いて手袋を付けて、鏡さんに駆け寄り散った鏡の破片を貼り付けてあげました。
「ま、アタシがやったんだし、これぐらいはしてやらないとね」
 魔女さまは笑顔を浮かべると、リンゴの箱を抱えて再び歩き出しました。
 後に残された鏡さんが、静かに立ち上がり、魔女さまの背中を見つめます。
「ほんと、天邪鬼というかなんというか……ま、そこが魔女さまのいいところでもあるんですけどね」
 鏡さんは頭を掻いてため息をつきます。
「さっきの変身については……黙っておきましょうか。あれをいじったら拗ねちゃいそうだし」
 鏡さんは尻を叩いてズボンについた砂を払います。
「さあ、魔女さまがドジしないように、見張りに行きますかね」
 鏡さんは魔女さまの後を追うように歩きだしました。

 その頃、魔女さまは白雪姫の家に着いていました。
(落ち着きなさいアタシ、変装は完璧よ。……まあ、あんまり心配しなくても、ぽややんとしてる白雪に見破られることもないわね)
 玄関の前で、魔女さまはリンゴの箱を置いて深呼吸をします。
 そして、恐る恐る玄関に掛けられているチャイムを鳴らしました。
「は~い、どなたですか~?」
 パタパタとスリッパで走る音が魔女さまに近づき、玄関が開かれました。
「こんにちは、ここは白雪姫さんのお宅でよろしいですか?」
 普段の魔女さまの表情からは想像が付かないほどの笑顔が、リンゴ売りの少女姿な魔女さまの顔に浮かびます。
「あら? ……ええと、お嬢さん? こんにちは、私が白雪姫です~」
 白雪姫は頬に手を当て首を傾げます。
「ど、どうかしましたか?」
 魔女さまは言葉を詰まらせながら白雪姫の表情を伺います。
「いえ、親友と雰囲気がよく似ていたもので、ごめんなさい……それで、どうかしましたか~?」
(ふう、危機一髪ね)
 魔女さまはほっと胸をなで下ろし、そして、箱からリンゴを一つ取り出して白雪姫に見せます。
「実は、美味しいリンゴを沢山拾って余っちゃったんですよ。町の人にもお配りしてるんです。あなたもお一つどうですか?」
(ふっ、完璧な演技ね、自分でも惚れ惚れするわ)
 魔女さまは心の中で悦に浸ります。
「え? ……でも、魔女ちゃんに知らない人から物を貰うなって言われてるし……うーん、ごめんなさい、受け取れないわ~」
 白雪姫は首を横に振り、困ったような笑みを見せます。
(ああ、そういえば言ったわね、白雪が子供のころ、知らないおっさんから物渡されて連れて行かれそうになった時に。まあそのおっさんアタシがしばき倒したけど……じゃなくって! フォローしないと!)
 魔女さまは思い出すように視線を上に向け、はっとしたように視線を戻しました。
「で、でも、美味しいんですよ? ほら、お一つどうぞ」
 魔女さまはリンゴを白雪姫に無理矢理握らせます。
「でも、知らない人だし~」
 白雪姫は、手に持ったリンゴと魔女さまを交互に見て、困ったように微笑みます。
(うう、いい子の白雪はやっぱり言いつけを守るわね……そうだ!)
 魔女さまは閃いたように手を叩きました。
「白雪姫さん、私はあなたと今話しましたよね。ですから私のことを知らないということはないんですよ」
「あ! 言われてみればそうですね~、じゃあお一つ貰おうかしら~」
(後で会ったばかりの人からも物を貰っちゃいけないって言っておかないとね)
 ニコニコと微笑む白雪姫を見て、魔女さまは心の中でそっと呟きました。
「それじゃ、いただきますね~。ああそうだ、お嬢さんも一緒にどうですか?」
「え? いや、アタシは結構で――」
 魔女さまが手を振って断ろうとしますが、
「まあまあそう言わずに~、一緒に食べましょう」
「いや、ちょ、ちょっと」
 そんな抵抗もむなしく、魔女さまは家の中へ引きずりこまれました。

 引きずりこまれた魔女さまは、リビングに座っていました。
「どうして、こうなった?」
 そして魔女さまは机に頭を乗せて小さく呻きました。
「フンフンフフ~ン♪」
 台所では、白雪姫が鼻歌を歌いながら料理をしています。
 魔女さまはそんな白雪姫を尻目に、リビングにかけられた時計を見ました。時刻は十一時三十分。
「うう、早くしないと……計画に支障が出るわ」
 魔女さまは焦るように体をよじらせます。
「あらあら、トイレですか? トイレなら外の庭にありますよ~」
 白雪姫が台所から、トレイにティーカップを乗せて歩いてきました。
 その声に反応して魔女さまは急いで身を起こしました。
「いえ、け、結構です!」
 白雪姫はテーブルにティーカップを乗せ、椅子に座ります。
「あらそうなの? 我慢はしちゃダメですよ~? ……そういえば、魔女ちゃんも我慢は禁物って言ってたな~」
 白雪姫は懐かしむようにどこか遠くを見ます。
「あの、リンゴは食べないんですか?」
 魔女さまは、時計をチラチラと見ながら白雪姫に聞きました。
「え? 食べますよ~。でも、その前に紅茶を飲まないとね」
 白雪姫はクスリと笑みをこぼします。
 その答えを聞いて、魔女さまは安心したように息をつきます。
(これで安心ね、作戦は無事に済みそうだわ)
 魔女さまはティーカップに入った紅茶を飲みます。
「あら、このお茶美味しいですね」
 魔女さまは驚いて、白雪姫を見ました。
「ふふ、そうですか~? 実はこれ隠し味があってですね~」
 白雪姫は人差し指を立てて自慢げに話します。
「お嬢さんから貰ったリンゴの果汁を入れたんですよ~」
 その瞬間、魔女さまは固まりました。
「……え?」
「リンゴのフルーティーな風味が出ていいかな~って思ったんです~。入れてよかったですね~」
 魔女さまはもう一度紅茶を口に含みます。
 口いっぱいにリンゴの風味が広がり、魔女さまから血の気がざっと引きました。
「あ、あら、そう。フルーティーな風味ね」
 魔女さまはひきつった顔でぎこちなく答えます。
 そして、魔女さまのまぶたが段々下がってきました。
「お嬢さんどうしたんですか? もしかして眠たいんですか?」
 白雪姫が席を立ち、魔女さまの横に座ります。
「い、いや、そんなことは……あら?」
 魔女さまは、耐えきれずに白雪姫の方へ倒れました。
「ちょ、ちょっと待って下さいね。今お布団敷きますから~」
 白雪姫は魔女さまを抱え、柔らかそうなソファへと運びます。
(策士策に溺れるとは、まさにこのことね)
 魔女さまは暗くなる視界の中で、そう思いました。




