ライトノベル作法研究所
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もう苺が食べられない

akkさん著作

  ※ 人によっては性的な表現・グロテスクな表現
              暴力表現と感じる表現を含みます。




   ▼ 0 ▼

  ▼ 食用ですので、それ以外の目的では使用しないでください。
  ▼ 生ものですので『必ず』お早めにお召し上がりください。
  ▼ 旋毛から爪先まで全てお召し上がりいただくことができます。




   ▼ 1 ▼

 響水音が睨みつけるガラスケースの中で微笑む『それ』は、食べ物には見えなかった。作り物みたい
に美しい小柄な女の子だ。
 苺色の真っ赤な瞳をぱちぱちと瞬かせている。大きな瞳は長いまつ毛で縁どられ、小さい鼻もピンク
色の唇も絶妙なバランスだった。
 肩まである小麦色の髪は細くてさらさらで、クリーム色の肌はマット加工の陶器みたいに白くてすべ
すべだった。純白のシンプルなドレスを着ているため、胸の膨らみが強調されている。水音は目を逸ら
すけれど、そこには華奢な腕と細いけれども適度に肉のついた太ももがあって、結局目のやり場に困っ
た。
 映画の悪役のような怖い顔で大男である水音が、少女に見惚れている姿は傍から見れば滑稽だった。
しかし彼は今そんなことを気にしていられなかった。『イーツ・バー』には初めて来たが、改良された
生イーツがこんなに綺麗なものだとは知らなかったのだ。
「名前は苺。苺ショートケーキ味の『デザート・イーツ』でございます。髪や骨まで全て、生でもお召
し上がりいただけます。お気に召しましたかお客様」
 ウエイター姿の男性店員が問う。
 天井のシャンデリアが優しく光り、区切られたショーウインドウを照らす。ウインドウの中にはイー
ツが一体ずつ並んでいるが、水音の切れ長の瞳にはもう苺しか映っていなかった。
 たまにはおいしいものが食べたいと会社の人に言ったら、教えてくれたのがここだった。水音は生イ
ーツを食べにきたはずだったのだ。
 水音は困ったときのくせで、顔を隠すように口元を右手で覆う。
「ケースから出してください」
 店員が鍵を開くと、透明なガラスの扉がスライドして、甘酸っぱい果実にバニラエッセンスを混ぜた
感じの香りがふわりと広がる。イーツ特有の食欲を増進させる香りだった。水音は唾液をのみ込んだ。
 苺の背丈は彼の肩より少し低かった。彼女は、見る者を窒息させてしまいそうなくらい可愛い笑顔を
作って、首をかしげながら言った。
「わたしを食べて、くれるんですか?」
 薄氷で作られた管楽器のような透明感と繊細さを持った声だった。
 その声を聞いた途端、水音の体に電撃が走り、
「持ち帰りにしてください」
 彼は即断していた。
 ウエイター姿の店員が微笑む。
「かしこまりました。ご用意させていただきます。必ず、早めにお召し上がりくださいませ」




    ▼ 2 ▼

 数十年前から食肉といえばイーツが主流になった。
 遥か昔の話だ。『ウシ』や『ブタ』や『トリ』とかいう家畜はウイルスによって繁殖が困難になり、
世界からは食肉が消えた。
 肉の食えない当時の人たちは人工肉で代用したが、それは肉ではない。次第に不満は募ったそうだ。
 そのタイミングで世界中に、どこからともなく現れたのが『イーツ』――当時は『食用少女群』と呼
ばれた少女たちだった。彼女たちは『食べてください』と申し出る。どうやら食べるために生まれてき
た存在だという。
 一部の国の人達が食べられると宣言するが、やはり食するのには抵抗があったという。見た目は人間
と変わりがないのだから。
 世界の表舞台では受け入れられないまま、食用少女は裏で取引されるようになる。食った者は世間で
はゲテ物食いと揶揄された。
 とあるファーストフード・チェーンや人工肉丼屋では、肉に食用少女の肉が混ざってると根の葉もな
い噂が流れたりもした。
 しかし食肉が消えてから十年程が過ぎ、世界三大宗教の一つが『これは神よりもたらされた救いであ
る』と解禁を宣言した途端、彼女たちの扱いが百八十度変わることになる。もちろん非難は飛び、反乱
も起こったが、それもまた十年程のこと。罪の意識は神の力で水っぽく薄められる。名が『食用少女』
から『イーツ』へと変わり世間に広まっていく。
 怖いもの見たさで食った者は、その肉の美味さに病み付きになった。イーツは、とても美味しかった
のだ。イーツ肉専門店ができ、各所でCMが流れ、食品店に流通するようになった。調理法が朝のテレ
ビで放送されるまでになる。その頃から食事の前には食べ物に「たべさせていただきます」と感謝する
のが慣わしになった。長いので「たべただきます」と略すのが、今では常識だ。
 イーツは隔離された場所で育てられ、隔離された場所で加工されて出荷されるようになった。それが
世間に許容されるのに拍車をかけた。全く見えなければそれはそれで不安になるというのが人なので、
情報は開示され、工場見学はいつでも行えるようになった。とはいえ好んで行くものはいやしない。
 イーツ肉が世間に広まるのに加担したもう一つの理由が、味の多様性だった。美味なだけではなく、
辛みのあるもの甘みのあるものまで、まるで人類の好みに適応でもするように生まれていった。
 近年、『デザート・イーツ』と呼ばれるイーツも生まれている。肉とは思えない触感は柔らかく、デ
ザートのように甘くて、若い世代を中心に流行した。専門店には列ができるほどだった。
 いまだに年を取った人の中には、イーツ肉なんて食えるかと吐く者もいるみたいだが、概ね世間一般
でイーツを食わない者などいなくなったのだ。
 そして数年前から地下世界で取引されるようになったのが『生イーツ』だ。『そのままで食べられる
』が売りの生イーツは、加工されず人型のまま売られた。それが、世間一般には知られていないが、一
部の人間からは好評だった。




   ▼ 3 ▼

 水音の部屋に届けられた苺はふわふわとした感じのフェミニンな苺色のワンピースを着ていた。足元
には大きなオフホワイトのトランクが置いてある。
 水音は凶悪犯のような怖い顔をできるだけ優しく見せようと微笑む。
「僕は響水音。よろしく苺」
 背の高い彼は、小柄な苺を見下ろす形になった。
「いちごです。どうぞお召し上がりください」
 スカートの裾をつまんで、頭を下げて挨拶をする。薄氷で作られた管楽器のような透明感のある声は
健在だった。
「ごきぼうだったら、いたい。ってえんぎもできるよ」
 痛覚のないイーツだったが、人によっては『痛がる演技』を欲しがる客もいた。
「そんなことしなくていい」
 水音はにやりと笑い、鋭い目を細めながら言った。
「僕は食べないから」
「え? 食べ……ないの? 生でも、だいじょうぶだよ?」
 苺は不安げな表情で口走る。
 視線をわざと逸らしながら、水音はソファにすとんと座り、苺にも座りなよと促す。苺は素直に従っ
て、ぴょんと彼の対面にあるソファに飛び乗り、膝立ちの姿勢になり向かい合う。
「おいしいよ? ほら」
 苺は人差し指を水音の唇に添えた。とても甘い香りのする指を、水音はぐっと我慢して、噛り付かず
に指を下げる。
「その代わりにしてほしいことがある」
「してほしこと?」
「その声で苺に――歌を唄ってほしいんだ」
 一瞬部屋はしんとした。苺は戸惑っていた。
「唄う? わたしは食用だよ?」
「大丈夫。その声は、すごく素敵だ」
 水音は大げさに両腕を広げた。
「僕の音楽生活で出会ったことのない声質だ。ガラス細工の琴を指先で優しくはじいたような高音は、
僕のずっとずっと探していた理想の声だ! まさかイーツにこんな声の持ち主がいるとは思わなかった
けれど……。あれは出会うべくして出会ったとしか思えない」
 怖い顔の大男が身振り手振りを交えて力説する姿は、普通の女の子だったら泣いて逃げ出すところだ
が、苺はイーツだ。人に迫られても動じない。彼女はぼそっとつぶやく。
「でも……わたし、唄ったことなんてないよ」
「簡単な曲でいいからさ。ちょっとこっちで唄ってみて」
 水音の家にはレコーディングスペースがある。一部屋をそれ専用で使用しており、音楽機材が所狭し
と並んでいた。部屋の角には区切られている小部屋があり、防音仕様でちゃんと声を入れることもでき
た。
 彼の仕事は音楽制作だ。個人名でアーティストとして活動しているのではない。作詞、作曲、編曲を
して誰かに唄ってもらうのだ。
 苺を小部屋に押し込む。側面はガラス張りになっていて、中の様子が外からわかるようになっている
。苺は不安げに視線をさまよわせている。
 水音はマイクをオンにしてから「そこのヘッドホンつけてから、マイクに向かって、何でもいいから
唄ってみて」と指示を出した。
「何でも……? はい」
 とスピーカー越しに苺は返答する。
 苺の唄う歌が聞けることで水音は興奮して息を飲む。高額なイーツに手を出すなんて痛い出費だった
のだが、彼女の歌が聞けるのであればそれくらいいくらでも捻出できたのだ。
 そして、微笑みながらイーツである彼女は唄った。
 開いた口から透明感のある繊細な高音が放たれる。五線譜に子供が落書きするみたいに音符が乱れ飛
んだ。水音の鼓膜は拠り所を失い、どの音が『ド』の音かわからなくなる……!
「って、あの――苺?」
「何? みずね?」
 後ろめたさのない満面の笑み。
 水音はマイクをオフにして頭を抱えた。こんなはずじゃなかった……。
 まるで幼稚園児が無茶苦茶に唄うみたいだった。つまり、彼女は歌がものすごく下手なのだった。水
音は眉を寄せ、口元を右手で覆った。
「練習、しよう!」
 水音は月夜の晩に変貌しそうなくらい怖くみえる顔を、より一層険しくして言い放った。そこでよう
やく、水音は怖がらせてしまったのではないかと気づく。
 思いがけず怖がらせてしまうのはいつものことだった。
「ごめん、僕、怖かった……?」
 しかし苺には怖がっている様子はなく、彼は胸をなでおろした。




