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吾輩はカビキラーである。名前はまだない。普段は戸棚にしまわれている。ここは暗くて、じめじめしている。吾輩はこんな場所は嫌いなのである。
時折外に出してもらえることがある。そういうときは決まって大掃除のときであり、吾輩の唯一の活躍の場でもあるのだ。 しかし所有者である女性は忙しいのか、最近、吾輩が使われることはなかった。 暗い戸棚の中でじっとしている吾輩。周囲にはただ闇があるばかりだった。あまりにも暇すぎて、近くいるはずのマジックリンに話しかけてみた。 「マジックリンよ。吾輩の話し相手になってくれんか」 しかし返事はない。 昔は退屈しのぎによくマジックリンと話をしたものである。だが、このところマジックリンは元気がない。 しばらくして、マジックリンが呟いた。 「……カビキラーくん。今さっき僕に話しかけなかったかい」 「ああ、話しかけたとも」 「最近とみに眠くてね。……ごめんよ。カビキラーくん」 「まぁ良いさ。吾輩は気にしていない」 吾輩がいうと、静寂が舞い降りた。 マジックリンは、何かを言おうとしたのか、空気を何度も吐き出した。 そして吾輩は気付いてしまった。 「マジックリン……。空気、だと?」 「……気付かれちゃったかい。カビキラーくんは、騙せないね……。実はそうなんだ」 「……マジックリン」 吾輩たちにはフタがある。乾いてしまわぬよう、普段は閉じられているはずのフタが。 だというのに、空気が漏れる音ということは……。 「そう。僕のフタは、開けっ放しなんだ……」 「……人間め!」 「やめてくれよ、カビキラーくん……! 所有者を悪く言うのは、よくないことだよ」 マジックリンが所有者のことをかばった。そのことが余計に吾輩を苛立たせた。ふつふつと、吾輩の中の内容液が熱くなっていくのを感じた。 「だが、吾輩には許せぬ……。このまま、中身が乾いてなくなってしまえば、マジックリン。君は……!」 マジックリンは優しい声音でいう。 「いいんだ。もともと、僕の内容液はもう尽きかけていたんだ。寿命だったんだよ。それが、少し早まっただけさ。フタを閉め忘れた、あの人は悪くない」 あの人といったとき、マジックリンの声が、花咲くように弾んだ。どう聞いても力のない声なのに、その言葉だけは違って聞こえた。 そこで吾輩は確信した。 「マジックリン。まさか君は……」 「そう、なんだ。僕はあの女性に恋をしてしまったんだ」 「しかし」 「いいんだ。身分違いなんて弁えている。結ばれないことなんかとうに覚悟している。けれど、仕方ないだろう。恋をしてしまったんだから。一度はじまった恋は止められない。何処までも一途に僕はあの女性を想い続ける」 「マジックリン……」 「それでも、この想いが通じたらと、神に祈らずにはいられない」 「……吾輩には理解できない」 「ああ、確かに僕のようなトイレ用洗剤が人間の女性に恋をするなんて、おかしな話さ。けれど仕方ない。それが恋なんだ」 吾輩はマジックリンの気迫におされ、何も言うことができなくなっていた。それほどまでにマジックリンの声には、真摯さと、一途さと、そして溢れるほどの情熱がこめられていた。 「気付いたときには、恋をしていたんだ」 彼の寿命はつきかけている。それなのにここまで話せるのは、内容液の替わりに、情熱がマジックリンの内部を溢れかえらせていたからだろう。非科学的な想像でしかないが、吾輩にはそう思えた。 しかし、その後のマジックリンの声はどんどん小さくなっていった。 「君も恋をすればわかるよ。カビキラーくん。だから、僕に免じて、あの女性を恨まないであげ……て……」 「……マジックリン」 その後、マジックリンは喋らなくなった。マジックリンの生きている気配が消えて行くのを感じ、吾輩は呟いた。 「吾輩が、恋を……か」 マジックリンの魂がこの世から消え去った後も、未だに戸棚は開けられていない。じめじめとした気配が、吾輩の癪に障る。 「マジックリンよ」 つい吾輩は呼びなれた名前に、声をかけてしまう。 「そうか。君は既にいないのだったな」 そして、寂しくなる。身体の中に内容液はあるのに、それがなくなってしまったかのような喪失感。 この戸棚には吾輩一人しかいない。 いないはずなのに、 声がした。 