 魔女さまが目を開くと、そこは白雪姫の家とは別の光景が広がっていました。
 しかし、その風景はぼやけていた場所があったり、にじんだような場所があったり、まるで絵のようでした。
(見覚えがある風景だ)
 魔女さまは周りを見回して、確信するように頷きます。
(ここは、アタシが昔、通っていた小学校だわ)
 そして、ぼやけた部分やにじんだ部分が直り、はっきりしたものへと変わっていきました。
 整然と並べられた机、何も書かれていない黒板、遊んでいる子供たち……そして、一人だけ窓際の席に座っている少女がいました。
(あれが、昔の私)
 その少女は、魔女さまによく似た長い銀髪をたなびかせており、顔を隠すように深々ととんがり帽子をかぶっています。
(忌々しいわ……魔女狩りだなんだって言われていじめられてたのよね)
 魔女さまは顔を手で覆い隠して舌打ちをします。
 そして、その状態を解いて、教室の黒板に近い方の出入り口を見ました。
(嫌いな場所だったけど、思い入れが深い場所でもあるのよね)
 ずっと、見続けます。
(ここで、初めて白雪とも出会ったんだし)
 そして、扉が開かれ、長い金色の髪をなびかせる少女が現れました。
(あ……)
 整った顔、琥珀色の瞳を持った、白雪姫に似た少女です。
(白雪!?)
 魔女さまは口を動かしますが、声は出ません。
(ちっ、どうやら夢の中だから喋れないみたいね)
 幼い白雪姫は幼い魔女さまの席に歩み寄ります。
「ねえ、あなたが魔女ちゃん?」
 幼い白雪姫は幼い魔女さまの前の席に座り、幼い魔女さまの顔をのぞき込みます。
「そう、だけど。……なにか用?」
 幼い魔女さまは帽子のかぶりをさらに深くします。
「一緒に遊ばない?」
 幼い白雪姫がそう聞くと。
「やだ」
 幼い魔女さまは首を振って断りました。
(なにやってんのよ昔のアタシ……)
 遠くから見ている魔女さまは三角座りになって膝に顔を埋めます。
「なんで?」
「アタシは魔女だから、一緒に遊んでたら、あなたも嫌われるわよ」
「そんなことはないわ~」
 幼い白雪姫はクスリと笑みをこぼします。
 その様子を見て、幼い魔女さまは帽子のかぶりを浅くして、目をつり上げて睨みつけます。
「大した自信ね、それぐらいみんなに好かれてるっていう自覚があるのかしら?」
「そうじゃないわよ~」
 幼い白雪姫は困ったように微笑みます。
「だったらなんだって言うの?」
 幼い魔女さまがそう聞くと、幼い白雪姫は目を閉じて子供をあやすようにゆっくりと喋り始めました。
「あなたは魔女でも、他人のことを思いやれるいい魔女よ。だから、貴方がみんなから嫌われることなんてないわ~」
「……そんなわけないじゃない」
 幼い魔女さまは、帽子のかぶりを深くします。
「もしあなたの言うことが本当なら、アタシの周りには人の群れができているでしょうね。でも、現実を見てよ」
 幼い魔女さまの声色は強く、まるで責め立てるようです。
「アタシに近づく奴なんていないし、それに、間接的に攻撃を仕掛けてくる奴だっているわ。嫌われてるなんて言い方はまだマシな方よ」
 幼い魔女さまが言い切りますが、幼い白雪姫の微笑みは崩れません。
「それは貴方のことをよく知らないからよ。貴方がどれだけ人のことを思いやれるのか、みんな知らないから嫌ってるんだわ~」
 そう言うと、幼い魔女さまはあざ笑うように息をもらしました。
「あなた、アタシと初対面のくせに、アタシのことを知ってるの?」
「ええ、知ってるわ~」
 その答えはあまりにも早く予想外な答えだったのか、幼い魔女さまは口をポカンと開けたまま唖然としました。
「貴方の後ろの席に座ってる子がアクセサリーを無くしたって言ってた時も、貴方は一人で見つけて、机にこっそり置いてあげてたわね~」
 幼い魔女さまは、恥ずかしがるように顔を背けます。
「……たまたま、転がってたから拾っただけだし」
「ぼうぼうの草むらに転がってたのを拾ってあげたの?」
 幼い魔女さまは口をつぐみます。そして、しばらくの時が流れ、幼い魔女さまが口を開きました。
「あなた、いい性格してるわね」
「そう? ありがとう~」
 天然なのか、それとも狙ってか。幼い魔女さまの皮肉をものともせずに、幼い白雪姫は微笑みを絶やしません。
「ほかにも沢山あるわよ~。捨てられてる動物に餌をあげてたり、小さい子供たちと遊んであげてたり」
「全部、たまたまよ」
 幼い魔女さまは、今度は体を幼い白雪姫から背けて、顔も背けます。
「私はあなたのことをよく知っているつもりよ? でも、それは表面のことだけ。だから、今度はもっと深い部分まで知りたいな」
 幼い白雪姫の微笑みは変わりません。
 そんな微笑みを横目で見た幼い魔女さまは。
「意味、わかんない」
 帽子のかぶりを浅くしました。

