高得点作品掲載所     佐伯涼太さん 著作  | トップへ戻る | 


代替可能なロックンロール

「私とバンド組まない?」
 優秀な兄が卒業したのと入れ替わりで、僕がその高校に入学した三日目の朝。まだ周囲がふわふわと落ち着きのない中、奴は僕の机の上をバシッと両手で叩きつけ、身を乗り出した。
「……アンタ誰? あと、顔近い」
 目には目を、歯には歯を、初対面での不躾な態度には、不躾な態度を。背の低いそいつの額を掌で押し返すと、首がカクンと後ろに倒れ、「ぐえっ」と呻いた。
「酷いよ、桜井くん。一緒の中学の関屋だよ。っていうか、初日にみんなで自己紹介したよね?」
「覚えてない」
「そう。でも私は覚えてるよ。ドラム叩いてた。吹奏楽部で」
 関屋がニカッと笑う。
「……だったら何?」
「私、高校に入ったらバンド組むって決めてたの。だから、バンド組まない?」
 懲りずに顔を近づけてくる関屋の額を押し返す。ぎゃっ、と唸る。
「俺、高校に入ったらドラムは叩かないって決めてたんだ」
「わ、まねっこすんなー」
 関屋が両腕を振り下ろしてわめいた。

 中学までは時折「お前の兄ちゃんは頭良くてなぁ」と聞かされる程度だった。だから、呑気に好きなドラムなんかを叩いていられた。
 しかし、高校に入学してからは、会う先生会う先生僕の事を「弟」と呼ぶ。名もない公立高校から東大に合格した兄はそれだけ有名で、教師の目は僕の背後に兄の影を見ているようだった。
「『If you don’t like this one, there are many alternatives.』この訳を……弟」
 特に、担任は僕の事を執拗に弟、弟と言う。
「……もしそれが気に入らないなら、代わりは沢山あります」
「ふむ、さすが弟だな」
 そうやって、担任は嫌らしい顔をして笑う。
 オルタナティブ。代替品。なるほど、と胸の内で笑った。
 弟と呼ばせないためにはどうすればいいか。簡単な話だ。兄を越えてやろう。僕は、そう決意した。

 部活も委員会も、勉強の邪魔になるような物には関わらないことにした。つまり、関屋の勧誘は迷惑でしかない。あの様子では、数日は勧誘が続きそうだけど、首を縦に振らなければいいだけ。単純だ。
 だからその翌日の朝、再び挑んできた勧誘にも、適当にあしらうつもりだった。
「ねえ桜井くん。昨日の話、考えてくれた?」
 参考書に目を落としていると、すぐ耳元で奴の声が聞こえた。
「だからお前は――」
 顔が近いんだよ。そう言って、手を伸ばしかけた所で固まった。
「へへっ、似合う?」
 昨日まで黒かった髪を、眩い金髪に染めた関屋が、顔をくしゃっと綻ばせて笑っていた。
「やっぱり、私の本気度が足りなかったのかな、って反省したんだよね。どう? 私の本気具合」
「……お前、バカか?」
 僕の本音に、関屋がキョトンと目を見開いた時、入り口から声が飛んだ。
「関屋ぁ、こっちこーい」
 担任が呆れたように笑いしながら手招きをしている。一方の関屋は狼狽えるかと思えば、
「よし、一発ガツンとかましてくる」
 と無駄に気合いを入れて、入り口に向けズンズンと歩いていく。かますって、何をだ、というツッコミを入れる暇もないくらい、迷いのない歩き方だった。

 結局、関屋は二時間目の終わりになって戻ってきた。頭が黒く戻っている、と思ったら黒いニット帽を被っていた。小さい背をさらにションボリと丸め、若干涙目になっている。
「ガツンとかましてきたか?」
「生活指導の鮫島、怖かった……」
 そう涙声で呟いて、フラフラと自分の席へと歩いていった。