「どうしたの? そんなに寂しい声をだす貴方はダレ?」 愛らしい声だった。吾輩は生まれて初めて、胸のときめきというものを感じた。 「吾輩はカビキラーだ。お前こそ誰だ」 ひゅう、と、通気口から風が抜けていく。 「……あたしは、あたしは、カビ――」 吾輩は言葉を遮っていった。 「なんと。お前も吾輩と同じカビキラーか」 「……そうなの」 なるほど。おそらくは、吾輩の内容液がすべてなくなったときの後釜なのだろう。所詮、吾輩たちは使い捨ての道具なのである。そのことを寂しいと思ったこともなければ、つらいと思ったこともない。道具として使われることが吾輩たちの存在意義なのだから。 吾輩たち道具は、基本的に、その道具の本分であるところを為す事に達成感を感じる。 ホウキであれば、掃除に使われれば満足する。マジックリンであれば、汚れ落としに使われれば幸せになる。フライパンであれば、おいしい料理を作ることで満たされるのだ。 だから吾輩に消滅への恐れはない。 一番怖いのは、マジックリンのように、自分の仕事以外のところで消えてしまうこと。ただ、それだけが怖い。 だから吾輩は、マジックリンを哀れに思う。 「ねえ、貴方は今、何を考えているのかしら」 女の声には、わずかばかりの怯えが含まれていた。吾輩の後釜だというところに、吾輩が怒っているのだと思ったのだろうか。 吾輩はつとめて優しい声でいう。 「亡き友のことを考えていた」 「そうなの」 安堵にも近いため息じみた声に、吾輩は少しだけ胸が高鳴った。 二人きりで様々なことを語り合った。 吾輩が彼女のことを好きになるのに、さほど長い時間は必要なかった。吾輩はマジックリンの「気付いたときには、恋をしていたんだ」という言葉を思い出す。 なるほど。恋とはこのようなものなのか。 吾輩は、彼女と出会ったその日、恋を知ったのだと気付いた。 彼女が笑えば吾輩も幸せだった。 ある日彼女がこんなことを聞いてきた。 「ねえ、どうして貴方は、こんなにもあたしに優しくしてくれるの?」 「同族に優しくするのは当然だ。吾輩でなくてもそうする」 「そう、そうよね」 彼女の声が沈んで聞こえた。 「違う。違うんだ。吾輩は同族だから優しくしているのではない。お前だからだ。相手がお前だから優しくしているのだ」 彼女は何もいってはくれない。吾輩は何か間違ったことをいってしまったのだろうか。無言の時間が一秒過ぎるごとに、吾輩は先ほどの言葉を後悔した。 もしかしたら、彼女は吾輩をただの友達としか思っていなかったのかもしれない。 吾輩は、何か言い訳をしようとした。 その瞬間、彼女が言った。 「あたしも、カビキラーさんのこと、好きよ」 「本当かっ!?」 吾輩は無粋にも問いかけてしまった。自分の想いを伝えてくれた女性の言葉を疑うなど、恥ずべきことだ。それでも、吾輩はすぐに確証を得たくて仕方がなかった。 「ええ。本当よ。あたしに、こんなにも優しくしてくれるカビキラーさんが大好き」 吾輩の内容液は沸騰しそうだった。緑色の外装が、赤くなっている気までした。 「大好きよ。カビキラーさん。ごめんなさい」 「何を謝る必要がある! 吾輩もお前のことが好きだ。大好きだ。愛している。愛している。愛している。吾輩がその役目を果たし、内容液がなくなり、消滅するまで、ずっとそばにいてくれ」 「……ええ。でも、その約束は、できないの。ごめんなさい」 彼女は不安になっているのかもしれない。吾輩は理をもって彼女を勇気付けようとした。 「君は吾輩のスペアなのだろう。ならば、吾輩が先になくなることは必定。君の内容液がなくならぬよう、吾輩があの憎きカビどもを、殲滅しつくしてやろう」 数秒開けてから、彼女が頷く。 「……ええ。そうね」 その声はとても頼りなく聞こえた。 だが、彼女は吾輩が支えていこう。吾輩はそう決めたのだ。 彼女が自分の内容液を使わないように、この家にあるカビは、吾輩ができるだけ殲滅するのだ。 マジックリンよ。 吾輩にも恋というものがわかったぞ。 だが、君と違って同族との恋だ。 吾輩は、幸せになる。なってみせるのだ。 戸棚は未だに開けられない。 中は闇で満ちていた。 所有者が家にいないのか、掃除をしていないのか。次に使用されるときは多量の消費を覚悟しなければならないだろう。それは誇らしいことであったが、彼女との別れが早まるのは望ましいことではなかった。 とにかく、その間にも吾輩と彼女の間の恋は深まっていた。