入江ミトさん著作
このところ毎晩毎夜、朝岡の夢ばっかり見るもんだから、寝起きの頭は朝岡の顔で満たされていて、すこぶる気分が悪い。
頭の中の朝岡はぐるぐる回りながら人数を増やしていく。亀の甲羅を踏みつけるヒゲオヤジよろしく無限に増殖する。やめてくれ。
今日の夢は、逃げる朝岡をわたしが追いかけるという奇妙な内容だった。やつは足が速いから、いっこうに追いつけない。わたしは歯をくいしばって地面を蹴るけれど、朝岡の姿はどんどん遠ざかりついには地平線の彼方へ消えてしまう。そこで目が覚めた。
なんで朝岡の夢なんて見るんだろう。朝岡は、なんの変哲もないクラスメイトの男子で、どこにでもいるような『その他大勢』だ。わたしからすれば、歯牙にもかけないエキストラの一人にすぎない。
そんなやつの夢を見つづけるなんて、なんなの? 原因不明の難病なの?
一週間の始まりは、ナマケモノ化した心身との闘いだ。まだ布団にくるまっていたい欲求を必死に押しのけて学校へ向かう。自転車のペダルをこぐ足は、まるで海藻がからみついたように重たい。
中学校に到着し二年五組の教室に入ると、親友のリカは既に登校していた。
「あ、夜野っち、おはよー」
「おはよ、リカ」
軽くあいさつをかわして、席につく。頬杖をつく。そして溜息をつく。ただでさえ気鬱な月曜日の朝だけど、今日はいつも以上にテンションが上がらない。
朝岡のせいだ。頭の中の朝岡がどうしても消えてくれない。
諸悪の根源、朝岡本人は、わたしの隣にいた。先週の火曜日に席替があって、朝岡はわたしの右隣の席になった。席順は男女関係なく決めるのだ。
横目に朝岡の様子を観察する。やつは手持ち無沙汰にシャーペン回しをしていた。
短めのさっぱりした髪型。目が少し垂れ下がってて、ぱっとしないルックス。身長は平均くらい。普段、特に目立った言動はなし。特筆すべき点といえば、脚力くらいだろう。朝岡は陸上部で短距離をやっていて、足がすごく速いのだ。
だけどわたしは朝岡とほとんど接点がないし、なんでこいつの夢なんか見るんだろうと改めて思った。
きっかけといえば、やっぱり席替えで隣の席になったことだろう。朝岡が夢に現れるようになったのは先週の半ばくらいからで、ちょうど席替えをしたあとになる。
でも席が隣になったからって夢に出るなんて、意味わかんない。
ふと、朝岡がこっちを向いた。わたしは目をそらす。じろじろ見てたと思われたくないし。
すると、唐突に朝岡が口を開いた。
「夜野」
「な、なによ」
「目やに、ついてるぞ」
「はっ?」
あわてて手鏡で確認してみる。う、たしかに右目のまつげに。指先で目やにを落として、他に変なところがないか、ひととおり確認した。うん、大丈夫みたい。
こいつ、なんてこというのよ失礼な。朝岡をにらみつける。やつはすでに前を向いていた。
文句のひとつでもいってやろうかと思ったけど、チャイムが鳴って担任が教室に入ってきた。ふん、ゴングに救われたな。でも憶えときなさい。わたしに恥ずかしい思いをさせた罪は重いんだから。
あれ? でも朝岡が指摘してくれなかったら、もっと大勢の前で恥をかいてた可能性もあるのか。うーん、複雑。
なんとなく、窓の外に目を向けた。校舎の前にそびえるイチョウは、葉が黄色くなり始めている。先週の日曜日に開催された体育祭も無事に終了し、いよいよ秋本番って感じ。空は雲ひとつない晴天、さわやかな秋晴れだ。
対照的に、わたしの心は晴れないのだけれど。
頭の中では相変わらず朝岡の顔が回っている。ぐるぐるぐる。
一人で考え込むのはやめよう、と思うことにした。こんなとき、友達という大きな存在が力を貸してくれる。午前の授業が終わり、席を移動してリカと一緒にお弁当を食べる。食事が終わったところで、思い切って相談してみることにした。
「ねえ。最近、なんか変な夢ばっかり見るんだけどさあ」
「おお、夢? 奇遇だね夜野っち」
リカは鞄の中から一冊の本を取り出した。タイトルは『夢占い』。
「なんか面白そうだったから、昨日借りてきたんだ。まだ少ししか読んでないけど」
夢占いとは、夢の内容がどんな意味を持っているのかを判断する占いなのだとか。この本で占えば、わたしが毎晩朝岡の夢を見る理由もわかるかもしれない。リカ、ナイス!