   ▼ 4 ▼

 水音の住む大都会。ビルの高さは数十年前からあまり変わっていないらしいが、地下は数十階までア
リの巣のように広がり、入り組んだ迷路のようになっていて『電気街メイズ』と呼ばれていた。遭難者
もいるとかいないとかいう噂があるほどだ。
 底の方へと迷い込むと、ある個所は現在進行形で増築していたり、またある個所は何があったのか工
事途中で投げ出されたりしていた。電球が切れたままの真っ暗な通路があり、かがんでしか通れない通
路があり、増築の影響で地形がいびつだったりと、複雑かつ難解で人を迷わせるために作られたみたい
だった。
 地下には店や住宅が犇めき合っている。水音の部屋はその一角、イースト地区地下四十五階の居住区
の一室にある。
 イースト地区は地上に出なくとも生活に困らないくらいに充実していた。なので水音自身もあまり地
上に出ることはない。
 ちなみに『イーツ・バー』があるのはサウス地区の『地下世界』と呼ばれる場所だ。
 サウス地区は、上層階はアミューズメント施設になっていて、中層階は飲み屋やギャンブルの店が並
ぶ。そして下層階は複雑に入り組み、カードキーが無ければ入れない扉もありで『電気街メイズ』の中
でも『地下世界』と呼ばれていた。
 地下には太陽の光は届かない。
 なので朝になると疑似窓から、太陽の光が差し込むように見える設定をしているのが一般的だった。
水音の部屋も例にもれず、朝の光を設定していた。
 目覚めた水音は光の眩しさに目を細め、自分の前に誰かいることに気づく。
「朝ごはんは、わたしにする? わたしがいい? それとも、わたし?」
 苺が水音の顔を覗き込みながらウインクしていた。ソファで寝ていた水音はその顔をぐいっと押して
離した。
「きゅぅ!」
「僕に選択権はないのか」
 水音の視界に入った苺は、赤いリボンのついた白のキャミソールを着ていた。
 甘酸っぱくて食欲をそそらせる香りが部屋に満ちている。さわやかな朝の光が似合わない怖い顔の水
音は、のそっと起き上る。窓のない地下の部屋なので、空調器のスイッチを入れて空気を入れ替えた。
「みずね、みずね」
 苺が水音の後をついてぱたぱたと歩く。水音は目を擦る。
「何?」
 ただ視線を向けるだけでも、睨みつけて見えるほど目つきの悪い水音だったが、苺は怯える様子を見
せなかった。
「おいしいよ? ほらほら」
 彼に腕をかじらせようとその華奢な腕を見せつける。
「さて、食事にするか」
 水音はキッチンへ向かう。
「食べてくれないんだ……」
 ふくれる苺に水音が問いかける。
「そういえば、苺は何を食べるんだ?」
「わたしは専用のえいよー食がトランクにあるから。それじゃないと味が変になっちゃうの」
 ひょいっと隣に現れた苺に対してやましい気持ちになった水音は、イーツ肉の切り落としを冷凍庫の
奥に押し込んだ。
 代わりに冷凍パスタを取り出して解凍する。
 苺はスーツケースからチューブを取り出していた。それを横目に見ながら彼はパスタを皿に盛った。
「たべただきます」
 両手を合わせてから、フォークを使って食べる。
 水音は食べながら口を開く。
「何曲か唄ってほしい曲があるんだ。苺は僕の描いてたイメージ通りの声を持ってるからね」
 彼にとって一人じゃない食事は珍しかった。
 食事の後で練習を始める。
 イーツと会うことができるのはイーツ工場の者だけだったため、イーツに歌を唄わせようとするもの
など今までいなかった。なので、イーツが歌が下手などと誰が知っていただろうか。
 水音は根気よく、苺に歌を教えた。
 音感は壊滅的で不協和音を飛ばし続ける苺だったが、練習をするにつれて次第に音程がとれるように
なっていく。
 吸収は早く、一日あれば唄えるようにまでなっていた。
「すごいぞ、苺。やっぱり君は唄うべきだ」
「えへへ。唄うのって楽しいね、みずね」
「だろ。じゃあ一回本番。録音してみようか」
 水音は言った。
「どうやって、ろくおん? するの?」
 苺が水音の背後からパソコン画面を覗き込む。
「ここをこうやって……ここを押す」
「ここを……こう、こう、こうして……こう?」
「そうそう。って勝手に触らないで、仕事用なの。ほら、レコーディングスペースに入って」
 小部屋に入った苺はヘッドホンをつける。水音は曲を再生した。
 ピアノと電子音が紡ぐキラキラしたイントロはキャッチ―だった。テンポはミディアム。ダンスミュ
ージックではない、ジャンルで言えばエレクトロニカに近い。リズムにはジャズの要素も入っていて、
心地良い。Bメロにはノイズが混じることにより緊張感が高まった。そして解放感のあるサビはピアノ
とアコースティックギターと電子音が流麗なメロディを奏で、視界いっぱいの青い空をイメージさせた
。通して聴くと、どこか寂しさの漂う曲だった。
「これが、みずねの作った曲?」
 一瞬の間が空いてから水音は答えた。
「……まぁね」
 彼は作った曲のイメージと、自分の容姿が釣り合っていないことはわかっていたので、少し言いよど
んだのだ。水音は苺をちらりと横目でうかがう。苺はうっとりとしたような表情を水音に向けて、
「すごいんだね、みずねって」
 瞳をキラキラと輝かせていた。ほほを赤らめた水音はすぐに苺から目を逸らした。
「で、唄えそうかな?」
 と聞く。
「むずかしそう……」
 眉をひそめる苺に、水音は言った。
「そうだ。ちゃんと唄えたら、食べること、考えようかな」
「ほんとに?」
 苺はやる気を出した。まだ音程は不安なところがありつつも、何度かやり直し修正していくうちに、
無事に一曲が録りおわる。
 水音はその日のうちに編曲してデータを完成させて、苺の曲をレコード会社の人にデータ送信した。
 イメージは『甘くて可愛い、壊れそうな程繊細で飴細工みたいな歌姫』で。アーティスト名は苺の歌
と書いてローマ字にした『MAIKA』にした。水音はボーカルがイーツだとは言わなかった。
 パソコンの無料会話ツールで、レコード会社の人から連絡が来る。
『水音君、良い声のボーカルが見つかったんだね』
 とレコード会社の男は言った。画面には顔は映らない。水音は声だけの設定にしていた。
『すごく曲のイメージに合っていて世界観が完成している。これで進めていこう』
「ありがとうございます」
『ところで水音君』
 男は画面の向こうでにやっと笑ったような声を出した。
「はい?」
『はじめての生イーツはどうだった?』
「はぁ、まぁ……」
『何か人生変わったんでしょ? 曲にも磨きがかかってる気がするよ。生イーツにはあまりのめり込ま
ないように』
 男は世話好きな面があり、水音にとって話しやすい良い人だったが、まれに度が過ぎるお節介をやい
てきた。イーツの店を水音に教えたのも彼だった。
『とにかく、バックアップするからさ。今回は好きにやっていこうよ。俺は水音君を評価しているよ』
 水音は、今までたくさんの編曲と楽曲提供をしてきたが、その功績が認められて、今回は好きに曲を
作り、好きにボーカルを入れて、自分らしく曲を作ってみていいよと言われていたのだ。
 しかし思うがままに曲を書いてみたのは良いが、ボーカルが見つからなかった。水音の声はハスキー
で低い声だし。見た目はホラー映画で人を襲う役が似合いそうな大男だ。自分で声を入れるわけにもい
かなかった。




   ▼ 5 ▼

『MAIKA』のデビュー曲『KIDNAP IN THE DARK FOREST』は化粧品のC
Mのタイアップをもらった。
 若手の無名だった女優を起用した十五秒。清純系な女優の、どことなく切ない視線が見る者をくぎ付
けにし、人の輝く様を見事に曲が演出していた。
 繊細で透明感のある高音の歌声は、聴いた者の耳に残り、姿を見せない謎の歌姫はネットで話題にな
った。
 ダウンロード販売が開始されると、デビュー曲にして上位に食い込む好調ぶりだった。
「僕の耳に間違いはなかったよ苺!」
 水音は鋭い目をめいいっぱい開いて喜び、苺はテレビで自分の声が流れるたびに「おおー」と感嘆の
声をあげた。
「嬉しいだろ?」
「うん。うれしいよ。みずね」
 水音の怖い顔も、今日はほころんで見える。
 苺はにこにこしながら言った。
「じゃあ、みずね。そろそろ、いちごを食べてくれる?」
 水音はそっと自らの顔を覆うように口元を右手で押さえた。
「……まだ、待って」
「このあいだ、食べてくれるっていったよ? まだ食べてくれないの?」
 苺が不満そうな表情で水音に向かい合う。
「大切なビジネスパートナーだから、まだ食べないよ」
 彼は言うなり苺に背を向けて仕事部屋に向かった。苺はその後を追う。
「唄ってもらいたい曲がまだあるんだ。それに、唄えることは苺にとっても、良いことなんじゃないか
? 食べられないってことは、つまり……いなくならないってことだから」
 苺はその大きな背中を見つめる。
「わたしは食べられないのに生きてるなんてイヤだよ? わたし、このまま腐っていきたくないもん」
 困ったような声だった。
「そんな言い方ないだろ……。とにかく! 僕は食べないからな」
 苺は「むうぅ」とうなる。
「生イーツは初めて食べるの?」
「……そうだよ」
「じゃあ、あえて教えてあげる。わたしたちにとって、食べられることが、よろこびなの。ほんのーに
刻まれてる、なによりも大切なことなの。わたしは、食べ物なんだよ?」
 苺は右中指の先を自分で噛んだ。血がじんわりと滲んだ。その中指を水音の背後から、彼の口に差し
込む。
「んっ……!」
 濃厚な苺ソース味のトロッとした血液が水音の舌全体に広がる。そのまま苺の指を噛み砕いて咀嚼す
れば、どんなに美味なのか……。大量の唾液が分泌されてごくりと飲み込む。
 舌先で苺の爪の先を舐めると、固く冷やしたチョコレートような繊細な固さで深い苦味のあるの爪と
、卵とミルクのようなまったりとした甘みが染み出してくる指肉の絶妙な柔らかさが食欲を掻き立てる