もはや愛と言い換えてもいいかもしれない。 彼女は新型のカビキラーなのだろうか。それとも、吾輩と同型のカビキラーなのだろうか。 その辺りのことを聞いても彼女は教えてくれない。 彼女への想像は日増しに膨らんでいく。 吾輩は、彼女を愛している。 じめじめとした雨の日だった。今日はやけに彼女の調子がいい。結構なことだ。 彼女は湿度の高い日に元気になる。吾輩には、湿度などどうでもよい。だが、彼女が嬉しいと吾輩も嬉しい。そのため、最近では雨の日が好きになっていた。 そんなとき、戸棚に人間の足音が近づいてきた。 「とうとう使ってもらえるのだろうか。心が躍るな」 吾輩は彼女にいいところを見せようと思い、気持ちが浮き足だっていた。しかし彼女の声は暗かった。 「……ええ」 「どうしたのだ。ははあ、さては吾輩の内容液がなくならないか心配しているのだな。安心しろ。まだ余裕はある」 「……ええ」 「それよりも、吾輩はお前の姿を見られるのが楽しみだ。同型なのか、新型なのか、よもや旧型ということはあるまい」 うきうきとする吾輩の言葉に、彼女はどんどん元気をなくしていく。 そして、戸棚が、開けられた。 光が中に入ってくる。 戸棚の中にカビキラーは、吾輩一本しかいなかった。 吾輩は唐突に、心の奥底が締め付けられるような不安を抱いた。 「……おい? 何処へいったのだ?」 「……ここよ」 声は聞こえても、彼女の姿は見えなかった。 「ど、どこなのだ」 声がした方をみてみると、戸棚の隅っこにカビが生えていた。 「お、おい……?」 「あたしは、ここよ」 その声は、まぎれもなく、カビから発されていた。 「お、お前……」 吾輩は頭の中が真っ白になった。何を言っていいか、何ひとつ思いつかない。 「騙していて、ごめんなさい。あたし、カビだったの」 カビだった。 カビだった。 カビだった。 その言葉だけが吾輩の頭の中で反響する。 「吾輩を、騙していたのか……」 「……ごめんなさい」 「騙していたのか……!」 そのとき、人間が吾輩を手に取った。 『あらやだ、こんなところもカビがあるわ』 人間は吾輩をかまえ、カビへと向けた。 もはや死に体である彼女はいった。声は震えていた。 「本当のこといえなくて、ごめんなさい」 違う。彼女は騙していたんじゃない。ただ、ほんの少し勇気がでなかっただけなんだ。 「……カビキラーさん。大好きよ」 吾輩の中にあるカビキラーの本能は、カビを消滅させたいと願っていた。だが、吾輩はそれ以上に彼女のことが大切だった。 「吾輩も、大好きだ。……すまない。本当に、すまない」 「いいの」 人間が吾輩のトリガを引く。 彼女の近くにいたカビが、苦しげな声を立てて消滅していく。 吾輩の噴出口が、彼女の方を向いた。 「やめてくれ……! 人間よ。やめてくれ……! 頼む!」 だが、その声は人間に伝わることはなく、 吾輩と彼女の間だけに、虚しく響いた。 「いいの。カビキラーさん。こうなることは、判っていたの。辛い役目を背負わせて、ごめんなさい」 「いやだ、いやだ、いやだ! 吾輩は彼女を殺したくない! やめてくれ……」 無常にも、人間は指に力をこめた。 祈りが神に通じたのか、人間の指がすべり、トリガはひかれなかった。 わずかに安堵する。 一度始まった恋は止められず、吾輩は彼女がカビだったとしても愛していた。 「吾輩は、お前が大好きだった」 「あたしも、カビキラーさんが大好きだったわ」 「「さようなら」」 そして奇跡に二度目はなく、 無慈悲な内容液は彼女に直撃した。 それ以来吾輩は、愛を捨てた。 吾輩はカビキラー。 恋を知り、 愛を生み、 そして愛を失った。 吾輩はただカビを殲滅する。 内容液を射出するたび、 彼女を想い出す。 吾輩は、 カビキラー。 |
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作者コメント
カビキラー擬人化恋愛ものです。 ご一読頂けると嬉しいです |
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冒険者さんの意見
