高得点作品掲載所     水さん 著作  | トップへ戻る | 


山神様の女の子

 私の母方の実家は、ある山のふもとの温泉街にあります。
 そこから歩いてすぐの山は、湯治客のためにとハイキングコースとして道が敷かれ、子供 一人でも難なく行けるくらいの緩やかさなのですが、その道を少しそれるとそこは舗装もされていない、道と呼ぶのもためらうような山道ケモノ道が森の奥深く まで続いているのです。そこが祖母の家へ泊りがけで来ている間、当時小学二年生だった私の遊び場でした。


 ある日、私が川の流れ る谷沿いを歩いていると、道の脇に古びた祠がぽつんとひとつありました。伸び放題の草木に絡まれ今にも朽ち果てそうな有様でしたが、祠の中には小さなお地 蔵様が一体、鎮座しています。苔にまみれたみすぼらしいなりではありましたが、私はお財布から小銭を一枚とり出し、お地蔵様の足元に置きました。
 当時の私は特に信心深いというわけでもなく、ただ『お賽銭をお供えする』という行為そのものが面白かったのだと思います。その時もお賽銭だけお供えすると、手を合わすこともせず早々に立ち去ろうとしました。
 すると不意に誰かに手を掴まれたのです。いえ、正確には手を掴まれて後ろに引っ張られたような気がしました。
 そう、そんな気がしただけです。だって、この場には私以外、誰一人としていないのですから。


  その後、ふもとの家まで戻った私は玄関前で鉢合わせた祖父は無視して、台所で晩御飯の準備をしている祖母に、ふと気になった山の中の祠について尋ねてみま した。というのもあの祠のある辺りにはあまり近付かないようにと、普段から言い聞かされていたからです。厳しい祖父にそのことを話せば、きっと祠の話の代 わりにお説教を聞かされることでしょう。その点、祖母は山へ入ったことを咎めるでもなく、けらけらと笑って祠の由来を教えてくれました。


 ◆

 昔、と言っても遠い昔のことではなく、戦後すぐくらいの頃。まだろくに道も整備されていない山の中で、一人の女の子が行方不明になりました。
  ふもとの町では大人たちが集められ、山狩りまで行われましたが、結局女の子は見つからなかったのだそうです。この地方には古くから山神様の言い伝えがあ り、町の人たちは「あの子は神様に連れて行かれて、あの山の山神様になったんだよ。きっと、これから私たちのことを守ってくれる」と、女の子の両親を慰め たのだそうです。
 しかしそれからしばらくたった後。再び山で、今度は男の子が二人、行方不明になったのだそうです。その内一人は無事に山を下り、もう一人は谷底の川に流されて、ずっと下流で遺体となって発見されました。
 助かった子から話を聞くと、山で道に迷い崖近くを歩いている時、誰かに腕を引っ張られたと言うのです。幸い、彼は谷とは見当違いの方へと引っ張られました。
 けれどその時、一瞬だけ見えたもう一人の子の姿は、まるで彼も見えない誰かに引っ張られたような、とても不自然な様子だったのだそうです。
 警察はもちろん、そんなことはありえないと言い、きっと前の日まで続いた雨で地面が緩くなっていて、なにかの拍子にくずれたのだろう。そう結論付けました。
 けれど町の人は違いました。なぜなら助かった男の子の右手首には、手の形をしたアザがくっきりと残されていたからです。まるで誰かに掴まれたような……。
 そしてそれからも度々同じようなことが起こりました。山へいった子供が、あるいは崩れてきた土に潰され、あるいは川に流されて、その命を落としてしまうのです。みんながみんな助からなかったわけではなく、中には山で迷いながらも無事に戻ってくる子もいました。
 しかし彼らはみんな、口をそろえてこう言います。
「山の中を歩いている時、誰かに手を引っぱられた」
 そして彼らの右手首には、決まって手の形をしたアザがあるのです。
 もしかしたら、先に行方不明となった女の子の崇りなんじゃ? いつしかそんな噂が町に広まり、大人たちで話し合った結果、最初の男の子が犠牲となった崖の近くに小さな祠とお地蔵様を置いて、崇りを鎮めようとしたのでした。

 ◆

「けど崇りは鎮まらないでね。今でもたまに悪い子がいると、手を引いて山へ連れてっちゃうんだよ」
 祖母はおどけた調子でそう締めくくりますが、私は怖くて何も言えませんでした。私は祖母に祠のことを訊いただけで、誰かに手を掴まれた、とは言っていません。とても気味が悪く、こういう時に限って周りがとても静かに感じます。
 けれど怖がっていることを悟られたくない私は平気なふりをしつつ、「その後、誰かが連れていかれたことはあるの?」とか「連れて行かれた子は悪い子だったの?」などとしつこく祖母に尋ねます。
 祖母は笑って、「そんなに気になるなら、今晩の宴会にくる伯父さんに訊いてみなさい。伯父さんは昔、山で手を引かれたことがあるんだよ」と言いました。


