高得点作品掲載所     巻上つむじさん 著作  | トップへ戻る | 


Under the blue sky

 屋上から見える空は晴天で、隅っこのほうで縮こまっている雲はなんだか情けなくも見える。下からはパン争奪戦、あるいは学食の順番待ちの騒音が聞こえてきて、参加していないことに対してささやかな優越感を覚えた。
 昼休みにも関わらず、人は全く視界に入ってこない。そもそも一般的な認知を受けているのか不明な屋上は、今日も貸切状態だった。
 春の日差しがもたらす恩恵を享受していると、階段から屋上へつながるドアが開いて、一人の見知った女子生徒が姿を現す。視認できた瞬間にパズルのピースが埋まったような安堵感を覚えるのは、俺とそいつが常習的にこの場所を利用しているからだろう。
「よぉ、樋上」
 いつものように声を掛けると、いつものような返答はなかった。樋上はなんだか緊張したような、あるいは気まずさを抱えているような顔で、地べたに座り弁当包みを広げる俺の前に立っている。
 太陽を連想できなくもないはつらつとした女子、という印象を俺含む男子生徒から抱かれているこいつにしてみれば、そんなのは珍しいことだった。あまり見たことがない様子で、俺でなくても心配するだろう。
 何かあったのかと声を掛ける前に、何があったのかを宣告される。
「私、彼氏ができたんだ」
 その言葉を聞いた瞬間、動悸が通常時の五倍増しで激しくなった。それは命にかかわる速さなんじゃないか、とかいう突っ込みをしているような状況じゃない。
 事情やら何やらを聞くのも忘れて、今しがた言われたことを何度も何度も反復する。カレシガデキタ。片仮名にしても愛嬌が沸きそうにはなかった。
 原因不明の名状しがたい感情が胸の中に芽生えて、気分が悪くなる。無理矢理に自分を引きずり出されて、心情の吐露を強要されているような感覚に襲われた。
 樋上は、黙ってこちらを見ている。俺の様子を伺っているのかもしれない。目は合っているのに、こんなに近くにいるのに、樋上がやけに遠い存在に思えた。
「まぁ、えっと。どうぞ、お幸せに」
 それだけ言って、俺は腰を上げた。この場にいること自体に罪悪感を覚えて、樋上の目も見ずに早々と立ち去ろうとする。
 もっと言うべきことはあって、言いたいこともあったはずだけれど。
 それがなんなのか、俺には分からなかった。

『Under the blue sky』

 樋上奈々と俺こと相葉宗助との間にあったものは、フライパンだった。
 俺たちが通う、将来の母校となる予定の高校では必ず部活動に所属することが義務付けられている。一年前、入学したてのとりあえず楽な部活に入ろうとしていた俺が目をつけたのが、部員数五名の料理研究会――通称料研だった。
 思ったとおりの幽霊部活で、存在そのものが認められていることが不思議なぐらいに、何もしていなかった。過去形で表しているが、当然と言うべきか今でもほぼ全ての部員が何もしていない。顔合わせだけをしてその後一度も会ったことがない茶髪の先輩は、一年の部費が五千円だということを話して一人で爆笑していた。
 そしてそれに同調するようにして曖昧な笑いを返しているのが、樋上奈々だった。その姿を一目見た瞬間、俺はあいつのことが――という少女漫画的な展開はなく、その場は適当に意味のない会話を交わして別れたように思う。きっとその時俺の高校生活の中に、樋上はカウントされていなかった。
 転じたのは、次の日の朝。突然廊下で話しかけられたことを、鮮明に覚えている。
「相葉くん、フライパンを買おう」
 知り合い未満の女子生徒、それににこやかスマイルと意味不明な言動とを掛け合わせて、どう対応していいかわからない状況が生まれていた。
「よーし、買おう買おう」とやけくそで言い放った俺を連れて樋上が放課後に向かった先は、近所の生活用品店。そこで俺たちは、一つのクソ高いプロ仕様フライパンを割り勘で買った。
 その時が、俺と樋上の馴れ初めだったと言えるだろう。
 そして俺は、樋上に高校生活の伴侶ができた今でもそれを引き摺っていた。
「まぁ、言われたのはついさっきだし……」
 自分でも正当性を欠いているとわかっている言い訳をしながら、部活動――卵焼きを作る作業に精を出す。水曜日と金曜日には、放課後に何かを作って樋上と食べるというのが日課となっていた。なんでも樋上の母親の帰りが遅いとかで、俺が夕飯を作らされている形だ。
 一人で使う家庭科室は、やけに広く思えた。壁には染みが散見されるこの年季が入った佇まいは、よく見ると不気味にも感じられる。しかも昨日までなら楽しみだったこの作業が全く快感を伴わず、むしろ責め苦に近かった。それでもこの一年間、自由時間の二割程度を料理に費やしたこともあり、無事に卵焼きは完成を見る。
「おぉ、さすがそーすけ。いつもながら職人技ですなぁ」と、そんな風に言ってくれる女子は隣にいない。それを思うと、侘びしい気持ちが芽生えてきてたまらなくなった。
 このまま一人で活動をすることはただ懐古の情を想起してしまうだけで、何一つとして意味はないことに気付く。バッグを手に取り、夕方にも関わらず気だるい陽気が漂う校舎を後にすることにした。
 ――玄関前に、太陽を連想させる女子生徒が座っていた。
「そこに座られてると、靴が取れないんだが」
 俺の抗議に対して樋上は応答せず、代わりに一本のスチール缶を投げてきた。一瞬反応できなかったが、なんとかキャッチする。
 どうしてこの季節に暖かい缶コーヒーなのか、考えるまでもなく樋上が缶コーヒー愛好家だからだ。新しくできた彼氏はこのことを知らないだろうな、と無意味な優越感がこみ上げてきて、同時に自己嫌悪を催した。
「それ、今日行けなかったからお詫び。ごめんね、そーすけ」
 唐突にそんなことをいわれて、言葉の意味を見失う。数瞬の逡巡を経て、それが今日の部活に当たることがわかった。 
「もう、来ないかと思ってたけど」
「いやいやいや、どこからそんな発想が? 私からそーすけのご飯を取ったら、ファーストフードとかでそりゃーもう上がりまくるし」
「何がだよ」
「血糖値とか尿酸値とか血圧とかエンゲル係数とか」
「体重とか?」
「それは洒落んなんねっす」
 普段通りの表情、薄い笑みを浮かべながら樋上は言った。昼にあったことは白昼夢か、あるいは幻覚だったんだとでも言わんばかりに。どうしてそんな風に振舞えるのか、俺にはわからなかった。
 いつものように樋上と話せているかどうか、自信はないし声が震えている気がする。
「……そういえば、いつから俺は呼び捨てされるようになったんだっけ?」
「うわ、何それ。彼氏がいるんだから、他人みたいに苗字で呼べってこと?」
 露骨に顔を曇らせる樋上に対して、否定の言葉が出てこなかった。
 別に、そんなことを言いたかったわけじゃない。思い出したから言ってみただけだ――と、言い切れない自分が、確かに居た。樋上を遠くに感じているのは、紛れのない事実だから。
「っていうか、そーすけ。どうしてさっき、いきなりどっか行っちゃったのさ。パンでも買いに行ったのかと思ってたら、そのまま消えるとは何事だすか」
 いまいちどこの方言かわからない台詞を吐く樋上。今度は冗談を返す気にもなれなかった。
「そーすけ当てにしてたから、昼ご飯食べられなかった。卵焼き、楽しみにしてたのに。もうお腹と背中がくっつきそうなんだけど」
「いや、お前なぁ……。さすがに彼氏持ちが、他の男と昼飯食っていいわけねーだろうが」
「いいじゃん、別に。今までだって、ずっとそうしてきたんだから」
 何憚ることなく言われたことに対して、軽く苛立ちを覚える。これがこいつの素なのだと、分かっているはずなのに。
 確かにこの一年間、俺たちはずっと一緒に昼飯を食べていた。
 発端となったのは、樋上が料理の腕を上達させるために提案した『お互いに弁当を作ってきて食べさせる』というものだった。放課後に材料を決めて、次の日に作ってくる。実質二人だけの料研で、主となる活動はそれだった。開始一ヶ月で樋上が食材を火にかけることを諦め、結局俺が二人分の弁当をこしらえることになったのを考えると、活動していたのは俺一人だった気もするが。
 それでも、食べた時の樋上のリアクションを想像しながら調理をするだけで楽しかった。
「……でも、これからはそうじゃない」
「へ?」
「彼氏、できたんだろ。だったら、そいつと一緒に食べるべきだ」
「べき、って……」
 困惑し、言葉を失う樋上を改めてしっかりと見る。
 真白い肌に薄く染めた茶色のしっとりとした長髪、大きく愛嬌がある目。憧れる奴がいてもおかしくないなと心の中で賞賛をして、それから決心と覚悟とをした。
「もう、あまり俺と喋らないほうがいい」
「はい?」
「昼の弁当も、これからは作ってこない。メールも電話も、控えるべきだと思う。とにかく、今までみたいなのはやめて、距離を取ろう」
「ちょ、何言って……」
「俺はもう、お前の傍にいるべきじゃないんだ。分かるだろ?」
 一気にまくしたてるのは卑怯だろうか。でもそうしないと、自分の心が潰れてしまいそうだった。言い切ってしまった後でも、後悔と寂寥は土砂崩れのように押し寄せてきて、埋もれないかと気が気じゃない。
 樋上は唇を真一文字に結んで、眉間に皺を寄せている。睨まれているのかもしれない。それでもいい、お互いの評価や好意を気にする必要は、今の俺たちにはないのだから。これからはきっと、他人に近い存在になるのだから。
 やがて樋上は何かを言いかけたが、それを飲み込むような動作をして、黙って立ち上がり横へスライドした。必然的に、俺の下駄箱はマークを外れフリーになる。
 目を合わせないようにして靴を取り、地面へ置く。そこで樋上が、別れの言葉を口にした。
「ばいばい、そーすけ」
「じゃあな、樋上」
 それを言葉に出したことで、俺と樋上の全てが終わったような錯覚に囚われる。錯覚ではなく本当にそうなのかもしれなくて、それが望みだったはずなのに、心には深い深い傷跡がついていた。
 空は、いつの間にか曇っていた。