こんばんは。 冒険者と申します。 初めまして。 タイトルに惹かれて思わず読んでしまいました、こんな短い文章の中に、様々な葛藤が詰め込まれていて、良い作品でした。 マジックリンちょっと可愛そう…我が家の棚の中にあるマジックリンやカビキラーも、まさかこんな会話をしているのかなぁ? などと考えました。 ただ…カビキラーの彼女、「カビ――」と言った直後にすぐに正体がわかりました。 そしてやっぱりオチも想像出来てしまいましたね。 でも面白かった、最後の一文で、単なる悲恋で終わらせないという様な物を感じましたし。 評価は40点ですが、本当は45点くらいだと思って下さい。 ではでは。 お互いにこれからも頑張りましょう。 とさとさんの意見 こんにちは。 パロディの一文目からうっかり読み始めてそのまますっかり最後まで読み切りました。いや、良かったです。簡潔ですっきりとした文章も雰囲気をつくるのに一役買っていて好印象でした。 最後とか、笑っていいのかなこれって思った私は人でなしなのしょうか。だってカビキラーなんだもの……。かっこいいけど、カビキラーなのですもの……。この自分の中の微妙な食い違いを楽しんでました。 とりあえず、普通に人間でやっていたらここまで楽しめなかったですね。なかなかシュールで(シュールの使い方あってますかね)面白かったです。 でもオチが想像できるのは欠点ですね。でも、作者様的にそんなに隠そうとしているようにも見えなかったので、いいのかなと。 では、こんなところで失礼します。 剣屋一刀さんの意見 拝読しました、剣屋です。 シュールさと情愛が綯い交ぜになった突飛な作品でした。 我輩の好きな相手が同属のカビキラーではなく、カビというのは、私にとっては見事に騙されました 笑 こてこてかもしれませんが、私には新鮮でしたし、この展開好きだなあと思いました^^ 意外性の中にも、短い枚数の中で、マジックリンとの友情話、カビとの直情的な恋慕の情を紡ぎ出しておりましたし、読み応えがありました。 作品内容に、より複雑化した関係を求めるのは、お門違いと思いますので、深みに関しては言及しないでおこうと思います。 また、この話のおかげで、常日頃お世話になっている日用品を大切に使ってあげようかな、と優しい気持ちになれました。 御作は、カビキラーを使うことによる、なにかしらの、教訓やメタファーというものが仕込んであったのかは、私では読み取れませんでしたが、日用品への愛着などをよくよく考える契機にはなりました。 単純に面白かったので、この評価とさせて頂きます。 半熟玉夫さんの意見 はじめまして、半熟玉夫といいます。 作品を読ませてもらったので、短いながらも感想を書かせて頂きます。 タイトルが斬新で、すごく惹きつけられました。 斬新なタイトルに負けないほど、面白く斬新な内容がとてもよかったです。 ギャグ的な内容かと思ったら、もの凄く切ない話で、 不覚にも感動してしまいました。 とても面白かったです。 良い作品をありがとうございました! 磯野栄次郎さんの意見 はじめまして。 読み終わった後に、腹抱えて笑っちゃいました。 コントとかにしたら面白いんじゃないかなぁ? なんて、思いながら発想の凄さに圧倒されました。 こんなに馬鹿馬鹿しい設定なんだけど、中身は真面目。 其れが読んでて滑稽な感じがして、妙にバランスが取れていてスゲーって思いました。 磯野栄次郎さんの意見 こんにちは! カビキラーというのは本当に良くできた商品名ですよね。 「カビ」を「殺すもの」という性能を間違えようもなく伝えてくる。 そんなカビキラーさんが主役なこの作品は、まっくらな世界の中で一切の動きもなく行われるドラマを良く表現していたと思います。 基本的に「動きがない」とか「見た目が書かれてない」とかそういうのはマイナスポイントになりますが、これは必然性がある。何と言っても「カビキラー」に「カビ」に「マジックリン」という動けないものの上に舞台は棚の中。うまい解決方法だと思いました。 それだけに読者を飽きさせないような内面で進められる独白部分に魅力が感じられなければ面白くなくなってしまうのでしょうけれど、これはそこをうまくクリアーしたと思います。 あとはネタの部分ではありますが「カビ」さんの登場シーンで結末まで予測がついてしまって感動が少しうすかった感じがいたしました。カビと読者にわかってしまうような情報を出すのはもう少し後でもよかったんじゃないかと思います。 以上短い感想ではありますが、この辺で。 次回作もお待ちしております! エルナインさんの意見 拝見させて頂いたので、感想を置かせて貰いますね。 