 その晩。一族が集まっての宴会に、伯父さんもちゃんと出席していました。私は祖母に言われたとおり、伯父さんに『手を掴まれた』時のことを訊いてみました。思えばこれが間違いだったのです。
 伯父さんはその手の話をとっても好み、さも恐ろしげに語って聞かせるのが大好きでした。
「い いか。あの祠に近付くとな、あの山で遭難した女の子とそれに連れ去られた子供たちの崇りを受けるんだ。みんなで手をぐいぐい引っぱって山まで連れてって、 そこで死んだ子供たちに取り囲まれて、気づいたらお前もその子たちの仲間になってるんだ。山から逃げても無駄だぞ。そいつらはお前が家で寝てる時、こっそ りと入ってきてさらっちまうからな」
 今にして思えば、それは怖い話をして二度と私をそこに近づけまいとする大人の浅知恵だったのでしょう。けれども私はその話が怖くて、それを聞いた後は宴会で明々と賑わう広間から離れることができません。
 しかし宴もたけなわを過ぎると、母親から「もう寝なさい」と寝床へ追いやられてしまい、私はひとりで寝室として使っている部屋へと戻りました。
  母親の実家は地元の名家で、家は屋敷と呼んで遜色ないほどに広いのです。屋敷には宴会のあとで酔いつぶれた人たちが泊まれるよう、二十畳ほどの広めに造ら れた和室がいくつかあり、私が寝室としてつかっているのもその内の一つでした。普段は広い部屋を独占していることに高揚する気分も、今はどうにも頼りな く、不安な気がしてなりません。私は縁側の廊下へ続くふすまや障子を全て閉じ、常夜灯をつけたままで祖母が用意してくれていた布団にもぐりこみました。


 どれだけの時間が経ったのでしょうか。
 ふと、私は目を覚ましました。
 屋敷の中は静まり返り、人の気配はありません。どうやら既に宴会は終わり、みんな寝静まっているようでした。
 私が普段、夜中に目を覚ますことなど滅多に無いことです。あるとすればせいぜい、起きている誰かが物音を立てた時くらい。しかし全員が寝静まった屋敷の中で、そんな物音を立てる者など……。

 ……ギっ……………………。

 どこか、すぐ近く。まるでそこの障子の向こう、縁側を通る廊下から、床が軋むような音が聞こえました。
  両親か祖父母、でなければ泊まっている誰かがトイレに起きてきたのかもしれない……とは思いませんでした。一階のトイレは、風呂場など水周りの集まる屋敷 の北側と西側にしかありません。私がいる寝室は屋敷の東側、しかもその一番端。誰であろうとこの廊下を通るはずはないのです。そう、この部屋に来ることが 目的である以外は。

 ……ギっ……………………。

 不意に、音が止みました。私は廊下へつづく障子に背を向ける形で横になっています。
 すっ、と木枠が滑らかに動くような音が聞こえた気がして、みしり、と畳の軋む音が聞こえた気がしました。ふわ、と頬を風に撫でられたような気がして、誰かの気配がすぐそばにあるような気がしました。
 私は目を閉じたまま、背後にいる誰かに起きていることを悟られまいと身を堅くします。けれど妙に高鳴る心音で、わずかに震える肩の揺れで、目を覚ましていることがばれるのではないかと思うと、気が気ではありません。
 それと同時に、背後にいるのはどんなやつなのか。顔は、背は、太っているのか痩せているのか、恐ろしい姿なのかそうではないのか、とても気になります。
 両者の間に挟まれた私は、せめてどんな体格なのかくらいは見てみようと背を向けたまま薄目を開けて、相手を盗み見ようと考えました。目いっぱい視界を動かせば頭の天辺くらいはみえるだろう。そして相手の顔までは見えないのだから、相手に悟られることもないだろう。
 そう思った私は、ほんのわずかにまぶたを開き、視界を背後へと移し、

 背後にいるソレと目が合いました。

 ソレは私の上に大きく身を乗り出し、顔をのぞきこんでいたのです。
 ソレは私の顔をのぞきこみながら、にんまりと笑いを浮べていました。
 私はとっさに目を閉じ、震えそうになる全身を必死で押さえつけました。
  ちらりと見えてしまった顔は女の子で、切りそろえた前髪と肩から垂れる長い黒髪。そして着物のような襟。見ることができたのはそれだけでした。そしてそれ だけで十分でした。それだけで私は、やっぱり女の子の霊なんだ、やっぱり自分を連れて行くために来たんだと、そう確信するのには十分だったのです。
 大声をあげるべきか、けれどそれでは相手を刺激してしまわないだろうか、このままだと自分はどうなるのか、まとまらない考えが頭の中を巡ります。

 そして――唐突に、右手をぐいっとつかまれました。

  物凄い力で、ぎりりと腕が痛むほどでした。たまらず私は「痛いっ、痛いっ」と叫び、その手を振りほどこうともがきます。けれど身体は上手く動かず、力を入 れることが出来ません。喉に何かが張り付いているように、あげたはずの叫びも声にはなりませんでした。それでも私はもがき、もがき、もがき。