 関屋はそのままニット帽で一日の授業を受け続け、放課後に改めて呼び出しをくらい、二時間近くもお灸を据えられて帰ってきた。やっぱり目は涙目だった。
「あれ、桜井くん。なんで残ってんの? もしかして、私の事――」
「待ってねえよ」
 関屋の都合の良い推測を遮って、参考書とノートを見せつける。
「そこは嘘でも待ってたって言おうよ」
 赤い目で頬を膨らます姿が、なんとなくウサギみたいで、僕は小さく笑った。
「涙目になるくらいなら染めんなよ」
「だって、金髪にしたかったんだもん……」
「子供か」
 確かに、子供みたいな背格好だけれど。
「だ、誰にも迷惑かけてないんだから、いいじゃない!」
「風紀が乱れる」
「うわ、つまらないこと言うー。ロックじゃないね」
 そう言って、眉根をグッと寄せて舌を出す。
「ロックじゃない?」
「そう。そういうのを『ロクでなし』って言うんだよ」
 関屋が得意気に薄い胸を突き出す。
「はいはい、ロクでなしで結構。前にも言ったけど、俺はドラム叩く気ねえから」
「……なんで? ドラム、嫌い?」
「嫌いじゃねーけど、見てたら分かるだろ? 勉強に忙しいんだよ、俺は」
「嫌々勉強して、何が楽しいんだか……」
 関屋が「ふぅ」とため息混じりに呟くもんだから、カチンと来て関屋の顔を睨み付けた。お前に何が分かるっていうんだ。
「……見てたら分かるよ」
 奴は意に介さない様子で、フッと表情を緩めた。
「マネすんじゃねー」
「へへっ、昨日の仕返しー」

 関屋にだって誰にだって、僕の気持ちなんて分からない。何をしても兄の影がついて回ってきて、誰も僕自身を見ようとしない。見てくれやしない。彼らにとって、「兄の弟」ということだけが大事で、僕が僕である必要はない。
 なら、その兄の影を越えなければいけない。そうしなきゃ、誰も僕の事をみてくれない。

「やっ、桜井くん。考え直してくれた?」
 朝。いつものように関屋が寄ってくる。近い顔をグッと押し返すと、きゃん、と声を上げ、ずれたニット帽をせっせと直している。
「髪、染め直してないのな」
「まあね。ロッカーたるもの、これ位で自分を曲げるようじゃだめなんだよ」
 すぐ涙目になるくせに。と心の中で呟く。
「俺、ロックなんて分かんないぜ?」
「大丈夫、ゆっくりと洗脳していくから、安心してっ」
「何笑顔で恐ろしい事言ってんだよ……」
 関屋は笑顔で続けた。
「私ね、オルタナがやりたいんだ」
 ピクッと。その一言に、頭の中の敏感な部分が反応した。
「……オルタナ?」
「そう、オルタナティブロック。知らない?」
 オルタナティブ。代替品、代替可能な。知ってるも何も、一番嫌いな言葉――
「知りたくもないね」
 そう吐き捨てると、関屋は難しい顔をして黙ってしまった。

 そう言えば、奴はこう言っていた。
『吹奏楽部でドラム叩いてたよね?』
 経験者だから。その方が手っ取り早いから。つまり、関屋には必要なのは僕じゃなくて、ドラム経験者なのだ。オルタナティブ、代替可能。そういうことだ。
 やり場のない憤りが、胸の内でざわざわと波打つ。
 悪い事は続くもので、担任が授業にやってきたかと思うと、
「単語テストすっぞー」
 とプリントを配り始めた。次の単語の意味を可能な限り答えよ、という問いに記される、『alternative』の文字。
 僕はシャープペンシルを強く握りしめて「代替可能な」と書き殴った。

 テストは帰りのHRで返却された。
「ほい、弟」
「その弟って言うの、やめてくれませんか?」
 苛立ちもそのままに、プリントをひったくる。
「アイデンティティが傷つくってか?」
 担任がカッカッと笑う。そのまま背を向けようとすると、
「兄貴を越えて自分を認めさせるつもりなら、勉強が足りないんじゃないか?」
 そう言って、担任がプリントを指差す。丸が並ぶ回答欄に一カ所、『alternative』にだけ三角が記されていた。