「んで、夜野っちはどんな夢を見るの?」
朝岡、といおうとして口をつぐむ。少し嫌な予感がした。あの本にどんなことが書かれているのか、まだわからないのだ。情報は小出しにしたほうがよさそうだ。とりあえず今日の夢についてきいてみよう。
「人を追いかける夢なんだけど」
「追いかける? 追われてるんじゃなくて、夜野っちが追いかけてるほう?」
「そう」
リカはパラパラと本をめくる。そして、あった、といってページを止めた。しばらく本を読んだあと、顔を上げてわたしにきく。
「追いかけてるのは男?」
「え? うん、男だけど」
するとリカは、おもちゃ箱を開けた子どもみたいに、にんまりと笑った。
「だれ、だれ? だれを追っかけてんのっ?」
なにこのテンションの上がり具合! 嫌な予感的中かも。
「いや、別にだれっていうわけじゃなくてさ」
「そんなわけないでしょ! さあ白状しろ! あんたが夢で追っかけてんのはだれだ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! なんなの? その本になんて書いてあったのよ」
「ふふ。異性を追いかける夢は、恋愛でチャンスが訪れてる暗示なんだってさ」
「はあああああっ?」
恋愛? つまりLOVE?
そんなこと考えもしなかった。朝岡に対して恋愛だなんて。
うそでしょ?
「恋愛って、それマジ?」
「マジ。そう書いてあるよん」
「でも、そんな自覚ぜんぜんないんだけど」
「自分で気づいてなくても、心のどこかでは気にしてるってことじゃないのお」
心のどこかで? そんなバカな。そんな恋ってあるの?
白馬の王子様、なんて表現は幼稚だけど、とにかく心惹かれる素敵な男性がいつかは目の前に現れる。恋ってそういうものだと、わたしは思う。
王子様はイケメンで優しくて頼りになって光り輝くオーラを放つ存在のはずなのだ。
だけど、朝岡は王子様なんかじゃない。足は速いけど、ルックスもぱっとしないしオーラも輝いてなんかない。王子様の要素なんて、なにひとつないんだから。
だから、わたしが朝岡に恋してるなんてありえない。
そのはずだ。
「夜野っち、ちなみに夢の中で男に追いつける? 追いつけない?」
「えっと、追いつけない」
あちゃー、といいながらリカはわざとらしく目をつぶって額を右手でたたいた。
「追いつけないのは、今のやりかたに問題ありってこと。このままじゃ、この恋は成就しないよっ」
「だから違うって! だれか特定の人を追いかけてるんじゃないんだから」
「うそだね。夜野っちのうそはすぐわかるよん。顔に出るのさ」
う、と言葉につまる。そしてその反応が、肯定を示してしまった。
リカはにやにやと笑っている。ぐぬぬ、こやつめ。
「安心しなさい。その恋、あたしが成就させてあげるよ。あたしは恋のキューピッドとして悪名高いんだから!」
悪名じゃだめでしょうに。
「だから、だれの夢を見るのか教えなさい」
「いやだ」
「教えろ」
「やだ!」
「ちっ。まあいいや。でも夢とは深いものだよ。夢は、無意識を象徴してるものなの。たとえば昨日読んだところだけど、ジャングルが登場する夢の場合」
「ふうん、ジャングル? なんなの?」
リカはもったいをつけるように、水筒の蓋にお茶をくんで飲む。わたしもつられてお茶に口をつけた。リカは水筒の蓋を置くと、いった。
「ジャングルに異性といる夢ってのは、エッチに対する関心が高まってるってこと」
あやうくコントさながらにお茶を吹き出してリカをびしょ濡れにしてしまうところだった。でも根性でたえて飲み込んだ。偉いぞわたし! その代償として思い切りむせて、ゲホゲホ咳き込んでしまう。まったくもう。わたしは涙目で反論する。
「なにいってんのよ!」
「おやおや? もしかして心当たりがあるんじゃないのお?」
「ないっつーの! ていうか、その占いが当たるとは限らないでしょ。バカバカしい!」
「まあ当たらぬも八卦だから。でも信じるから面白いんでしょ? あ、そーだ。もしかして、銃が登場する夢とか見なかった? 銃は男性器を象徴してるんだよ」
「やめてよもう!」
リカはまた大笑いして、相変わらずウブいなあ夜野っちは、なんていってる。
わたしは脱力した。リカはくせものだ。相談すべきじゃなかったのかもしれない。
*
わたしは朝岡と並んで立っている。
他の人の姿はない。
わたしと朝岡、二人きり。
周りには樹木や下草が生い茂っている。
ここはジャングルだ。
「助け来ないな、夜野」
「そうだね。どこかに食べ物ない?」
わたしと朝岡は遭難している。
「夜野。こんなのがあったぞ」
朝岡がなにかを発見。
それは黒光りする金属の物体。
「銃だ。リボルバータイプの」
「よかった、さっそく炒めなきゃ! フライパン持ってる?」
目が覚めた。不条理な世界から解放された安心感と、現実の世界に身を投じなければならない倦怠感が同時にやって来る。
時計を見ると、いつも起きる時刻の三分前だった。ベッドから起きて、軽く伸びをする。
それにしても、また朝岡の夢を見た。相変わらず内容は意味不明だ。なんでジャングルに銃が落ちてるんだよ。しかもそれを炒めて食べるって。
あれ? ジャングルと銃って、どこかで聞いたような。
昨日の記憶がよみがえる。リカ。夢占い。そうだった。そんな話をした。それでたしか。
ジャングル。エッチ。銃。男性器。
「ほああああああああああああああっ!」
まさか、まさか、それがわたしの無意識? い、いや、そんなバカな!