 ふと、私は目を覚ましました。
 屋敷の中は静まり返り、人の気配はありません。どうやら既に宴会は終わり、みんな寝静まっているようでした。
 つい今までかたわらにいたソレの姿もありません。私は汗をびっしょりとかき、縁側の廊下と部屋を仕切る障子のほうに顔を向けて横になっていました。
 障子は、ぴったりと閉まっています。寝る前に私が閉めたときと同じように。それから一度も開けられてはいないように。
 私はあわてて起き上がり、明かりをつけました。部屋には私以外に誰もいません。二十畳もの広さの部屋が、蛍光灯の白く無機質な光に照らされ、音もなく、そこにありました。
 どこに目を向けても、どこに目を凝らしても、私以外の何者の痕跡すらありませんでした。
 私は気が抜けたように布団の上へと座りこむと、胡坐をかき、盛大にため息をつきました。
 おかしな夢を見た。そういう結論に達し、額の汗を拭います。
  昼間、そして夜の寝る前にあんな話を聞かされたから、夢にまで見てしまったのでしょう。それというのも全ては伯父さんのせいです。そう思うとなんだか腹立 たしく、悔しい気持ちになりました。明かりも消さずにごろんと布団へ横になり、憎々しい伯父さんの顔を思い浮かべます。少なくとも伯父さんがあんなに脅か しつけるような話しかたをしなかったなら、こんな夢を見ることもなかったはず……伯父さんのせいでこんな夢を見ることになったのです。こんな気味の悪い 夢……。
 そう。それは確かに夢であったはずでした。
 けれど私は見つけてしまいました。額の汗を拭った右手。一見変わった様子の無い、普段どおりの私の右手。

 その手首にはっきりと、手の形をしたアザがついているのを。

 私は飛び起きて、そのアザをまじまじと眺めました。
 アザの形がなんとなく手のように見える……わけではなく、一本一本の指先までがはっきりとわかるほど、それは紛れも無い手の形でした。さほど大きくはなく、私の手と変わらないくらいの大きさです。
 だからはじめは私も、もしかしたら寝ている時に自分で自分の腕をつかんだのかも、そう思いました。寝ぼけてきつく握り締めてしまったのだと。
 けれどそんなはずはありません。皆さんも、自分の右手首を自分で掴んでみてください。

 今、あなたの手首をつかんでいるのは、左手ですよね?

 私の右手首に残されたアザは、間違いなく右手の形をしていました。

 ◆
 
 翌日。
  私は常に戦々恐々としていました。朝起きた時。顔を洗いに手水場へ行く時、トイレへ行く時、とにかく一人でいるときはびくびくと周りを見回し、誰かに出会 うたびに飛び上がらんばかりに驚きます。まるで今もすぐそばにあの女の子がいて、不意に腕をつかまれたりするのではないか……。
 こんなことになった原因は、何の因果か伯父さんに聞かされた話のおかげでわかっていました。私が不用意にあの祠へ近付いたから、女の子の崇りを受けているのです。もう、そうとしか考えられませんでした。
  ならばどうすればいいのか。親や祖父母に相談する気にはなれませんでした。祠へ近付いたことを知られれば怒られるかもしれませんし、何より昨日、祠のこと を話す祖母や伯父さんの様子から、大人たちはこの話を信じているわけではないのだということが、はっきりとわかってしまったからです。相談したところで、 きっとお前は怖がりだなぁと笑われて終わることでしょう。腕のアザも幽霊や崇りの仕業と思われるよりは、生きている誰かに掴まれたのだと思われるに違いあ りません。
 私はとにかく、不用意に祠へ近付いてしまったことを幽霊だか崇り主だかに謝らなければ。そんな思いで午後になってから一人で山へと向 かいました。祠に近付いてしまったことを謝るために、ふたたび祠へ向かっていく。今になって思えば矛盾している行動でしたが、同時の私にはこれくらいしか 思いつくことがなかったのです。


 舗装されているハイキングコースをはずれ、草に覆われた道を川に沿って歩きます。やがて道は川 の水面より高くなり、さらに行けば落差が十メートルほどの谷となります。その崖に沿ってさらに山の奥へと進み、山に入ってから二時間ほどが経過した頃で しょうか。私は件の祠の前へと辿り着きました。
 祠は前に来た時と少しも変わらず、とても古びていて、観音開きの戸は壊れ、中のお地蔵様は苔むしています。気がつけば屋敷を出るときには晴れていた空には重たい雲が広がり、辺りは薄暗く、それが祠の様子をより一層不気味なものに見せていました。
 私はまず、屋敷から持ってきた法事の際にご先祖様にお供えするためのお菓子をお地蔵様の足元へ置き、それから手を合わせて心の中で謝罪の言葉を述べました。しかしその間にも、昨日伯父さんから聞かされた話が頭のすみをよぎります。

 みんなで手をぐいぐい引っぱって山まで連れてって、そこで死んだ子供たちに取り囲まれて、気づいたらお前もその子たちの仲間になってるんだ。

 手を合わせている間、私はずっと目を閉じたままでした。瞼を開けばそこには私を取り囲んでいる子供たちが見えてしまう気がします。私を囲み、輪をつくり、手をつなぎながら周りをぐるぐる回る子供たち。その輪の中には私と、私の腕をつかもうとしている女の子がいて。

 ……ポっ。

 突然首筋に冷たい何かが当たり、私は悲鳴をあげることすら忘れて走り出しました。
 走って、走って、走って。川沿いに行けば一本道ですむ道を、少しでも短い距離で、短い時間で祠から遠ざかれるように、森の中を突っ切って走ります。ケモノ道すらなく、道しるべの一つも無い森の中を、走って、走って、走って。
 とうとう息が切れて足を動かすことをやめてしまった時、私はさきほど首筋に感じたものの正体を知りました。いつの間にか、辺りには結構な勢いで雨が降り出していたのです。お供え物や崇りのことで頭がいっぱいだった私は、雨具の用意をしていませんでした。