 遠くでその光景を見つめていた魔女さまは、そっと目を閉じました。
(そう、これが白雪との出会いだった。最初に出会った頃は、何考えてるのかわからない女って評価だったけど……まあ、それは今でもあんまり変わってないか)
 目を開けると、廊下で幼い白雪姫が幼い魔女さまに向かって話しかけている光景が浮かび。
(この後も、白雪は私に付きまとって、話しかけてきたのよね)
 瞬きをすると、食堂で二人が一緒に食事をする光景が浮かびました。
(無視するのも面倒くさかったから、相手をしてたら、段々楽しくなってきて)
 瞬きをして、今度は夕焼けが差し込んでくる教室に場面が変わりました。
(休み時間や放課後が待ち遠しくなっていたのよね)
 夕暮れの教室で、幼い白雪姫と話をしている幼い魔女さまは一見不機嫌そうに見えますが、口の端はほんの少しつり上がっています。
(白雪が用事で来れない時もあったから、そのときは家に帰るか、白雪の用事が終わるまで暇つぶしをしてたわね)
 場面が切り替わり、白雪姫はいなくなり、幼い魔女さまだけが夕暮れの教室に残っている状態になりました。
 小さな魔女さまは退屈そうに机に伏せています。
(あの日は、白雪が遅れてくるって聞いてたから、話し相手欲しさに物に命を与えてた)
 場面が切り替わり、誰もいない教室で幼い魔女さまと、見た目は人間の姿で執事が着るような黒を基調としたスーツを着ており、顔の部分だけが鏡という、鏡さんがいました。
(それを、運悪く人に見られた)
 教室の扉が開かれ、沢山の人間がなだれ込んできた。
「うわー! 気持ちわりー! 鏡と喋ってやがるぜ!」
 教室に入ってきた男の子が幼い魔女さまを指さして悲鳴のような声を出しました。後に続いて入ってきた男の子たちも同じようにします。
「んだとゴルア!? なにが気持ち悪いんだ、オオ!? こちとら鏡の世界じゃ評判のイケメン、鏡さんだぞアアン!?」
 幼い魔女さまは何食わぬ顔で流していましたが、鏡さんは机を蹴飛ばして男の子たちに詰め寄ります。
「鏡、黙ってて」
 幼い魔女さまは鏡さんの服を引っ張ります。
「でも……」
「もういいのよ、慣れてるし」
 幼い魔女さまは、泣き出さず、悲しそうな顔もせず、ただ平坦に呟きます。
「かーえーれ! かーえーれ! 魔女はとっととかーえーれ!」
 男の子たちの大きな声と、リズムを取るように手を叩く音が教室中に響きます。
 幼い魔女さまは、自分のバッグを肩に掛けて、教室の出口へと歩こうとします。
 そこで、幼い魔女さまは目を見開きました。
「白、雪?」
 幼い魔女さまの目の前には、背を向けて、守るように両手を広げている幼い白雪姫がいたのです。
「……魔女ちゃんが、一体なにをしたって言うの?」
 沈黙の中、幼い白雪姫の低い声が響きます。
 微笑みを絶やすことがなかった白雪姫。しかし、その顔には微笑みなど存在せず、ただ怒りの表情が浮かんでいました。
「し、白雪姫ちゃん。だって、物に命を吹き込むんだぜ? 人間がすることじゃねーじゃん」
 男の子たちの一人が声を上げます。それに呼応して、周りの男の子たちも騒ぎ始めました。
「貴方たちだって、お人形とお話をしたりするじゃない。命を吹き込んでるようなものじゃない。魔女ちゃんは、貴方たちと何ら変わらない、いいえ、もっともっとすごいことができるのよ! ……そんな魔女ちゃんをバカにするのは、私が許さない」
 幼い白雪姫は、大きく息を吸い込み。
「絶対に、許さないんだから~!」
 学校中に響きわたるほどの大声を、腹の底から出しました。
 教室が沈黙に包まれます。
 男の子たちは、互いを見合って、小声で話を始めました。
 そして、教室を出ていこうと足を動かし始めた者が出た、そのとき。
「へん、白雪姫ちゃんが許さないからってなんなんだよ」
 真っ先に教室になだれ込んできた男の子が、呟きました。
「別にそんなん関係ねーじゃん」
 教室を出ていこうとした男の子たちは足を止め、再び幼い魔女さまを睨みつけます。
「魔女は帰れよー!」
「かーえーれ! かーえーれ!」
 幼い魔女さまは唇を噛みしめ、幼い白雪姫の顔を見ることなしに、教室を出ていこうと歩き出します。
「……ごめん」
 幼い魔女さまは、幼い白雪姫の横を通る時に、蚊の鳴くような声で、小さく呟きました。
「待って!」
 幼い白雪姫は手を伸ばし、魔女さまの手を掴みます。
 しかし、その手を振り解き、幼い魔女さまは再び歩き出します。
 だけど、数歩進んだところで、幼い魔女さまは立ち止まりました。
 幼い魔女さまの目の前には、沢山の女の子たちがいたのです。
「あ、あの、やめようよ、みんな」
 女の子の一人が避難するような小さい声を出しました。
「なんだよ! 魔女に味方すんのかよ!」
 男の子が声を荒げると、負けじと女の子も声を張り上げます。
「別に魔女さんが悪いことしたわけじゃないでしょ?」
「そ、そうよそうよ!」
「今まで黙って見てたくせに、今更なんなんだよ!」
 男の子がそう言うと、女の子は黙り、幼い魔女さまを一瞥して、静かに喋り始めました。
「今更でもいいわよ、でも、私は魔女さんに助けられたことがあるから、その恩返しよ」
 女の子が言い切ると、ほかの女の子たちも騒ぎだしました。
「魔女さんがなにも言い返さないから言いたい放題言うなんてサイテーよ!」
「そうよそうよ!」
 女の子たちは男の子たちへ詰め寄ります。
「う、うるせーな! 女子は黙ってろよ!」
「きゃっ!」
 男の子が、詰め寄ってきた女の子の一人を突き飛ばします。
「危ない!」
 女の子が転びそうになった瞬間、鏡さんが身を挺して守りました。
「あ、ありがとう」
 鏡さんに抱えられた女の子が、申し訳なさそうにお礼を言います。
「なーに、気にすることないっすよ……それよりも、このクソガキ! この子が怪我したらどーすんだ!?」
 鏡さんは立ち上がり、女の子を突き飛ばした男の子にゲンコツを落としました。
「いってーな! な、なにすんだよこのクソ鏡!」
 鏡さんがまたゲンコツを落とします。
「か・が・み・さ・ん・だ! 敬称略すんなこのクソガキ! 呼び捨てで呼んでいいのは魔女さまだけだよ!」
「せ、先生に言いつけてやるからな!」
 子供たちは教室を走り去っていきました。
「おーおー言ってこい! だっせーことこの上ねーなー!」
 鏡さんは手を鏡面に添えて大きく叫びました。
「ごめんね、魔女さん」
 女の子の一人が幼い魔女さまの顔をのぞき込んで言います。
「別に、よかった、のに……」
 幼い魔女さまは顔を隠すようにとんがり帽子を深く被ります。声は震えていて、目からは涙が少しずつこぼれています。
「お礼言えなくてごめんね、タイミング逃しちゃって」
「わたしもー、アクセサリー見つけてくれてありがとねー!」
「猫に餌あげてたの見た時は感動したよ!」
「あたしの弟も、魔女さんに遊んで貰えて楽しかったって」
 女の子たちは口々にお礼を言います。
「ほら、魔女ちゃん」
 幼い白雪姫が、幼い魔女さまにそっと囁きかけます。
「貴方がどんな人間かわかってもらえたら、友達を作るのなんてこんなにも簡単でしょう?」
 幼い魔女さまは白雪姫の顔を見て、満面の笑みを浮かべます。
「……うん!」
 幼い魔女さまの笑顔には、一点の曇りも存在していませんでした。