そんなわけない! そんなわけないじゃない! 占いなんて当てにならないんだから! 昨日リカがあんなことをいったせいで変な夢を見ただけだ!
それなのに頭の中で朝岡が大量発生する。小さい朝岡が八個くらい合体して大きい朝岡になり、大きい朝岡が八個合体してさらに大きい朝岡になる。それをくり返して朝岡はどんどん大きくなる。
やめろやめろやめろ!
わたしは自室を出て、洗面所に向かった。顔を洗って目を覚まそう。そうすれば頭の中の朝岡も消えるはず。蛇口ひねり、水を手ですくって顔に叩きつる。朝岡は消えない。もう一度顔を洗う。それでも消えない。ええい! 消えるまで何度でも洗ってやる! 何度でも、何度でも、何度でも何度でも!
わたしは遅刻した。無我夢中で顔を洗っていたら三十分以上もたっていたのだ。一時限目の開始には間にあったから、たいした問題じゃないけど。
今わたしが抱えている問題のほうが、よっぽど深刻だ。
朝岡が気になる。視線を自分のノートに固定しても、視界の端にわずかにうつる朝岡の姿に意識が向かってしまう。
今朝の夢がフラッシュバックする。占いの話が脳裏をよぎる。死ぬほど恥ずかしくて思わず大声で叫びたくなるけど、目をぎゅっとつぶってなんとか耐える。暗闇に朝岡の顔が浮かんできて、あわてて目を開ける。そしたらまた視界に入る朝岡に意識が向かう。
授業どころじゃない。ノートもぜんぜんとってなかった。黒板を見てすらない。先生がいっている意味もまるでわからない。日本語じゃないような気さえする。教科書をよく見ると、今の授業が英語だったことに気づいた。ほんとに日本語じゃなかったんだ。
と、とにかく授業に集中しなきゃ。ノートをとれば気がまぎれるかも。
だけどシャーペンを握る指が震えて芯がどんどん折れてしまう。芯がなくなってしまったからシャーペンをノックしてみたけど、新しい芯が出てこない。ペンケースを開けて芯のケースを手に取ると、なんとこちらも空。もう一度シャーペンをノックしてみる。カチカチカチカチ。やっぱり芯は出ない。
と、右側から視線を感じた。目を向けると、朝岡がわたしを見ていた。
「なな、なによ」
「いや、カチカチうるさいんだけど」
「わ、悪かったわね!」
仕方ない、ボールペンで書こう。ペンケースからボールペンを取り出す。
「芯、ないんだろ? しょうがねーな。やるよ」
朝岡がそういって、シャーペンの芯が入ったケースをわたしの机の上に置いた。
もしかして、朝岡ってけっこういいやつなんじゃ? そういえば昨日、目やにを指摘したことも、こいつなりの親切だったのかも。
「ふ、ふん。そこまでいうなら一本もらっといてやるわ」
感謝の意を示したつもりが、ずいぶん毒々しくなった気がするけど。気のせいだよね?
芯を一本取って、ケースを朝岡のほうへ差し出した。左手を伸ばしてケースを受け取る朝岡。そのとき、朝岡とわたしの指先が、かすかに触れた。あっ、と声を上げるのをなんとかこらえる。でも、心臓が急速にポンプして胸の内壁を激しく打ち始めた。
なんなの? なんなの?
指が触れたくらいでこんなにドキドキするなんて、小学生じゃあるまいし!
朝岡は気にする様子もなく、前を向いて授業モードに戻っていく。
でも、わたしのほうは普通じゃいられなかった。顔面がかーっと熱くなって、口の中が急速に砂漠化する。心臓の音が、周りの人全員に聞こえてるんじゃないかってくらいに大きくなって、もはやそれ以外なにも聞こえなくなってしまった。視点が定まらず、視界がぐるぐると回る。それと同時に、頭の中で朝岡の顔が回る。
やっぱりわたし、朝岡に恋してるの? 恋に落ちてしまったの?