  屋根の代わりとなる木の下にうずくまり、しばらくしてからのことです。夏場とは言えど山の日は暮れるのが早く、辺りは既に視界がきかないほどの薄暗さ。森 の濡れた空気は真冬のような寒さをもたらす中で、しかし雨は一向にやむ気配を見せません。このままでは完全に日が暮れ、下山はおろかこの場から動くことす らできなくなってしまいます。
 雨の降る中、光もない場所で、虫除けの備えもないまま一夜を過ごさねばならないことを考えると、そろそろ雨宿りも大概にして山を下りなければなりません。私は意を決して雨が降り続ける森の中を歩き出しました。
  辺りは見覚えのない景色が広がり、私は帰る道を知りませんでした。私はとにかく、川を目指して歩きます。川沿いに下流へ下れば、ハイキングコースまで一本 道でいけるはずです。そこまで行けば、あとは舗装された歩きやすい道を数十分程度行くだけで、ふもとの町まで下りられるのです。
 川は祠の西側を北から南へ流れており、ならば西へ向かえば川の流れにぶつかるはずです。
 既に日は暮れていましたが、自分が来た方向から大まかな方角くらいは把握できていたので、私は西と思わしき方角に向かってただひたすらに歩き続けました。


  しかし、歩けど歩けどなかなか川へは辿り着きません。方角が正しいことは間違いないはずなのに、もう辺りは真っ暗になっていました。雨足は弱まるどころか さらに強くなり、長い時間を歩き続けたために疲労もすでに限界です。この頃には既に私の中にあった祠や崇りへの恐怖は薄れ、代わりに「もう帰れないかもし れない」という不安と恐れが、今にも私の身を食い尽くそうとしていました。
 それが起こったのは、そんな時です。
 私は 何か に足を取られ、前に広がる水溜りの中へ盛大に顔を突っ込みました。
  その拍子に細かい砂か砂利かが目の中に入り、痛くて瞼が開けられません。目を擦ろうとしますが、両手も同じように砂と泥にまみれているため、それすらまま なりませんでした。雨と暗闇の中、さらに視界を奪われ、服や靴は水を吸い重たく、手足は疲労により石のように固まっています。
 まさしく八方塞がりでした。私は水溜りの中に座り込み、動く気力も無く、ただ身体に打ち付ける雨の感触に身を委ねて、力なくうなだれました。
 その時です。

 何者かが私の右の手を掴みました。

 そして、私を立たせるように引っ張り上げたのです。
 私がつられて立ち上がると、ソレは私の手を引いたまま、どこかへ連れて行くかのように進み始めました。私は逆らうこともせず、引かれるままについていきます。向かっているのは私が歩いていたのと同じ方向。川と、谷と、崖がある方角でした。
 その時は私の考える力は半ば麻痺していて、ただ何となく、谷のほうへ向かってる。なら谷を飛び越えて川の向こう側にでも行くんだろうか? その程度にしか思考がはたらきません。ただ手を引かれるに従い、川の流れに身を委ねるように、ソレついていくのみでした。


 けれど結構な時間を歩いても、なかなか崖を飛び越えるような感覚は訪れませんでした。私の手を引く何者かは、途中で何度か方向を変えながらも相変わらず進み続けています。
 走るように歩く速さで、迷ったり止まったりすることも無く。
 途中、何度か転びそうになった時でも、ソレは私の手をしっかりと掴んだまま、決して放すことはありませんでした。
 私を起こすように強く手を引き、倒れそうな身体を支えながら、けれどやっぱり止まることはせず。


  しばらく歩き続け、私は自分の踏む地面がむき出しの土から舗装された道路へと変わったことに気づきました。どうやらハイキングコースまで戻ってきたようで す。ここからなら、ふもとの町までそう時間をかけずに戻ることが出来るでしょう。けれどソレは私の手を引いたまま。私もそれに従って、目を閉じたままで歩 き続けました。


 やがて、ソレは不意に私の手を放しました。辺りからは、誰かが私の名前を呼ぶ声が聞こえます。
 私はいつの間にか開けられるようになっていた目を、ゆっくりと開きました。
 私の周りには傘をさした大人が数名、駆け寄ってきます。どうやらハイキングコースの入口にあたる、駐車場兼広場にいるようです。こちらへ駆け寄ってくる人影の中に、父と、母の姿もありました。

 ◆

 昔、と言っても遠い昔のことではなく、戦後すぐくらいの頃。まだろくに道も整備されていない山の中て、一人の女の子が行方不明になりました。
 ふもとの町では大人たちが集められ、山狩りまで行われましたが、結局女の子は見つからなかったのだそうです。
 それからも度々同じようなことが起こりました。山へいった子供が、あるいは崩れてきた土に潰され、あるいは川に流されて、その命を落としてしまうのです。みんながみんな助からなかったわけではなく、中には山で迷いながらも無事に戻ってくる子もいました。
 しかし彼らはみんな、口をそろえてこう言います。
「山の中を歩いている時、誰かに手を引っぱられた」
 そして彼らの右手首には、決まって手の形をしたアザがあるのです。
 もしかしたら、先に行方不明となった女の子の崇りなんじゃ? いつしかそんな噂が町に広まり、大人たちで話し合った結果、最初の男の子が犠牲となった崖の近くに小さな祠とお地蔵様を置いて、崇りを鎮めようとしたのでした。