「桜井くーん。放課後だよ、帰んないの?」
 放課後になった後も、席に座ったままでいると関屋が顔を覗き込んできた。
「暇なんだったら、バンド組もうよ。そんで、ドラム叩いて」
 顔が近い、と言おうとしたけどやめた。
「うるさい、黙れ」
 突き放すように言葉を放つと、関屋はオーバーに仰け反った。
「わっ、怖い顔しないでよ。にぼし、食べたら?」
「黙れ、って言った」
「そうだ! ドラム叩いてストレス発散させれば――」
「黙れって言ってんだろっ!!」
 怒りで弾かれるように立ち上がり、机を掌でバシンと叩く。
「別に俺でなくたって誰でもいいだろ!? 他の経験者探してそいつを勧誘しろよ!!」
 怒鳴り声だけが、教室内に反響する。関屋は目を逸らさないで、真っ直ぐに僕を見上げていた。
「誰でもいいなんて言ってない」
 大きな瞳を僕に向けたまま、瞬きもせずに。
「私、ドラム叩いてるときの桜井くん、好きだよ?」
 僕の胸が、弾むように音を立てた。関屋が硬い表情をふわっとほどいて目を細める。
「目がキラキラしてて、本当に楽しそうにドラム叩くんだな、って。この人と一緒に、バンドしたいな、って、そう思ったの」
 それから、関屋は照れを隠すように俯いてしまった。
「あ、オルタナティブ、間違ってる」
 机の上の回答を手にし、今度は満面の笑みで僕を見上げる。
「オルタナティブ、代替可能。転じて、もう一つの選択肢になり得る、って意味だよ?」
「……もう一つの選択肢?」
「そう。踏み固められた従来の道じゃない。道無き道を突き進む、もう一つの選択肢になるかもしれない存在。それが認められたら、自分の証明になると思わない?」
 そう問いかけられ、何か言おうと口を開きかけ、でも胸が震えて、言葉が出なかった。
 自分自身の証明。僕が僕である証し。
「だからさ、一緒にバンド組まない?」
 その時、胸を張る小さなその姿が、僕にはとても大きく見えた。

「お前さぁ」
 僕はため息混じりに呟く。
「偉そうに言ったくせにギター弾けないってどういうことだよ」
「だって、ギター買ったばっかりだもん! これから上手くなるんだから、見ててよね!」
 音楽準備室の片隅。関屋は腕を震わせつつ必死でFコードを押さえていた。目は涙目。ロッカーが聞いて呆れるよ、と僕は小さく笑った。

<了>
作者コメント
 掌編の間は初めましてです、佐伯涼太と申します。

 掌編と言えば、アッと驚くようなアイデアで勝負、というイメージがあるのですが、こういうあるべき物があるべき場所へ落ち着くような、そんな小さな話の方が自分は好きだったりします。

 あわよくば、そういう作品が少し増えないかなぁなんて思いつつ。
 批評の程、よろしくお願いいたします。


この作品が気に入っていただけましたら『高得点作品掲載所・人気投票』にて、投票と一言感想をお願いします。
こちらのメールフォームから、作品の批評も募集しております。

●感想
坂口タクヤさんの意見
 どうも坂口タクヤです。
 拝読いたしましたので感想を。

 こういう作品を掌編に収めるとどうしても窮屈になりがちですが、
 初読ではそれをあまり感じさせませんでした。
 あらためて読んでみると、そこかしこに苦労の後が見えるようで、作者様の努力に涙しました。
 構成も冒頭でぽんとヒロインが登場して、主人公の心情描写とイベントでさくさく起承転結ができているように思いました。
 やはり目を惹いたのは、キーワードの使い方ですね。
 オルタナティブの複数の意味、オルタナロック、そしてロック。
 ベタといえばベタなのですが、綺麗でした。
 またところどころで出てくるまねっこの掛け合いなど、言葉遊びも工夫されているのが良かったです。
 で、ハッピーエンド+ちょっとしたオチ。
 大変読後感がよく、作者様らしい作品だったかと思います。
 唯一気になった点は、主人公のドラムが好きと言ったヒロインの掘り下げが無かったこと。
 恐らくこの1.5倍くらいの枚数を使えばもう少しヒロインと主人公の描写を追加できるので、より良い作品になっていたかと思います。
(まぁこれは作者様も涙を飲まれたところだと思いますので、突っ込むのは心苦しいですが)

 ということで次回作も期待しております。
 頑張ってくださいませ。


早川りんさんの意見
 こんにちは、早川と申します。
 読ませていただきましたので、感想を失礼いたします。

 率直に、面白い作品だと思いました。掌編という短さの中で、これほどに纏まり、読者に読ませることができるのは凄いと感嘆いたしました。
 しっかりとした内容に、読みやすさと面白さがあり、テンポもキャラクター的にも魅力があって引き込まれました。

 あとは個人的に思ったことなのですが、改行部分が少し気になりました。ここの間は何だろう?とふと感じる部分があったので。時間軸的に分けてあるのかな?とも思ったのですが、開けなくても問題ないような印象を受けました。

 では、拙い感想ですがこれで失礼いたします。


高橋 アキラさんの意見
 こんにちは、いつぞやの夏祭りでの感想返しを……(蹴)読ませていただきましたので感想をw

 掌編で良い話って難しいですよね。感動させるには経緯が必要だし、でも起承であまり長くも語れない。そういう意味で今作は見事にまとまっていると思います。すばらしいです。