「って駄目だ!」
 水音は口を大きく開けて、苺を突き放した。
「みずね? やっぱり食べてくれないの?」
 尻餅をつき、きょとんとした顔をする苺に水音は、
「食べないって言ってるだろ」
 と意思を突きつける。
「わたし、こんなことするために生まれてきたんじゃない」
「苺は自分がいなくなってもいいのか?」
「そういうことじゃないよ……! みずねのわからずや! みずねのばか!」
 苺は感情を荒げる声を出した。薄氷の管楽器のような声は割れてしまいそうだった。
「それは苺のことじゃないか。僕は、ちょっと食べ物調達してくるから」
 水音は苺を部屋に残して外へ逃げる。




   ▼ 6 ▼

 狭い通路を抜け、エスカレーターを上り、店の立ち並ぶエリアに入る。天井は高く開放感がある。た
くさんの照明が地面を、壁を照らしていて、さながら昼の太陽の下にいるみたいだった。この辺りは通
路の幅も広く、買い物に来ているたくさんの人で賑わっていた。
 ファーストフード店では、イーツ肉の新作バーガーが売り出されていた。焼肉屋からは香ばしい肉の
香りが漂っている。
 コンビニで食料品を買い込んだ水音は、歩きながらため息をついた。強面の大男が不機嫌そうに歩い
ているのだ。それだけで周囲の人の注目を集める。水音は自分の怖い顔が嫌いだった。
 音楽に傾倒していった理由は、このコンプレックスが一端だった。
 元より鋭い目つきに加え、誰よりも早く背が伸び、周囲から恐れられる外見になった。でも彼の内面
は見た目とは違い、繊細で傷つきやすかった。
 下を向いていると怒りに打ち震えているのかと思われ、振り返るだけで睨んでいるように見られた。
いつの間にやら怖い人のレッテルが張られていた。
 それが嫌で一人で過ごすことが多くなった水音は、次第に音楽にのめりこむようになる。嫌なことの
多い毎日だったけど、音楽を聴いた後は世界が素晴らしいもののように思えたのだ。
 聴くだけだったものが、次第に自分でも作ってみようと思うようになっていく。彼は外見とは裏腹に
、童話が好きだった。それは悪い魔法が解けて本当の姿に戻る話があるからだ。自分も悪い魔法にかか
っているみたいだと思っていた水音は、現実にはそんなことがないとわかりつつも、そういった話に惹
かれた。
 それが音楽作りにも影響する。童話に出てくる魔女が使う魔法のように、聴いた人を悪い魔法から解
き放ってくれるような曲が作りたかった。でも、水音の目指すものは、自分一人ではできなかった。
 インストゥルメンタルの曲でも良かったが、詩で、声で、曲を演出した方が、水音の思った世界観は
作り上げることができそうだった。そのためには声が必要だった。そのためには苺の声が必要だったの
だ。
 水音は苺に唄ってほしい。しかし食べ物である彼女は、唄うことを一番に考えてはくれなかった。唄
う楽しさを知ってくれれば何とかなると水音は思っていたがそうではなかった。イーツは本能的に、食
べられたいと一番強く願っているため、歌が一番になることはないようなのだ。
 イーツと人は価値観の違う生き物なのだと、改めて彼は痛感していた。
 少し気が弱い水音は、部屋に帰るのを躊躇する。苺がもう怒っていませんようにと思いながら、そっ
と鍵を回す。
 鍵が開いていた。どうやら開けっ放しで出ていってしまったようだ。
 水音が玄関をくぐると、部屋はしんとしていた。苺は奥にいるのだろうか。と思い、
「苺?」
 と呼ぶが返事はない。そしていくら呼んでも返事は返ってこなかった。どの部屋にも彼女の姿は見当
たらなかった。
 苺がいなくなった。
 水音は家を出る前の彼女の様子を思い出す。もしかすると、勝手に外へ出ていってしまったのかもし
れない。
 地下街は迷路のようになっているので、迷ってしまえば一人で水音の部屋へ戻ってくるのは難しい
 居住区だけでもとても広い。水音は階段を駆け上り、息を切らせながら苺を探した。
 たくさん店のある方へ行ってしまったのだろうか。人の多いところはまずかった。苺の香りは、あき
らかに人間のそれとは違っている。誰かに食べられてしまわないだろうかと。彼の中に不安は募る。
 壁の色も素材も、区画ごとに違う地下街を走り回る。必死だった。水音の全身から汗が垂れ落ちる。
 ふと、甘い苺の香りがした。
 匂いを辿ると、スイーツ・イーツ屋に行きついた。繁盛していて、店内の席は埋まっていた。店の前
のショーケースにはかわいくデコレートされたショートケーキ型の肉が並んでいる。ストロベリー味。
オレンジ味。チョコレート味――。
 水音は、これがイーツの幸せなのだろうか。とか考えてしまう。食べることが当然となってしまった
が、イーツが生き物であることに変わりない。水音には到底理解できそうになかった。水音はその場を
後する。
 もしかして――。ふと思い出し、水音はサウス地区の下層階へ向かった。そこは『イーツ・バー』が
ある地区だった。苺は店に戻ろうとしたのではないかと考えたのだ。
 下層階は下へ行くほど増築工事をしているところも多く危険だった。狭い路地も多く、暗い場所も多
い。
 下へ下へと降りていく途中、苺の匂いが漂ってきたのは僥倖だった。こんな所にスイーツ・イーツ屋
があるわけがない。水音はその香りを辿って進んだ。曲がり角を幾つか抜け、地下迷路をさまよった。
そして薄暗い通路の先に小柄な少女の後ろ姿を見つける。水音は走りながら叫ぶ。
「苺!」
 少女が振り向く。肩まである髪がふわりと揺れる。
 不機嫌そうな表情を作るが、それも一瞬のことで、心細かったのかすぐに不安げな表情へと変わった

「店に帰ろうとおもった。けど、まよった……」
 苺は足を止めない。先に先に進み、半開きだった扉に入る。
「待てよ。帰ろう、苺」
 水音も後に続いて扉をくぐる。
「帰らない。みずねは、わたしを食べてくれないもん」
「行き止まり……」
「店はこっちじゃないよ。地下は一人で歩けるようなところじゃない。帰るよ」
「イヤって言ってるの」
 苺は戻ろうとして扉に手をかけるが、
「あれ?」
 開かなかった。
 力を込める。開かない。
「どうした?」
 水音が聞く。
 彼も続いて何度も扉を動かすが、扉はびくともしなかった。鍵が馬鹿になっていたのか、完全にロッ
クされていた。小さな部屋に、二人は閉じ込められてしまった。
 他に出口はないか水音は見渡す。正方形の何もない部屋だった。古い蛍光灯が二人を照らしている。
「出られないの?」
「大丈夫。すぐに開く」
 とは言ったものの、一向に開く気配はない。
「しばらく連絡がないと、音楽会社の人が心配で探してくれるさ」
 しかし探してくれるとは思っていなかった。だから水音は誰か見つけてくれるように、扉を叩くこと
にした。
 扉を叩くのに疲れて手を止めると、部屋は無音になった。当然だ。人のいる地区からは離れているの
だ。それに最下層の辺りにはあまり人が訪れない。
「誰かー! いませんかー! 声が聞こえませんかー! そうだ、携帯……」
 ポケットにない。走っているときに落としたようだった。




   ▼ 7 ▼

 閉じ込められてから、数時間が経過した。二人は部屋から出られないままだった。扉を叩き続けた水
音のこぶしからは、血がにじんでいた。
 疲れてへたり込んだ彼のお腹が、ぐぅと鳴る。
「ごめん、ごめんね、みずね」
 苺はそのルビーのような瞳を潤ませ、眉尻を下げ、膝を抱えていた。
「苺のせいじゃない」
 水音は口元を右手で押さえながら言った。
「みずね……?」
 苺が心配そうな声を出し立ち上がり、水音に寄った。
「もしものときは、わたしを、食べていいよ」
「食べない。苺には戻ってから唄ってもらうんだから」
「わたしは食べてもらっていいの。歌はすきだけど。食べてもらえるならそれが、一番いいんだよ」
「そんなに食べてほしいのか? 自分がいなくなるんだぞ」
「そうだよ、食べてもらいたい。そのためにいるんだから」
「食べられること怖くないの?」
「こわくないよ。食べられないままイミもなく死んじゃうほうがこわいよ」
 水音は、苺のルビーのように赤い瞳を見つめる。苺は目を逸らさなかった。
 彼は腰をあげて、扉を叩くのを再開した。疲れては休み、また扉を叩くのを繰り返す。
 閉じ込められてから一日が経った。
 助けは来なかった。
 水音は両親もすでにいないし、密な関係の友人もいなかった。仕事関係の人は彼から連絡しなければ
返答はくれない。水音は自分がいないことに誰も気づいてくれないのだと思った。
 それでも水音は扉を叩いた。
 扉はびくともしない。まるで壁になってしまったかのように二人を閉じ込める。
 二日目になった。
 水音の空腹は限界に達し、彼は扉を叩くことさえできなくなっていた。もう動く気力は残っていない
のだ。
 眩暈が治まらなくなった水音は、このまま自分は死んでしまうのだと思った。
 三日目になった。
 水音は床に倒れたまま動かなくなった。
「みずね?」
 と呼ぶ声がして、彼は意識を取り戻す。
 とても甘くて美味しそうな苺ショートケーキの香りがして、水音は手を伸ばしてそれに噛り付こうと
する――が、思いとどまった。彼の視界に苺が映る。
「いちご……」
 ハスキーな声はさらに嗄れていた。
 水音は我慢する。握ったこぶしが痛む。
 隣に苺が寄り添って座る。
「みずね、がまんしないで。わたしを食べてよ……」
 彼の手に、自分の指を握らせる。そのまま口元へと誘導しようとするも、水音はかたくなに拒否した