 ◇

 ゴールデンウィーク三週間前に親しい女子生徒との縁が切れて、放課後に暇を持て余すようになったことが俺にもたらした影響というものを考えると、意外とそれは小さいものだった、と思いたい。
 とりあえず、意識が二年後の大学生活に向かっていった。多分やることがなくなったからだろう、一年の冬に嫌々受けた模試の結果が気になりだした。
 今まで料理ばかりやってきて疎かになっていた勉学に、柄にもなく真面目に取り組もうとして、その難儀さに動揺する。これまでの不真面目さのツケが回ってきたと納得させられた。お前は色ボケしてたんだ、そう言われても言い返せないのが悔しい。
 成績優秀な友人に二次関数を教えてもらっている時に言われたのが「相葉は最近、ため息が多くなったよな」ということだった。
 原因はきっと勉強することが辛いからであって、けどそれは必要なことだから、ため息をつきながらも頑張っている。そういうことにしておいた。他の理由を探すのは、固まってきたかさぶたを無理やり剥がされるような思いに駆られる可能性が高かったからやめておく。
 しかし自分ではそういう風に、なんとか考えないように勤めていても、不意に小耳に挟むということが閉鎖的な高校生活ではあり得る。特にあいつは俺なんかよりもよっぽど皆から好かれていたから、そういう機会も多かった。
 あいつに告白してきたのは一年生で、あいつの幼馴染だということ。
 ずっとあいつのことを思ってきて、高校になったら自分の思いを打ち明けようと考えていたということ。
 告白は見事に成功を収め、今は見事に一部の汚れもない清らかな交際をしているということ。
 それは付け入る隙もない美談で、諦めがつくほどのエピソードだった。どうやって見ても二人はお似合いで、割って入るのは無粋なことだと主観的にも、客観的にも感じる。友達としてでも、一度あまりにも近づきすぎた俺は身を引くべきだ。
 悪いことじゃない、むしろいいこと尽くめなはずだ。俺は疎かにしてきた勉強をやり直し、あいつは自分の幸せを全うする。これはきっといいことで、そうあるべきで、そうじゃなきゃ駄目なんだ。
 そもそも考えてみれば、別に俺はあいつのことが好きだったんだと大声で言えるほど意思がはっきりしていたわけでもない。もしそうだったら、それこそどこかの一年生君のように、去年一年間で告白をするなりもっとケツを追っかけるなり、なんらかのアプローチをしているはずだ。
 それをしなかったということは、まぁ、友人としての好きでしかなかったんだろう。そうだと、信じられるだけの根拠を頭の中で無理やり用意して、納得する。
 だから、いいんだ。
 このままずっとあいつと喋れなくても、目線が合わなくても、同じ場所から空を見ることがなくても。
 俺とあいつの間にあったのは恋慕の情じゃなくて、フライパンだったのだから。
 そんなことを考えながら、中学以来の友人である有森と放課後の廊下を歩いていると「相葉はさ、ゴールデンウィーク予定あんの?」と、唐突に連休の過ごし方を聞かれた。
「いや、多分普通に家にいると思うけど」
 俺の至極ありきたりな返答に対して、有森はなぜか喜色満面の笑みを浮かべてくる。疑問に思ったが、すぐに解答は明らかになった。
「暇だったらさぁ、俺の家手伝ってくんね? 去年みたいにさ。お前結構手際良くて、俺の親父も褒めてたんだよね」
「あぁ、そういうことか」
 有森の家は地元の巨大スーパーを運営していて、大型の連休になるといつも人手が足りなくなる。そこで有森自身も借り出されるのだが、それでも足りないらしく、去年の今頃はそこでバイトをしていた。だから今年も、ということだろう。
 顎に手をあてて、少しだけ考えてみる。しかしどの見地に立ってみても断るだけの理由はなかったので、快く承諾することにした。
「いいよ、手伝う。その代わり、時給を三十円上げてくれ」
「うへぁ。お前なぁ、足元見てない?」
「嘘だって。まぁ、くれるって言うなら貰うけど」
 軽口を交わしながら、長い休みの予定が埋まったことに胸を撫で下ろす。何かをしていないと、参考書と向き合うしかないという悲しい事態になりかねないからだ。そこそこの努力はするにしても、ガリ勉相葉君の出番は一応三年生まで取っておきたい。
 と、そこで両眼が視界の端に一人の男子生徒、そしてそれに連れそう女子生徒を捉えた。
 ――年齢の差が一歳ほどある、お似合いカップルだった。男の方は初見だが、話で聞いた外見的特長と照らし合わせるとぴったり一致している。
 途端に心の平穏さはかき乱れ、砂利を噛み砕いたようなざらついた感覚が身体に染み付く。腹の奥が熱い。額に力が入って、大量の汗が吹き出ている気がした。
 今の状態こそがあるべき形なのに、どうしてこんな気持ちを抱くのか。さっき納得したはずの自分を否定された気がして、胸糞が悪くなった。
「じゃあ有森、またな」
 勤めて冷静さを保ち、儀礼的な別れの挨拶を済ませ、すぐさまその場を離れようとする。しかし偶然にも、誤算にも、あいつ――樋上奈々と、目が合った。
 それを確認した瞬間、思わず目を伏せる。彼氏を前にして爽やかな挨拶を交わせる自信も、皮肉を口にする度胸もなかったからだ。樋上がどうしたかは知らないが、そのまま早足で通り過ぎる。
 こんなはずじゃなかったのに。そう、誰かが呟いた。
 
 ◇

「樋上さんはさ、どれくらい料理ができるようになりたいの?」
「んー、皆がびっくりするぐらいかなぁ」
 部活動においては部費もしくは私的な金銭で買ったもの以外の仕様を禁ずる――ケチな高校の方針に従い、調理をする際一般的な人類が使う道具を一式揃えた翌日のこと。
 これからの指針を決めようと発した俺の一言は、微塵も真剣味を帯びない答えに一蹴されていた。
 三日前にフライパンを買わされた経緯といい、おそらく冗談が通じ過ぎるぐらいの人だという認識をする。多分俺より数段ユーモラスでエキセントリック、滅茶苦茶な文章を気にしてはいけない。異性だからと言って、特別気負って話すこともなさそうだ、とも思う。
「で、どうすれば皆がびっくりするんだよ?」 
「目からビーム出して目玉焼きを作る、とか?」
「それはびっくり人間、もしくはアンドロイドやらの類だって」
 最上級にくだらなく、特に意味も見出せない会話だったが、きっとこういうものの積み重ねが青春というものなんだろうな、とか余計なことを考えていたら初めて挑戦したことになる卵焼きを焦がしてしまった。
 鼻をつく嫌な臭いが周囲に広がり、淡い黄色に光輝く予定だった表面は黒光りして惨たらしい。失敗作という烙印が押されることに全く違和感がない様相だった。焦げてしまったのは片面だけなので食べられないことはないだろうが、進んで食べたいとは思えない。
「これは……黒いな」
「卵焼きですらそれとは、母さんとタメを張れるよ相葉くん!」
 なぜか熱のこもった様子で鼓舞しているのか馬鹿にしているのかわからない台詞を吐いている樋上さんを見ると、その手元で黒い物体が蒸気を放っていた。おそらく五分前までは卵だったのだろうが、今では節足動物と言われても納得してしまうような無残極まる姿になっている。
 客観的に見て、俺の作ったものより酷かった。料理と言い張られるより宇宙から来ましたと言われたほうがまだ自然な気がする。
 冷ややかな視線を送っていると「ちょっと光線の出力を間違えました!」と樋上さん。アンドロイドだったのか。
 それから何度かの失敗を経て、豚肉とタマネギの炒め物、そして卵焼き二号がなんとか完成するまでに一時間を要した。見た目だけを見るならどちらも初心者にしてはそこそこと言いたいが、味のほうは未知数なのである意味怖い。ちなみに二品中俺が作ったのが二品で、上達したいと言っていた樋上さんは隣で観戦するのに夢中だった。
「あ、明日から本気出しまーす」
 言いたいことがわかったのか、可愛く言い訳をされて許さざるを得なかった。訪れない明日を見るのは不毛じゃないかとも思うが、口に出すのはよろしくないと常識的な判断を下しておく。
 いや、そもそも女子と一緒に料理なんてのは考えてみれば凄いシチュエーションではないか。手料理が食べられるとまでは行かずとも、どちらかと言えば羨ましがられる状況に違いはない。この上文句まで言うのは過ぎた真似だと考え直してみると、樋上さんを唐突に意識してしまって自分の単純さを思い知らされた。まぁ、えっと、手とか柔らかそうだよな、うん。
 途端に生まれた恥ずかしさを隠すために「じゃあ、味見してみるか」と言って席につこうとすると、手の平を突き出されて待ったをかけられた。
「すとーっぷ。折角だからさ、屋上に行かない?」
「……ん、なんで?」
「青空給食っていうの、小学校とかでなかった? 私さ、あれ大好きだったんだよねー」
 朗らかに言ってから、視線を空に泳がせる樋上さん。過去に思いを馳せているのかもしれない。
「よし、じゃあ行こうか。二人で青空給食」
 一も二もなく是を表明したのは、その言葉に少年時代を思い出したからではなくて、何か別の要因が働いたからだと思う。主に、樋上さん関連で。
 
 意識が覚醒したのと同時に、寝癖が最悪なことに気付いた。ベッドから布団と片足がずり落ちている。
「うー……」
 起き抜けにお気楽な声を出している、お間抜け顔の灰色な青春を送る高校二年生がいた。というかまぁ、言うまでもなく俺だった。
 ――夢を見た。いや、覚えている、か。それは過去の夢で、俺と樋上はお互いにまだ知り合ったばかりで、今では遠い昔に思える一年前で。
 そして俺は、空を見るようになった理由を思い出したのだった。あとバイトに中々集中できない理由も合わせて、樋上の所為にしておいた。
 だからきっと、このままじゃ駄目なんだ。正論でも理屈が立っていても、気まずさと後悔がまだあって、それを晴らさないと前に進むことができない。
 きっと勉強も集中できないし、普段の生活にしたってそうだ。全部この気まずさが原因なんだ。俺に二次関数ごとき、解けないはずがない。
 夢にまで見たように、過去に戻りたいなんて言わない。だけどこの関係との決別だけは、おざなりに済ませちゃいけなかった。
 何が決心だ。
 何が覚悟だ。
 あの時の俺は、何もできちゃいなかった。ただ俺と樋上の関係から目を逸らして、逃げを打ってただけじゃないか。
 自分の気持ちから逃げて、樋上から逃げて、防壁を張って、無理やり自分を押し込んで。
「あー、ちくしょう。馬鹿野郎め」
 過去の自分に文句を言って、勢いよくベッドから立ち上がる。本日が晴れであることをアピールするようにして、太陽光は薄っぺらいカーテンを貫通してずかずかと部屋へ入り込んでいた。眩しさに目を一瞬晦ませるが、なんとかカレンダーに近づき今日がゴールデンウィークの最終日であることを確認する。すなわちバイトの日々は終わり、明日から学校が始まるということだ。
 言い換えれば、悶々としたこれまでは終わって、清々しい未来が始まる。前には希望しか見えないぜ! と自分を鼓舞して、携帯を開いた。
 悲しいほど少ない女子のアドレスの中で、は行を探すまでもなくお目当ての名前は見つかった。深呼吸をして、飾りっ気も何もないメールを打つ。
『明日の昼休み、例の場所に来てくれ。話がある』
 およそ一ヶ月振りの、屋上への招待だった。