 けれど後に聞いた話では、手の形をしたアザがあるのは無事に戻ってきた子にだけで、遺体となって発見された子供たちの身体には、手形のアザは一つとして見つかることは無かったそうです。
 山で最初に亡くなった女の子は、果たして本当に崇りを起こしていたのでしょうか?
 私はあの時、駆け寄ってきた両親に抱きしめられながら、誰が自分をここまで連れてきてくれたのかと尋ねました。
 しかし両親を始めとしてその場に居合わせた大人達は、みんな口をそろえて「お前は一人で戻ってきたじゃないか。だれも一緒にはいなかったよ」と言いました。
 その時、私は祖母から聞いた話を思い出したのです。

「あの子は神様に連れて行かれて、あの山の山神様になったんだよ。きっと、これから私たちのことを守ってくれる」


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●感想
11thさんの意見
 こんばんは、11thです。感想返しに参りました!

 すさまじく良作だったと思います! もうこの一言に尽きます!
 怪談は一度書こうとしてやめたのですが、やめてよかったと思いました。こんな作品の前じゃ霞んでしまう…。

 何がよかったって、まず文章です。地の文をですます調で統一しているのですが、冗長さがない。こういう文章はどうしても「~です。~です」というように語尾を引きずってしまうことが多いのですが、この作品ではそれが目立ちませんでした。
 更に心情描写が丁寧! 主人公が何度か考え事をするシーンがありましたが、突飛だったり矛盾を感じる箇所がほとんどありません。それで素直に主人公に共感し、ともに恐怖を味わうことができました。文句なしです。

 展開は予想通り、というと聞こえが悪いですが、期待通りでした。「手を引く」という設定の時点で、あれ以外のハッピーエンドは思いつきませんでしたから。しかし、予想したとおりでよかったという心境です。

 唯 一突っ込むとするならば、死んだ子には痣がなかった、というところでしょうか。序盤の書き方で手形がついた死体を想像して恐怖したものですが、死体には手 形がなかったというのは「そうだったの?」って感じでした。ラストのために隠すのは必要不可欠なのですが、誤解を招く表現だとせっかく「そうだったの か!」と思わせるポイントが「そうだったの…?」になってしまってもったいないかなと個人的には思います。

 素敵な作品をありがとうございました!


秋雨令司さんの意見
 こんばんは、秋雨令司です。拝読いたしました。

 怪談と聞いて、まずタイトルが怖くないな~と思いましたが、なるほど結末を知ってから 見ると相応しいタイトルでした。ただ、「山神様」という名称をもっと具体的なもの(地名や山の名前など)にしていたらオリジナリティもあってよかったと思 います。具体的な地名が出るとリアリティも増して怖さも格段にアップしますし。

 描写や文章もよかったです(どこか忘れましたが一箇所、誤字がありましたけど)。特に同様の文脈を繰り返す演出や、ホラーシーン(?)でさりげなく出てくる「風呂場」などの単語が秀逸でした。夜の水場は怖いですからね。

 序盤の祖母から聞いた話は、「祖母の語り(口調)」で書いてもよかったかもしれません。ずっと同じ一人称よりは飽きないかと思うので。

 語り口からして主人公の無事は当然だと思っていましたが、あたたかい結末は意外でした。いいですね。


 それでは、次回作も期待しております。


あかん子さんの意見
 こんばんは、あかん子です。
 拝読しましたので、感想を置いていきますね。

 いや~面白かった!この一言に尽きます。
 まず語り口がいいです。淡々と語られる物語の口調に知らず知らずのうちに引き込まれていきました。

 情景描写や心理描写も見事です。何の違和感も感じませんでした。
 特に逸脱だと思ったのが”右手についていたアザが同じく右手のものだった”というくだり。
 自分以外の者が確かに存在したのだという事を明らかにする描写として素晴らしかった。

 最後のオチもよかったです。
 話し的にバッドエンドはないとは思っていたんですが、死んだ子供達にはアザがない、というのに納得です。
 そうきたか、と思わず唸ってしまいました。
 それを引きたてる、冒頭と同じ文の繰り返し。とても効果的でした。

 なんか褒めてばっかりですが、批判が思いつきません…
 読んでよかった、素直にそう言える作品だったと思います。

 これは次回作にも期待しないわけにはいきません!笑
 頑張ってくださいね♪


晃男さんの意見
 こんにちは、晃男といいます。
 なんというか序盤のホラーと終盤のいい話のギャップがものすごいですね!読んでいてなんか泣きそうになりました。展開もスピーディーでいながら整然とされていてすばらしい!心にのこる作品だと思います。

 特に文章を繰り返すやり方がニクいです。昔、ではじまる部分と夜中のシーンで目を覚ます部分。その二つが見事に対比していてお互いをより効果的に見せていますね。

 気になった点は語り口な文章です。確かにすばらしく味があって読みやすいですが、人によってはこういう文章が苦手な人もいるんじゃなかと思いました。

 心が冷やされたあとであたたまる読後感の最高な作品でした。次回作もがんばってください。


若干13才さんの意見
 初めまして、若干13才と申します。今後ともよろしくお願いします。
 心霊とか超常現象を全く信じていないのですが、平均点が高いのでちょっと気になって読んでみました。