いや待て落ちつけ。あ、もしかすると、これって夢なんじゃない? わたしは夢から覚めて学校に来てる気になってたけど、まだ眠ってるんじゃないの?
確認してみよう。古典的だけど、ほっぺたをぐにーっとつねってみる。
あんまり痛くない。でも、ちょっと痛い。
てことは、やっぱり現実ってこと?
ううう、罠だ! これは罠だっ! 政府の陰謀だああっ!
家に帰ってもわたしは苦しみつづけていて、ベッドの上でのた打ち回っていた。体が熱くて、動悸が激しくて、息が苦しい。なんだか視界もぼやけてきた。呼吸困難だ。いかん、このままじゃ昇天してしまう!
体を起こして目をつぶり、大草原をイメージしながら深呼吸をする。
よかった、なんとか落ちついてきた。
冷静に考えてみよう。やっぱりこれは恋なんだろうか。
そもそも、恋をするってどういうことだろう。壁に張っている、五人組のアイドルグループ『LUCID』のポスターをながめながら考えた。五人がブラックスーツ姿で並んでいるポスターだ。わたしは左端に立っている内藤くんが特に好きなのだ。
わたしは今まで恋をしたことがあっただろうか。アイドルのファンになることはあっても、日常生活で出会う特定の男子を好きになったことはない気がする。白馬の王子様に出会ったことはないのだ。
だとしたら、わたしは生まれて初めて恋をしたのだろうか。
だけど朝岡なんて、王子様には程遠い存在じゃないか。たしかにやつは足が速い。そりゃあもう韋駄天のごとく速い。でもそれ以外は、平凡すぎるほど平凡な男子なんだから。
じゃあやっぱり、これは恋じゃないんだろうか。
うーん、よくわからない。
だけど、朝岡のことを考えるとまた胸が高鳴りだした。ほんとうに、どうしてなの?
それに毎晩見つづける朝岡の夢。今夜もまた見ちゃうんだろうか。
夢?
そうだ、夢だ。夢を見るからいけないんだ! 朝岡の夢の見る→朝岡のことが気になる→そのせいでまた朝岡の夢を見る。こういうサイクルになってたんだ。そうに違いない。
じゃあ、夢を見なければいい。でも、眠ればまた朝岡の夢を見る気がする。
だったら、眠らなければいいじゃないか。
今夜は徹夜だ!
窓から差し込む太陽光線。新しい朝だ。達成感が満ちあふれる。
午前〇時以降は面白いテレビ番組もやってないし、眠気よりも暇との闘いになった。昔はまってた漫画やらゲームやらを引っ張り出して、タイムスリップした気分に浸りながら時計の針が進むのを待った。
そしてついに、いつも起きてる時刻がやってきた。人生初の徹夜達成だ。やればできる!
さあ、学校に行こう。
と思ったのもつかの間。安心したとたん、ここぞとばかりに睡魔が襲いかかってきた。まぶたがとろけて視界が歪む。両脚が生まれたての仔馬なみにふらついてしまう。
このまま眠って学校はサボってしまおうかと一瞬思った。でもそうはいかない。夢のせいで朝岡が気になる、ということを証明するためには、眠らずに登校しなくては。
防火シャッターのように下がってくるまぶたを根性で持ち上げながら、なんとか学校まで自転車をこいだ。それから校舎に入って教室に向かう。
だけどまっすぐ歩けない。廊下がコンニャクみたいにやわらかくなってる感じがする。周りの生徒にぶつかりそうになる。すでにいつもの倍は歩いた気がするのに、まだ教室が見えてこない。うちのクラスって、こんなに遠かったっけ?
ようやく二年五組の教室にたどりついた。扉を開けると、まず目に入ったのはリカの姿だった。なぜだか、ぎょっと目を丸くするリカ。つづいて、朝岡を視界に捕らえる。
急激に心臓の動きが速まった。そして顔が熱くなる。
なによ、夢を見なくても関係ないじゃない。
クラスメイト達の視線をチクチク感じながら、わたしは自分の席まで歩いた。
「おい、夜野。ふらついてるけど、大丈夫か?」
席に座ろうとするわたしに声をかけたのは朝岡だった。無視する。
「おいってば。目の下にクマもできてるぞ。どうしたんだよ」
「うるさい。ほっといてよ!」
「なにいってんだ! 明らかに具合悪そうなのに、ほっとけるわけないだろ!」
胸の辺りが痛くなって、涙が出そうになった。
ああ、こいつはきっと、ほんとにいいやつなんだ。
それなのにわたし、つっけんどんな態度ばっかりとっちゃって。
謝らなくちゃ。
「あんたのせいよバカァッ!」
ってあれ? なんでこうなるの?