(思えば、これが人生の転機よね)
 遠くから眺めている魔女さまは、安心するように一息つきます。
(これから友達も沢山できて、灰色だった人生に彩りが付き始めた)
 走って教室から飛び出す幼いころの自分を見て、魔女さまは少し笑顔になりました。
(でも、一番重要なのはここじゃなくて)
 魔女さまは静かに、目を閉じます。
(ここよね)
 魔女さまが目を開くと、そこは学校からの帰り道でした。森の中を幼い魔女さまと幼い白雪姫が歩いています。
「ねえ……白雪の夢ってなんなの?」
 突然、幼い魔女さまが話を切り出しました。
「そうねえ……王子さまと結婚することかな~?」
 考えるように人差し指を顎に付けて、幼い白雪姫は答えました。
「王子?」
 幼い魔女さまは驚いたように幼い白雪姫の顔を見ます。
「ええ、王子さま。白馬に乗った王子さまよ~。王子さまと二人っきりで出会って、ロマンチックな恋をするの」
 楽しそうに言う白雪姫を見て、幼い魔女さまは呆れたように息を吐きました。
「ふーん、ロマンチストね。王子と結婚するなんて、そうそうできるものじゃないわよ?」
「だから夢なのよ、夢は夢で結構。本当に結婚するわけじゃないんだから~」
 ふと、幼い魔女さまは立ち止まりました。
「ふーん……夢、ね」
 幼い魔女さまは空を見上げ、しばらくの間黄昏ていました。

(これが、アタシの計画の根本部分。アタシは白雪に恩返しをする為に、白雪に幸せになってもらう為にプレゼントを睡眠薬入りリンゴにした……なんでか、アタシが食べちゃったけど)
 魔女さまはため息をつきます。
 その瞬間、風景が光によって見えなくなってきました。
(お、そろそろ起きるみたいね……懐かしいものが見れたわ)
 魔女さまは目を細め、そして、そっと呟きました。
「さよなら、それからおめでとう、昔のアタシ」



 目を覚ました魔女さまの目の前には、セロテープで鏡面を補強した鏡さんがいました。キスをしてしまいそうな程に顔が接近しています。
「大丈夫ですか? 魔女さま~、大丈夫だったら目の前に絶世のイケメンが見える筈ですよー」
「残念ながら大丈夫じゃないわね」
「大丈夫そうですね」
 魔女さまは起き上がり、頭をポリポリと掻きます。
「あんたなんでここにいるのよ?」
「ひどいですね、魔女さまがいつまで経っても帰ってこないから来たんじゃないないですか。俺って本当に鏡の中の鑑……ぷふっ」
 鏡さんは手で口を押さえます。その様子を見て魔女さまは冷たい視線を鏡さんに投げかけます。
「はあ……ほんとあんたには呆れる……って、ちょっと待って、いつまで経っても帰ってこなかったって。今何時なの?」
 魔女さまは鏡さんの肩を掴み揺さぶります。
「午後一時ですよ、どうかしたんですか?」
 魔女さまは自分の着ている服を見ます。
 その服は魔女さまが以前着ていた黒ずくめの物になっていました。
「ヤバッ、ちょっと、白雪はどこにいるの?」
「お客様の応対をしてますよ」
 鏡さんは窓から外を見ます。それにつられて魔女さまも外を見ます。
 そこには、頬に手を当て困ったような笑みを浮かべている白雪姫と、何かに騎馬している金髪のイケメンがいました。
「もしかして……バカ王子?」
 魔女さまは鏡さんと見合います。
「はい、王子さまですよ……なんでここに来たんでしょうねえ?」
 鏡さんが首を傾げると、魔女さまは大きく舌打ちをして苦々しそうに顔を歪めました。
「アタシが、午後一時に森の奥にある小屋に行ったら絶世の美女に会えますよって手紙を送ったのよ」
「あ、なるほど。そういうことだったんですね」
 鏡さんは納得したように手を叩きます。しかし、魔女さまはなにを思ったのか肩を落としました。 
「ど、どうしました?」
(計画は半分ほど失敗ね。二人っきりの状況は作り出せなかったし、眠ってしまった白雪を起こすためにキスをして、それで白雪が眠りから覚めるって演出をしたかったのに……これはアタシの戦略ミスね)
 魔女さまは顔を手で抑えてため息をつきます。
 そして、吹っ切れたように息を大きく吐き、外にいる王子さまを睨みつけました。
「しょうがないわね、ロマンチックは諦めたわ。後はバカの手腕に任せましょう」
「はい、そうですねえ」