 それにしても、いい話じゃないですか。最後の最後に祖母の助言を思い出し、そこで全てに合点がいったという。
 ウチだったら、亡霊に手を引っ張らた日にゃ、
「ふざけんじゃねぇ、潮来呼ぶぞごらぁぁぁ!!!」
 と叫んで、激しく抵抗していたかもしれません。
 でもそういう人は、きっと助からなかったでしょう。
 
 ちょっと捻くれたどうでもいい疑問なのですが、山で最初に行方不明になった女の子が本当に子供たちを助けるために手を引っ張っていたのだとしたら、その親切が返って仇になってしまうことはなかったのかな、と思いまして。
 例えば、ウチみたいな怖がりな子が必死の抵抗をするあまり、救えた命が救えなかったとか。

 もう一つ気になった点と言えば、一行空けですかね。場面の切り替えや、物音の前後などによくやりますよね。あれは読みやすくするために空けているとは思うのですが、若干多めかなぁと。ただこれはこれで、読者の立場になっているから結果往来かな?とか思ったり。
 この辺は小生にも善し悪しの判断が束ねかねます。作者様、どうでしょう?
 

 そういえば、ディスプレイに移っているカーソルが、さっきから左斜め上の方にじりじりと動いているんですよ。別に、マウスに触れてもいる訳でもないし、机を傾けていた訳でもいないのに…


たこばやし ゆかさんの意見
 初めまして。作品を読ませていただいたので感想を。
 語り口調が良いですね。なんか『告白』みたいな感じの、読んでいる人に話しかけて訴える文体とてでもいうんでしょうか?
 個人的に、あっこれすごく巧いと思ったのが、

>けれどそんなはずはありません。皆さんも、自分の右手首を自分で掴んでみてください。
>今、あなたの手首をつかんでいるのは、左手ですよね?
>私の右手首に残されたアザは、間違いなく右手の形をしていました。


 この部分ですね。この文体だからこそ出来る恐怖の演出。こういうの大好きです。ついついニヤリとしてしまいました。
 個人的に気になったのが、女の子の霊が主人公の寝ているところに現れたことです。現れる理由が無いんですよね。
 むしろ彼女のせいで主人公が山に行き、運悪く道に迷ってしまったのでは? なんて思いました。ある意味幽霊の女の自作自演みたいな感じに。
 あと、オチがわかりやすかったです。もう少しひねりが欲しかったかな……と。
 たとえば、山神様の話は昔の話なので、どこかで話がねじ曲がってしまい、死んでしまう方に手形がつくと広まってしまう。
 主人公が間違った話を聞いてしまっているので、山神様が弁解しようと現れたが逆に怖がらせてしまう結果に。
 しかし主人公が山上様に助けられたことによりその言い伝えが間違いだったときがつく。みたいな感じでにすると、最後のオチが面白く……なるのかな? 昔の話なので、多少話が曲がって伝わる。みたいな展開はありだと思うので。
 っていうかこれだと十分オチわかりやすいですね。ごめんなさい。
 なんか、こうしたら良いみたいな話ばっかりでスイマセン。面白い作品を見ると、ついつい……。
 以上が感想です。次回作も期待しています。がんばってください。


柊 七日さんの意見
 はじめまして、柊っす。作品よませてもらったんで感想を残します。

 ○ 文章

 なんつーか、評価がむずかしい文章だとおもいます。さらりと読める人はこういうですますな口調もいいかもしれないけど、多分ダメな人もいる。
 けどこの文章じゃなきゃダメだ! って理由もあるみたいだし、そのあたりは俺がどーのこーの言うべきじゃないかな。

 ○ 物語

 怖い話かと思ったらいい話でした。ありがちな構成ですけど前半でホラーっぽさがよく出てたからいい感じにギャップがあって面白かったです。
 ただ、タイトルがホラーっぽくないし、なんかいい話系で終わりそうな雰囲気漂ってます。前半にあんだけホラー展開やるならタイトルもまんまホラーっぽくしたほうがよかったかも。

 ○ キャラクター
 
 徹底的にキャラクター性が排除されてますね。それが怖さを演出してるからいいのかもしれないけど、個人的にはもっと主人公とか女の子とかにキャラ付けしてもいい気がしました。

 ○ 設定

 ミスリード効いてるいい設定だと思います。
 けど11thさんが言ってるみたいに、途中に死んだ男の子の話がややこしいです。あんなあからさまにウソつかなくてもよかったんじゃないかと。

 ○ 総評

 すごいいい話で面白いんですけど、意外性があんまないから二度読み返そうとは思いません。まあ初見で楽しめれば十分だと思うし、全体的にレベル高いのは間違いないと思います。次回作も期待してるんで、ぜひがんばってください。


よしぞーさんの意見
 どもよしぞーです。

 他の方は高評価なので、たぶん個人的な問題なのかもしれませんが、どうも、物語が頭の中に入ってきませんでした。語っ て聞かせているような文体のせいではなく、どうも情報の提示のされ方が、個人的に、どうもしっくり来ないのが原因なんじゃないかと思います。それはとても 細部のことなのですが。
 しかし物語自体のアイディアは楽しめました。祠ができた理由や、とつぜん、手を引っぱられるというのも面白かったです。そしてギャップによる温かなものが効いている作品だと思いました。