どうして素直な言葉を出せないんだろう。
ここで気力に限界がおとずれた。ひざが力を失い、上半身が落下する。あ、倒れる。そう思ったとき、身体がやわらかなクッションに包まれた。助かった。わたしを包み込んだクッションは、よく見ると人間の体だ。視線を上げて顔を確認する。朝岡だった。朝岡が、わたしを助けてくれたんだ。
そのとき、朝岡に対してある感情が芽生えた。そしてデジャヴを覚える。同じ感情を、以前にも抱いたことがある。それは遠い記憶ではない。ある光景が頭をかけめぐる。体育祭、遠ざかる朝岡の背中、胸の高鳴り。
ああ、もうだめ。
薄れていく意識。
フェードアウト。
*
わたしは校舎の前に立っている。目の前に広がるグラウンドには一周二〇〇メートルのトラックがあって、それを見てわたしは思い出す。先週の日曜日、体育祭でのできごとだ。
プログラムの中盤に、学年別クラス対抗男女混合リレーがあった。そのメンバーの補欠になっていわたしは、急遽レースに出場することになった。第三走者になっていた子が休んだためだ。
レースが始まり、うちのクラスはトップ争いをくり広げた。わたしは僅差の二位でバトンを受けとった。第三走者はアンカーのひとつ前だ。わたしが頑張れば、優勝できる可能性が高くなる。けれどわたしは、トップから離されるばかりか、後ろからも抜かれてしまう。結局二人から追い抜かれて、五クラス中四位まで下がってしまった。
だめだ。せっかく優勝のチャンスだったのに、わたしのせいで無理になってしまった。
わたしはあきらめの気持ちとともに、アンカーにバトンを渡した。
バトンを握ったアンカーの気持ちはしかし、萎えてはいなかった。
「まかせろ!」
アンカーは力強く、そういった。
そのアンカーこそが朝岡だった。
朝岡は獲物を追うチーターみたいに急加速し、前との差をつめていく。強豪ぞろいであるはずの最終走者の中においても、朝岡の走力は群を抜いていた。一人かわし、二人かわし、そしてゴール直前、トップをいっていた走者を追い抜いて、朝岡は見事一着でゴールインした。
歓声を受けてガッツポーズする朝岡の姿が輝いて見えて。
わたしの遅れを取り返すその走りに素直に感動を覚えて。
わたしは鼓動が高鳴って、それがしばらく治まらなくて。
それがなんなのか、そのときはよくわからなかった。ただ単に、運動後の動悸が鎮まっていないだけだと思ってた。
だけど、今気がついた。
そうじゃなかったんだ。
わたしはあのとき、朝岡のことを、かっこいいと思ったんだ。
「夜野」
背後から声。
振り返ると、そこには朝岡がいる。
「おれはバカなんかじゃないよ」
「なによ。あんたは大バカよ!」
「バカなのは、夜野のほうだろ」
「なにをうっ!」
「夢を見ないために徹夜するなんてバカとしかいいようがないよ」
「だ、だって、それは」
「なんでそんなにおれのことを気にするんだよ」
「き、気にしてなんかないっ」
「気にしてるだろ。素直になれよ」
素直に?
そんな簡単には素直になれないのに。
だけど素直になることができたら。
朝岡はきびすを返して歩きだす。
朝岡の背中が遠ざかっていく。
「待ってよ!」
わたしは地面を蹴って朝岡を追う。
朝岡は走りだし、さらに遠ざかる。
それでも全力で朝岡の背中を追う。
「いかないで!」
素直になりたいから。
だからいわなくちゃ。
朝岡にいわなくちゃ。
朝岡の背中が近づく。
わたしは手を伸ばす。
伸ばした手がとどく。
朝岡の背中をつかむ。
「わたしは、朝岡のことが好きなんだから!」
目の前が明るくなった。独特の薬っぽい匂いが鼻をついて、この場所が保健室であることを知る。ベッドで寝かされていたらしい。なんだ、夢だったのか。
ほっとしたような、残念なような。
身体を起こして室内の時計で時刻を確認する。十二時五十五分。
げっ、もう昼休みだ。そんなに寝てたの?