 そのころ外では、王子さまと白雪姫が会話をしていました。
「おお、あなたこそ運命の人だ、この選ばれし王子である僕と結婚をしてくれませんか?」
 王子さまはマントを翻して白雪姫に手を差し伸べます。
「決闘ですか? ごめんなさい、私そんなに強くないんです~」
 白雪姫は困ったような笑顔でお辞儀をします。
「ですから、このパーフェクティブルでビューティフルでストレングスな僕と結婚をさせてあげてもいいですよって言っているんです。美しいお嬢さん」
「あらあら、血痕ですか? 怪我している方がいるんですか? 救急箱を持ってこないと~」
 白雪姫は慌てながら家の中に駆け込もうとします。しかし、王子さまが白雪姫の手を掴み引き留めます。
「確かに怪我をしていますよ、あなたの美しさによって、僕の心がね」
 王子さまははにかみ、白い歯を見せつけます。
「そうなんですか? あらー、絆創膏で直るかしら~」
 白雪姫はポケットから絆創膏を取り出します。
「なにグダグダやってんのよおおおお!」
 般若のような表情をした魔女さまが玄関を大きく開きます。その大声に驚いた鳥たちが木から飛び立ちます。
「あ、魔女ちゃん、やっぱり魔女ちゃんだったのね~。も~私ったら敬語なんて使っちゃったわ~」
「そっちはどうでもいい! 今はこのグダグダな状況の説明をするわよ! 鏡! 紙と何か書くものを持ってきなさい!」
 魔女さまは家の中に大声を張り上げます。
「はいよー、これでいいですか?」
 そして、鏡さんが紙とボールペンを持って駆け寄ってきました。
「結構よ」
 そう言うと魔女さまは紙に『結婚』と書き、白雪姫に紙を見せました。
「ほら、こっちの結婚よ」
「あら、あらあら~そうだったの~」
 すると、白雪姫は納得したように頷きました。
「それからそこのバカ!」
 魔女さまは、状況をよく飲み込めず唖然としている王子さまに人差し指を突きつけます。
「バ、バカとはなんだい! 僕はこの国の――」
「黙れ小僧おおお! 白馬に乗ってこいと手紙に書いたのに、ロバに乗って来たバカをバカと言わずしてどうするのよ!?」
 魔女さまが魂に響く叫びをすると、王子さまは自分が乗っているロバと魔女さまを交互に見て、首を傾げました。
「な、なに? これは白馬じゃなかったのか?」
「まさかの天然バカ!? とりあえずロバから降りなさい! そんでひざまづいて結婚してくださいと言いなさい!」
「は、はいいい! ぼ、僕と、結婚していただけないでしょうか!」
 その様子を見て、魔女さまは一息をつき、白雪姫の方へ向き直りました。顔を背けて、とんがり帽子で表情を隠しています。
「ほら、白雪、あなたが夢見てた王子様よ。ちょっと理想と違うけど……結婚、すればいいじゃない。これが私から贈る、あなたへの誕生日プレゼントよ」
「魔女ちゃん」
「白雪姫さん、よかったですねえ。女の子の夢、玉の輿ですよ」
 鏡さんが拍手をします。
「鏡さん」
「さあ、魔女さんも鏡さんもこう仰ってるんです。躊躇うことはありません。ズバッと言ってください!」
 王子さまがそう言うと、白雪姫はしばらく目を閉じて、息を静かに吸いました。
「はい、わかりました~。では率直に言います~」
 魔女さまも鏡さんも王子さまも、白雪姫の答えを待っています。白雪姫が目を開き、口を開けました。
「ごめんなさい、お断りします~」
「よし! では式をすぐに……え?」
 王子さまは白雪姫の手を掴もうとして、固まりました。
「「え?」」
 魔女さまも鏡さんも固まります。
「「「えええええええええ!?」」」
 白雪姫を除いた全員が絶叫しました。突風が吹き、森の木々がざわめきます。
「な、なんで断るのよ!?」
「せっかくの玉の輿ですよ? もったいないじゃないですか」
「な、なぜなんだい? 王子の僕と結婚すれば、富だって、名誉だって手に入れられる」
 それぞれの人が思い思いに問いつめます。
 それらに取り乱すことなく、白雪姫は微笑みを崩しません。
「お金はたくさん手に入るかもしれませんけど」
 白雪姫は魔女さまと鏡さんを見ます。
「私が一番大好きな『親友』と会えなくなっちゃうから~」
 そして、王子さまを見て、頭を下げました。
「だから、私は結婚する気はありません」
「白雪……」
「白雪姫さん……」
 しかし、王子さまは首を振って再びひざまづきました。
「だ、だけど僕も男だ。ここで引き下がるわけには……」
「いい加減諦めなさいよ、軟弱な男ね」
 魔女さまは、低く、体の芯まで響きそうな声を出します。
(アタシもバカだったわ、そうよ。白雪にこのバカ王子を押しつけて、勝手に恩返しをしたつもりでいようとした)
 そして、一歩踏みだし、白雪姫を守るように、王子の前に立ちはだかります。
(ごめん白雪、身勝手な女だけど、最後の後始末ぐらいは自分でするわ)
「ま、待ちたまえ、君は関係ない。僕は白雪さんと――」
「ごちゃごちゃうるさいわね! 白雪と結婚したいんだったらアタシを倒してからにしなさい! そしたら結婚を許してあげるわ! 絶対に無理だろうけどね!」
 魔女さまは腰から星のアクセサリーがついたステッキを取り出し、ステッキと侮蔑の籠もった視線を王子さまに突きつけます。
「あ、魔女さまの次は俺ですよ。太陽光を収束して目に焼き付けてやりますよー」
 鏡さんが魔女さまの後ろにつきます。
「ひ、ひい! べ、別にいいもんね! 白雪さんが駄目でも、僕にはたくさんのお姫様がいるんだ! こ、今夜だって、舞踏会があるんだからな!」
 王子さまはそそくさとロバに乗りました。
「おーおーそうかい、とっとと帰れ! 丸焼きにしてやるわよ!」
「俺も手伝いますよー」
 魔女さまと鏡さんは臨戦態勢でツバを吐きました。
「ひい! ぼ、僕はお腹が痛くなったから帰る! さよなら! ほら、走れ!」
 王子さまはロバに檄を飛ばします、それに応じてロバはのっそりのっそりと歩き出しました。
「ふん、二度とくるんじゃないわよ」
 魔女さまはステッキを腰にしまいます。
「魔女ちゃん、ありがとうね~」
 白雪姫は魔女さまに微笑みかけます。
「別にいいわよ、罪滅ぼしみたいなものだし」
 そして、からかうように白雪姫に不敵な笑みを見せます。
「でも……本当にバカね、せっかく王子さまと結婚できたのに」
「ふふ、魔女ちゃん、だから言ってるでしょ~?」
 白雪姫は王子さまが去っていった方を見ます。
「王子さまと結婚できるのは、夢で結構。現実にならなくたってもいいわ~」
 そう言うと、白雪姫は急になにかを思いついたように、魔女さまと鏡さんを交互に見ました。
「そうだわ、魔女ちゃん鏡さん、ご飯食べてなかったわよね~。これから作ろうと思ってるんだけど、一緒に食べましょうよ~」
 鏡さんと魔女さまは、お互い顔を見合わせます。
「魔女さま、呼ばれてることですし」
「そうね」
 魔女さまは目を閉じ、そして息を漏らし。
「お呼ばれしましょうか」
 再び目を開けると、花が咲いたように明るい笑みを浮かべました。