「嫌だって言ってるだろ。苺を食べるくらいだったら、僕はこのまま、餓死するよ」
「ダメだよそんなの。わたしはイーツだよ? 食べものだよ? いいから食べてよ!」
「苺には、歌を唄ってほしいから……」
「そんなの、みずねがいなくなっちゃったらいみないよ?」
「いいんだよ。僕だけでは僕の目指す音楽は作れないよ。僕は、苺にいてほしいんだ」
「みずねが……しんじゃう……だめだよ、そんなの。みずねの作った曲はすごかったのに……みずねの
……みずねの」
 苺はその手を強く握る。
「みずねのばか!」
 水音は鋭い目を細くさせてつぶやいた。
「自分のことを食べてくれないから泣きそうになるだなんて、イーツって本当に変な生き物だな……。
どうしてそんな自己犠牲の精神が強いんだろう。不思議だよ」
「それが、生きるもくてきだからだよ」
「だったら、僕は、その生きる目的を……変えたかった」
 彼は自嘲するような顔でふふっと笑った。
「きっと、僕は――」
「あれ?」
 部屋は無音になる。
 苺の泣きそうな顔を、水音はぼんやりと見つめる。
「僕は――苺のことが、好きになってしまったんだ……。だから僕は苺にいなくなってほしくなかった
んだよ」
 水音は怖い顔を引きつらせて、力なく笑った。
「こんな僕でも近くにいてくれる苺を、僕はもうイーツとして見れなくなってしまってた。僕は本当に
馬鹿だ」
 乾燥して弱った声は、喋るほどに小さくしぼんでいく。
「食用だってことくらいわかってた。でも苺に出会ってから、音楽がさらに楽しくなったから、食べよ
うと思っても、もう少し、あと少しって、何かと歌を唄ってとか練習してとかの理由をつけて、食べる
のを遅らせていた……。苺は、食べてほしかったんだろうけど、僕にはもう苺が食べられなかった」
 苺は首を小さく左右に振る。
「苺の価値観を変えられる程じゃないかもしれないけど、僕は全力で君を守っていきたいと思ってた。
イーツだとかそんなの関係ない。僕は君が良いんだ」
 消え入りそうな声は、力強さを取り戻す。
「ねぇ苺。唄うことは生きていく意味にならないかな?」
 小さく首を振ったまま苺はつぶやく。
「わたしは……。わたしは……」
 透明で繊細な彼女の声は、ひび割れていくように震えていた。
「……やっぱり食べてほしいよ」
 水音は寂しそうな顔をする。想いは届いてない……と思ったが、苺の言葉には続きがあった。
「でも、食べたいのにがまんすることが、どんなに大変なんだろうって考えた。……考えても、わたし
には、たぶんぜんぶわからなかったけど。みずねはすごく、がんばったんだって思った。やっぱりわた
しは、食べてもらえることが一番だって思ってる。……それは、イーツだから。仕方ないの。……だか
ら、わたしは、これからも食べてって迫るかもしれない……」
 水音は苺の震える声を聞きながら微笑んだ。
「それでも、僕は全力で食べないって誓うよ」
 苺はうなずく。
「わたし、がまんできるかな?」
 狭い部屋の中で、苺は水音の手を握ったまま、彼の隣に身を横たえた。
 水音は半開きだった目を力なく閉じる。
 苺もその長いまつ毛で縁どられた目を閉じた。




   ▼ 8 ▼

 意識を失っていたところ、水音は捜索隊に救助された。
 レコード会社の人があまりにも連絡がないので不安になって探してくれたそうだった。思えばデビュ
ー曲がヒットを飛ばした有望株を放っておくわけがなかった。何はともあれ助かったのだった。
 水音は栄養が足りなくなっていたものの、健康状態は良好だった。数日栄養剤を点滴しながら入院す
れば数日で元気になった。
 退院の日が来る。
「あの……」
 水音は近くにいた女性看護師に問いかける。
「僕と一緒に女の子が運ばれてきませんでしたか?」
 看護師は怪訝な顔をする。
「いいえ、きてませんけど」
 水音は入院している間ずっと苺のことが心配だった。そして、今どこへ行ったのかわからなかったの
で、不安は膨らむ。
 水音の焦りをよそに、携帯に電話がかかってくる。
『水音君。大丈夫かい?』
 レコード会社の人だった。
『地下で遭難者が出るって、都市伝説じゃなかったんだね』
 と笑う彼に、水音は苺のことをきこうとして、
『そういえば、一緒に閉じ込められていた子は誰なの? 水臭いなぁ水音君。僕には教えてよー』
「それって、髪が肩までくらいの……」
『そう。すっごくかわいい子。あの子『家』に帰ったみたいだけど。あ、もしかしてMAIKA? あ
の子がMAIKAなのか?』
 水音は電話を切って、すぐにイーツ・バーに電話をかけた。
 電話に出た店員は事務的に告げる。
『お客様のイーツはこちらで預からせていただきました。すぐにご自宅へお持ちいたします』
「苺は、大丈夫なのか……?」
『こちらで『味』のメンテナンスはいたしました』
 水音はほっと胸をなでおろす。
『お客様』
 店員はぞくっとするほど冷たい声で言った。
『食用以外には使用せず、必ず、お早めにお召し上がりくださいませ』
 水音は部屋へ急いだ。
 体はまだ全快ではなかったが、地下通路を駆け下りた。
 彼が部屋について間もなく、苺が部屋に届けられた。肩まである小麦色の髪も、苺色の瞳も、可愛い
顔も、全て変わりなかった。いつも通りの甘くて美味しそうな苺ショートケーキの香りが立ち込める。
苺色のチュニックを着た苺は水音に微笑んだ。
「苺……良かった」
 水音は怖い顔に似合わず、照れた表情を作った。
「いちごです。どうぞお召し上がりください。なんてね」
 苺はチュニックの裾をつまんで、頭を下げて挨拶をして、薄氷で作られた管楽器のような透明感のあ
る声で笑う。
 その日、彼は、すぐに苺――MAIKAの新曲制作にとりかかった。
 タイトルは『儚い魔法』聴いている間輝けて、余韻はその後も引きずり、世界が魔法にかかったよう
に感じるようなアッパーチューン。
 苺はその繊細な透明感を持つ高音の歌声で、水音の持つ世界観を見事に表現してくれた。
 MAIKAのセカンドシングルは好調で、ダウンロード販売開始するやいなや、上位にのぼりつめた

「次の曲も考えてるんだ」
 生き生きとした水音は、イメージを苺に話した。苺はそれを微笑みながら聞いた。水音はまたパソコ
ンに向かって作業を始めて、苺はその背中に囁いた。
「ありがとう……みずね……」
「ん? 何か言った?」
 苺は首を振る。




   ▼ 9 ▼

 朝、水音が目覚めると、いつもは先に起きてる苺が起きていなかった。
「珍しい。寝坊かな?」
 彼は部屋を探す。
「苺ー?」
 仕事部屋も探す。キッチンも探す。いなかった。どこにもいなかった。
「また、外に出て行ったのか? そんなはずは……」
 水音が玄関へ行くと、その扉に、茶色いドロドロの塊がこびりついていた。
「何だこれ……?」
 すごく甘ったるい匂いがした。
 バニラを煮詰めたものに熟れた果実を混ぜたようなものを、常温で放置したようなむわっとする匂い
だ。まるで、腐敗した、苺ショートケーキのようだった。
 水音は『イーツ・バー』に連絡した。頭が混乱していた。
『水音様ですね。お早めにお召し上がりくださいとお伝えしたと思いますが』
 店員が淡々と話す。
『生イーツは非常に繊細なものです。加工するか、食べてしまわなければ、いずれは溶けてなくなりま
す』
「そんなこと……」
 聞いていなかった。
『必ず早く食べるようお伝えしたはずですが?』
 水音は何か言おうとしたけど、言葉は出ない。
『食用以外に使用できないようにとの措置ですので、ご了承くださいませ』
 通話は切れる。
 食べられないままでいると自分が腐ってしまうと、苺は知っていたのだろうかと、水音は考えて、目
の前が真っ暗になった。
 それが何の意味もなく、食べられることのなんと有意義なことだろうか。水音は己の浅はかさを悔い
た。彼の全身を虚無感が襲った。手から携帯を落とし、床で音を立てる。
「いちご……」
 へたり込みそうになるが、どこかに苺がいないか必死に探した。見つかるわけがなかった。
 水音は仕事部屋へ滑り込み、すがりつくように音楽作業用のパソコンへと向かう。苺の声がすぐに聴
きたかった。聴かないと胸の痛みがおさえきれそうになかった。
 彼は録音データを開く時に、見知らぬファイルがあるのを見つける。
 ファイル名は『みずねへ』
 水音は自分宛にと名付けられたファイルを開いた。
 そこには音声データが残っていた。勝手に触るなと言っていたのにかかわらず、苺が勝手に録音して
いたみたいだった。日付は数日前になっていた。
 水音は震える指で再生する。
 しばらく無音状態が続いた。それから、
『……あー……』
 一言だけ声が入る。慣らすように何度か『あー』が続いてからようやく喋りだした。
『ろくおん、できてるかな?』
 ガラスでできた管楽器のように繊細で透明な声は、聞き間違いようがなく苺のものだった。
「録音できてるよ」
 ぼそっと水音が答える。
『みずね、つかれて先にねちゃったから、かってにさわっちゃった』
「触るなって言ったのに……」
 水音は怒ってるような苦しんでいるような複雑な表情をした。
『一回、ろくおんしてみたかったんだー。何をはなそうかなぁ? そうだ。みずねに聞いてほしいこと
があるんだ。いそがしそうだから、伝えられてないけど……わたしは、いまでも、どうしても食べてほ
しいって思ってしまう。でもそうやって感じてるよりもつよく、一緒にいたいって思ってるよ。これっ
てすごいことだよね? こんなカンカク初めてだよ』
 苺の声は途切れ、無音になる。
 ここで終わりだと思って顔を伏せた水音の耳に、不意打ちで苺の声が届く。
『――わたし、みずねに食べてもらわなくてよかった』
 最後に苺は鼻歌を唄った。
 透明で繊細なその声は、とても楽しそうで、どこか寂しそうで。
 水音は目を閉じながら、その歌を何度も何度もリピートして聴いた。