と、視界の端に人影が入る。ベッドの横に朝岡が立っていた。その後ろには、リカの姿もある。二人して様子を見に来てくれたらしい。
「夜野、具合はどうだ?」
朝岡の声を耳にすると、また胸が高鳴る。
でも、昨日みたいに意識しまくって苦しくなることはない。
うん。もういいや。認めよう。認めちゃおう。
わたしは、朝岡に恋した。
そう思うと、この緊張がむしろ心地いい。朝岡をながめているとなんだか夢うつつ。
あ、恋をするって、こういうことなんだ。白馬の王子様に出会う可能性は低い。でも身近な人のいいところを発見すれば、その人がだんだん王子様に見えてくることもある。
今は朝岡のこと、かっこいいと思う。
体育祭での朝岡は、間違いなく王子様の輝きを放っていた。そして倒れるわたしを支えてくれたときも、文句なしにかっこよかった。
それに、朝岡は気配りのできるいいやつなんだとわかった。朝岡のそういうところが、今は好き。顔だって別に嫌いではないし。垂れ下がった目も、優しくて朝岡らしいと今は思える。
それにしても、どうして朝岡の夢を見つづけたんだろう。体育祭で朝岡のことが気になって、そのあと席が隣になったことでより朝岡を意識して、それで夢を見るようになった。きっと、そういうことなんだろう。もうどうだっていいことだ。
「なんだよ、元気そうじゃねーか。まあ普通に寝てるように見えたし、大丈夫だろうとは思ってたけど」
うん、ごめん。ほんとに普通に寝てただけなの。
「これなら休憩時間のたびに来て損したよ、まったく」
憎まれ口をたたいてるようだけど、やっぱり心配してくれてたみたいだ。恋心が現在進行形でふくらんでいくのを感じる。
お礼をいわなくちゃ。
「ふん。大丈夫に決まってるでしょ。なにしに来たのよあんた」
うわああああ! またやっちゃった! なんでこうなんだろう、もう!
「はいはい、よけいなお世話でしたね。おれのせい、なんていわれたから気になっただけですよっと」
朝岡はわたしに背を向けて立ち去ろうとする。ほら! あんなこというから!
「ままま、待って、朝岡っ!」
朝岡が振り向く。わたしは二の足を踏む自分の心に鞭を打つ。
「そ、その、ありがと」
やっといえた。
朝岡が微笑んでくれた。心臓が踊る。
素直になるのはむずかしい。まだ「好き」だなんて面と向かっていえるはずもない。
でも、少しずつ距離を縮めることができたらと思う。
と、これまで黙っていたリカが、にやつきながら言葉を発した。
「ところで夜野っち、気持ちよさそうに眠ってたけど、さっきはどんな夢を見てたの?」
「な、なによ、別に」
「寝言がすごかったよお。大声で『朝岡のことが好き』だなんて!」
ぎゃああああ! いっちゃってた!
やばいやばい! ごまかさなきゃ!
「ち、ちちち、違うわよっ! そそそ、それは、く、唇が滑っただけで!」
ああもう! わけわかんないこと口走っちゃった! リカはにやにやするばかりで聞く耳を持たないし、朝岡は困惑しながらも照れ笑いを浮かべている。
うわーっ! バカなバカな、なにこれ? 告っちゃったってこと? ちょっと待ってよ、まだ心の準備が。いや待てよ? これ、夢なんじゃないの? そうだ、わたしはまだ寝てるんだ! 確認してみよう、ほっぺたをぐにーっと。
ちょっと痛かった。
よろしくお願いします。
年に一度くらいの頻度でお世話になっている者なのですが、今作を皮切りにしてちょっと頑張ってみようかなと思っています。
感想いただければありがたいです。
こんばんは。
そしてはじめまして。
作品拝読させていただきましたので、感想を残させていただきます。
【展開】
主人公の少女が、夢から始まって一人の男子への恋心を自覚していく、そのような展開と読み取りました。
それにしても、ベタな展開でしたね。
自分はこういうのが大好きです。
冒頭、
>このところ毎晩毎夜、朝岡の夢ばっかり見るもんだから、寝起きの頭は朝岡の顔で満たされていて、すこぶる気分が悪い。
という始まりは、個人的にはよいと思いました。
先を読みたくなる、始まりです。
そして、この作品がどのようなタイプの話なのかこの一文だけで、読み取れます。
グッジョブです。
そしてそのまま、主人公の一人称で、話がつづられ、間に夢が幾つか挟まれる。
この展開のしかたもシンプルでわかりやすく、下手に難しい恋愛ものとかよりは、自分的に好印象でした。
ただ、もう少し内容にこだわれたのではないか、と思うところでもあります。
例えば夢の内容ですが、
1 朝岡を追いかけるが、追いつけない
2 ジャングルで朝岡と二人。朝岡が銃を拾って、フライパンで調理?
3 リレーで、朝岡にバトンをつなぐ。→朝岡のことが好き!
