まーろんさん著作
朝。
にっこりポカポカ太陽。その日差しを浴びて楽しそうに歌う鳥さん。いつも通り、平和で清々しい朝。
「遅刻だー!」
トーストを口に挟み、清々しさのカケラもなく通学路を疾走するのは俺――水守拓真。今日から新しい学校が始まる。そんな俺に神様がこんなベッタベタな場を設けてくれたらしいが、実際に走りながらトーストを食おうとしたら喉につっかえてそれどころじゃなかった。
目の前には曲がり角。転校初日から遅刻という失態をなんとしても避けたい俺は、一時停止からの右! 左! もっかい右! など悠長なことをしていられない。まあここまでくれば間違いなく――
「おわっ」
「きゃっ」
ぶつかるわけだ、少女に。
彼女はしりもちをつく。しっとりとした栗色の髪。すっと通る鼻筋に切れ長の瞳。まさに典型的な美少女は、やはりというか、俺と同じ高校の制服を着ている。立ち上がった彼女は俺のことを睨むように見ると、スカートをはたいて埃を落としながら、
「ごめんなさい」
と一言。
言うや否や、彼女はそのままスタスタと歩き去った。
細身の身体が一歩を踏み出す度、背中に届くほどのツインテールが不機嫌そうに揺れる。その様子を茫然と立ったまま見送っていた俺は――
「かわぅぇ……」
――日本語すら、侵蝕されたのだった。
「遅れましたっ!」
バン! という扉の音が教室中に轟くと、みんなの視線が俺に集まった。どうやら朝のホームルームの途中らしかった。『あれが転校生か?』『チッ、男かよ』などといったシュプレヒコールがあちらこちらから聞こえてくる。そんな生徒たちをたしなめるように、禿げ頭の担任教師が「はいはい静かに」と手を叩いた。
「みんなに紹介します、転校生の――」
「水守拓真です、みんなよろしく!!」
禿げの声を遮って、俺は叫んだ。『なんだあいつ面白ぇな』『いや面白くねえだろ』『なんで俺の小説が高得点とれねえんだよ』といった声が耳に入ってくるがあまり気にしない。おい今変なの混じってたぞ。
「じゃあ水守君は……そうだな、後ろの空いてる席に座ってちょうだい」
禿げの指示通り、俺は教室後方窓際という良ポジションの席に向かうと、そこに鞄を置いた。
隣に座るのは女子生徒。彼女は教室の喧騒を気にもとめず、ハードカバーに顔をうずめている。
「俺、水守です。よろしく」
すると彼女はハードカバーから少しだけ顔を離し、ちらっとこちらを見た。
カポーン。
俺の胸の中に響いた、天使の鐘。
「け、くき、君、今朝の曲がり角の!?」
まさに今朝曲がり角でぶつかった少女その人であった。可愛らしいツインテールや整った顔立ちなど、見間違うはずもない。
「……よろしく」
それだけ言って、再びハードカバーに視線を戻した。
あばたもえくぼ。根暗もクールビューティ。
水守拓真は、ここに宣言する。
俺は。
彼女に。
恋をした。
ホームルームが終わり、転校生の試練、質問攻めが始まる。クラスメイトたちが俺の席を囲むようにしてワイワイやっている様子に、悪い気はしない。友達いっぱい出来るといいな~などと考えながら、俺はニコニコと会話を楽しんだ。
ふと、気付く。隣に座っていたあの彼女が、いつの間にかいなくなっている。
「なあ、さっきここに座ってた子は?」
集団の中の一人、メガネの男子生徒(モブA)が答える。
「ああ、炎藤さんだね。彼女はこういう騒がしいの嫌いな人だから……」
「へえ、炎藤さんっていうの。どこに行ったか知らない?」
すると今度は、一目で野球部と分かる丸刈り色黒の生徒(モブB)が言った。
「水守、彼女にはあんまり関わらないほうがいいぜ」
「どうして?」
「どうしてって……なんつうか、言いづらいことなんだけどさ……」
うろたえるモブB。転校生の俺が知らないような秘密を隠している、そんなうろたえ方。
カチン、ときた。
こいつらが隠す様子を見て分かった。つまりあれだ。クラスみんなで彼女をハブにしてるとかいうやつだ。俺の拳は怒りにブルブルと震えた。
「水守くん、勘違いしないでね。決してイジメとかじゃなくて、彼女はちょっと変わってるんだ」
「なぬ?」
モブAの言葉によって俺の拳が解かれる。その時ちょうど、一時限目が始まることを告げるチャイムが教室に響き渡った。
「じゃあ水守、あとでな」俺を囲んでいた生徒たちが各々席に戻っていく。トイレに出ていたクラスメイトたちもパラパラと帰ってきており、その中に彼女の姿もあった。彼女は自分の席である俺の隣に座った。
たしか……炎藤さん、だっけ。
「隣同士ってことで、仲良くしようぜ」
握手を求めて俺は、右手を差し出す。
「……」
彼女は俺に見向きもせず、次の授業の準備を始める。
その時先生が入ってきて「授業始めるぞーお前ら席つけー」とクラスメイトたちに声をかけた。
俺の手だけが、ポツーンと残された。
四時限目が終わり、皆が昼食を摂り始める頃。
母さんが作ってくれた弁当を鞄から取り出すと、それを机の上に置く。