作者コメント

2011年GW企画の作品です。
 以下、企画のルール。

【テーマ】 
 音楽にまつわるライトノベル。
 音楽を演奏するような小説、音楽がストーリーに関わる小説等々、作中に音楽が登場する作品を書きます。

【お題】
「不協和音」
「リズム」
「ロック」
「レクイエム」
「ヘッドホン」
「拍手」
「ハウリング」
 上記お題の中から3つを文字列として使用します。


  ▼ 使用したお題 ▼

  ヘッドホン 不協和音 ロック

  ▼ 一行コピー ▼

  本品は生ものですので『必ず』お早めにお読みくださいませ。

  ▼ 作者コメント ▼

  参考資料
  『おいしい★ショートケーキの作り方』 マリアンヌ幸伸
  『神より齎されたもの』        万城目國篤
  『お手軽 イーツの調理100選』   栗実玲子
  『生態系は変化する』         ジョン・E・ホワイト
 
  MAIKA
  1st『KIDNAP IN THE DARK FOREST』
  2nd『儚い魔法』
  3rd『――』

 ▼ 追記 (5月29日) ▼

 お疲れ様でした。
 感想を書いていただきました皆様、
 発表の場所をくださいました運営様、
 ありがとうございました。
 ここまでの評価がいただけるとは思いもよりませんでした。

 参考資料はネタです。
 そんな本はありません。 

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感想

中行くんさんの意見 +40点

 こんにちは。
 拝読したので感想を失礼します。
 お祭りには感想だけの参加になりますが、よろしくお願い致します。

 作者メッセージからそこはかとなく漂う実力者臭を嗅ぎつけやってまいりました。そして、期待通りの面白い作品で、今非常に満足です。
 正直悪趣味だと思いましたが、面白かったのでしかたありません。イメージ的には『ミノタウロスの皿』をラノベっぽく味付けした印象でした。
 冒頭から爆笑でした。いや、笑うところじゃないかもですが、あまりに振り切れたものを見ると笑っちゃうんですよね。ですから、冒頭から惹きつけられたということです。まさか注釈的文章で笑うとは思ってもみませんでした。
 
 そして、デザート・イーツに対面した場面でしっかりと惹きつけられ、世界観の説明の辺りではもう没頭です。
 それから、水音と苺の交流の描写は少々短く、ちょっと場面が足らない気がしましたが、私を食べてというある種の『ミミズクと夜の王』的な苺はよかったですし、それにあんまりグズグズしてると腐っちゃいますもんね。
 ただ、それでもやっぱり音楽的な部分は無理矢理感があって、中盤若干没頭が薄れてきたんですが、ラストの苺のセリフ。このセリフは素晴らしかった。私の脳内化学物質が爆ぜました。
 食べてもらうことがアイデンティティだった彼女。彼女のアイデンティティを崩壊させた上でひとつのハッピーエンドに見せかけたこのセリフ。実際ハッピーエンドか微妙ですが、とにかくよかったです。いじらしさがたまりません。

 最後にもう一つだけ難癖を。
 世界観の嘘臭さがどうにも抜けません。結局イーツがどんな生物かという説明が不足しているため、疑問が残ります。どうやって繁殖するの?とか。すげー高コストなんじゃね?とか。物語には直接関係しませんし、おはなし全体の分量とバランスの問題はあるでしょうけれど、私はもう少し理詰めっぽくくわしく書いていただいたほうがいいに一票投じます。

 以上でお願いします。
 大変面白かったです。ありがとうございました。

つねつれさんの意見 +40点

 どうも、一行コピーに目を奪われやってきました。まずそこから評価させていただきます。

 まず大雑把な全体の感想ですが設定が独特で素晴らしかったです。他にもこの様な作品があるのかはわかりませんし自分の無知をさらけ出している事になっているかもしれませんがそう思いました。
 様々な描写を綺麗に書ける筆力。この枚数で最後の展開に感情移入させる展開には尊敬の念を覚えるばかりです。

 ただどの段落も始めの方が地の文多めになりすぎて少しだれてしまうのがもったいないと思いました、そこはむしろライトノベルより一般のイロモノ小説臭を感じたので良い悪いの評価では表せないかもしれません。
 
 キャラクターについて。
 自分は主人公の二人のキャラも良かったのですがイーツ・バーの店員が淡々としていて好きでしたね。
 店員について多くの描写を割かないことでシンプルな気味の悪さが出ていると思いました。
 苺についてはその名前だけである程度イメージ出来てしまうのですが水音のイメージが定まるまでに少し時間がかかってしまいました。
 というのも、水音と最初見たときにまず「みずね? いやライトノベルにありがちな独特の読み方があるのか?」と考えてしまいそこでまず詰まった事と、水音という名前から最初は女性化と思ってしまったことですね。
 これも良い悪いでは一言で言えないのですが本当は繊細な心の持ち主というのを表しているにしても、もう少し男性と分かるような名前でも良かったかなと思いました。

 
 細かい点です。
>▼ 旋毛から爪先まで全てお召し上がりいただくことができます。
 まずこの時点で上手いと思いました、自分がこの作品を店頭で立ち読みしていたならレジに持っていくでしょう。

>▼ 2 ▼~
 この段落は独特な設定が詰め込まれていて楽しめる人は楽しめるでしょうが(自分は楽しめました)、ずっと地の文が続くので少し読むのが億劫になるかなと。

>しかし思うがままに曲を書いてみたのは良いが、ボーカルが見つからなかった。水音の声はハスキーで低い声だし。見た目はホラー映画で人を襲う役が似合いそうな大男だ。自分で声を入れるわけにもいかなかった。

 この段落が「~いかなかった。」で終わっているので少し混乱してしまいました。良く読めばああ、過去の事なんだなとはわかるのですが。

>水音も後に続いて扉をくぐる。~開かなかった。
 ここですが半開きのドアに入った水音がわざわざ扉を閉めた理由が良くわかりませんでした、まず前提としてその正方形の部屋はなんなのか、とも思いました。せめて元は何かのお店だったとか倉庫だったとかそういう描写があれば良かったです。

>『食用以外に使用できないようにとの措置ですので、ご了承くださいませ』
 感情移入してしまったせいかもしれませんが一言、「別にいいじゃん!」と思ってしまいました。食用以外に使用できない様にする必要どこにも無いんじゃないか、とか邪推してしまいました。
 後、揚げ足取りみたいなものですが生イーツは繊細だから食べなければ腐ってしまうんですよね? それならば店側は特に「措置」をしてないんじゃないかな、と思います。
 あえて腐るように何か「措置」を施しているなら別なのですが……。

 素晴らしかったと思える点はやはり最後の演出でしょうか、録音という無機質な物を使った展開にはなんとも言えない切なさを感じさせられます。そして鼻歌、いやはや胸が締め付けられるようでしたね。

 以上です。良い作品に出会えてよかったです。では。

帽子さんの意見 +50点

 こんばんは。
 読ませて頂いたので感想を書いてみます。

 なるほど、別の方もおっしゃっている通り、確かにミノタウロスの皿を彷彿させられました。なので余り期待はしないで読み進めていきましたが、読み終えてみると、この作品はオリジナルと比べても遜色がない、というよりもこちらの方が上とさえ感じました。
 特に優れた点は、ヒロインの感情の移り変わる様子、録音に関するアイディアの部分です。
 ミノアの場合、主人公そっちのけで死と食べられる事を天秤にかけていましたが、苺は「__」と食べられること(ネタバレになるので伏せておきます)を天秤にかけており、今作の比べる対象の方が面白い、と感じました。又、死ぬのは怖いけど食べられたいという感情は理解し難い反面、苺が選んだ選択肢は理解出来ます。まさにミノアにも考えて欲しかった部分であります。
 ヒロインの魅力という点に於いても苺の方が上でしょう。横文字はあまり好みませんが、何ともキュートです。
 筆力も充分、あらゆる点において素晴らしいと思える作品でしたが、惜しむらくは前半で明かされるイーツの設定に全く説得力がなかった点です。が、そこを減点材料にしたとしても、この点数の価値はある、と感じます。
 以上になります。執筆の方、お疲れ様です。

すぎさんの意見 +30点

 こんにちは。拝謁ながら読ませていただきましたので感想を書き残そうと思います。
 まず最初に、私はストーリー、キャラクター、文章、全体、そして音楽要素の五つに分けて批評させていただいています。お題に関しては「楽しければ何をどう書いてもOK」という持論なので、お題の使い方が上手下手は批評しませんのでご理解下さい。

 まずは気になった文章を抽出します

> 響水音が睨みつけるガラスケースの中で微笑む『それ』は、食べ物には見えなかった。作り物みたいに美しい小柄な女の子だ。
 つかみの感じはいいと思うのですが、もう少しガラスケースの中に女の子がいる異常性を強調してもいいかもしれません。このままでも十分に異常な文章ですが、冒頭のつかみとしてはまだ足りないくらいだと思います。

>「朝ごはんは、わたしにする? わたしがいい? それとも、わたし?」
 この世界観の中では普通の台詞ですが、読んでいる私たちのとってはかなり違和感のある台詞ですね。非常に面白い文章だと思います。