 主人公が怒った時はどうなるかと思いましたが、いったん落としてから上げる、のような感情の上げ下げを感じることができ、非常によかったです。

 ただどちらかと言えば短編とか長編の序章のようにも感じた……ただの私の欲ですね、ごめんなさいw それだけ気に入ったので続きが気になりましたw

 参考になればうれしいです。


高橋 アキラさんの意見
 こんばんは。拝読させていただきました。

 面白かったです。荒んだ主人公がよく表れていたと思いますし、その主人公を導くヒロインのキャラも見事でした。主人公に感情移入もしやすく、それでいてヒロインもしっかり動いている。うーん、真似したい(ぉぃ
  alternative……オルタナティブと読むのですか。オルタネイティブと読んでいたこれまでの人生が恥ずかしいっ。そんな暴露はいいとして、この ワードがとても良かったです。常に主人公についてまわるマイナスな単語から、終盤では考えを切り替えさせるほどのプラスな単語に。まるで生きているようで した。単語のくせになんて魅力的な奴なんだ!
 内容自体、自分にはアッと驚くアイデアでした。日本語同様、英単語も意味は一つじゃないんだなぁと思い知らされました。アイデア良し、文章良し、ストーリー良し。美味しかったです、ごちそうさまでした。

 どこをどう指摘したらよいのかわかりませんが、ふと思った些事を並べてみようと思います。
 まず担任のキャラ。何かと悪い印象を受けますが、オルタナティブについてはどう思っていたのでしょう?文通りなら嫌な奴ですが、もう一つの意味を主人公に期待していたのなら「お前素直じゃないけどいい奴じゃん!」なナイスキャラに変わるので少し気になります。
  次に主人公の人称。地の文では「僕」ですが、会話では「俺」。単純ミスには思えなかったので、外面は強がりながらも内面は脆弱な感じを表現していたので しょうか?主人公の弱さは随所に表れていますが、それが強く表に出ている箇所が少なかったので、そう断定できませんでした。読解力の無さが悔しいorz
 あとは、短いシーンが若干多いように感じました。必要なシーンばかりなので削れそうにないですが、短いシーン同士を何とかくっつけられれば(個人的には!)もっと自然に流れていけたように思います。

 上手いっ、そして面白かったです。ありがとうございました。なわけで、ズズイと高評価を……。

それでは失礼します。


マグナムさんの意見
 はじめまして。
 マグナムと申します。
 掌編という短さ。
 その中でオチ勝負ではない高評価、ということで読ませて頂きました。


 文章評価。
 無理なく読めました。
 特に減点するような箇所もないです。
 しいて言うならば描写が紙芝居的だったかなと。心理描写が甘くてお芝居のようでした。


 内容評価。
 オチは確かに何もないですね。
 しかし言いたい伝えたい、といったテーマ性がそのマイナス点をある程度緩和してます。
 オルタナティブロックとは既成概念に囚われないロック、ですからね。

 しかしここに一つの矛盾が生まれます。
 「もう一つの選択肢になり得る」
 作中の台詞を引用させて頂きましたが、この言葉に主人公が感銘を受ける理由がわかりません。
 その後に「道なき道を進む」と台詞が続きますよね。
 論理がおかしくないですか?
 オルタナティブにおいての選択肢とは、既に決まっている事柄を二者択一で『どちらかを選ばなければいけない』という意味合いになっています。
 つまりそれは道なき道とは言えないのです。
 ここで説得力が半減でした。

 とは言えオルタナティブロックがそうであるように、きちんと『型にはまらない』という意味もあるんですよね。
だからこそここで選択肢などとは言わずに『オルタナティブロックとはこういうもんなんだ!』と押し切って貰ったほうがすんなり飲み込めたと思うんです。
 タイトルにもありますが変に詩的にならずにロックンロールして欲しかったかなと。


 点数考察。
 文章が無理なく読めるので0点以上確定。
 本作の弱点は心理描写が紙芝居的な点とテーマの論理性の破綻。
 紙芝居的でキャラクターが物語を動かす駒に見えてしまう。