「炎藤さん、一緒にご飯食べようぜ」
「いいです。一人で食べますから」
彼女はプイッとそっぽを向いて椅子から立ち上がるなり、そそくさと教室から出ていった。
教室を出る際、わずかに俺の方を見ていた――ような気がする。
するとモブBが、
「水守、一緒に弁当食おうぜ」おちゃらけた表情のモブ軍団を引き連れ、やってきた。
俺は見ていた。彼女が去り際に見せた、寂しそうな表情。本当はみんなと一緒にご飯が食べたいけど上手く伝えられない、そんなもどかしさ。
「わりぃ、俺ちょっと炎藤さん追いかけてくる!」
「あっ、おい水守!」
俺は教室を出ると、炎藤さんの後を追いかけた。
辿り着いたのは、屋上に繋がる非常階段の一番上。そこは吹きっさらしの造りになっており、下の中庭がよく見える。屋上への扉は施錠されている。階段にも中庭にも、他の生徒たちの気配はあまりない。
非常階段のところどころは塗装が剥げ、錆びた鉄の匂いが鼻をつく。あまりご飯を食べるのに適さないその場所で、炎藤さんはカロリーメイトを開封しているところだった。
「炎藤さん!」
すると彼女はビクッと身体を震わせ、こちらの方を見た。
「み、水守くん? なんで、来たんですか」
「なんでって……俺、炎藤さんとご飯食べたいから」
すると彼女は俯きがちに視線を下げ、「そうですか」と言った。
「私と関わるなって、皆さんから聞きませんでした? 私、他の皆さんと違うんです」
「それはモブAから聞いたけど……けどけど、そんなの関係ないじゃん! 皆と違うからって、炎藤さんとご飯食べちゃいけない理由にはならないでしょ?」
俺は階段を駆け上ると、炎藤さんの隣に立った。そしてやや強引に、炎藤さんの手を握った。
「ほら、握手! 俺は水守っていいます、改めてよろしく」
「だ、ダメです! 今私の手を握っちゃ!」
突然、彼女はあたふたしだす。今までの大人しい様子から一転、ものすごい慌てようだ。
と、次の瞬間。
ジュッ。
俺の手を、豪熱が襲った。
「あっっっつううぅぅ!!??」
俺は慌てて炎藤さんの手を離す。
なんだ、何が起こっている? 頭の中で、感嘆符と疑問符が交互に顔を出しては俺をあざ笑っている。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
彼女はしきりに、俺に対して頭を下げていた。
「そういうことなんです。私はそういう体質なんです。ドキドキすると異常なほどの高熱が身体から発生するんです!」
「な、ななななんだそれ!?」
「わかりました? 変なヤツだって。これ以上私には関わらないでくださいね。それじゃあ!」
炎藤さんは階段を駆け下り、中庭の方へと走っていく。
「待って炎藤さん!」
弁当箱を大事に抱えつつも、俺は炎藤さんの後を追う。
「なんで追いかけてくるんですかあ!」
「なんでって……一緒にご飯食べようよ!」
すると今度は、彼女の背中からソフトボール大の火球が発射された。
「って、えええ!!?? 熱だけじゃなくて炎まで出すの!?」
スレスレで、炎をかわす。降ろしたての制服の袖が、わずかに燃えた。
それからも次々に、火球が発射される。俺はそれをかわしながら、彼女を追いかける。
「ついてこないでください!」
「いや、ついてくる!」
彼女と俺の距離が縮まっていく。そうなると火球を避けるのがどんどん難しくなり、それに伴って俺のブレザーがダメージを受けていった。
そして、
「つかまえたっ!」
「ひゃうっ!」
俺の手が、彼女の肩をとらえた。
「は、離してください! 熱くないんですか!?」
「あ、あち、あちちち、あつい!! あついけど!!」
熱いけど。
今は熱いとかどうでもいい。
「会って初日でこんなこと言うのもおかしいかもしんないけどさ!」
炎藤さんがこちらを振り返る。
やっぱり文句なしで、可愛い。
「俺、炎藤さんに一目ぼれしました!」
彼女の身体がどんどん熱くなっていくのが分かる。それでも俺は彼女を離さない。
「み、水守、くんっ」
次の瞬間、炎藤さんの身体の内側からピカーッと何かが発光。
そして、轟音と共に彼女は爆発した。
俺は中庭の地面で空を仰いでいた。
爆発に巻き込まれた俺は吹っ飛ばされた。どうやら俺は、仮に百トンのハンマーで叩かれてもタンコブで済み、カミナリに打たれても骨が見える程度で片付くらしい。ここはそういう世界観のようだ。
「あの、本当にごめんなさい」
謝る彼女に対し、気にしていない風に俺は笑う。
「俺は大丈夫だからさ」
もう火球は発射されない。ドキドキは収まったようだ。
――あ。
「もしかして炎藤さん、俺と一緒にいることでドキドキしてた?」
ムフフと俺がイジワルな笑みで炎藤さんのことを見つめると、
「み、水守くん、そういうこと言うからまた――」
ちゅどーん、という轟音と共に、彼女は再び爆発した。
燃え上がるような恋ってことで、ひとつ!