ほぼのけさんの意見
 はじめまして、ほぼのけと申します。なにやら得点が高かったので覗かせていただきました。

 作者様のレスをみると、どうやらミスリードがうまくいってないとか演出に問題があるという悩みを抱えておられるようですが、私が思うにそれはまったく逆で、問題があるのはストーリーの方だと思いました。

・私が祠に近づいたことで霊的体験をしてしまう
・それを収めるために祠へ謝りにいく
・しかし大雨で道に迷い途方にくれる
・そこを幽霊に助けられる

 物語を要約するとこんな感じになります。感想を寄せるみなさんはいい話だと口をそろえて仰いますが、冷静になってからもう一度よく読んでみると、そんなにいい話ではないです。
 つまるところ幽霊はほうっておいても平気なものであって、それを私が大げさに勘違いしたことによって窮地に立たされる。そこを幽霊が救ってくれる。なんだか幽霊の「ヤレヤレ・・・仕方ない奴だな」という呟きが聞こえてきそうです。

 つまり、物語の先を見通されるとかいうのは演出云々の問題ではなく、ストーリーラインにひねりが無いため、演出の上でどれほどミスリードを施そうと読まれやすい展開となってしまうのです。

 逆に、ただの単調な物語を他の皆さんが口をそろえて「いい話だった」と言わしめるまでに昇華した演出技法こそ、私は賞賛に値するべきだと思います。


  他に、終盤の丁寧に描写される数時間と比べて、序盤の描写が少なく展開が速すぎるように感じます。それも作者様が仰る「語って聞かせる物語」を意識した故 のことなのでしょうが、若干なり物語をゆっくりと進めたほうが、読者が雰囲気に浸るだけの時間を得られて演出効果がより効果的なものになったでしょう。

  あとは、最後のシーンで大勢の大人がなぜふもとの駐車場に集まっていたのかが不明瞭です。物語をきちんと読んでいれば、今回も山狩りでも行われそうなくら いの騒ぎになっていたのだろうということが伺えますが、ここはきちんと言葉でどれくらいの騒ぎになっていたのかを明記したほうがいいように感じます。


 以上、総括すると、
・アイディア(20点)
・文章(評価なし)他の方が仰るように賛否分かれる文章だと思います。
・演出・表現力(50点)
・ストーリー性(-50点)
・キャラクター性(10点)

 総合して30点となります。次回作も期待しています。


高良 優秋さんの意見
 高良です。感想のお返しに参りました。

 特につまることもなくスラスラと読み進められました。文と文の勢いがうまく繋がっていて素晴らしいと思います。半分くらいまではびくびくしながら読んでましたが(怖がりなので)それが途中からなくなり最後におぉー、という感じ。中々な移り変わり方だと思います。

 けれど疑問に思う点がいくつかあります。

 語尾に注意を払われていたせいか、所々違和感があります。

>手を合わせている間、私はずっと目を閉じたままでした。瞼を開けばそこには私を取り囲んでいる子供たちが見えてしまう気がします。

 後ろの文は目を閉じてる理由の説明ですよね? それなら『~見えてしまう気がしたからです』とした方が自然ではないでしょうか?

 三個目の♦のあとの所で『私』は大人は山神様の話を信じてないと確信しているようですが、宴会のとき伯父さんの話を聞いて、

『今にして思えば、それは怖い話をして二度と私をそこに近づけまいとする大人の浅知恵だったのでしょう。』

 とあります。今にして思えば。つまり当時『私』はホントの話だと思ったのではありませんか? 大人の真意に気付かず、その話を素のまま受け入れたのでしょ う。実際女の子来ましたし、少なからず信じちゃうと思います。だとすると山神様の話をした大人はその話を信じてないと確信するのはおかしくないでしょう か?

 他には度々その山では遭難事故が起こるとの事ですがそれが山神様の仕業じゃないならなんでそんなに起こるんですか? そんなに事故って起こりやすいのでしょうか、あんまり知らないんですけど。
 それに亡くなる子の方が多いような風に書いてありますが、それだと山神様って案外役立たずじゃ……。最後の祖母の言葉が変になっちゃいます。子供たちを守り切れてませんから。

 『私』 が遭難してるとき『私』の足を引っかけて転ばせた『何か』って山神様ですよね。それで『私』、目を痛めて気力も無くしてガックリしてますよ……ただそのま ま手を取ることはできなかったのでしょうか? その姿を見られちゃいけないって訳でもなさそうですし。まぁ、女の『子』ってことで納得の仕様はあります が……

 あと素朴な疑問なんですけどなんで山神様は右手を掴むんですか。どこかにちゃんと理由が書いてあったらすみません……

 私が気になった点はこのような感じです。ノート片手に二度読みすると、ちっちゃいながらも気になる所がけっこうありましたがそこは割愛で。

 昨日来たばっかりの新参者の身で好き勝手書いて大変恐縮ですが『これは、』というものがありましたら幸いです。

 次の作品、楽しみにしています。


mi-coさんの意見
 mi-coです。

 なんだろう、この読後感。
 ちょっと失礼かもしれませんが、ごくごく普通のお話だったなぁ、という印象でした。
 ドキドキすることも、ワクワクすることも、それ以外の感情も、特に湧きませんでした。
 正直な感想だったら、評価の基準にある『普通です(0点)』でした。
 でも、逆に考えると、そういう作品を最後まで読めたのって、あまりないんですよね。そういう意味で、10点を入れました。