とこの三つですね。
これは、途中でリカさんが言っているように、恋について表しているのだと思いますが、少し中途半端な気がします。
例えば、2の夢は、リカに言われてから見ていますが、それだと「リカの言ったことに触発された」のか「本当に、夢占いのとおり」なのか、分かりにくいのです。
せっかくですので、、統一したほうがいいのではないかな、と。
個人的な趣味で申しますと、そこはもう完全に夢占いの結果として、出てきてほしいです。なので、現在リカさんの話の後に出てきているこの夢ですが、先に持ってきてはどうでしょうか? そうすれば、最初に夢を見て、リカに聞いてみると、夢占いのとおりだった→朝岡を意識し始める。という順序でもよいような気がします。
シンプルな展開で、良いというのは最初のほうに書いたと思いますが、その反面悪い面もあります。
特にこの作品には顕著だったのですが、なんと言っても最初に一行で「展開が読める」のです。
もちろん、自分には、ですが。
そうして見てみると、御作は少し中途半端であるかと思います。
展開の読める作品――例えば「クローズドノート」など、それぞれのキャラに魅力があり、最後にどうなるのかがわかっていたとしても、最後まで読み通せるもの。「とある飛空士への追憶」のように、完全に王道を貫き通すもの。そう言った物があります。しかし、御作については、少しどちらに関しても足りないと感じました。
それについては、ほかのところで分解して書くことにします。
【文章】
完全な女子の一人称。
リズムがあって、読みやすかったです。
主人公の心情もよく表されていると思いました。
少し気になったのは、「~だろうか? ~だ」という自問自答を繰り返している場面が、結構多いこと。これは、自分自身も癖になっているのですが(どうでもいいですね)、ちょっと一人称において、流れを詰まらせたり、展開を冗長にさせる原因となります。
本当にキーポイントだけで、自問自答させて、その他のときは出来る限り回避したほうが良いかもしれません。
そして、話し言葉ゆえにか、多少読みにくい部分がありました。
一人称とはいえ、文章になっていますので、適当に句読点を打つなどして、改善できるかと思います。
【人物】
主人公:キャラが良く伝わってきました。一人称と言うこともありますし、元気で好印象のもてるキャラだったと思います。
ちょっと冒頭とそのほかのところで、印象が違うのが気になりましたが、その他にはキャラのぶれも特にないと思いました。
朝岡:少し良くわからないキャラでした。いえ、行動はしているのですが、なぜそう行動したのか―ーが透けて見えてこないのです。キャラがいまいちたっていなかったとでも申しましょうか。展開のところにも書きましたが、先が読めている作品でのウリとなる重要なポイントですので、ここはもっと彼の個性を見せてきてほしかったです。
リカ:うまい具合に、主人公を引き立てていたと思います。好感の持てるキャラクターでした。
【総括】
個人的には、好きでした。
客観的には、どうか、ということはうまく書けないのですが、あともう一歩といったところだと思います。一人称でぐいぐいと読ませる作品でしたし、自分としては途中で飽きることはありませんでした。
これからの可能性がまだまだ残されている作品だと思います。
それでは、完全に主観の感想でした。
適当に取捨選択していただけると嬉しいです。
それでは、これからもお互いにがんばりましょう!
こんばんは、ミチルと申します。御作を読了いたしました。朝岡の二文字を見るたびに、笑いがこみ上げるようになってしまいました。夜野の振り回されっぷりも面白かったです。その分期待が膨らんでしまい、オチはやや弱いと感じてしまいました。以下、細かな感想です。
【構成・人間関係】
狙っていたのかいないのか。じわじわと笑いがこみ上げてきました。シュールな掴みから入り、どんどん話しが展開していく。当たり前の日常が奇妙な夢のせいで、夜野が振り回される構成はよかったです。リカの夢占いに動転する様子がかわいらしくて、笑いが止まりませんでした。純情な女の子を色恋沙汰でいじるのは楽しいですね(ry←作品とは関係ないところで語りそうなので自重
朝岡のキャラもいいですね。惚れるに値すると思います。
物語の落とし所もきちんとわきまえられていたと思います。ただ、オチにはもうちょっと力を入れてほしかったかなと。詳しくは後述します。
【文章】
コミカルな物語に合っていました。夜野の心理描写が丁寧だったのも好感が持てます。ただ、力を入れてほしい場面で肩透かしをくらいました。最も気になったのは、(前述しましたが)オチです。想い人に寝言で告白してしまう、という場面を落とし所にするのはよかったのですが、えらくアッサリ流されたという印象を受けました。たぶん夜野が(夢で、ですよね)朝岡を掴んだ時の感触がよく分からなかったためです。汗に滲んだ熱のこもったシャツを掴んだ時の皮膚感覚を伝えてくれたなら、もっと楽しめたのにと地団駄踏みました。