パロディかと思えば、ちゃんと独立した話でしたね。別に「吾輩は猫である」を意識されずに作ってもよろしかったのでは、とは思いますが。 何気ない日常小道具で物語をつづる、というのは童話のようなメルヘンチックな雰囲気で、大変面白かったです。カビキラーの口調こそ硬いものの、全体的な文章は平易で、作風にもぴったりでした。むしろカビキラーがこの古風な言い回しだったからこそ魅力的だったのも事実だと思います。 面白さでいえば、大変素晴らしい出来だと思います。 五月晴雨さんの意見 はじめまして。五月晴雨と申します。早速感想を書かせて頂きます。 実は、本作は昨日の夜に読んだのですが、あまりにも衝撃的だったので感想を書けませんでした。 というのもですね。最後のトリガーのシーンでですね、情けないことにマジ泣きしてしまいまして笑 これは人間ドラマより人間性に溢れた、まさしく、カビキラーとカビと、そして忘れちゃいけないマジックリンのドラマです。 出だしは例のパロディで、『なんだこのシュールな展開……!』と呆然としてしまったのですが、次第に作品の流れに引き摺り込まれ、最後は涙。しかも、綺麗にまとまっていました。 文章自体も読み安かったですし。 心に残る小説をありがとうございました。次回作にも期待しています。 それではっ! いちおさんの意見 初めまして。いちおと申します。拝読させて頂きました。 面白かったです! 以下、拙い駄文ですので、取捨選択をお願い致します。 ●タイトル 何と「読まなければならない」と思わせるタイトルですかw ……それは言い過ぎにしても、タイトルで思わずクリックしてしまいました。 ●文章 ・まんまとタイトルにつられて開いて、一文目。 >吾輩はカビキラーである。名前はまだない。 漱石様もカビキラーに持っていかれるとは思わなかったでしょうねw 読み始めてすぐに、物語の方向性と空気感、そして文章の読みやすさで先へと促されました。 カビキラーとマジックリンと言うのがまた、身近過ぎて面白いのですよ……w 軽快でテンポ良く、かつユーモアを含んで読み進められるとても好きな文体でした。 芝居を見ているかのようなセリフの言い回しも、とてもよく溶け込んでいたと思います。 ●登場人物←人物じゃないけどw ・カビキラー:非常に硬派ですね。少々堅物かと思いきや、カビにめろめろなのが可愛らしいw 誠実で一本気が強いのでしょう。 >「違う。違うんだ。吾輩は同族だから優しくしているのではない。お前だからだ。相手がお前だから優しくしているのだ」 一気に躊躇なく言い切ってしまいましたね。このセリフだけ、妙に小慣れているように感じてしまいました。 個人的には少し躊躇いや照れがあっても良かったかもと思います。 >何を謝る必要がある! 吾輩もお前のことが好きだ。大好きだ。愛している。愛している。愛している。吾輩がその役目を果たし、内容液がなくなり、消滅するまで、ずっとそばにいてくれ」 ここは何か興奮絶好調と言う感じで良いですね。しかもちょっと切ないぞ; ・マジックリン:すぐにいなくなってしまうとは言え、とても印象深いキャラクターです。少し気が弱そうな、真面目で一途な感じ。 >「いいんだ。身分違いなんて弁えている。 いや、身分って言うか……(汗 >「ああ、確かに僕のようなトイレ用洗剤が人間の女性に恋をするなんて、おかしな話さ。 懸命なマジックリンに涙……ではなく、すみません、噴きましたwww ・カビ:彼女も少し内気そうな雰囲気ですね。それともそれは、カビであることを黙っているがゆえでしょうか。 ●物語・構成・設定 ・物語の展開そのものは、基本的に王道路線を辿っていると思いますが、何せその味付けが良いですね。力量と言うものでしょうか。 カビキラーとカビの恋! ついぞ聞いたことがありませんorz 中だるみや飽きを感じさせることが全くなく、展開が速いと思うこともなく、物語の内容にちょうど良い長さで綺麗に纏められていると感じました。むぅ、上手い……。 ・気になった点は下記の一箇所だけです。 >その後、マジックリンは喋らなくなった。 急にお亡くなりになってしまいましたね。これって、既に内溶液は空っぽだったってことなんでしょうか? それとも中身はまだ残っていても、気化度合いとかで何たらとかあるんでしょうか。ちょっとわかりませんでした。 