☆ストーリー
 設定で読ませる、というか酔わせる作品だったのではないかと。そういう視点で見るとストーリーを単独で見た場合に少し物足りなさが残りました。
 しかし、それを含めてこの作品の味だったのではないかなあと読み終わって思います(作者様の意図したことではないでしょうが)。何かとすれ違う二人をストーリーの中で魅力的に躍らせることのできる作者様の腕は相当なものかと思われます。

☆キャラクター
 枚数制限のある企画では酷なことですが、イーツの「食べられたがる本能」を説明するための伏線と言うか、補足のようなものが必要かとは思いました。あるいは突然変異種であるならば、どういった状況に置かれてその本能が生まれたのか、ダーヴィンの種の起源ではないですが、そういったものが少しはさまれているだけでも
 また、苺側のアイデンティティだけでなく水音側のアイデンティティに関する話も「姿かたちは醜いけれど、音楽を作り続けることで自分自身の証明される」という形で表せたのではないかなあ、とも思いました。こうすれば二重のテーマになり、深みがよりいっそうのものとなるはずで、枚数制限という壁はありますがもっと面白くなったんじゃないかなあと思いました。
 キャラクター本体はとてもすばらしい造形と設定だったと思うので、上記二つとも蛇足ということでお願いいたします。

☆文章
 一人称ではありますがどこか三人称的で、冷めた感じのする視点からの坦々とした描写が読んでいて心地よかったです。
 読みづらいなどということはまったくなく、特に指摘も思い浮かばず申し訳ないです。

☆音楽
 音楽というとどうしてもお互いに響き合う楽器であったり、音の持つ力強さを題材にしがちですが、このような使い方もあったのですね。勉強になります。
 しかし、どうにも自分には、既存のプロットに音楽要素をぶち込んだだけのように感じました(私の勘違いでしたら大変失礼な話で、先に謝っておきます。申し訳ありません)。理由はおそらくですが、イーツの設定がすばらしすぎたのが原因ではないかと思うのです。どうにもイーツという設定の中の一要素としての音楽として見たときに、なぜだか違和感が沸くのです。
 指摘しておいて改善案が思い浮かばないのが申し訳ないのですが、一応一読者の感想ということでご容赦ください。

☆全体
 いやあ、こういったスプラッタな内容でありながらアイデンティティの証明というテーマ性も加味されていて、恐れ入りましたというのが正直な感想です。しかし、題材からして選り好みされるものですし、感想がつきづらいのではないかなと余計なことを書いて見ます。まあ、これはこれで作品の味ですし、一般向けに直す必要などまったくないのですがね。
 彼女にとっていったい何が幸せだったのか。それはもう溶けてしまった今となっては正確にわかることではないですが、物語の終着点としては、これ以上ない終わり方だったと思います。面白かったです。

 今回の作品、総じて楽しく読ませていただきました。ありがとうございました。
 それでは、感想を閉じます。

前田なおやさんの意見 +50点

 こんにちは、前田なおやと言うものです。

 と言う訳で、読みながら感想~(とあるかたのニ番煎じですが)


>旋毛から爪先まで全てお召し上がりいただくことができます。
 ん? 怪しい雰囲気が……。

>『イーツ・バー』には初めて来たが、改良された生イーツがこんなに綺麗なものだとは知らなかったのだ。
 よく分からんが、面白くなりそうだ。

>必ず、早めにお召し上がりくださいませ
 このセリフが、何だかキナ臭いな。

>怖いもの見たさで食った者は、その肉の美味さに病み付きになった。
 おぉ、恐ろしい……。

>痛覚のないイーツだったが、人によっては『痛がる演技』を欲しがる客もいた。
人間の残酷さがにじみ出ていますね。

>「その声で苺に――歌を唄ってほしいんだ」
 むむ? 話が動き出したな。

>つまり、彼女は歌がものすごく下手なのだった。
 ありゃりゃ。

>なので朝になると疑似窓から、太陽の光が差し込むように見える設定をしているのが一般的だった。
 人間の『怖さ』をさり気なく見せているのが、抜け目ないですね。

>瞳をキラキラと輝かせていた。
 苺ちゃんがだんだん可愛くなっていく……いいねぇ(笑)

>わたし、このまま腐っていきたくないもん
 く、腐る?

>ファーストフード店では、イーツ肉の新作バーガーが売り出されていた。
 こういう、さり気ない描写がいいですね。

>ポケットにない。走っているときに落としたようだった。
 きゃー!

>「こわくないよ。食べられないままイミもなく死んじゃうほうがこわいよ」
 彼女の価値観をちゃんと作り上げているのが、ホント凄いですね。

>苺は、食べてほしかったんだろうけど、僕にはもう苺が食べられなかった
 ここでタイトル……いいですねぇ。

>食用以外には使用せず、必ず、お早めにお召し上がりくださいませ
 背筋がゾクッとしました。

>「ありがとう……みずね……」
 かーわいーい!!

>加工するか、食べてしまわなければ、いずれは溶けてなくなります
 嘘……。

>『――わたし、みずねに食べてもらわなくてよかった』
 目頭が……。

>水音は目を閉じながら、その歌を何度も何度もリピートして聴いた。
 感無量の終わりです……。


 と言う訳で、最高でした。
 苺ちゃんが本当に可愛く、また水音のひたむきさも見ててグッとくるものがありました。
 細かい描写なんかもよくて、この作品の欠点が見つかりません。
 人間の『怖さ』も非常にリアルに書かれてあり、狂気の世界観もこの作品の良さを存分に引き立てていました。

 そんな感傷じゃイカンと思って軽く読み返そうかなと思ったのですが、また目頭が熱くなりそうなので無理です。

 何点にしようか非常に悩んだのですが、欠点もなくこんな素晴らしい作品を読ませていただいたのですから、と文句なしの評価を致しました。

 最高の作品を、ありがとうございました!

たこばやしゆかさんの意見 +40点

 企画参加お疲れ様です。
 作品の方読ませて頂いたので感想を。

 とにかく一言「すごい」。これに尽きるとおもいます。
 まず、発想力が凄いです。自分には絶対思いつけないような発想です。で、その発想を、作中で無理のない説明を行い、読者を納得させるテクニック。見事としか言いようがありませんでした。
 音楽というテーマも、上手く使われていました。音楽なければ成立しない話。いや、本当に凄いです。べた褒めです。
 なんていうか、ここまで凄いと、何を書いていいのやら分かりません。それくらい自分の中でヒットでした。
 ただ、最後が、少し物足りないかなぁと。読み終えたときに、え? 終り? ってなりました。もうすこし、何かしらの盛り上げが欲しかったかなぁと。
 最後の、苺のセリフをもっと増やしてあげれば良かったんだと思います。最後だからこそ、苺の心の内側の部分を、もっと聞きたかったです。枚数的にも、まだ余裕はあったので、そこを是非埋めて欲しかったと。
 本当に面白かったです、だからこそ、最後はもっと語って欲しかった。無い物ねだりなのかもしれませんが……。そこがただ一つの不満だったので。
 もう脱帽です。心から、ありがとうと言わせていただきます。
 拙い感想ですが、以上です。
 執筆及び、企画参加お疲れさまでした。

ゆき雪さんの意見 +30点

 早速ですが、発想が凄いです。
 おいしい人間を食べられるという狂った設定に惹かれ、どんどん読み進めていきました。
 結果、面白かったです。特に最後、苺の「食べられなくてよかった」と言うセリフ。この物語のすべてが詰まっているようで、最高でした。

 こんにちは、ゆき雪です。感想はたくさんついていますし、他の方が言わないようなどうでもいいことを述べさせていただきます。

 一つ。
 途中「~た」の連続でリズムが変になっている箇所もありました。勿論、過去の事を表す助動詞だから仕方がないのですが、ここが腕の見せ所なのかなぁ、と思いました。

 そしてもう一つ。
 水音と苺が閉じこめられた部分。ここに大きな違和感を感じました。そう、それは海より大きな……と、回りくどく言いましたが、それほど気になりました。
 それは、水分! 人間は水なしでは生きられませんよ。
 確かな情報どうかは分かりませんが、まず、人間は一週間食べなくても死なないそうです。水さえあれば。……凄いですよね。
 でも水がない場合、だいたい二日から長くて三日。走り回って汗をかいた後に水なしで三日生きるとは、奇跡だと思います。
 しかも『栄養不足』で危なかったと聞いた時は、「水分不足でなくて!?」と突っ込みたくなりました。なのでこのあたりでは小説にのめり込めなかったです。
※もしまちがっていたら、誰か言ってくれると助かります。そうなら尋常じゃなく恥ずかしいですし(汗

 それとこのシーンはもっと時間をかけて、読者に対しての情報だけでなく、体感的にも長い時間が経っているように書かれてはどうでしょうか。

 以上です。なんやかんや言いましたが、指摘した箇所以外は最高でした。
 失礼しました。

03さんの意見 +50点

 拝読いたしました。03と申します。
 まず初めに、執筆お疲れ様でした。

 作品の感想ですが、素晴らしい作品でした。苺ちゃん可愛すぎます。ラストシーンは涙無しには読めませんでした。

 続いて、構成についてですが、

起 主人公とヒロインの出会い、世界観紹介
承 苺に歌って欲しい主人公、食べられたがるヒロイン
転 主人公の苦悩、逃げ出す苺、そして遭難
結 イチゴォォォォォォォォォォォォ!!