 ◇

 昼時の喧騒が校内から聞こえてきても、屋上に出てみるとそこに声はほとんどない。学校という場所から隔離されたいわば別世界のようにも思えるこの場所は、俺にとって、そして多分樋上にとっても特別なところだ。
 初めて来た時にお互いを知り、二回目で俺は手を繋ごうと試みて失敗し、三回目からは取りとめもない会話で盛り上がった。俺にとっての高校一年生は、この場所で過ごす時間だったと言っても過言じゃない。
 だから区切りをつけるには、この場所こそが相応しいと思った。
 昨日から引き続き晴れ渡る空は暖かな陽気で俺に微睡みを促してくるが、身体と脳が過度とも思える緊張を持続しているので全く効果はない。代わりに微量の汗だけが、やたらと肌へまとわり付いてくる。
「よっ」
 缶コーヒーを二本持った樋上がドアを開け、こちらへ呼びかけてきた。たった一ヶ月間まともに話していなかっただけなのに、俺が手に持つ弁当箱と合わせて、この風景はやけに懐かしく感じられる。
 樋上はいつもそうしていたように、フェンス際へ座る俺の隣へと腰掛けた。昔、肩と肩が触れ合うまであとと何センチかと計算しようとしたことを想起する。
 この心地よい距離感が無駄な緊張を和らげてくれて、存外にすんなりと会話を始めることができた。
「ほんと好きだよな、缶コーヒー」
「まぁねー」
「しかも全部すっげぇ甘い奴なのな」
「美味しいじゃん?」
 慣れたやりとりを交わしてから、受け取ったコーヒーの蓋を開ける。
 最初の一口を自分の中で景気付けとして、本題を切り出した。
「えっと、樋上。ここんところ避けてたりして……その、ごめんな?」
「うあ、寄り道なしだね、そーすけ」
 苦笑しながらに言われるが、いまいち意味を捉えにくい。目線で補足を求めると「あーいやいや、いきなり直球勝負ってこと。私としては、ボールとファールで時間を稼ぎたかったんだけどねぇ、うはは」と、意味不明の説明をしてくれた。俺はバッターなのかピッチャーなのかはっきりしてくれ。
 樋上は一旦深く息を吸い込み、それから真剣な顔で言う。
「それはつまり、あの日私が突き放された理由を、説明してくれるってこと?」
「あぁ、うん。そうなる、かな」
 今度は俺が深呼吸をする番だった。今度こそ覚悟をしてきたはずだったのに、この後に及んで素顔を晒せない根性なしの自分を叱り付け、なんとか奮い立たせる。
 言わなければいけないことを、言いたいことを頭の中で整理して、解き放つ準備を完了した。
「俺は、怖かった」
「怖い?」
「お前に彼氏ができて、俺たちの関係が崩れていくことが。俺がお前の隣にいれなくなる未来を想像して、震えてたんだ」
 いつも傍にいたはずの樋上が、自分じゃない誰かと並んで昼食を食べる――そんなビジョン。そういったものがちらつくだけで、我慢ができなかった。
 ささやかながらも幸福を享受するのに事欠かない、そんな日々をいつまでも送っていたかった。
 いつまでもなんて、あるはずがないのに。変わっていくことが、当然なのに。
「だから、自然に壊れる前に、そうなるのを見せ付けられる前に、目を背けた。……お前の言葉を一切聞かないで、自分の都合で。それくらい、怖かったんだ」
 樋上に彼氏ができた以上、俺は身を引くべきだ――そんなもっともらしい、納得できていない理由で自分を抑圧して。
 殻にこもるのを、正当化して。
 樋上のことを、見ないようにして。
 実際、本当にそれがいいのかなんて、どうでも良かったんだと思う。ただ俺は、示される先のことが恐ろしくて、自分の中に閉じこもった。
「身勝手で、ごめん」
 もう一度だけ、謝罪をした。こんな言葉を安売りするつもりはないが、それでも、卑怯者の臆病者が、なんとか今と向き合っていることを示すために。
 締め付けられる重圧を感じながらも、黙って聞いていた樋上を見ると、短い答えが返ってきた。
「うん、わかった」
 それだけ言って、何かを考えるようにして目を細める。その表情からは、読み取れるものがなかった。
 ……許されたのかは、分からない。でも、許されなくてもいいと思った。
 俺は自分の振る舞いを許せなくて、ただ樋上に詫びたかった、それだけなのだから。
 自己満足だと、人には言われるかもしれない。だけど、これまで築いてきたものに対して、しっかりとした結末を用意する必要があったとは思う。時間は開いて、こんな形でしかできなかったけど。
「それと、もう一つだけ」
 最初に『彼氏ができた』と宣告された時に、言いたい、言わなければいけないことがあった。
 いや、本当はもっと前に、形にするべきだった言葉。気が付かなかっただけで、実際はすぐ傍にあった感情。
 遅くなったけれど、今、この場所でしか機会はないと思った。
「ひのう」
「すとーっぷ」
 手の平を突き出されて、思わず言いかけた言葉を飲み込む。話に割って入る時の、こいつの癖だった。
 樋上は俺が手に持つ弁当包みを指差して、唇の両端を持ち上げた。
「折角だからさ、久しぶりにそーすけのお弁当、食べたいな」
「あー、お、おう」
 上手く形になっていかない返事をして、地面に包みを広げて弁当箱の蓋を開ける。樋上はそれを確認してすぐ横に添えてあった割り箸を手に取り、卵焼きを口の中に運んだ。
 初めて俺が作った料理であり、樋上の大好物なそれを手早く咀嚼してから、何度も聞いた言葉を口にする。
「うまー。やっぱりこれですなぁ」 
「道具がいいからな、なんせプロ仕様だ」
「なるへそ!」
「そこは否定しろよ」
「あはは、冗談だって。そーすけの作る卵焼き、私すっごい好きだよ」
 優しげな笑みを浮かべて、樋上は言った。この笑顔が得られるのを想像して、毎日フライパンを振っていた自分を気恥ずかしく思えばいいのか、誇らしく思えばいいのか。
 どちらにしろ、プラスの方向に働いていたことぐらいは確信できたから充分だった。
 いやしかし、この状況は、望んだものとは言いがたい。無理やりにでも言い切ってしまったほうが良かったかと思いつつ、毒を抜かれた気分で再び箸を伸ばすと、不意に隣から言葉が発せられた。
「私さ、結構最悪なんだよね」 
 結構と最悪は重複して使っていい表現なのだろうか、そんな茶々を入れることが頭によぎったが、無視して樋上を見る。伏し目がちに、何かを反芻するような表情をしていた。物憂げな、と言い換えてもいいかもしれない。
 続きが語られるまでの少々の沈黙は、樋上が決心をするまでの時間だったのだろう。
「彼氏できたって、言ったじゃん」
「おう」
「あの時さ、まだ彼氏いなかった。告白されただけ」
「……えっと」
 それで、なんと言えばいいんだ、俺は。
 どんな反応をすればいいのかを図り損ねて、適当に視線を投げて缶コーヒーをすする。
 色々な妄想が頭の中で乱舞してまとまりがつかなそうだったので、黙って続きを待つことにした。
「下駄箱でそーすけと話した後、返事したんだ。うんいいよー、って。なんですぐOKしなかったか、わかる?」
「いや、わからん」
「私ね、そーすけに期待してたの」
「何を?」
「好きって、言ってくれるのを。私、そーすけが好きだったから」
「…………」
「でもフラれちゃって、なんか私もムキになっちゃって。だから多分、それだけの理由で、あの子と今付き合ってる」
 あぁ、そうだったのか、なんて。
 そんな茶を濁すような態度は、取れなかった。でも、素直に喜べるほど感情は昂ぶらなかった。
 樋上が放った言葉は、過去に向いていることがわかったから。好きだった、なのだから。
「ははっ……」
 意図せずに、苦笑が口をついて出た。失敗談を語る時特有の嘲りを多分に含んでいたと思う。
 俺たちは、すれ違っていた。お互いに素直になれなくて、手を伸ばし損ねて、どこまでも、どこまでも合わさることはなかった。限りなく近い平行線で、垂直にはなれなかった。
 どうして、こんなにも上手くいかなかったのだろう。ずっと俺たちを見ていてくれたはずの空に問いかけても、答えは返ってこなかった。
 それは多分、もう戻れない過去を見るのは不毛だからやめろっていうことなんだろう。
 だったらやっぱり、もうお互いに、前を向いてもいい頃だ。
「今は、どうなんだよ」
「ん?」
「彼氏のこと、好きになれたのか?」
「……最初の内は、そーすけのこと考えてて、あんまり意識が向いてなかったと思う。でもその子、私に好かれようとして、凄く一生懸命だったんだ。一ヶ月間、ずっと」
 彼氏のことを思い出しているのか、少しだけ声のトーンが上がる。「この連休とか、毎日遊びに誘ってくれたりしてさ」と、良い思い出に浸るようにして付け加えた。
「で、今は好きなんだな?」
「そう思ってる私って、やっぱり最悪だよね。あはは、私、人に好かれる資格ないや」
 おそらく最大限の自虐を込めた笑いを浮かべる樋上を、真っ向から否定した。
「そんなこと、ねぇよ」
 多分それは、当たり前の感情なんだと思う。優しくされたから好きになるし、冷たくされれば苛立つ。
 俺が樋上を好きになったように。
 樋上が俺を好いてくれたように。
 そして、行き違ってしまったように。
「上手くいってて、良かった。安心したよ」
 決して皮肉でも嫌味でもなく、本心からの言葉だった。
 俺が今するべきことは羨望を向けることでも嫉妬を燃やすことでもなくて、祝福することだから。それが分かったから、そう言えた。
「そーすけ、ありがと。それと、ごめん」
「馬鹿。何も悪いことなんて、してないだろ」
 そう笑い飛ばして、そこで会話は途切れた。
 暖かな風が吹く屋上に、安堵を孕んだ静寂が訪れる。二人でいる感覚を共有しながら、それぞれ弁当箱に箸を伸ばした。たまに隣を見ると、視線に気付いた樋上は曖昧な笑いを返してくれる。
 遠くに行ってしまった時間の残り香を噛み締める行為は、不思議と充実感を伴っていた。終わらなければいいと、ほんの少しだけ願ってしまうぐらいに。
 友達としては特別に過ぎたこの行為を、惜しみながらも充分に堪能して、箸を置いた。もうすぐ、今までで一番長かった昼休みも終わる。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
 残りのコーヒーを飲み干して、立ち上がりつつ背伸びをする。合わせて樋上も立ち上がって、スカートの裾を払った。
「じゃあ、行こっか」と言ってドアに向けて歩き出す樋上の肩を、勢い良く掴んだ。
 戸惑いながらも振り向いた樋上に、こっ恥ずかしい台詞を言ってやる。
「樋上、お前が好きだ」
 手遅れだけど。
 いや、手遅れだとしても――これだけは、言っておきたかった。言わなければ、ならなかった。
 延長している一年間を、樋上を見続けた一年間を、今日こそ終わらせるために。
 過去に縛られず、前に進んでいくために。
 樋上は一瞬呆気に取られたような表情で、瞬きを停止する。だがすぐにその大きな瞳は活動を再開し、俺を真っ直ぐに見つめてきた。
「馬鹿。そーすけ、遅いよ」
「あぁ、そうだな。悪い」
 もっと早く、意思を言葉に出せていれば良かった。だけどそうするには俺たちは子供で、自分を剥き出しにする勇気がなかった。
 でも、いいじゃないか。今だったら、そう思える。
 俺たちは俺たちらしく、二人だけの関係を築くことができたんだから。
 間にフライパンと、不器用な恋慕を挟んで。
「……そーすけと一緒にいれて、楽しかった」
「俺もだよ。全然退屈しなかった」
 言葉少なげに、過ごした月日の感想を語る。言葉以上に大切なものがあることをお互いに知っていたから、それ以上ぐだぐだと言わなかった。言う必要も、なかったと思う。
 そして最後に、別れの言葉をお互い口にした。
「ばいばい、そーすけ」
「じゃあな、樋上」
 この決別が明日からの糧になるように、澄み渡る空へと願いを込めて。
2010年ゴールデンウィーク企画『ラ研学園祭』 掲載作品