 眠れる森の美女は、いったいどんな夢を見たのか。
 それは、夢を見た本人にしかわかりません。
 しかし、夢から覚めた森の美女のにこやかな表情を見る限り、悪い夢ではなさそうです。
 銀髪をたなびかせた森の美女の周りを囲むのは、喋る鏡、そして、もう一人の森の美女。
 みんなが楽しそうに笑っています。
 物語はここでおしまい。締めの言葉と共に、大団円で終わりましょう。さあ、みなさんご一緒に。
 


 めでたしめでたし

作者コメント

 出来ましたー、童話コメディ第二弾。
 いやね、もうなんていうかタイトルに『白雪姫』とつけるのは、おこがましいと思ったもんで。
 そんでサブタイトルのほうを付けさせて頂いたんですが。
 原作に準拠はしていません。ですので、低クオリティかもしれませんが、ぜひ読んで頂きたいです。あれ、前後の文が支離滅裂だ。
 ご感想のほう、よろしくお願いしますー。

2012年05月03日(木)17時08分 公開

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感想

ゆ~のさんの意見 +30点2012年05月04日

おもしろかったです^^蛇麻呂ぅ!さんの作品はいつもおもしろいですね!これからもご活躍期待しております^w^

小雪さんの意見 +30点2012年05月04日

こんにちは、小雪です!
今回初めて投稿室の方を利用したので、他の方の作品も読んでみようと思ったら、相談掲示板で返信を下さった蛇麻呂ぅ!さんの作品があったので読ませていただきました。

面白かったです!
悪役であるはずの魔女をツンデレ風なヒロインにしてしまうというのが良かったです。
個人的には、鏡と魔女さまのやり取りが(恐らくはそこがメインに置かれているのでしょうが)かなり好きです。特に鏡の鑑がツボですw

正直、終盤のオチのあたりは展開が読めてしまいましたが、すっきりと終わっているので問題なく楽しめました!

他の作品も投稿されているようなので、時間がある時に読ませていただきます。

新田朗さんの意見 +20点2012年05月04日

新田朗です。感想のお返しに参りました。

冒頭部分を読んでやられた!と思いました。掛け合いが面白い!!
魔女が第一声からえずいたり、鏡さんのボケとツッコミ……会話のフットワークが素晴らしくて、場面が見えるようでした。(鏡さんの容姿の描写で映画館のアレを連想しましたが)

地の文もゆったりとした語り口調で、会話とのギャップが生まれ、一層文の流れが良くなっていたんじゃないでしょうか。

ちょっと気になる部分もありましたが、別に良いかなって程度なのであえて突っ込みません。ギャグ物に無粋なツッコミはいらんです。

しかし、会話の掛け合いのうまさは非常に勉強になりました。
感想は以上です。ありがとうございました。

のぞみさんの意見 +50点2012年05月05日

すごいです!
昔の童話がこんなに面白くなるなんて

すごすぎます・・・。

私にはこんなのかけない・・・

ぼけとつっこみ
あと鏡の砕け具合といい最高です!

しかも話がファンタジーではなくリアリティイがあり
すごい。

今まで読んだ中で一番面白かったです

最高です!!