 以上のように見受けられます。

・起
 冒頭から悲劇的なストーリーが予測できます。食べられることを生業とした少女と、恋愛感情を抱いてしまう水音。そんなことを書いていないのに読者にテーマを伝えるというのは、中々できることではないです。
 設定については、字数制限のせいでしょうが少し急ぎすぎな印象でした。もう少し他のイーツ達のエピソードが欲しかったです。

・承
 なるほど、水音は苺をボーカルとしてスカウトしたのですね。同時に苺のキャラを表現する章でもありますが、苺の幼さというかイノセントさが魅力的に感じました。漢字を余り使用せずにたどたどしい口調で精神年齢の低さを表現する技法、参考になります。

・転
 水音と苺の価値観の相違が良い味出してます。そして、苺の逃走、二人の遭難。刻々と近づいてくる別れの時。今作において無くてはならない章だと思いました。
 もっと字数制限に余裕があればもっと色々できたのかな、とも感じますが、この位の長さが適当な気もしますし……うーん、判断が難しいところです。

・結
 クライマックスで水音の想いが苺に伝わり、消え行く運命を悟っている彼女はどんな思いで最期を迎えたのでしょうか。どんな思いでメッセージを録音したのでしょうか。想像するだけで涙が出てきます。
 正直、最初の時点でオチはわかっていました。良く言えば王道、悪く言えばありきたりなボーイ・ミーツ・ガール作品です。しかし、それでもなお読者を感動させうるだけのラストに仕上がっております。
 それはありがちな主人公の後悔の責で締めくくるわけではなく、録音機を使ったラストに仕上げているからでしょう。こういった小道具の使い方というのはセンスが問われると思いますので、音楽にまつわるライトノベルということで、上手く要素を利用した作者様を賞賛したいです。

 キャラクターについては、苺の魅力、これに尽きるでしょう。やはり、無知というか無邪気というかイノセントさを持った少女、というのはライトノベルにおいては鉄板なのですね。再確認できました。
 主人公のキャラは若干薄い気がしますが、逆に言えば特徴が無く読者が感情移入しやすいキャラクターに仕上がっていると思います。
 また、イーツ・バーの店員さんも地味に良い味出してます。冷静に放たれる言葉から推測するに、水音のような客を今までも見てきたのでしょう。脇役のキャラ作りも見事です。

 総評ですが、文句のつけようがありません。独自のアイデア、魅力的なキャラクター、感動のストーリー、そして、作者様の筆力。どれをとっても今サイトで私が見た中で最高の作品でした。今企画でこのような作品に出会えた自分の運の良さと、この作品を書かれた作者様に感謝したいです。
 唯一気がかりだったのが『イーツ』についての設定の作りこみが甘いかな、という点でしたが、それすら気にならない位素晴らしい作品でした。

 拙い感想で申し訳ございません。
 以上、失礼いたしました。

読み手。さんの意見 +40点

 作品拝見させて頂きました。
 一言で言えば『冒頭に騙された!』作品でした(笑

 いい意味で騙されました。
 てっきりグロテスクと書いてあったので気合入れて読んだのでしたが、杞憂でしたね。
 特に閉じ込められた場面では逆に来るか、と何かを期待していた私が居たので、そう言った部分を見
てもやられた感が強かったです。
 キャラとしては新しい「イート」なる人種の確立。
 そしてそれをボカロに起用するあたり作者様の音楽に対する感覚が見え隠れしてましたね。
 
 内容としても二転三転と変わり、最後にはウルっと来るほどの文章は実にお見事でした。
 枚数に余裕を見せていると言った点でも実力ありと好評価します。
 
 それではGW企画お疲れ様でした。

灰龍さんの意見 +30点

 最初にグロとか書いてたから、少し注意して読んでました。
 イチゴの味と匂いのする少女、まさに苺ですね。
 企画の音楽という観点より、スイーツ企画(仮)でもいけそうです。

 苺は、自分の結末を知っていたのでしょうか。知ってるはずですけどね、それでも最期には食べられなくて良かった、という部分よかったです。
 追記するなら、イーツという食材?があるならそれに対応したトッピングを考えてそれを世界観に生か
 してみてはどうでしょうか。

縁切さんの意見 +10点

 どうも縁切と申します。
 ほんの一言だけですが感想を残したいと思います。
 ただし、先に言っておきますがこれは私の主観に基づくものであり、真に受けないでください。
 ああ、 こんな感想もあるんだな~……で? みたいなスタンスをお願いします。
 それでは感想に参りましょうか。

・ふと思った点
 不協和音を一人で飛ばすのはおかしい。単語的に-です。音楽にのめりこむようになった理由はなんでしょうか。
 好きになる動機も薄いでしょう。
 また、苺である理由がさっぱりわかりませんでした。作者の事情(お題等)でということはわかるので
 すが、物語としてみた場合、やはりどうして苺なんだよ、と。

・キャラ:普通
・ストーリー:可
・オリジナリティ:可
・文章:可
・設定:難アリ
 
 それでは、乱文失礼いたしました。

蘭丸さんの意見 +40点

 もしかしたら初めまして、蘭丸と申します。『もう苺がたべられない』拝読しましたので感想残させていただきますね。もう感想なんてお腹一杯かもしれませんがすいません。読解力がなかなかにアレなので取捨選択よろしくお願いします。

 グロ注意→(^^bみたいな感じで読み始めたのですが、他の方もおっしゃっている通り意外な展開でしたね。とりあえず私は一切グロテスクさを感じませんでした。……ああ、ラストとかで感じるべきだったのでしょうか。

 独創性がスゴイのは今更ですし、諸所の説明もこちらが世界に入り込むための手助けとなっていて非常によろしかったのですが、一つ自分を棚上げして申し上げるとするならば、章と章のつながりが淡々としすぎていたかな、と。ここでもう少し盛り上げていただけるとこちらの読む勢いも増したかもしれません。でもこの話は落ち着いて読むべきものだとも思います。完全に主観です。

 まあご覧の通りただの負け犬の遠吠えであり、御作のツッコミどころを見つけようと二回拝読させていただきましたが、しいていえばも他の方が書いていらっしゃるとおりで、決定的な欠点なども見つかりませんでした。ですから、欲を言えば、他のイーツ、苺みたいに動く生イーツをもう一人くらい(一人で合ってるのでしょうか)を見てみたかったです。より苺というキャラの魅力が際立ったかもしれません。今でも十分際立ってますが。

 しかし総じて素晴らしい作品でした。哀愁を誘い、でも心のどこかが温かい……この読後感の適切な表現が分かりませんが、最高の類であることは確かです。

 とりとめのない感想になってしまいましたが、少しでも作者様にとって今後の創作の糧になれば幸いです。読ませていただきありがとうございました。失礼します。

lieさんの意見 +20点

 こんにちは、lieと申します。
 この度は2011GW企画にご参加いただき、誠にありがとうございました。
 この作者コメントから漂う雰囲気……そして、苺。作者様は苺がお好きなのですね(二年前の企画を思い出したらしい)

◇文章

 淡々とした三人称。
 無駄がなく、すっきりとした文章でした。

◇物語

 水音と苺の愛らしくて悲しいお話。
 企画作品が全て揃ってから、一番最初に読んだのが本作品だったのですが、こうして感想を書いている今も物語の内容がはっきりと印象に残っています(そして感想が遅くなってすみません)
 果たして、イーツという存在が本当に受け入れられるのか……とは思いましたが、人間は適応能力の高い生物ですから、割とあっさりと本作のようなことは起こりえるのかもしれませんね。
 主人公がとても優しい人間であることが丁寧に描写されているな、というのがまず良いなと思いました。自分の容姿や声にコンプレックスを抱きながらも、不貞腐れることなく自分の力を生かした生き方をしていること。本来、食べられるだけの存在だったイーツ、苺を好きになり、苺の存在理由そのものを変えようと思ったこと。この二点がかなり効いているな、と。
 そして終盤。いつかお別れするのは分かっているけれども、それでも悲しいですね。二人がめいめいにひかれ合うまでの過程が綺麗だなと思いました。

◇人物

 水音。上でも書きましたが、自分のコンプレックスに挫けない優しい青年ですね。苺を食べることを頑なに拒む姿が、彼という人間を最も良く表している場面だと感じました。
 苺。愛らしい容姿と美声、まるで妖精のような存在でした。終盤の彼女の無邪気な言動が胸を打ちます。

◇設定

 もし、イーツという存在が世界に広まっていたら……と、独自の設定はシンプルなのですが、それを十二分に掘り下げていますね。リアリティのある世界だったと思います。

◇テーマとお題

 こういう音楽の絡ませ方もあるのだな、と少し感嘆しました。苺の最後のテープが水音にとって至高の音楽となったのだと思います。
 お題については無理なく使われていたように感じました。


 感想は以上です。
 たいへん楽しめました。
 簡単な内容ですが、今後の作者様のお役に何か立てればと思います。
 最後にもう一度。2011GW企画にご参加いただき、ありがとうございました!

化々帽子さんの意見 +40点

 はじめまして、です。拝読させていただきましたので稚拙な感想をば。

 三人称もしっかりしていて読みやすい文章でした。
 所々に説明を無駄なく入れ、流れもすっきりとしています。
 そして、カニバリズム(厳密には違いますが(笑))最高でした。
 食用である苺と主人公の物語はインパクトがありますし、本当に自分好みでした。
 「食用」というキーワードで、ラストの展開は少々予測できる形となってしまいましたが、そこまでの過程がやはり惹きつけてやみません。
 正直言って、ストーリーに完全にのまれてしまっているので、感情的な感想のみとなってしまいますがご容赦ください。

 それでは、失礼します。

あまくささんの意見 +30点

 こんにちは。拝読しましたので感想を書きます。

 本作は、出版されたSFか幻想小説のアンソロジーに収録されて書店で見かけたとしても、納得してしまいそうな気がします。クリスタルガラスのような美しいイメージ。文章もストーリーの展開もソツがありませんでした。お見事と思います。ラストなどは一瞬涙が出そうになり、ちょっと悔しいですw
 また、主人公を美女と野獣の野獣的にイカツイ男に設定したのも、いい味になっている気がします。これでミズネくんが名前にふさわしい少女マンガチックな美少年だったりしたら、この話ちょっと繊細になりすぎるだろうなと。
 本作は主人公の設定や、ところどころに挿入されるシニカルなSF的背景説明のバランスがよく、儚くちょっと触れただけで壊れてしまいそうな作品になってしまうことから救われている思いました。