●お題
 以下の7つより、作中に3つ以上、文字列として使用して下さい。

 「首輪」 「ラーメン丼」 「フライパン」 「アンドロイド」 「特殊部隊」 「片道チケット」 「ビーム」


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●感想
毛玉屋敷さんの意見
 ちょっと切なさが残っていましたが、結構楽しめました。青春っていいですよね。爽やかで。


新人感想者さんの意見
 はじめまして。
 大変楽しく読ませていただきました。

 何より素敵だったのはフライパンの使い方。
 宗助と奈々の距離感をお題を使って上手に表現していて、読んでいて胸が熱くなりました。

 もう一つ良いな、と思ったのは宗助と奈々、
 いわゆる『男と女の精神年齢の違い』を的確に描写している点です。
 宗助の身勝手な子供らしさ、奈々の打算的な大人らしさが、
 いやらしくなく描かれていてとても好感が持てます。


 悪かった点、と言うとおこがましいのですが、
 奈々の彼氏への態度が変わっていく描写が欲しかったかな、と。
 最後に「今は彼が好き」と語ってしまうより、宗助がウダウダ悩んでる間にも奈々は変わっていった、
 という描写で匂わせておけば最後はもっと素敵だったのではないかと。

 あと、最後に『卵焼きだけが無くなっているお弁当箱』が描かれていれば、
 私は胸キュンで死んだかもしれません。

 悪い点は私の主観でもありますので、取捨選択はお任せします。
 楽しい作品を、ありがとうございました。


ツミキさんの意見
 う、うお、うおおおお! 一人称綺麗過ぎでしょJK! ちくしょうう!

 ……ッハ!?

 すみませんでした。御作を拝読致しましたので、感想を残させて頂きます。
 超良かったです。企画作品読了一作目が御作とは、わたくし、なんて運が良いのでしょう。
 いや、あまりにもこう、胸からこみあげるものがあったもので、とりあえず嫉妬の念だけ吐き出してしまいました。

 まずは冒頭でも申し上げましたが、文章が良かったです。無駄が無く読みやすい文体は心地よくすらすらと読み進めることが出来ました。
 
 丁寧に描き出される宗助の心情がもう、パーフェクトでしたね。冒頭からずっとセンチメンタルな空気がひしっひしと伝わってきました。
 ほろ苦ぇー。

 そしてストーリーがまた、ほろ苦い。キュンキュン来ました。お話の流れとしてはありふれたものですが、それをしっかりと読ませるだけの見事な心情描写には舌を巻きました。

 お題のフライパンの使い方が秀逸でしたね。二人の距離を思うと、また切なさ爆発です。
 ただ、その他ふたつが、これやっつけですよねw その点だけが無念でなりません。

 あと、一つ違和感を覚えていた点があるんです。
 地の文から感じられる宗助のイメージって、結構ぶっきらぼうで、とてもじゃないですが料理なんて間違ってもしなさそうなんですよね。
 けれど、きっと作者様の中ではそんなことないと思うんです。だもんで、地の文で表わされている主人公像(読者の持つ主人公像)と作者様の持つ主人公像に若干のズレが生じてしまっているように思ったりしました。
 ……妄想乙。

 はい、というわけで、短いですがわたしの感想は以上です。
 素晴らしい作品をありがとうございました。

 ああ、ドキがムネムネして今夜は寝られそうにないなぁ……。

 それでは、このあたりで失礼します。また、機会がありましたらよろしくお願い致します。


いさおMk2さんの意見
 主催のいさおMk2でございます。
 この度は、GW企画『ラ研学園祭』にご参加頂き、誠にありがとうございます。
 拝読致しましたので、拙いながらも感想など書かせて頂きます。

 切なくも、爽やか。素晴らしい青春学園小説でした。
 そして、何気に悲恋モノ好きの小生のハートをぎゅうっと鷲掴みです。
 フリッツ・フォン・エリックのアイアンクローも真っ青です。
 しかも、悲恋にも係らず反則的なまでの爽やかさ。清々しさ。
 企画主催として良作を投稿頂けた嬉しさと、
 投稿人として勝負に負けた悔しさが心の中でラテ・アートの如く複雑な模様を作り上げております。

 美点は数え切れぬ程ありますが、特筆すべきはお題【フライパン】の使い方でしょうか。
 この無茶振りお題をここまで美しく使用して頂けて、小生感無量であります。

 二人のすれ違いっぷりが、もうたまりませんね。
 さりげないセリフの所々に、お互いに対する好意や事態に対する戸惑いが散りばめられていて、
 軽い感動すら覚えました。
 個人的に、玄関前のシーンの
>「っていうか、そーすけ。どうしてさっき、いきなりどっか行っちゃったのさ。パンでも買いに行ったのかと思ってたら、そのまま消えるとは何事だすか」

 のセリフ。
 この「〜だすか」の部分に、彼女の内心のテンパり具合が上手に滲み出ていて、物凄く好きです。
(深読みし過ぎだったらゴメンナサイw)

 そして、彼女を突っぱねた主人公。無理繰り自分を騙そうとして、それでも結局出来なくて。もお堪んないです。
 ラストの
>「樋上、お前が好きだ」
 から
>「じゃあな、樋上」
 までのシーン。読んでいて「はぅあああああ」とモニタの前で悶えました。完敗です。

 どうしよう、賞賛の言葉しか、出てこない。主催なのにw
 でも、イイよね。超好みの小説に出会えたのですから。
(小生は一体誰に言い訳しているのだろう?)


温井コタツさんの意見
 どうも、温井コタツです。
 早速感想を。

【荒筋】
起・屋上にて、樋上と会う。彼氏ができたと告白。
承・GWにアルバイトをすることに。そのスーパーで樋上を見る。
転・夢。宗助は気付く。
結・屋上にて、一ヶ月ぶりの再会

【登場人物】
・相葉 宗助
…主人公。料理研部員。料理スキル◯。樋上に思いを寄せる。ていうかなんで名前で呼ばれてるのに名前で呼んでやらんのだ。


・樋上 奈々
…料理研部員。彼氏持ち。相手は幼馴染の一年生。宗助曰く「太陽を連想させる少女」。缶コーヒーが好き。料理スキル低。

・有森
…主人公とは中学生からの友人。地元の巨大スーパーを運営する家の息子。

【文章とか技巧面】
 宗助の一人称からなる綺麗な文章。どちらかと言うと精神的描写が濃い目でしょうか。
 男女の思考の行き違いや、お題のフライパンが巧く使えていて、とても好感を覚えました。
 贅沢を言えば、奈々の視点の話も読んでみたかったなぁ、と思うんですが、トリックがトリックだしなぁ…。

【世界観の設定】
 無

【オチの解釈・考察など】
 樋上は宗助に期待して嘘を教えたが、結局、それはただの行き違いになってしまった。

(間違ってたらスミマセン!)


 バッドエンド(?)ながら読後感の良い作品でした。

 このような感じで。
 それではノシ


前田なおやさんの意見
 こんにちわ、前田なおやと言うものです。

 最後のシーンが、大好きです!
 何気にハッピーエンドを期待していたのですが、これはこれで綺麗にまとまっていていいですね。
 ご都合主義とか無茶苦茶な展開は無く、キャラクターの行動にはちゃんと裏付けされた理由があって、主人公が決心を固めるまでの心理描写もよかったです。
 途中の夢(回想?)も、最後のシーンを上手く引き立てているなと感心いたしました。

 本屋で買った短編集にこれが入っていても、おかしくない程面白かったです!
 これからも頑張って下さい!