文矢さんの意見 +20点2012年05月05日

文矢と申します。拝読させていただいたので感想を。

まず、とても面白かったです
キャラクター同士の掛け合い方が上手いんですよねえ
特に、他の方もおっしゃっていますがツンデレ魔女と鏡のやり取りは最高ですwww
テンポが良く、適度に洒落ていてっていうのは難しいんですよねえ。
しかも、漫画ならともかくそれを文字の上だけでやるというのは最早才能かと
地の文も適度に物語風でよかったです。

というわけで、本当によかったのですが、ちょっとこうしたらどうかな?という少し無粋なコメントをば。

王子様の使い方がもったい無い、と思いました
良いキャラをしているので(ロバと白馬を間違えるとかw)もっと使い方があったんじゃないかなーと。
例えば、これまたベタですが眠っている魔女を見つけてこちらを「絶世の美女」と間違えて……という流れにして、ひたすら求愛する王子、拒否をする魔女、それを応援してしまう白雪姫、「良かったじゃないですが貰い手が現れて」みたいに皮肉を言う鏡という風にしたら、この作者さんならかなり面白いんじゃないかな、と思ったり。

後は、題名ですかね。
「新説・白雪姫」みたいな感じにしちゃっても構わないかと。
遠慮する必要が無いぐらいに面白い作品だと思いますので

と、そんな感じです
本当に面白く読めました
次作も頑張ってください

たかくらさんの意見 +20点2012年05月06日

拝読しました。

文章なども読みやすく、お話としては、とても面白かったです!


ただ、以下、小説家をめざしているとすれば、という仮定の話しでの問題点なのですが。

このお話、登場人物などがステロタイプで、オリジナリティにかけてしまうかなという気がいたしました。これを量産していくのは、二次創作と同じで、少々道のり遠いような気がします。

もちろん、童話の主人公を借りてきて、オリジナリティあふれて、楽しめる小説はいくらでもあります。
本作も、元の童話から離れた部分はありますが、群を抜く何か、は、もっと欲しいかなと思いました。

では、上記、小説家を目指す前提で書かせていただきました。単に趣味的な執筆でしたら、それほど考慮せずに、楽しくお書きになり、読者も楽しく読ませていただく、というので、十分だと思います。そして、それは、今でもできているのではないかと思います。

普段はどんなものをお書きになっているのでしょうね。
ちょっと気になります。登場人物たちの掛け合いなど、楽しく拝読させていただきましたので。
また、別の作品(童話シリーズ以外)も是非、拝読したいです。

紫仙さんの意見 +20点2012年05月07日

それぞれ、キャラが立っていたと思いますが、
特に、不器用なでもしっかりものの魔女と毒舌でおちゃらけた鏡の掛け合いが面白かったです。
落語のような丁々発止のやり取りは素直に楽しませて頂きました。
オチが少し弱いかなと思いますが、
童話をモチーフにしたこうしたパロディは原作が広く知れ渡っているがゆえに、いかにして再構築するのかという遊び心がありますね。
後は、クライマックスに向けて主人公の魔女が目的を成就するためのハードルをもう少し上げてそのために、活躍する魔女と鏡の凸凹コンビのアクションシーンなんて描けば面白かったかもしれません。

下等妙人さんの意見 +20点2012年05月07日

 下等妙人でございます。
 こちらも拝読いたしましたので、ご感想をば。

 御作もギャグセンスは光りに光っていました。 
 
 ただ、やはり前作同様、童話をベースにしているためオリジナリティがなく、展開も読めてしまうところが残念な部分です。
 しかし、それ以外に欠点らしきものも見当たらず、ツッコもうと思う部分がありませんでした。
 そこらへんは本当にお見事です。
 この作品も心が温まるようなハッピーエンドで、とてもよかったと思います。

 作者様の設定からキャラに至るまで、すべてがオリジナルの作品を心から読んでみたい、と感じられる作品でした。
 
 短いうえに参考にならない感想で、申し訳ございません。
 二作品読ませていただきましたが、作者様のギャグセンスは本当に素晴らしいです。これを磨けばそこらへんのプロなんか超えると思います。

 お互い創作活動頑張りましょう。

 ではでは。 

うろちさんの意見 +20点2012年05月10日

こんにちわ、うろちと申します。
先日は私の作品にご感想いただき、ありがとうございました。
『眠れる森の美女』、拝読しましたので感想をお返しいたします。

心温まるコメディでした。心温まるお話も、コメディというジャンルも私は中々書けない性分ですので、素直に羨ましいなぁと思いました。完成度も高かったですし。
面白かったところは、七人の小人の麻雀ソングですかね。他にもところどころクスリとする表現も多々ありとても楽しめました。
感動的だったのは、魔女が白雪を守るためにバカ王子の前に立ちはだかるところです。過去の白雪と魔女のシーンとリンクしていてお上手だと思いました。穿った見方をすると魔女の自作自演と言えなくもないですが、そんな無粋なことは考える私の方に欠陥があるに違いないので、全く問題ないと思います。鏡さんの存在も効いてました。

気になったところは、正直あんまりないです。オチが読めてしまうというご意見もあるようですが、既存の童話をモチーフにしているからには仕方のないことかなと。ただ、出来れば完全オリジナルのお話も読んでみたいという勝手な願望からこの点数とさせていただきます。

色々勝手に書きましたが、以上になります。
未熟な身で失礼しました。
次回作も楽しみにしています。

王太白さんの意見 +20点2012年05月19日

 最初からギャグになっていて笑いました。後半は、白雪が魔女さんをいじめから守ったりと、なかなか正義による演出をしていて好感が持てます。起承転結もはっきりしていて、読んでて飽きませんでした。次回作も楽しみにしてます。

みするものさんの意見 +50点2012年05月21日

こんにちは、はじめまして!
友人に呼ばれて読んでみましたので、感想を言いたいと思います。
発想が面白いなーって思いました。童話を元にした作品は多いんですけど、それでもここまであからさまなのは見たことがありませんw
鏡さんのキャラがドツボにはまってしまいましたwもう白雪姫を子供に読み聞かせるときに思い出して吹いちゃいそうですw
むしろこっちを子供に聞かせたいかなーって、よろしいでしょうか?
とにかく、とても面白かったです。文法とかは正直よくわからないのですが、でも絵本を読むようにスラスラと読めたので、いいと思います。
最高です!