 テーマの論理性は破綻していますが、言わんとしていることは伝わった。
 掌編においてはテーマを伝えるだけでも大変なことを考えれば評価に値する。

 以上から今回は10点にさせて頂きます。


燕小太郎さんの意見
 燕小太郎です。感想を頂いたので、返信レスを。

 オルタナティブ、という単語をテーマに置いた、よくできた作品だと思います。読みやすく、キャラクターが個性を発揮し、主人公が最後に成長する姿はまさしく小説のあるべき姿だと思います。

 ところで、気になった点があったので書かせていただきます。
 行間が空いている箇所が多いと思いました。これを場面転換ととれば、全部で11の場面(心理描写のみを抜いても10)があったことになります。物語の基本は起承転結ですから、場面転換も起承転結+エピローグくらいにまとめた方がスッキリすると思います。
 次に、人を弟呼ばわりする教師連中は、どう見ても問題ありです。生徒の金髪を説教する前にやることがあるだろう、と。
 最後に、ヒロインのバンドをやる理由がわからなかったのが残念でした。これが後半の伏線になるような雰囲気で、他の方からの指摘のとおり、長編の序章といった感じがありました。
 全体的には良い作品だと思います。ただ、掌編よりは短編、長編向きな方なのかな、と感じました。どれであれ、次回作、期待しています。


巻上つむじさんの意見
 どうもこんにちは、巻上つむじです。つらつらと思ったことを書かせて頂きます。
 もし的外れなことを言っていたら鼻で笑ってやってください。有益な批評をすることはできないかもしれませんが、どうかお許しくださいませ。

 主人公の心の成長を描いた青春物語だったのですが、とりあえず、穴が無い掌編だなぁと思いました。
 この短い中でこういう物語をまとめると、得てして消化不良気味になりがちだと思うのですが、お上手ですね。
 キャラクターの造形については特に上手いと思ったので、とりあえず簡潔に記しておきます。

 桜井⇒優秀な兄に劣等感を抱く少年。ヒロインとの出会いや一つの言葉によって変わって行く様子が分かりやすく、なおかつ鮮やかに描かれていて素晴らしかったと思います。
 キレる場面も唐突に心情が変わったというわけではなく、しっかりと怒りまでの下地があって素直に感情移入が出来ました。
 他人に対しての対応の仕方がなんかふてくされた子供みたいで可愛い(何)。
 そういえば、どうして兄と同じ高校を選んだのでしょうか? 近かったから?

 関屋⇒最初、口調だけで女だということが示されていたので少しわかりにくい(どちらとも考えられる)ところがあったのですが、好感が持てるヒロイン。
 何が一番良かったかというと、しっかりと序盤から桜井に好意を抱いた理由が読者に示されていたところ。これが無いと「あなたじゃなきゃ駄目なのっ!」と言った時に唐突さを感じたと思うので。
 金髪に染めた理由に、何かもっとこだわりがあっても良かったかも。「本気だ!」というなら奇抜な髪型、色とか金以外にも色々有りますし。尊敬する人と同じ色、とかね。
 実はギター弾けないっていうのが最後のアクセントになってて面白かった。

 先生⇒実は良い奴だった(?)。全部承知であえて憎まれ役をやっていたとしたら、先生に惚れざるを得ない!

 描写に関して、また展開に関して、どうしても駆け足になってしまうのがもったいないですね。
 特に、主人公が関屋に対して意外なほどスンナリと打ち解けてしまう辺り。
 最初は無視していたけど、段々うざったくなってきて、つい怒ってしまう。それから反省して――とか、二人の絆がもっと感じられる展開も考えられます。
 なんにしろ、ほぼ初対面同然の二人が普通に話すための何かしらのきっかけがあれば違和感なしで二人の会話に入り込めました。
 掛け合いの面白さなどもあった作品ですので、せめてあと10枚あればもっとキャラクターの魅力、主人公の感情の動きなどを細かに書けたのではないでしょうか?
 改稿するならば是非、丁度良い長さの短編にでもしてもらえたらなぁ、などと妄想しています。
 掌編で済ますには、ちともったいない――言い換えれば、掌編の枠内では収まりきらない作品であると感じました。
 いや、私も作者様のコメントにあるとおり、

>掌編と言えば、アッと驚くようなアイデアで勝負、というイメージがあるのですが、こういうあるべき物があるべき場所へ落ち着くような、そんな小さな話の方が自分は好きだったりします。

 こういう風が好きなんですけどね。それでも、やっぱりそう思わずにはいられませんでした。枚数を重ねれば確実に良くなるであろう作品なだけに。
 それでは、執筆お疲れ様でした。