乾燥柿さんの意見
 こんにちは、読ませていただきました。

 コミュニケーション不足による少年少女のすれ違いの物語。学生諸君! 言いたいことがあるならはっきりと、それもできるだけ早く言いたまえ。という教訓話……と書いてしまうと少々嫉妬っぽく見えてしまう良作。O・ヘンリーの「賢者の贈り物」もそうですが、コミュニケーション不足は疑心暗鬼だけでなく、時として優しい気持ちも育むのでしょうね。

 ストーリーは同じ部活を通して気のおけない仲となっていた少女がある日突然「彼氏ができた」と告げてきて、そこから始まる主人公の心の乱れと取るべき進路やいかに? というもの。個人的には青春時代における不可逆な過ちという題材は余り好きではありませんので、適当に聞き流していただけると助かります。

 学園モノとしてはオーソドックスですが、それゆえにいい感じ。主人公が取り留めもなくヒロインとの思い出を振り返っていく様がやや時系列混乱気味に描かれているのは狙ってのことでしょう。個人的には主人公の心の動きを追体験できる大変ニクイ演出だと思いますが、反面読んでいて混乱する読者もいるのではないかと思いました。
 二人を繋ぐキーアイテムはフライパンというよりも卵焼きな気がします。片面だけ焦げて食べられないとか、美味いのだろうけどメインディッシュにはなりえない料理であるという立ち位置だとか、なんとなく二人の関係を象徴しているような感じもこちらの方が強いのではないかと個人的には感じました。

 あくまで個人的意見ですが、「かけがえのない」のネガティブな一面である「やり直しのきかない」青春時代を描くというのは現実的ではあるのですが悲しいものがありますね。
 特に本作での相葉と樋上の関係はあらかじめ進展を予見することが(読者にも)難しく、やるべきことをやらなかった後悔というよりは単にサイコロの出目が悪かったのだという偶然的要素が強く出てしまっているように感じられたため、個人的な読後感はあまり良くはありませんでした。
 願わくば、取り返しのつかない過ちを、それでも取り戻そうとあがきもがくのが若さであり、青春時代の特権なのだという(自分で書いててオヤジ臭せぇw)押し出しも何がしか欲しかったところ。汚れた読者で申し訳ないが現状のよりを戻せないエンディングからは、もうきっと組んず解ぐ(自主規制)しちゃった後だからなんだろうなという嫌な邪推が頭をよぎったりもいたします。
 あくまで個人的意見ですが、本作がサワヤカで清らかな青春時代の男女交際を前提とするのであれば、「ごめん私はやっぱり相葉の方が好き」という展開の方がよりそれらしく見えるのかもしれないなとも思いました。より女性向けなのもこちらの展開かもしれません。

 とはいうものの、せつない気持ちを大いに刺激され、その分感想を書く手が弾んだことも確かです。


トゥーサ・ヴァッキーノさんの意見
 こういう青春っていつの時代にも通じる感じがしますよね。
 言いたいことの半分も言えなくて、だけど独りよがりになっちゃう。
 そんなのが伝わってきて、そうだよなあと共感しました。

 今回、はじめて参加させていただいて、
 みなさんみたいにスゴイ書評なんていうほどのことは書けません。
 すいません。


ミナ・コレステロールさんの意見
 オチは予想できましたし、主人公の宗助には感情移入できなかったんですけど、
 文章表現や構成はすごくうまいと思いました。

 個人的にはハッピーエンドだと思います。

 いい作品だと思いました。


 なんですけど、

 奈々はヘタ!

 最悪なのは、そのヘタさだと思います。
 宗助に告白させたいなら、「彼氏ができた」じゃなく「告白された」って言うべきです。
 わたし自身には縁がないんですけど、周りにはそういう子いますし。(かわいい子はずるい!)

 どっちにしても、この宗助だったら、告白できないかもですけど。


 あと、お題についてなんですが、「フライパン」の利用法がとてもよかったので、
 そのぶん「アンドロイド」と「ビーム」の違和感が目立ってしまって、もったいないなぁと思いました。


亜寺幌栖さんの意見
 特に優れている点はありませんが、ほのぼのとしたいい話でした。
 フライパンから料理部に展開した作者さんの発想はなかなかですな。ビームとアンドロイドをまとめて使ったのはいただけませんが、まあ、繋ぎやすいお題なので。
 ストーリーも突然の変化から始まり、葛藤を経て最終的にハッピーエンドにつなげている。再びつながるという安直な展開にしないあたり、作者さんの隠れた才が伺えます。
 キャラクタは「俺」と樋上のふたりだけですが、人数が少ないだけにきっちりとキャラが練られていて、物語に幅をもたせていました。欲をいえば有森をもうちょっと絡ませて欲しかったかも。

 そこそこの出来でした。次回作も頑張ってください。
 亜寺幌栖でした。


御鶴さんの意見
■タイトル
 惹かれることはなかったですね。ただこうストレートなものは、読んだ後すっきりとした気持ちになれるのが、いいですね。

■文章

>ずっとあいつのことを思ってきて、高校になったら自分の思いを打ち明けようと考えていたということ。

 ちょっと判断しにくかったので、質問ということで;
 『高校生』を『高校』と言っているだけのことですよね?(すいません、どうしようもない質問で)

>告白は見事に成功を収め、今は見事に一部の汚れもない清らかな交際をしているということ。

 『見事』が二つ続いているので、後ろの方はなくてもいいかもしれないです。
 もし強調したいのなら、他の単語を使った方が見栄えはいいと思います。

 比較的読みやすかったです。主人公の心情垂れ流しの場合、うっ……としり込みするかするする読めるかに分かれると思うので、今回は後者でした。

■人物

●宗助
 後ろ盾がないと行動を起こさない、結構内気なキャラという印象を受けました。
 樋上が太陽なら、陽光で出来た陰という感じです。言ってしまえば、あまり動かない人ですね。
 そう言えば、彼はいつから呼び捨てにされたのだろう……?
 夢の時は「樋上さん」だったのだから、言及してもよかったし、一つのエピソードとして呼び捨てにするところを描いてもよかった気がしました。
 また樋上を好きだったら、去年一年の間で告白なりしている。とかそういうくだりがあって、でもその後に手をつなごうとして失敗したとかあったので、ちぐはぐな感じでした。結局好きだったのか、樋上に彼氏が出来てそういう気持ちになったのか分からなくなりました。

●樋上
 結構最悪という言葉は、本人の言なりに正鵠を射ていますね。それが可愛らしさの裏返しでもあるのですが。
 うーん……しかし女子とは告白されたら好きな男子にこうやってアプローチしていたりするものなのだろうか。だとしたら、女子の策士っぷりには御見それしますね。
 告白されただけで付き合っていた、と宗助に言ったところは面白かったです。明かされたときに、まず展開の上手さに驚きました。上手く場をつなげてくるなあと。
 最後に「遅いよ」といった時、樋上が何を思っていたのか知る由もないですが、少し素直になれないことの切なさを感じました。

■内容

>下からはパン争奪戦、あるいは学食の順番待ちの騒音が聞こえてきて、参加していないことに対してささやかな優越感を覚えた。

 屋上まで聞こえるとは……凄まじいであろう騒音/争奪戦ですねw
 しかし終盤の方ではほとんど声はないと書いてあったのが気がかりですね。どっちなのでしょう?

 さて、内容です。
 導入からタイトルコール(?)までが好きですね。あわい喪失感があって、ぐっと引き込まれます。
 その後は結構濃厚な文章の連続で、読んでいていっそ清々しかったですが、心に響いたというようなことはなかったですね。言ってしまえば、ややくどいくらいな印象です。
 お題はシンプルに取り入れてきましたね。アンドロイドとビームのくだりは面白かったですが、なくてもよかったかなと思うと、使い方としてはいまいちだと思いました。
 やはりフライパンですかね。二人の間にあったのはフライパンうんぬんとか、とてもよかったです。

 夢のくだりは、最近まで都合がいい展開だと思っていた類のものでした。
 ただ自分が別れた人の夢見た経験があるので、これは現実的な展開なのだと考えを改めるようになりましたorz
 自分を棚上げしますが、ちょっと虚しいし切ないですよね……。
 ちょっと他人事とは思えず、ついつい移入してしまいました。

 コメントを見る限り女性向けとのことなので、男である自分では感じ方が違うのかなと思わなくもありません。
 正直、他の人と付き合っているのに、『好きだった』というのはずるい気がしますね。それで『好きだ』と言ってしまう宗助も宗助ですが……。リアルでもそうですが、『昔好きだった』と言われてもただ迷惑なだけで……すいません、これは主観を押しつけがましいですねorz
 評価できるのは、二人がくっつかないことですね。当然と言えば当然ですが、収まるところに収まってくれてよかったです。これで樋上が今の彼氏と別れたりして宗助と付き合いだしたら、評価しようがなかったので。

■総評

 総じて、読みやすかったものの、新鮮さではやや味気ないかなというのが印象です。
 小さくコンパクトにまとめる技量の高さは窺えましたが、どこかで見たような展開が続くのが若干退屈でした。ただ文章はすらすら読めるので、非常に上手いなあと感嘆しました。
 よく言えば安定した作品、悪く言えば淡々とし過ぎている印象です。
 宗助が結構奥手で物静かな性格なので、感情に起伏がないんですよね。べたーっとしているというか。
あと有森は正直、登場させるほどのキャラだったのでしょうか……?
 わずか数行しか登場しないので、もっと友人という立場を活かして宗助との絡み(相談するなり)を描いてもよかったのではと思いました。

 以上となります。
 自分のことを棚にあげたようなことばかり申し上げしまって申し訳ございません。
 乱文失礼いたしました。

 重ね重ね、作者様の時間や努力を無下にするようなことをしてしまったことを、深くお詫び申し上げます。


すぎ かふん。さんの意見
 こんにちは。すぎ かふん。と申します。
 まず最初に、私はストーリー、キャラクター、文章、そして全体の四つに分けて批評させていただいています。お題に関しては「楽しければ何をどう書いてもOK」という持論なので、お題の使い方が上手下手は批評しませんのでご理解下さい。