イシバシセンパイさんの意見 +20点2012年05月27日

イシバシセンパイです。
読みましたので、感想を残して行きますね。徒然なるままに書きますので、悪しからず。

とりあえず高得点おめでとうございます。確か、ツンデレに関するスレで一度お会いしましたよね。いやぁ、お久しぶりです。

【タイトル】

>眠れる森の美女

むしろ「白雪姫」よか良い気がしますよ。大成功です。
後述しますが、魔女さん、鏡さん、そして白雪姫の三人が、感動を与えてくれました。特に魔女さんには感情移入しまくりで……素敵なタイトルでした。

【文章・文体】

童話チックな優しい三人称でした。読みやすくて、最後までスラスラと行けました。
昔、母に絵本の読み聞かせをしてもらった思い出……それが再現された気分です。

ただ、ちょっと推敲不足な気がします。

>その魔女さまは……(中略)……そしてその上に載せた、黒色のとんがり帽子が特徴的です。

>着ている服もまた特徴的です。魔女を連想させるような黒いマントを羽織り……(以下略)

その前に魔女とはっきり書いてあるので、「魔女を連想させるような」はいらないと思います。
あと自分は帽子も服である派で、「着ている服も」に違和感を覚えました。これはどうでもいいか……。

>白雪姫は箒を壁に掛けて、家の中に入っていきました。

壁には「立て掛ける」ではないでしょうか。壁にフックか何かがあれば別ですが、その場合はきちんとフックを書き記しておきましょう。

>魔女さまが甲子園球児もびっくりの豪速球を鏡さんに投げつけ、鏡さんはそっと、息をしずめました。

高校球児、ないしは藤川球児じゃないでしょうか。まあ甲子園球児って言える場合もありますけどね。
高校球児は全国の野球やってる高校生、藤川球児はググって下さい、甲子園球児は甲子園に出場している高校球児のことかな。まあ憶測です。

以上、みみっちい指摘でした。

【世界観・設定】

白雪姫をモチーフにしていますから……何とも言いがたいですね。二次創作の「世界観・設定」の評価の仕方が分からない。やったことないですから。

白雪姫のストーリーをこんな風にアレンジできるだなんて、いやはや凄いです。
モチーフがあるとはいえ、設定にブレは見られなかったですし。いじめというテーマもしっかり生きていました。

ただひとつ。

>「あんたキャバクラなんか行ってるのね……まあいいわ、読みなさい」

キャバクラに興ざめといいますか……現代臭がやや強かったかなぁ。
また、こんなに素敵な雰囲気なのにキャバクラは……ちょいとそぐわない気がします。 

【キャラクター】

>魔女さん

ちょいちょい可愛い……。帽子を深くしたり浅くしたり……。
超がつく程どうでもいいですが、何故か脳内イメージが魔理沙でして……。

>その魔女さまは、銀色に輝く長い髪をたたえ、妖艶さを感じさせる紺碧色の大きな瞳、そしてその上に載せた、黒色のとんがり帽子が特徴的です。

銀髪なのにね。

とにかく自分は魔女さんの可愛さにノックアウト寸前です。

>鏡さん

ネタ班かと思いきやの、何この格好良さ。

>「俺は鏡の世界でイケメンで通ってますよ? たぶん白雪姫にも負けないんじゃないんですかね?」

>「んだとゴルア!? なにが気持ち悪いんだ、オオ!? こちとら鏡の世界じゃ評判のイケメン、鏡さんだぞアアン!?」

魔女さんを想ってのキレ、本当にイケメンですね。顔は鏡だというのに。

できるならば、折角格好良いし、もっと絡めて欲しかったかなぁ。
今は後ろでそっと見守っているだけですし……それならいっそのこと、鏡の一人称で行ってみてはいかがでしょう? 鏡というフィルターを通して、魔女さんと白雪姫を見るみたいな。構成に大幅な修正を入れる必要がありますが……今のままではやはり先が読めてしまいますので。
モチーフをそのまま、ではなくてピカソみたく変換してみれば、独創性が増しそうです。

>白雪姫

今回は彼女が主役ではないのですが、鏡同様ナイスな脇役で、もはやヒロインでした。
魔女さんと末長くお幸せに。本当に魔女さんは魔理沙だなぁ。

>小人(?)

麻雀ライフ、羨ましい……以上。

愉快なキャラクターで、見ていて楽しかったです。

あ、バカ王子を忘れていました。バカ王子は……ちょっとアレですね、うざいですね。まあ展開上仕方がありませんが。
……魔女さんは、白雪姫の幸せを願っていたのでしょうか。あんなハタ王子だかバカ王子だか分からんやつの嫁にさせようとしたんでしょ? 魔女さんがバカ王子に関する噂を知らない訳ないでしょうし……。

【構成・内容】

ギャグが全体的に多く、良いテンポでした。そしてテーマを上手く扱っていて、自分は感銘を受けました。とにかくシリアスへの切り替えが上手い。違和感などなかったです。

前述しましたが、構成があまり弄くられていないのがやや残念ですね。同じストーリーでも見せ方によっては色々と変わってきますし。

【総括】

タイトル:よし
文章:よろし
文体:よし
世界観:よろし
設定:よろし
キャラクター:よし
構成:よろし
内容:よし

やはり二次創作なのであまり言えませんね。次は完全オリジナルを所望します。
それでは。