夏夏さんの意見
 佐伯涼太さんこんばんは。お話拝読しました。

>あるべき物があるべき場所へ落ち着くようなお話
 良いですよね。
 読者を騙す事に長けたお話もびっくりして面白いのですが、
 私もどちらかといえばオチを狙わないお話の方が好きです。

 登場人物も魅力的であり、前向きな気持ちになれるお話で、清々として読了しました。
 度々の再読に耐え、作品から感じ取るものも、
 読んだ時の年齢や環境によって変化しそうに思います。

 すっかり読書に満足してしまったので指摘や気に掛かったところが
 なく、なんの意味も成さない感想で申し訳ありません。
 諸々の細かな点が目に付くことなくお話に没頭してしまいました。

 普段は短編、長編を書いていらっしゃるとのこと、
 また短編、長編の間に行った折には長いお話も是非読ませていただきたいです。


あかん子さんの意見
 こんばんは、あかん子です。
 作品読ませて頂きましたので、感想を置いていきますね。

 綺麗にまとまった作品、というのが第一印象。
 私もアイデアやオチが売りの掌編より、こういった話の方が好みなので好感が持てました。
 言葉の選び方がいいですね。オルタナティブのもう一つの意味や言葉遊びがよく活きていたと思います。

 ただストーリーやキャラ自体は平凡だったと言わざるを得ません。
 せめて先生が敢えて”弟”と呼んで主人公のコンプレックスを助長し、別の方向性を示した〜とかいう意外性が欲しかった。
 暗にそれを示唆していたのかもしれませんが、主人公がそれに気付くことで少し違った味付けになったのではないかと。

 それと、作者様にはこだわりがあるようですが、個人的に一人称と地の文の「僕」と「俺」の違いには違和感を感じました。

 総じて、オチも含めて良い物語だっと思います。
 それでは、拙い感想失礼しました。次回作も楽しみにしています!


フラッターエコーさんの意見
 初めまして、フラッターエコーと申します。
 佐伯涼太さんの作品を拝読しました。

 感想やアドバイスといった類は苦手なのですが、とりあえず「良かった」ことは言おうと思いまして、こうしてコメントを残しにきました。キャラなどの具体的な描写や細やかな流れは、ほとんど台詞で補っているような文章体でしたね。ライトノベルに適した作品だと思います。
 ただ、個人的にすぐに時系列を動かしているところは読みにくいなーと感じてしまいました。掌編なので仕方ない点だとは思いますが苦笑
 後は良いところばかりでした。台詞の選び方から流れ方、先生も良い具合に主人公の心にダメージを与えていたな、と。

 では、次回作も応援しています。


鳴海川さんの意見
 どうもこんばんは。掌編の勉強中、立ち寄ったので感想を残させていただきます。

 さて、他の皆様も仰っていることですが「あるべき場所に落ち着くような小説」ということを、見事に実現させていますね。流石です。
 ただ、自分の読解力がないため少々解らなかった点も。
 最初の方にある「わ、まねっこすんなー」という関屋の台詞ですが、何をまねっこしたんでしょう? 別に関屋が楽器を止めたから桜井もドラムを止めた、ということでもありませんし、ぐいっと額を押したのは二回とも桜井でしたし……。いまいち状況が飲み込めませんでした。
  あと、桜井の「俺、高校に入ったらドラムは叩かないって決めてたんだ」という台詞。これではまるで、中学にいるときからドラムを止めると決めていたみたい に思えます。だけど後の文で、ドラムを止めようと決意したのは高校に入ってからのことだと思いました。ならば、「高校に入ったら」の代わりに「もう」を入 れた方が自然な感じになるんじゃないかなぁ、とは思いました。
 気になった点は以上です。後は上手く出来上がっていたと思いますし、非常に心の落ち着く作品で好きでした。オチも、「笑った」というよりは「微笑んだ」と言った方が正しいような笑い方を自分はしました。
 面白い作品を有難う御座いました。次回作も期待しています。
 余談ですが、「よつばと!」と「けいおん!」を思い出したのは自分だけですかね?