今回もまたぴったり4000字です。前回同様、掌編サイズに収める作業が辛かった…。
さて、某ニョロ氏の発火能力企画に乗っかってしまいました。氏の作品を読んで私も発火能力書きたい!となり勢いだけで書き上げました。
また、前作から文章を一新させてみました。慣れない文体ゆえ突っ込みどころが多いかもしれませんが、暖かい指摘をお待ちしております。
2013年04月14日(日)16時48分 公開
こんにちはー!
読ませていただいたばかりで、テンション変なのはお許しください。
まず、こちらが作者様本来の文体ではないかというぐらいの自然な、いや、卓越したノリでした!
付いていきます喜んで!
>>ぶつかるわけだ、少女に。
キタお約束の剛速球、しかも変化球。
>>――日本語すら、侵蝕されたのだった。
どっから来るんですかそのセンスw
>>おい今変なの混じってたぞ。
これはもちろんスルーしてあげますwww
転校生が主人公? これも新鮮。
>>カチン、ときた。
心理描写がものすごくシンプル。分かりやすい!
>>俺の手を、豪熱が襲った。
造語も秀逸。ここからさらにヒートアップ。どこへ行くのか!?
>>ここはそういう世界観のようだ。
やめてもうゆるして腹筋がpkpkpk
>>燃え上がるような恋ってことで、ひとつ!
許しませんっ!!www
だが許すw
まあ、独自企画に便乗されたにょるにるさんが何ておっしゃるのか知りませんけどね~(口笛)
僕もやっちゃおっかな~。
批評じゃなくてすみません。純粋に面白かっただけなので。
大変失礼いたしました。
おもしろかったです。
うまいです。タイトルから最初の文の流れ。タイトルの彼女という言葉と、読みはじめのにっこりぽかぽか太陽から続く地の文、そして少女マンガのテンプレである遅刻と食パン。主人公は完全に女の子だとおもいました。
カポーン。これちょっとすごいとおもいます。普通にやったら違和感ある擬音です。いや、カポーンて、風呂場の桶じゃないんだから、とか考えます。けど、それにつっこむことすらおもしろくかんじる。すごい。
キャラクターも好感もてます。主人公の男の子は、ヒロインの子に焼き殺されそうになるものの、積極的にアプローチをする。前向きです。ポジティブです。受け身な主人公はあまり好きではないので、このような性格のキャラは好きです。
この作品の最後の一文もいいですね。主人公の「うまいこと言ったろ? ドヤッ!」みたいなかんじに、ちょっといらっとして、心の中でつっこんでしまいました。
この作品は、技術と内容共に、大変レベルの高いものであるとかんじました。
個人的におもったことなのですが、作中にある『なんで俺の小説が高得点とれねえんだよ』というネタは、卑怯におもいます(当然わかったうえで書いてるんでしょうけど!)。ここで執筆している者のなかで、共感をしない人はいないとおもいます。メタ的な、作品の外にあるおもしろさだとかんじます(いや、正直めっちゃおもしろかったです……)。
感想返しに来ました。にょるにるです。
企画については、どんな人でもやりたければやっていただいて、おーけいという気持ちでいます。
面白かったです。
内容は古いテンプレートな表現を、メタフィクション的に昇華させた、コメディという感じでしょうか。とてもライトノベルらしいものだと思いました。
ベタゆえの親しみやすさと、テンポの良さ、いい意味でのキャラの記号化が、とてもよかった気がします。
気になるところは、やっぱりいろいろとテンプレートで古いところだと思います。もう少し新しさがあると良かったかもです。
まーろん様
感想返しに参りました。RNGと申します。
全体的にポップな感じで読みやすく、明るい気持ちにさせてもらえ、心が軽くなっていきます。
文章から絵を想像しやすくて、これこそ、このサイトに投稿されるべき作品なのだと思わせてくれました。
ライトノベルの良さをいかんなく発揮された本作を読んでみると、創作意欲を刺激されますね。
主人公が転校生という設定をどう対処するのかと思うと、真っ向からベタに挑戦していて笑えました。文章の書き方でこうも面白くなるんですね。