☆ストーリー
 夏のじめじめした暑さとは無縁のからっとした青春ストーリー。こういう青春を送りたかったなと、中学も高校も公立校だったためか屋上が立ち入り禁止だった私は嘆いてみます。
 いいですね。こういうすがすがしいお話というか、どこにでもありそうな何でもないお話。いや、何でもないというと語弊がありますが、それだけ本作品の雰囲気がその辺を探せば出てくるような、リアルな情景を描き出せていると言うことなのでしょうな。
 ただ、ワタクシ非常に難儀なことにハッピーエンド至上主義者でありまして、バッドエンドを書くからにはそれなりの意味が無くてはいけないと考えているタチなのでありまして。本作品のような一般文芸テイストの青春物はこういった終わり方をする作品が多く、ハッピーかバッドかをハッキリして欲しい私にはどうにももどかしくて読めないんですよね(^^;
 個人の好みなので点数には反映させませんが、本作品はそう言う意味でラノベではないでしょうなあ(苦笑)

☆キャラクター
 相葉の気持ち、かつて同じような経験をした私にはよく分かります。彼氏持ちなのに他の男とずっと話してていいのかと、自分の気持ちを誤魔化すための言い訳として相手を突き放す言動。リアルな学生の感情がよく出ていると思います。
 ただ、少し大人びすぎているかな、という気はしました。若者というか十代なのですから、抑え込んでいるにしても回想などでもう少し怒りとか嫉妬とか、あるいは感情への目覚めとか、そういう醜い感情を出せばもっとリアルな学生像が描けると思います。
 樋上にしてもしかり。子供っぽい口調とは裏腹に、かなり大人びた言動が見えます。その大人びた言動と、彼氏持ちにも関わらず相葉に昼飯をせびるという行為がどうにも一致しません。この世代特有の中途半端さと言えばそれまでですが、言葉と行動の統一感が取れていないなという印象でありました。

☆文章
 まず素晴らしいなと感じたのが、地の文の巧みさです。長めの地の分でありながらも感情や場面描写が簡潔に行われており、その長さを感じさせることがありません。それに加えて、ゆったりとした空気を創り出す言葉選びの秀逸さもあります。
 リアルな情景が描き出せている、とストーリーの項で述べましたが、それはこの言葉選びの巧みさにあるのではないかと思っています。特に一人称の地の文で主人公の感情を吐露していく部分などは文句の付けようがありません。素直に素晴らしいと思います。

☆全体
 欠点らしい欠点がないことが欠点、なのではないでしょうか。盛り上がりに欠けるというか、素晴らしいことは素晴らしいのですが、それ以上がないのかな、と。
 冬の企画の時も同じような雰囲気の作品があったのですが、やはり何かが足りないのです。その何かを言葉にするのは難しく、あえて誇大な表現をするのなら、始まってそのままずっと推移して、そして初めのままに終わった、とでも言いましょうか。分かりづらいですね、申し訳ないorz
 とにかく、素晴らしい作品ではありますが「これは面白い!」と唸るほどではないということです。楽しく読ませていただきましたが、まだ何か足りないのではないかな、と。

 次は個人的に気になった点を。

☆この世代の「付き合う」という行為に関して
 キャラクターの項では改善点として挙げましたが、この小説における「付き合う」という行為のリアルさには驚かされました。
 中学、高校における「付き合う」という行為は、半ば遊び半分のいわゆる遊び仲間の延長上にあるものであり、将来を誓い合うなどという大仰なカップルはなかなかいません。
 そう言う意味で、本作品では男子特有の恋に対する躊躇いの感情、そして女子特有の少し冷めたような人間の見方、そしてそれらを全部まとめた学生時代特有の中途半端な「付き合う」という行為。それらのリアルな描かれ方を拝見するに、作者様の技量の高さが伺えるというものです。


 今回の作品、総じて楽しく読ませていただきました。ありがとうございました。
 それでは、感想を閉じます。


海巳さんの意見
 こんにちは、海巳です。
 いきなり言うと作者さんは戸惑うと思うのですが、個人的にびっくりしました。僕が書いてきた作品と「匂い」が似ているというか、根っこのところでシンパシィを感じずにはいられませんでした。こんな近い人がいるんだな……と、不思議な気分になりました。
 「多分女性向け」とのコメントがありましたが、僕の感想は違います。これは――勇気を出せずに「いい人」で終わってしまった全てのヘタレ男のための物語だッ!(叫)

【以下べた褒め】

 さて、この作品が放つなんとも言えない切なさについてですが、これはひとえに「そーすけ」のモノローグが発する「静かな強がり」にあると感じます。「鳴かぬ蛍が身を焦がす」なんて表現がありますが、秘められた想いの醸す迫力は、やはりいいものだなと思います。
 流れるような一人称の地の文は、なかなか心地よいです。割と息の長い風景描写もあるのですが、文構造はシンプルで読みやすかったです。

 そーすけの存在は、僕にとって限りなくリアルです。そうなんだよね、どうしても格好つけちゃうんだよね、だって男だもん……「好かれたい」よりも「嫌なやつだと思われたくない」が勝っちゃったり、迷惑かけまいと遠慮しまくって逆にプレッシャー与えちゃったり、「もっとしっかりした人間になってから」と言い聞かせている内に時間だけが過ぎてたり。
 まあ、やりますよね(目を伏せる)。
 僕はこういうのが「現実」で十分に起こりうることを知っているのですが、これを「物語」として料理する場合、少し工夫が必要になると思います。今作は「原石そのまま取り出した」という感じで、僕なんかは割と嫌いじゃないですけれど――、現時点では辛口点数にしておきます。

 今作で決定的に好みだったのは、彼が心で呟く台詞の「響き」というか、「手触り」ですね。「あの時の俺は、何もできちゃいなかった」の「ちゃ」とか、「思い出したから言ってみただけだ――と、言い切れない自分が、確かに居た」に見えるような絶妙な表現のぼかし方とか、ツボが多すぎます。接続詞や指示語(そして、それを、など)の挿入箇所も、かなり良い感じ。
 文法的に言えば、動詞の使われ方が優れています。よく見ると語彙もかなり使っているし、「〜る」と「〜た」などの時制、能動受動の態の切り替えも、リズムにかなった選択がなされています。まとめると、頭から読んでいって、迷わずきちんと理解できるということです(これ重要)。
 「〜て」で繋げていく文が見渡すとかなり多いのですが、歯切れ良い短さに抑えられていてベタベタしません。リズムにすると「トン、トン、ストン」という感じの、ポップスソングみたいな感触が良いフィーリングです。なんか音楽的ですね。あるいは、漫画的? とにかく、テンポは一級品です。

 「文体」というと堅苦しいのですが、「そーすけ」語りの統一感が僕の趣味にストライクしました。多分、この作者さんはそこまで計算することなく、ポンポンとこういう文章を書ける人なのではないか、と感じます。

 なんか文章や心理の感触についてしか長所として指摘してませんね。でも、今まで書いたようなことが、僕にとっては「最重要要素」だったりするのです。なので、正直言ってこの作品の評価には、かなりひいき目が入っています。
 しょうがないよ、好きなんだから!
 全編非常に淡々としていて、そこが想像力たくましい読者にとっては、とても広い余白を感じさせてくれる良い作品だと思います。しかし、そこに頼りすぎている面もある。この「もやもや」な魅力を保持したまま、いかにしてリアリティを付与していくかが、腕の見せ所ですね。

【指摘点】

 良いところはとても良いのですが、勢いに流されずに読むと、「玉に致命傷」的な欠点がいくつも浮かび上がってきます。

 一番良くないのは、登場人物が「閉じている」印象を受けることでしょう。三角関係というテーマが用いられているし、時折挟まれるコメディなんかにも目を逸らされてしまいそうなのですが……そーすけも樋上さんも、実はお互いを見ていない。
 二人とも、自分の中である種の回路を作ってしまって、その中でぐるぐる回って苦しんでいる。これは、「どうしても自分の気持ちが、相手に伝わらない」という類の作品ではありません。見えない敵を自分で創って、右往左往しているだけなんです。
 これは若さという意味で「現実的」ではありますが、なんらかの恋愛経験を積んだ人は、この二人の「身勝手さ」のようなものを、正確に感づくと思います。そして、醒める。

 この作品のエンディングは、非常に納得できます。この「似通った二人」を主人公とヒロインに配置したら、この結末以外にないと思います。その点で、作者さんはよくキャラクターを掴んでいるし、物語を理解していると思います。
 しかし、物語の醍醐味の一つである「違う価値観をもった人間達のぶつかりあい」が、描かれていないのです。本当は、どのキャラも違うタイプにしなくてはいけない。その上で、相手をはっきり見据えさせて、思い通りに行かない関係性について、悩ませたり戦わせたりする。そうしなければ、どんなに波風を立てても「自分回路」から外に出られない。
 ある種の人に共感は呼ぶかもしれないけれど、感動を与えることは出来ない。

 この作品について、一番具体的な大ミスを指摘すれば、「告白した後輩一年生」を「登場させなかったこと」です。彼をきちんと登場させ、発言させる。そーすけにぶつけたり、意見を述べさせる。そうすれば、そーすけの心に何らかの「変化」が起きるでしょう。価値観が違うからです。
 そうしたら、この物語は全然違う結末になったかもしれません。そーすけは立ち上がって、樋上さんを追いかけ、プライドを捨ててでも彼女の奪還に踏み切るかもしれない。また、諦めてしまったとしても、何かを掴んで、これまで以上に彼女を大事に思えるかもしれない。
 ぼんやりした感じを目指したのかもしれませんが、それでも核になるようなものがあると、僕はなおいいと思います。

 本質的なツッコミはそれくらいですね。あとは、タイトルがあまり良くなかったと思います。わざわざ英字にした意味が分からなくて、クールさより取っつきがたさを感じます。それに、屋上というのがそこまで重要だったか疑問です。むしろ、有効活用された「フライパン」をタイトルに込めたら良かったんじゃないかな、と感じますね。ぱっと思いつくのは「Our mind bihind the frypan」とか。

 あと、短編である以上避けられないかもしれませんが、場面転換がとても少ない。風景が動かないので、余計心の停滞感が際だってしまいます。今作の風景描写は、心理描写をかきたてる小道具的な位置に感じます。ここもきっちり現実を書こうと思えば、主人公の心の向きが外に向かうと思います。