夜凪さんの意見
 こんばんわ、お世話になります夜凪です。拝読させていただきましたので感想を。

 掌編の分量でありながら、下手な中短編より読み応え、安定感のある良作だったと思います。この短い中にリアルな葛藤と、タイトルを含んだコンセプトの軸を貫いた事に、個人的に惜しみない賞賛を。

 気 になったところはほとんどないのですが、主人公が音楽を捨てた事がそれほど苦でなかったように思えてしまった事と、またそれを含めて、主人公の決意、覚悟 が見えにくい構成だったように思うこと。あと、これは想定内の意見と思われるのですが、先生が主人公の事を初めから出来損ないのような扱い方をしている事 がやや違和感でした。
 またこの枚数だと入りきらないことも重々承知の上での意見で、かつ読後感を弱めてしまうかもしれないですが、入学時は先生に 期待される→しかし兄に及ばない→先生に邪険に扱われる、といったプロセスを挿んでおけば、主人公サイドの心象にリアリティや厚みが増すかもしれない、と 思いました。

 意見としてもその程度で、読後感の爽快な、いい話だったと思います。また作品のコンセプトが好きで、自分もこのようにオチ重視じゃない話が好きなほうなので、このような作品が増えればいいなぁ、と思いました。

 短い上に雑な感想で申し訳ないです。点数は……一読時から決めておいたものを。ひどいタイミングで申し訳ないです。本作のクオリティなら十分高得点の基準を満たすものだと思うので、今後、点数が伸びます事を(汗)

 それではこのあたりで失礼します。ありがとうございました。


はだいろさんの意見
 はじめまして。はだいろと申します。

 タイトルから惹かれました。言葉選びが素敵だと思います。主人公の気持ちがしっかりと書かれている良い作品だと思いました。
 何よりオルタナティブという言葉にあるたくさんの意味から、いろいろ展開させていく構成が鮮やかでした。もう忘れません、オルタナティブの意味(^^
 敢えて言うならヒロインサイドですかね。ヒロインのバンドをやりたい理由が少しでももっと触れていたら、主人公の心の動きにも更にリアリティーが増したかなと思いました。

 これからも頑張ってください。
 それでわ。


AQUAさんの意見
 おはようございます。作品拝読しました。(遅ればせながら……)
 『あるべき物があるべき場所へ落ち着くような、そんな小さな話』が、自分も大好きです。
 ただ、掌編だとかなりの難易度で……現在もドスンと壁にぶつかっております。
 そんな自分を棚にあげまくって、感想を書かせていただきますね。

 まず、ストーリーについては文句無しです。
 こういう青臭い話、ニヤニヤしちゃいますねぇ。
 主人公、ヒロイン、先生とツボを抑えた配役と、無駄の無い中にも味がある展開。
 特に『結』の部分が、数行なのにイイ味出して引き締めてます。
 のだめっぽいコミカルな二人の関係と、ヒロインのしでかす(現実にありえるレベルの)小ボケが可愛いです。
 しかし読みやすく読後感も爽やかなのに、ずしんとハートに残るまではやや足りず……。

 その理由は、エピソードの数かなぁと思いました。
 文字数制限を意識した中では、どこに重きを置いて、どこを削るか……。
 特に削る作業は泣きたくなりますが、ガッツリ切ってしまわなければ一つ一つのエピソードがどうしても薄くなってしまいます。
 毎度、自分もこの辺で躓くのですが……。

 テンポの良い文章も相まって、するすると流れるように読み進んでいく中で、主人公の葛藤やヒロインの熱さが心を通り過ぎて行くというか、自分には伝わりきらなかったところがありました。
 もし短編でしっかり描かれていたら、たぶんホロッとくるようなプロットだと思うと、ちょっと残念です。
 もっと鈍行列車でスロウライダーな感じが似合う話かなぁと。

 具体的に感じたのは、主人公についてはやや丁寧に書き過ぎ、ヒロイン&先生はちょっと足りない、かなぁと。
 逆に『生活指導の鮫島』とか、名前しか出て来ないのにツボでした……そうだよね、鮫島怖いよねと。
 こういう上手さ、短文で複数の情報を伝えるような描写をもっと丁寧に散りばめたら、ストーリーにしっかり山と谷ができるような気がします。
 例えば、主人公がうじうじ悩む心象部分を、もっと短くてリアルな描写に置き換えて、その分を『オルタナ』という言葉と音楽への情熱に集約させるようなステップに……と、高い要求をしてしまうようですが。

 これが良い案かどうかは分かりませんが、冒頭からヒロインが金髪で登場するとか。
 彼女が金髪になってしまった理由については、主人公が軽めの回想でさらっと読者に説明してあげるとか。
あとは、小道具を使うのも文字数カットの良い手法かと。
 机の中に『バンドやろうぜ』という雑誌(←昭和?)が、勝手に入れられていた……主人公は手慣れた様子でそれをゴミ箱に叩きこむ。彼女ががっかりする姿が目の端に映るけれど無視、とか……。