 技術的な指摘をしようにも、私には欠点らしい欠点が見当たりませんでしたので、以下は少し雑感的に書いてみます。

 イーツというのは不思議な存在で面白いですね。最初は『食用少女群』と呼ばれていたと。そ、それ凄いな。
 どちらかと言うと、イーツというのは自然に発生してきたように書かれています。しかし、私には彼女達(?)が遺伝子操作かなにかの技術によって、人為的に作られたように思えて仕方がありません。
 そもそも、食べられるためだけに存在する生物なんて自然には存在しないはず。食べられる事がこわくない。食べられる事に幸せを感じる。そんな本能があるかというと、少し疑問。むしろ、何者かがそうプログラムしたんじゃないかと思いたくなります。

 他の方の感想を拝見しますと、イーツの設定に説得力がないという疑問が散見されるようです。どう説得力がないということなのか不詳ですが、私にしても上のような疑問を感じたことは感じました。が、そういうところは個人的にはあまり気にはなりませんでした。
 食べられることに幸せを感じる少女がいて、最後に「あなたに食べられなくてよかった」と言わせる。本作は要するにそういう話なのであって、そこに至る心理の移り変わりに説得力があれば良いのではないかと。
 私の場合は、これはそういう話なのだと割り切って読んだので、すんなり違和感なしに読めてしまいました。
 小説の設定は必ずしも現実的でなくてもいいし、きっちりロジックをつめる必要もないと考えています。単にデタラメとかチグハグというのはダメでしょうけれども。
 読者というものは、しょっぱなにどんな話でどういう読み方をすればよいのか悟れば、そしてそれにそってストーリーが進んでいけば、多少エキセントリックな設定であってもスラスラ読めてしまうものではないかと。

 それよりも若干腑に落ちない気がしたのは、イーツという存在に対する社会的な共通認識の度合いでしょうか?
 イーツ食が一般化したこういう社会なら、イーツを食べずに放置すれば溶けてしまうことくらい常識であってしかるべきです。
 それと、「生イーツ」という存在。どう考えても非合法の匂いがします。まあ、作中でもアンダーグラウンドな存在であるようには描かれていますが。
 しかし人間形のイーツを売買してしまったら、この主人公のような溺れ方をする者が続出するのは確実でしょう。そこらへん、店側はどう考えて営業しているのか。たぶん百も承知で見て見ぬフリをしてますよね?
 お早めにお召し上がりください、という文言が責任回避の予防線なのだと思われますが、これはそんなに生やさしくはない気が。かなり深刻なトラブル頻発だと思います。

 私からはこれくらいで。執筆お疲れ様でした。

亘さんの意見 +30点

 こんにちは、『もう苺が食べられない』拝読させて頂きましたので感想など書かせて頂きます。
 本作、企画開始からすぐにあれよあれよと感想がついてしまって自分の言いたいことが大方出尽くしてしまった感があったので感想は遠慮していたのですが、最終日ということで賑やかし程度に考えていただければ幸いです。


 御作、全体的に非常にレベルの高い作品でした。
 特に、発想と文章、それから構成(伏線など含む)の面。
 発想についてはもちろんイーツという食用少女群について。文章については、重くなりがちなテーマを難なく描いている点。構成は、見せるべき伏線と伏せるべき伏線をきちんと分けて作品のリーダビリティを保っていること。(伏線という言葉の使い方が間違っているのは承知しています)
 特にこの伏線の使い分けについては私自身非常に勉強させて頂きました。
 作者様が意図してやっておられるのか分からないのでとりあえず意図してやっている方向性で話を進めますが、見せるべき伏線として「必ず、早めにお召し上がりくださいませ」という台詞。これでもう最後の展開がどうなるか分かってしまうのですがこれは決してマイナスではなく、感動のラストが待っている期待をここで抱かせ、そして伏せるべき伏線として例えば録音を挙げますが、これでその感動の質を向上させる。ある程度読者の想像力を見込んだ上での素晴らしい構成でした。
 御作を読み、ああ自分がやりたかったのはこういう事なんだなあと漠然と思いましたが、影響を受けるほど良い作品だったと思います。


 以下、気になったというよりは思ったこと。

 イーツというネーミングあるいは存在について。
 最初にイーツという言葉を見た時ぱっと「スイーツ」から文字ったんだろうなあと思いました。
 現にヒロインとして出てきたのは苺であり、冒頭で紹介されているのはデザートイーツ。となるとイーツというはこの世界における嗜好品みたいなものなのだろうかと私は思いました。
 しかし次の章で、イーツが肉であるという事を示され違和感を覚えました。
 確かに説明を受けるとある程度納得は出来るのですが(果物でも果肉とか言いますし)イーツというネーミングを考えると非常にデザート寄りになってしまい、描かれていない背景が少し薄くなってしまっているかなあと感じました。
 また、これは興味本位で聞くのですが。人工肉丼屋などでもイーツを使用しているとの事ですが、そのイーツはどういう形をしているのでしょうか。苺などの果物類の擬人化は非常にイメージしやすいのですが、豚や牛などの動物性の肉としてのイーツが非常にイメージしにくい気がします。私の解釈が間違っている可能性も大いにあるのですが、ここら辺の想像しにくい描写はなくしてしまった方が無難かなあと思いました。
 イーツの存在について、ぽ、ぽっと出?
 これだけ多種多様な生物がぽっと出てくるって非常に危うい設定ですよね。人工物にした方が無難だと思います。そうすれば人の手で自由に改造し新たな種を生み出すことも出来ますし、本能の部分を説明するのも容易になると思います。まあ、本能などは説明しない方が雰囲気には合っているのかもしれませんが。
 また、人工物と一口に言っても作り方は色々あるので一例を示しますと、例えば人のDNAと植物や動物の遺伝子を掛け合わせ。ヒトなどの遺伝子は全て解析し終わっているので、作ろうと思えばSFでなくとも現代で作ることも可能かもしれません。あるいは、今話題(?)のiPS細胞だとか、まあここら辺を調べると少しは知識の裏付けになるかもしれません。組み込む遺伝子などによってはこういう生物を作ることも可能なのではないかなあと思います。倫理的に許されないので現段階で行う科学者はいませんが、この倫理観の葛藤については御作を読んで面白いなあと感じた部分でもあります。

 水音が苺を好きになる動機について。
 恐らく本文では書かれていないと思うのですが、歌だけではなく水音の容姿にも非常に大きなウェイトが置かれているのではと思います。もちろんこれは作者様も分かっておられることだとは思いましたが、明確な記述がないあるいは意図的に削っているのか、この点は少し気になりました。
 水音君はその見た目から周りからは怖がられ、他人から対等にあるいは無邪気に接されるようなことがほとんどなかった。だからこそ苺の無邪気さに惹かれたのではないかなあと。
 もちろん唄が大きな理由なのでしょうが、ここら辺の明記も必要なのではないかと感じました。

 腐るの早くね?という疑問。
 もうちょっとどこかに伏線めいたものを配置しておくといいかもしれません。苺は自身の賞味期限についてある程度理解していたようですが、それでもたった一日で茶色く変色してしまうのはやりすぎかなあと感じました。
もうちょっとゆっくり、特に閉じ込められたシーンでもちょっと腐っていくところを描写しておくとこの唐突感はなくなるかもしれません。
 あるいは水音が見つけた時は溶けていく途中で、まだ少し息があるくらいに留めるだとか。そこで一言二言言葉を交わせた方が感動は増すのではないでしょうか。
 とはいえ、読んでいる途中は気にならないくらいにのめり込んでいたのですがw


 以上です。
 毒にも薬にもならなそうな感想ですが、何かの足しになれば幸いです。
 では、たべただきました。

佐伯涼太さんの意見 +20点

 2011GW企画へのご参加、どうもありがとうございます。佐伯涼太と申します。御作「もう苺が食べられない」拝読しましたので、感想を残していきたいと思います。
なお、非常に個人的な意見になるかもしれませんので、感想内容については作者様の方で取捨選択をお願い致します。


 今回の企画における、最も話題になっている作品のうちの1つですね。正直、どのような経緯でこのような発想に到ったのか、ちょっと作者様の頭をかち割って、中の構造を調べてみたい物です。

 気になった点について、以下に纏めたいと思います。

・本作のウリは何か。
 何と言っても「少女を生きたまま食べる」という、カニバリズム的なフェティシズムでしょう。とても狂っています。良い意味で。
>「ごきぼうだったら、いたい。ってえんぎもできるよ」
 これまた、見事にツボを押さえてますよね。序盤なんかは、とにかく関心しきりでした。

 ただ、このウリである筈の箇所が、後半になるにつれて影を潜める事に。苺は食べろと迫り続け、主人公はそれを拒み続ける。どことなく純愛テイスト(?)な物に変わっていくのが、個人的には非常に残念で他なりませんでした。

 せっかく序盤でこの方向を出したのなら、ストーリーを変えないまでも、苺の腐っていく様子を詳細に書いてみるとか、強引に頭を囓らせてみるとか(髪の毛を食べる時の口の中の感触なんかあったら素敵ですよね)、まあ自分が言うとたかが知れてますけど。
 おそらく、書こうと思えば書ける作者様なのだと思いますが、今回書きたかったのはこれだった、ということなのでしょう。
 個人的には前半のような突き抜けた部分を期待していたため、後半の話は大失速に映ってしまいました(個人的意見なのでスルー推奨です)。

・キャラクターについて。
 良いですね。苺も水音も、キャラとしては素晴らしく書けていたと思います。上のことと被りますが、個人的には最後、一夜にして苺が溶けて腐ってしまったのが残念でした。腐り始めて、もう長くはない、ということが分かりながらも、それでもなお彼女の存在に執着し続けるような、そんな水音の姿などが書けていると面白かったのかもしれませんが。

・文章面について。
 こちらは文句なしです。台詞に地の文に、雰囲気をしっかりと演出できるだけの実力をお持ちなのだと思いました。

 感想は以上です。自分の実力を顧みない内容になっておりますがご容赦下さい。ほんの1つでも、作者様の今後に役立つようなアドバイスが出来ていれば幸いです。それでは失礼致します。