ここでさくっと尽きてしまうのが物語の軽快さとスムーズさを生み出しているのだろうと思う反面、話すだけ話して逝ってしまうので、ちょっと都合良くも思えてしまいました。 簡単な説明で良いと思うので、『数日は意識が持ったものの、気がついたら呼びかけに全く応えてくれなくなった』と言うような段階を経ていると緩和されるような気がします。 ●その他:単に突っ込んでみたいだけなので、気になさらないで下さい。 >「そう。僕のフタは、開けっ放しなんだ……」 す、すみません、以後気をつけます。 >吾輩の内容液は沸騰しそうだった。緑色の外装が、赤くなっている気までした。 ……っwww 勝手にデザインを変えてはいかーんっw >だが、彼女が嬉しいと吾輩も嬉しい。そのため、最近では雨の日が好きになっていた。 ああ、何か巧みな一文。どうでも良い雨の日が好きになってしまうところに、カビキラーの愛情が(涙 > カビだった。 この三回連続、笑っていいやら、涙していいやら、複雑な気持ちになってしまった私……。 無駄に長い感想ですみません; とても面白かったです。文章にも文句はなく、構成も綺麗で、良作だと思いました。 読ませて頂いて良かったです。ありがとうございました。 また次回作も楽しみにお待ちしております。 tanisiさんの意見 タイトルにつられてあまり期待しないで読みましたが…感動しました。 オチはわかりましたが、物なのに感情豊かな主人公のおかげで全然気にならない…。 むしろ、オチがなんとなく読めているからこそ、途中のカビキラーの幸せな感じにもどこか哀愁のようなものが感じられたのかなと思います。 読者の勝手なわがままですが、愛が深まっていく描写をもっと長くしてみてもよかったのではないかと思いました。 よい作品をありがとうございました。 しゅーんさんの意見 2012/11/07 こんばんは。 心惹かれるタイトルですね。思わず笑ってしまいました。 少々批評からは外れた内容になるのですが、先に書いておきます。私は起承転結の『転』の部分が苦手です。『結』に至るまでの暗い展開に疲弊してしまうんです。さらに、『中だるみ』がどうしても許せずスピード感がない作品は確実に読むのを諦めてしまう質です。この点について偏った意見になってしまったので、前置き程度に……。頭に入れておいて下さると、私の伝えたいことを理解していただけると思います。 この作品は私の苦手としている『転』の部分がある程度、予想できるように提示されており、おかげでその場面に差し掛かっても落ち込むことなく読み進めることができました(彼女がカビであるヒントが多く散りばめられていたので、筆者はわざと読み手に彼女の正体を伝えるような書き方をしたと考えています)。見えている結末に迫る構成は疾走感があり、読了後はすっきりとした気分になりました。 「内容液が熱くなる」、「緑色の外装が、赤くなっている」などの、カビキラーという立場を活かした表現が面白く、その結末に反して明るい気分のまま読むことができる不思議な作品でした。こういった表現が、シュールなタイトルを引き継いで、読む側の求めていた通りのものを提供してくれていますよね。彼女を仲間だと思い込み恋に酔うカビキラーと、全てを知っている読み手の温度差もシュールさに拍車を掛ける要素になって面白いです。 そしてこの作品は、物語のことだけを考えさせる作者のその腕が素晴らしいと思いました。さっぱりとした恋愛と、死????中身を使い切られることはカビキラーにとって、人間の死と同じことですよね????への前向きな心持ちは、淡々とした文体に合わせたかのようで、綺麗にまとまった印象を受けます。浮いた要素がありません。きっと書きたい内容をたくさん削られたのではないでしょうか? 必要なことですが、とても難しいことですよね。 例えば、武器について細かく描写された文章を読むと『この作者はこういうものが趣味なんだろうな』と想像してしまいますし、取って付けたかのような恋愛には『薄っぺらいなー。必要だったのかなー』と感じてしまったり。そんなことを考えている間は、物語を放り出して現実の世界にいるということですよね? 読む側を飽きさせず、物語にだけ没頭させてくれる、非常に良い作品でした。 |
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