しかし、これもまーろん様がまじめに取り組んでこそなのだろうと思いました。
発火能力の少女というと、いろいろな作品に出てきたんだろうと思いますが、まーろん様の描く少女はなかなかに可愛かったです。炎を能力とするなら、ここもベタに強気な性格でいくのか、とおもいきや……、でした。
うまく小説の起承転結をつくり、短くまとめられる力はすごいと感心させられました。
読ませていただき、ありがとうございました。
んでは、失礼します。
誰かが言わなきゃいけない気がしますので、僭越ながら私、デルティックが言わせて頂きます。
せーの
「リア充は末長く爆発しろ!」
では感想です。
いやぁ面白いですね。
メタ発言の使い方を勉強させて頂きました。
冒頭からの使い古された少女マンガ手法の利用法に思わず唸ってしまいます。
火球を喰らっても火傷一つ負わないのをキャラのメタ発言による世界観で済ませてしまったのは笑いました。
楽しませて頂きました。
またの機会にお邪魔します。
まーろんさんへ
はじめまして。
茉莉花と申します。
いつ叫ぶか? 今でしょ!
って感じなので私も叫んどきます。
「リア充は末長く爆発しろ!」
あー、すっきりした。
いや、初めて感想を差し上げる方に笑いながら言うのも失礼なんですが、
これ、本当に面白いですね。
いやー、好きだわ。このセンス。
まーろんさん、どんな題材でも読ませますね。
実のある感想が出てこないので点数だけ信じてください!
あ、作者レスはお気になさらず。
(たぶんこれ、作者レスが間に合わないような作品になると思うので)
さて、もうひと笑いしてきますー。
(追記)
高得点、おめでとうございます。
やっぱりこの作品、強いですね。
こんにちは~感想返しに参りました。
まず面白かったです。
炎藤さんと水守くんというキャラと名前の対比が良かったです。
ちりばめられたギャグもアハハウフフでした~
昭和の時代を彷彿とさせるネタのオンパレードですね。
あの日あの時あの場所で……から、イヤボーンの法則で〆ですか。
最初から最後までハイテンションの文体……わたしは疲れるので好きではないので、正直、プロの作品なら最初の10行で読むのをやめてしまいます。
こうすれば受けるよという古い教科書どおりの構成を並べて見せていただいても何も感じないのが正直なところです。
しかし、作品というより、実際に受けているという事実の方が面白かったりします。
よい実験を見せていただいた感じがしました。
りりんです。
素晴らしい。ラノベのお手本のような作品ですね。
とてもテンポがよく退屈になりがちな日常設定の説明を旨くわかり易く表現されているなぁと感心してしまいました。
ラストはもう少しラブコメ全快でお願いしたかったのですが一読者の戯言という事で流してください。
読ませていただきました。
※以下、作者コメには目を通さずにお届けしております。
>『なんで俺の小説が高得点とれねえんだよ』
ちらりと本音がもれるところが面白いです。
>「ああ、炎藤さんだね。彼女はこういう騒がしいの嫌いな人だから……」
「遠い藤」ではなく「炎の藤」ですか……
これは期待が高まりますね。
>すると今度は、彼女の背中からソフトボール大の火球が発射された。
ここで炎を出すってのが面白い。
繰り出される炎攻撃に立ち向かう主人公の動きが目に浮かぶようです。
何も考えずに読めるところがラノベらしいですね。
人に触れられない設定が出た段階で結末をシリアスに流すことなく、
最後まで明るく終わらせているところなんかは特に。
しかし、モブキャラをそのままモブA・Bで済ませてしまうとは……
潔さを感じました。
面白かったです。
テンポが良くて読みやすいです。
ドキドキして爆発するという設定は面白いと思いました。。
羨ましいぞ主人公! 爆発しろ……あれ? 爆発したわ。彼女が、だけど。
全体的にテンプレでしたが、テンポが良く読みやすかったです。
最後のオチを違った形で解決していたら面白かったと思います。