 個人的には、もう少し尺を伸ばしてもいいんじゃないかなぁ、と思いました。
 話の展開がタイトルのまんま、山神様一直線ですよね。遊びの部分が全然ないなぁ、と思います。
 与えられる情報が限定されすぎているので、最後の展開も読みやすいです。

 あと気になったのが、寝室のシーン。
 少女が手を掴まれた後が残っている、ということは、山神様から、何かしらのメッセージがあったのでは、と思いました。
 最後まで読んだ印象では、山神様には何かしらの意思がある、と読み取れます。
 彼女の手を掴んだのが山神様であるのなら、わざわざ山を下りてきてまでそうする理由があったのではないか、と。
 彼女は賽銭も供えてくれましたし、山神様からすると、ちょっとだけ気になったのかもしれない。
 深読みし過ぎかもしれませんが、もしかすると、その夜、その寝室は、彼女にとっては安全ではなかったのかもしれない。
 安全ではないということは、何かしらの危険があるということ。
 その夜は、一族集まっての宴会が催されていました。誰かが酔っ払い、突飛な行動をしても不思議ではない夜です。
 もしかすると、伏線っぽい伯父さんが酔っ払い、彼女の寝室に入り込む可能性も皆無ではないかもしれない。
 それ以前に、宴会に紛れて、誰かが何かを企んでいたのかもしれない。
 はたまた、酔った勢いと見せかけて、彼女を襲わんとする変態がいたのかもしれない。
 山神様は、そんな危険な場所から彼女を離れさせようと、
 わざわざ山から下りてまで、彼女の手を掴んだのではないか――とね。
 ……はい、妄想です。すいません><

 後は、文章ですかね。
 個人的には、面白くない文章でした。
 作風がナレーションちっくなので仕方がないかもしれないと妥協したとしても、読んでて面白くない文章でした。
 一人称って、その人物固有の思考から織り成される文章が好きなんです。作者のセンスというのかなぁ。
単語の選び方とか、文章の流れとか、独特の比喩表現とか。
 一人称だったら、登場人物の個性が溢れるような、そんな文章を書かれたほうが、
 より魅力が出るんじゃないかなぁ、と思いました。
 正直な話、語り部の人物像が描けませんでした。

 特に最初の冒頭辺りでしょうか。とっても気になりました。
 個人的には、これはちょっと失礼かもしれませんが、最初の一行目、全くセンスが感じられませんでした。

 『私の母方の実家は、ある山のふもとの温泉街にあります。』

 文章の意味は、わかりやすい位にわかりやすい。だけど、『の』が連続しているので、文章のリズムが悪い。
また、重要な一行目なのにも関わらず、語り部の性格などが全く伝わらない。
 感情がこもっていない。ただ、事柄を伝えているだけ。
 まさにナレーションですよね。でも、これは小説です。
 本当にナレーションのように語りたいのであれば、三人称にすればいいと思います。
 単純に『私』を『彼女』にすれば済む話ではないかなぁ、と思います。

 ある作品に出てくる一人称で、
 『私の下宿は高台にあるので、愛用の自転車「まなみ号」で下界へ向かう際、(省略)』
 とあります。
 『愛用の自転車「まなみ号」』とか、『下界へ向かう』とか言っちゃうんですよ、この人。
 なんか、めっさ偏屈っぽい人間に見えるけど、どこか愛嬌を感じますよね。
 何が言いたいかっていうと、そういう視点主ならではの、感情のこもった独特の表現方法が好きなんですよね。
 まぁ、私の我侭かもしれませんけど。
 この作品は怪談だから、砕けた口調にはできないとは思うんですけど、それが全てではないとも思うんです。
 折角一人称にしているんだから、それを活かすような文章にしてほしいなぁ、と思いました。


 以上です。
 ではでは、失礼しますね~。


通りすがりのヲチャーさんの意見
 きっとはじめまして。通りすがりのヲチャーともうします。
 普段は携帯で見るだけなので感想などは残さないのですが、ちょっと思い立ったことがあるので書かせていただきます。

 まず作品のほう、前部後部とギャップが効いてて楽しめるお話でした。
 最初に読み始めた時は「こえぇぜ~」とガク(((゜д゜;)))ブルしていたのですが、最後らへんになってなんだかがらりとイメージが変わります。
 mi-coさんやほぼのけさんが言ってるように改めて読み返すと普通のお話なんですけど、そもそも怪談ってそんなになんども同じ話を聞かせたりしないものだしすごく楽しめました。
 ナレーションを意識したという語り口調も「ああ、なるほどな」と思う文体でそれっぽさがでてたと思います。けど文字で読むとちょっと読みにくかったかな。この辺は好評に思う人もいるみたいだから個人の感性なんだろうけど。
 下についてる作者レスとか読んでると本文を読んでる最中には気づかなかったけど、すごくいろいろ考えて書いてるんだなっというのがわかって脱帽しました。心に残るいい話だったと思います。

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