※ちなみに、こういう掌編で物語を作るとき、自分が良く参考にしているのが、昭和歌謡の歌詞です。
 ちあきなおみさんの『喝采』あたりは、かなりの名作と思っています。
 あんなに短い言葉で、一人の薄幸な女の人生を伝えるとは……。
 特に「黒い縁取りがありました」という一文で、相手の具体的な描写は全く無いのに、大事な人の死を伝えてくるところとか最高です。
 前作で使った『ホテル』という曲も「自分の電話番号が男名前で書いてある」とか……男名前ってのがリアルで、泣きそうになります。
 テレサテンの『愛人』の「例え一緒に街を歩けなくても」ってのも。(語り尽くせないのでこの辺で)

 なんだか、長い上にまとまらない感想でスミマセン。
 掌編は、インパクト重視のネタも大好きですが、短い言葉でしっかり物語を作るって、スキルアップとしてはすごく良いチャレンジだと思います。
 次回作も楽しみにしてますねっ。


稲葉うさぎさんの意見
 こんにちは、稲葉うさぎと申します。
 御作を拝読いたしましたので、拙いですが感想を失礼いたします。

*現在「無作為に選んだ作品を呼んで感想をしよう」という取り組み中です。
 ご迷惑でなければ幸いです。
 なお、私の主観が大いに入ったものになりますが、あらかじめご了承ください。

 例外なくテンプレ使わせていただきます。ごめんなさい。


 感想です。
 掌編=〜10枚な訳で、この作品も例外なく掌編なのですが、あまりそんな気がしないです。
きっと、枚数を意識しないで読んで何枚だったか答えるとすると私は20〜30と答えるのではないかと。中身が濃いです。
 その割に「無理やり押し込んだでしょ」って感じもせず、もう終わっちゃった(いい意味で)という感じです。
 うまくいえませんが、この枚数にこれだけ突っ込んで、無理やりにならなのはすばらしいと思います。

 物語ですが、優秀な兄と普通な弟。兄に対する劣等感とヒロインの持ち込むロックンロール。何かこれだけで香ばしいです。

 ストーリー全体を「オルナタティブ」というテーマが支配するのですが、これもいいなと思います。
 ドラム出来るやつなら誰でもいいんだろ?って勘違いが関屋の一言で解決して、「オルナタティブ」の後ろ向きな「代替可能」から「もう一つの選択肢になり得る」という前向きなニュアンスに置き換わって、一気に終結に向かいます。
 なんというか、無駄がない。
 この「セイシュン」な感じがうまく出ていると思います。

 最後の関屋は「かわいい」。にやけてしまいます。

 関屋という、青臭いちびっ子ロッカーと、どこかクールで澄ましている風の「僕」の相性がいいと思いました。どなたかのレスで見かけた「のだめ」みたいw
 中身はそのまま、容器はスリムなおいしい作品でした。
 好きです。とても。
 素敵なお話をありがとうございました。
 それでは失礼いたします。


ラストさんの意見
 こんばんは、ラストです。

 拝読させていただきましたので感想を。
 うーん、かなりの良作だと思いました。天晴れです。
 テーマ性が非常にはっきりとしており、好感のもてる作品となっております。
 文章も読みやすく、キャラクターも掌編とは思えないほどしっかりしていたのではないでしょうか。

 気になった点に。
 まず、彼女の方をもう少し掘り下げるのはありかと思いました。
 ロックに対する彼女の思いに主人公が何かを感じ、さらに、実は彼女自身が彼に共感する何かを持っていた。
 という風な繋がりがあったら、個人的にはより一層、このテーマを楽しむ事が出来たかなぁと思います。
 とはいえ、この枚数で書くならばこの展開が天井だとも思います。

 あとは、所々で入る主人公のモノローグはもう少しネバネバさせてもいいかもしれません。
 あっさりしているのは非常に読みやすいのですが、同時に彼の悩みを軽く感じてしまうため、
 彼が怒る展開や、オルタナティブの意味を知る場面での演出も力不足な感じがしてしまいます。
 テーマが非常によく、彼の心理や彼女の性格も好感のもてるものとなっておりますので、
 掌編10枚作としても十分に面白かったのですが、個人的には短編35枚作として読んでみたかったという印象でした。
 とか何とか言いましたが、面白い事には変わりないので、この点数を。
 掌編でこの点数を出すのは一年半ぶりです!(多分)

 良作をありがとうございました。
 次回作も頑張ってください。
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