 あと回想を挟む構成は便利ですが、使うときは注意しましょう。
>「樋上さんはさ、どれくらい料理ができるようになりたいの?」
>「んー、皆がびっくりするぐらいかなぁ」
 こうやって会話で始めるのは、明らかに失敗。場面転換する際には、とにかく「何も分かっていない読者」が負担なく理解できるようにして下さい。ここは、時間と場所を簡潔に示してから、回想に入るべきでした。こうなってしまった原因は「夢」という形を採用したからでしょうが、普通に「回想」でいいと思います。
 あと、できるだけ短くして、すぐに現在に帰ってくること。今回の夢シーンは長さを許容範囲に納めてありますし、この作者さんなら分かっているとは思うのですが、念のため。

 「彼氏ができたんだ」宣言から始まる冒頭も、もう少しコンパクトにできそう。初めの学園の描写は、まあ内容は面白いですけど余計です。いきなり樋上さんが入ってきてきたほうが動きがあって面白いです。学園の描写は、その後で十分間に合います。順番の問題。

 指摘点は以上です。

【最後に】

 僕はこの作品を、個人的にすごく買っているんです。一番大きいのは、繊細さでしょうか。乱暴な感じがしないのが好きです。この感触は、できれば大事にして欲しいなと思います。極端に走りがちなラノベ界の中では、こういうの重要だと感じます。
 コンパクトな作品でしたね。でも、もっと長くしようと思っても、登場人物の心情吐露を掘り下げる方向には向かわず、できるだけ、外側(第三者、学校外の世界など)に繋げていくようにして、スケールを大きくした方がいいです。作者さんには見分けられる小さな違いの面白さが、読者さんには全く伝わらない、という恐れは十分にあります。

 かなりキツい指摘になったとも思いますが、筆力は確かなので自信を持って下さい。同じ書き手として、「僕なら妥協できない」というところは目一杯感想に込めました。読み手としては、「次回作を楽しみにしています」と言い残しておきます。
 ありがとうございました。


AQUAさんの意見
 企画参加お疲れ様です。作品拝読しました。
 今回読みながら感想を呟く『リアルタイム感想』をやらせていただきます。
(なお、この感想にはネタバレを含みますので、未読の方はご注意を……)

>「私、彼氏ができたんだ」
 ガビーン! という心境が風景描写とマッチしています。

>樋上奈々と俺こと相葉宗助との間にあったものは、フライパンだった。
 こっちが本当の冒頭なんですね。インパクトあります。お題的にも。

>「おぉ、さすがそーすけ。いつもながら職人技ですなぁ」
 この台詞から先、会話だけで彼女のキャラが分かりますね。

>やがて樋上は何かを言いかけたが、それを飲み込むような動作をして、黙って立ち上がり横へスライドした。
 ほんのり両想いフラグを感じます。主人公ちとヘタレ系?

>俺とあいつの間にあったのは恋慕の情じゃなくて、フライパンだったのだから。
 しんみりした中に出てくるフライパンに、ウケましたw

>ケチな高校の方針に従い、調理をする際一般的な人類が使う道具を一式揃えた翌日のこと。
 ちょっと時系列移動が分かりにくかったです。

>「目からビーム出して目玉焼きを作る、とか?」「それはびっくり人間、もしくはアンドロイドやらの類だって
 うむむ。若干無理して入れ込んだ感が……。

>初めて来た時にお互いを知り、二回目で俺は手を繋ごうと試みて失敗し、三回目からは取りとめもない会話で盛り上がった。
 ええー! 順番違い過ぎるよキミ!

>「お前に彼氏ができて、俺たちの関係が崩れていくことが。俺がお前の隣にいれなくなる未来を想像して、震えてたんだ」
 うーん……この台詞は大人過ぎると思います。せいぜい、大学生くらいかなぁ。

>「好きって、言ってくれるのを。私、そーすけが好きだったから」
 やっぱり! 当たったっ。

>暖かな風が吹く屋上に、安堵を孕んだ静寂が訪れる。
 本当に美しい風景描写の連続で、圧倒されます。

>もっと早く、意思を言葉に出せていれば良かった。だけどそうするには俺たちは子供で、自分を剥き出しにする勇気がなかった。
 すごい良い台詞なんですが、まだ一ヶ月しか経ってないのに、この達観はねぇ!w

 読了しました。全体の感想を簡単にまとめさせていただきます。

【文章】
 とても好みの文体というか、もう風景描写最高です。
 素晴らしいとしか言いようがないです。
 合間にポロッと入る会話やモノローグで、特に笑いを獲ろうと狙っている感じはしないのに、軽く笑えてしまうのもイイ感じのアクセントになってますね。

【ストーリー】
 過去をチラチラ振り返りながらも、基本はあまり時間軸の移動が無くシンプルな構成で、とても分かりやすい展開でした。
 特に主人公目線の、少しプライドの高い、それでいて臆病な心情を描き出す屋上シーンには、胸を打たれました。
 ヒロインが天然でも良い子でもなく、自分のことを責めているあたりも好感度高いです。
 そうそう、女子とは基本「愛されたガール」なのですよっ。
 遅ればせながらきっちり告白した彼の、成長を感じさせるラストも余韻たっぷりでした。

 ツッコミどころは、もう上記呟きでだいぶお分かりかと思いますが……。
 これ、社会人が同窓会で再会した話ですよね?w
 こんな高ニ男子、しかもたぶん恋愛経験少なめのくせに超大人キャラなんて、絶対いねぇー!
 作者さまが「いや、普通にいますが」とおっしゃるなら、ゴメンナサイ。orz
 フィクションとしてのリアリティを出すなら、エキセントリックな設定を混ぜるとか(頭でっかちの文学少年だとか、逆にあけっぴろげ女系家族で女子について達観してるとか)、何かバックグラウンドを示してもらえたらスムーズだったかもです。

 あと彼女も、ちょっと安易にふらっとし過ぎかなぁ。
 やはり、恋愛経験が少なそうなキャラとは思えない動きをしていました。
 なんというか、発想が初心じゃないというか……これ完全に二十代OLです。超したたかw
 嫉妬して欲しいとか、かまをかける行動はアリだとしても、実際やろうとするともっとボロが出るはず……と、過去の記憶をひっくり返し、羞恥心いっぱいになりました。

 もちろん人との壁をつくらないくだけたキャラが魅力的なので、一年生の彼が憧れる気持ち&ナヨイそーすけにやきもきした彼女がそっちにグラつく気持ちも分かるのですが。
 たぶんこういう女の子は真っ直ぐぶつかられるだけでは物足りないと感じるはず……。
 きっとGW強引にデートに誘われ、海の見える公園でちゅーでもされてぽーっとなったけど、いずれ「子ども」には飽きるのです。
 そして、一見大人なそーすけの元に「最近彼氏とうまく行ってなくて」とすり寄るに違いない!
しかし、そのときそーすけには別の片思い相手が(以下妄想略)

【お題・舞台】
 正統派な学園モノです。イイ感じでした。
 あえて言うなら、一年生君含め、もっと脇役キャラには頑張って欲しかったかなぁという気もします。
 せっかくの面白そうな部活も、二人きりの世界じゃ学園のワイワイ感が出ないですしね。
 お題については、フライパン以外は苦しい感じでした。
 でもこの爽やかな作風に入れ込むの、さぞかし難しかっただろうなと理解はできます。

【まとめ】
 圧倒的な文章力で綴られた爽やかな作品で、失恋モノなのにじんわり温かな気持ちにさせられました。
 が、やはりラノベとして考えた学園モノのワクワク感、初恋の胸キュン感が、しっとり風情のある屋上にかき消されてしまった気がします。
 しかしライトな学園感、お題的なナチュラルさ、キャラへの共感度がちょっと物足りず……。
 とはいえ、完成度の高さには脱帽&土下座、という感じです。良作でした。

 では、少しでもご参考になれば幸いです。

※5/14 ご評価につきまして補足
 全ての作品を読ませていただいた結果、感想内容・ご評価を再チェックしております。なお、ご評価につきましては以下のような基準にて。

・ストーリーの完成度(7割)
 文章的な読みやすさ/キャラは立っていたか/展開についていけたか/伏線は回収されたか/オチはついていたか、というポイントを無難にクリアしていればプラマイゼロ、どこか気にいったら加点、引っかかったら減点しています。

・学園&お題への取り組み(3割)
 今回は『学園設定&無茶なお題をどこまで上手く取り入れられたか?』を、重要ポイントとしてチェックさせていただきました。こちらも無難ならプラマイゼロ、気に入ったら加点、引っかかったら減点しています。

・その他フィーリング(基準無し)
 上記に当てはまらず心を揺さぶられた場合、加点や減点を。
 なお、しっかり読み切れなかったorどうしても点がつけられない作品は、申し訳ありませんが評価外とさせていただきました。orz


瀬尾マコトさんの意見
 初めまして、です。心で泣かせていただきました。

 本当は好き合っていた筈なのに。
 ちょっとしたことですれ違いで、小さな恋の芽は消えて。
 少女は新しい恋に進んでいく。

 せつない、切ないのです。
 樋上も、宗助だって何が悪いというわけではなかったのに。
 青春時代の甘酸っぱさ。恋の苦さ。久方ぶりに思い出させていただきました。

 良いものを見させていただきました。
 ありがとうございます。


鳴海川さんの意見
 こんにちは、こういう日常の中に潜むこっそりとした恋愛ものは大好きな鳴海川です。というか日常ものは、大抵のものが好きです。蔵書の漫画の五割は日常ものです。

 閑話休題。

 うっわー……、何ですかこれ。上手すぎでしょう。地の文とか、キャラクターとか、ストーリー展開とか、タイトルとか。
 もう賞賛の言葉は、残念なことに語彙が貧困な自分からはたいしたものが出せないので、これだけ言わせてください。この一言に全てを込めます。

 良作っっっ!!

 あとは英語のタイトルも良いんですが、これが和訳されて「青い空の下で」とか、ちょっと洒落て「蒼い空の下で」にだったら、自分は完全に吐血してノックアウトされていました。もちろん、今のままでも致命傷を食らっていることには間違いないのですが(笑。
 ……あ、でも日本語で書くとそれを本文の内に入れなくちゃいけないのか。そこを考えると英語でタイトルを書いたのは、流石です。タイトルを日本語で書くということは、的外れな指摘でしたね。聞き流してください。
 でも、もう少しだけ我が侭を言わせてください。
 自分の印象だと、やはりこれは既に指摘されている通り高校生というよりも大人の考え方だと思います。だから、一人称ではなく三人称ならより良くなったのではないかなぁ、というのが自分の最終的な感想でした。
 ……あれ、全然一言に全てを込めてないな(爆。

 駄文、乱文失礼しました。GW企画参加、お疲れ様です。
 では、失礼。


Hiroさんの意見
 こんばんは、Hiroと申します。
 拝読いたしましたので、拙いながらも感想を残させていただきます。

> > > > >

 学園物として正統派(?)な恋愛物が上手く書かれていると思いました。
 普通に「良かったな」と思ったので、特に書くこともありません。逆に言えば『可』以上の評価には届かなかったと。
 個人的な嗜好で言えば、もう少し感情の揺れたところを長めに表現して欲しかったかなと。

 アンドロイドとビームのお題の使い方が上手かったと思います。

>しかも全部すっげぇ甘い奴なのな
 このコーヒーの中にMAXコーヒーは含まれていますか?<オイ

> > > > >

 今回はお祭りなので、いつも以上にかる〜いノリで感想を書いております。
 質より量で、あまり深く考えず書いているところもあるので、まぁ、「こんなこと言ってるやつもいるよ〜」と気楽に捕らえてもらえるとありがたいです。

 それでは乱文失礼しました。ノシ


ななななさんの意見
 拝読したので感想を書かせていただきます。

【シナリオ・展開】
 起。屋上にて。
 承。悶々宗助。
 転。メールを打つ。
 結。そして、屋上にて。
 こんな感じでしょうか?

 これぞ青春! という感じですね。甘酸っぱい!
 恋を経てちょっと成長した二人、という展開が素敵ですね。困難を乗り越えた男女がご都合主義的にくっつくよりも私の好みです。「ばいばい、そーすけ」「じゃあな、樋上」というまったく同じやりとりが、下駄箱では寂しげな印象なのに、最後の屋上では新たな一歩という感じでした。曇り空と青空の対比も良いです。あと薄暗い(どこの学校でも割とそうだと思う)下駄箱と明るい屋上というのも対比になっているのかな、とか。
 総じて良いお話でした。読み返してみると途中まで主人公が鬱々としているだけの話なのですが、何でこんなに読みやすいんでしょうか? 巧いなあ。

【人物】
○相葉宗助。料理研究会部員。会員? 卵焼きが上手い。樋上に好意を抱きつつ、告白できなかったために付き合う機会を逃した。本気になる方法を知らない現代っ子っぽい。
○樋上奈々。料理研究会部員。料理のスキルは不明。よくわからないテンションの持ち主。アンドロイド疑惑。ずっと「ひがみ」だと思っていたので、途中で「ひのうえ」と読むらしいことを知って修正に苦労しました。

 宗助が奈々に告白できなかったのは、彼女に対する想いと真剣に向き合わなかったためですよね。何となく「このままがいいなあ」とか思っていたのでしょう。告白することで関係性が壊れてしまうことも怖れていたのかもしれません(似たようなことは最後の対話でも言ってますし)。
 ……えーと、何が言いたかったんだっけ。
 そう。彼はこの物語で、「本気になること」を知ったんじゃないかなと思いました。なので、その方向性を示してあげると良くなるかなと思います。具体的には、料理。奈々とのやりとりの中で料理をすることが好きになってきて、「将来は料理人になる」「本気だ」「皆がびっくりするような料理を作る」みたいな流れだと良いなーと思います。奈々の印象的な台詞がその場限りで流れていたので、再利用してみました。もちろんこれは私の勝手な考えなのですが、何か成長したことによる具体的な変化があったほうが良いかなと思います。ちょっとふんわりした結末だったので。……とはいえ、これはこれで好きですし、良い終わり方なのかもしれません。ってか、このふんわりした感じが青春なのか? そう考えると最高の結末なのかも? うーん……。
 毎回思うけど私は好き勝手言いすぎですね。すみません。いつもこんな感じなのです。適当にスルーしてくださいまし。

 あと有森くんはいなくても良かったのでは……。まあ、わざわざ邪魔だと言い立てるほど活躍してもいませんでしたが(それはそれで逆に可哀想な気もします)。
 ↑の案と合わせて、彼の実家が飲食店だったりすると私が喜びます。

【世界観・設定】
「ビーム」と「アンドロイド」についてはどないやねん、と思いましたが、あとでアンドロイドが拾われていて笑ってしまったので気にしません。でもビームと言われたらアンドロイドよりロボットかなあと思います。ちょっと苦しいかもしれません。些細なことではありますが。
 そんなことよりフライパンの使い方が素敵でした。
 世界観としては、主人公の語り口がさっぱりしていて、暗くなりすぎず、鬱陶しくもなく、爽やか成分だけを抽出した感じに仕上がっていたと思います。樋上さんの登場でちょっと雰囲気が変動していましたが、ひとり鬱々と悩んでいる時と女の子と一緒にいる時と、テンションが違って当然ですものね。なんかケチをつけましたが、安定していたと思います。

【文体】
 基本的には読みやすく安定した文体でしたが、たまにわかりづらい長文がありました。好みの問題と言える範囲でしたが、いちおう指摘を。

>ゴールデンウィーク三週間前に親しい女子生徒との縁が切れて、放課後に暇を持て余すようになったことが俺にもたらした影響というものを考えると、意外とそれは小さいものだった、と思いたい。

 これとか。
 あれ? 読んでいて気になったのはここじゃない気がするのですが、読み返しても見つかりませんでした。やっぱり指摘するほどの問題ではないのかもしれません。
 でも、水・金以外はこれまでも放課後は暇だったのでは?

【点数】
 良かった点としては、宗助も奈々も、それなりに理解できる行動を取っていたこと。悪かった点としては、……ちょっと思いつきません。指摘できなくて申し訳ない。大変面白かったですし、好みのお話でもあったので、この点数とさせていただきました。

 以上、取捨選択お任せでお送りしました。
 批評っていうか感想っていうか、……単に言いたい放題言っただけという気もしています。広い心で見逃してください。


デルフィンさんの意見
 こんにちは、デルフィンと申します。
 迷ったのですが、感想を一応落としていきます。

 文章はすらすらと読めました。
 青春の甘酸っぱい雰囲気はよく出ていたと思います。
 短い分量の中、起承転結、綺麗にまとまっていました。

 綺麗に小じんまりしていた分、意外性がないというか物足りなさを感じましたが、この辺はぼくが長編専だからでしょう。

 創作お疲れさまでした。


つとむューさんの意見
 はじめまして、つとむューと申します。
 今回、初めて参加させていただきました。
 よろしくお願いいたします。

【良かった点】

 この作品で一番気に入った点は、甘酸っぱいエンディングと文章表現です。
 後者は、個人的な好みとの合致もあると思いますが、
 あまり難しい単語を使わずにきちんと描写できているところが大変気に入りました。
(この作者さんの他の作品も読んでみたいと思いました)

【?な点】

 最大の?な点は、お題の消化についてだと思います。
 フライパンは上手く使っていると思いますが、アンドロイドとビームについては、ほとんどが会話の中で使われているだけで両者が登場するわけではないため、かなり弱い感じがします。

>その時が、俺と樋上の馴れ初めだったと言えるだろう。
>そして俺は、樋上に高校生活の伴侶ができた今でもそれを引き摺っていた。

 最初の文で「馴れ初め」という言葉が使われていたので、次の文の「伴侶」は宗助のことを指すのでは?と、最初勘違いしてしまいました。

>「そこに座られてると、靴が取れないんだが」
 この状況がよく飲み込めませんでした。下駄箱の前に椅子を置いて樋上さんが座っていたので靴が取れなかったのかな?と思っていますが……(間違ってますよね、きっと。笑)

>「樋上さんはさ、どれくらい料理ができるようになりたいの?」
 この部分が一年前の回想シーンであることを理解するのに、時間がかかってしまいました。段落の最初に、「一年前」とか書いてあると親切ではないかと思います。

【コメント】

 お題の消化ついて弱い感じがするのが残念でした。それがなければ、もっと高得点をつけていたと思います。
 
 卵焼きというと、角型フライパンを連想してしまうのですが……(笑)

>「樋上、お前が好きだ」
 クライマックスで樋上さんの肩を掴んだ宗助のこのセリフの後で、もし樋上さんが宗助に体を預けてきたら……。そんな展開も読んでみたいと思いました。個人的な勝手な要望ですが……(笑)


 拙い感想のため、気を悪くされるようなことがありましたら申し訳ございません。
 執筆お疲れ様でした。今後のご活躍を期待しています。


シキさんの意見
 こんにちは、不肖な批評家シキでございます。「Under the blue sky」を拝読いたしましたので、感想を投下させていただきます。
 今回、まことに多くの作品が落とされましたが、良作ばかりなせいか、良い意味で感想がつけにくいことこの上なしです。(ちくしょううますぎるぜ、それだけ私が悪い部分を突っ込む揚げ足取りな批評ばかりしているのかもしれませんねw)。無論、この「Under the blue sky」も例外ではありません。
 まず感想をふたつ述べさせてもらいます。
 ひとつは、内容が良かったことですね。非常に王道的な恋愛ではありますが。いえむしろそれゆえこの作品を良いものに昇華していったのかもしれません。内容に斬新さはありませんが、すかーっとした爽快感と読後感がこの特徴ともいえます。
 もうひとつは、表現が良かったことです。タイトルに書かれている「Under the blue sky」、つまり空の描写を組み込んで、物語を語っている点が評価できます。樋上を太陽と例えているところも、それと関係があるんでしょうね。
 とべた褒めだけでは作品がさらに磨きをかけられないと思うので、次に酷評を無理矢理述べさせていただきます(無理矢理なので、参考にしなくて結構です)。
 この作品はライトな感じが浮いてしまっている特徴があると思います。
 元来ライトノベルはファンタジーやSF、といった非日常的なものとなっています。日常ごとを題材にしたライトノベルもありますが、それはギャグで非日常化している傾向にあります。
 結論から言えば、この小説は一般的な意味での恋愛小説にしたほうがいいのではないかということです。ライトノベル的な表現が多く出て、それが読むのに邪魔になっていると思うのです。もし、非ラノベ的、一般的恋愛小説を書くことがあれば、私はまたその作品を読んでみたいと思います。(そのときこそ、私は本当に感想が書けないくらい黙ってしまうかもしれませんがw)
 無論、私がひねり出した個人的意見ですので、無視してくださって結構です。何より私自身、この作品を素直に楽しめたのが好感です。
 これからもご執筆頑張ってください、応援しております。ではでは
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