いろいろ言いましたが、楽しめました。わけの分からないうえに、妄想混じりの感想で申し訳ありません; これからも執筆を頑張ってください。
りりんです。
これが、ラノベですね(笑)
うーん、面白かったですね。
主人公の視点なのに、「自分の気持ち」を探していくという展開が斬新でした。ラストの夢の中の短文のパートが、とても映えていました。オチも素晴らしい。文章も読みやすくて、いう事無しです。
初めまして。
読ませていただきました。
とても面白かったです。
まさにラブコメの王道ですね。
たしかに展開に意外性はありませんが、それは問題ないと感じました。
テレビドラマだってラブストーリーなら第一話で先が読めちゃいますから。
むしろ本作のようなお話は、いかに読者の期待に応え期待を上回るかが勝負だと思います。
その点本作は見事に予想を超えてくれました。
序盤からラストまで終始ニマニマしながら読み進みました。
コメディに相応しい軽妙なタッチの文章がお見事です。
随所に散りばめられたギャグのキレもよかったです。
緊張した時に主人公が発する訳の分からない言動が笑えました。
>教科書をよく見ると、今の授業が英語だったことに気づいた。ほんとに日本語じゃなかったんだ。
ここかなり受けました。
キャラもいいですね。
ひたすら必死に混乱しまくる主人公が可愛いです。
おせっかいで小悪魔的なリカも立派にキャラ立ちしてますし。
テンポよくボケとツッコミが交叉する二人の会話がまた楽しいです。
朝岡君もなかなか渋くて格好いいと感じました。
ストーリーですが、結末は分かっているといっても、起承転結がしっかりしていて良かったと思います。
先週の日曜の段階で、主人公はすでに恋していたんですね。
そのことを覚えていなかったのは、
アレ私朝岡のこと好きになっちゃた?→いやいやそんなバカな→なかったことにしよう、
という形で自分の記憶を封印してしまった、ということでしょうか。
精神分析的に言うと「人は忘れたいことを忘れる」らしいですから。
抑圧されて深層にまで沈められた恋心が夢として現れたんでしょうね。
謎が解けてしまえばよく納得できます。
リカに暗示を受けるとすぐその通りの夢を見るのも可愛いです。
夢で始まり寝言で終わる、よく出来たお話ですね。
褒めてばかりいるのも癪なので、意地悪くあら捜しもしてみたんですが発見できませんでした。
とても楽しめました、ありがとうございました。
これからも頑張って下さい。
初めまして。ななななと申します。
拝読しましたので、感想を書かせていただきます。
起。朝岡の夢を見る。
承。朝岡のことが好きなのか?
転。体育祭。
結。「わたしは、朝岡のことが好きなんだから!」。
こんな感じでしょうか?
【展開】
恋する乙女、恋に無自覚。な、話ですね。青春ですねえ。こういうの好きです。いわゆるツンデレの亜種なわけですが、デフォルメが緩いのでリアリティがありました。その割には「寝なきゃいいんじゃあ!」と間抜けな選択肢に飛びついてましたが。きっと平静な精神状態ではなかったのでしょう。恋とはかくも恐ろしき……。
現実で言われたこと(ジャングル、銃)が夢を浸食してきたり、夢と現実がごっちゃになって頬をつねったり、夢関連のエピソードは面白いものが多かったです。
>ここはジャングルだ。
ですよねー。
>「銃だ。リボルバータイプの」
ですよねー。
>「よかった、さっそく炒めなきゃ! フライパン持ってる?」
トドメ。笑いました。
この直球のネタもそうですが、
>「夢を見ないために徹夜するなんてバカとしかいいようがないよ」
この読者には「ああ、夢か」とわかる台詞など、細かい部分も素敵です。
反面、現実世界のことはちょっとパンチが足りないかなと思いました。今作は「恋する乙女が恋を自覚する話」なのですが(ですよね?)、「え? わたし、あいつのこと好きなの? そんなわけないじゃん」的な否定が足りないように思います。
夜野が朝岡を毛嫌いするような描写はありませんでしたし、親切を受ける場面も多々あります。なんで彼女が「別に好きじゃない」と言い張っているのか、よくわかりませんでした。「好きかも?」「好きなの?」と悶々としてベッドで足ばたばたー、とかも青春ですが、今作は夢が伝える本当の心、という辺りを売りにしているのですから、表面的には正反対の行動を取っていたほうが面白いような気がします。
夜野はもっと朝岡の悪いところを論って、態度もツンツンしちゃって、リカと「ひょっとして朝岡が好きなんじゃない?」「そんなわけないでしょ、あんな奴」みたいな会話をしちゃったりしたほうが良さげです。アイドルの内藤くんと比べて、「あいつは全然タイプじゃない」と言ってみたりとか。
デフォルメ緩い雰囲気なので、あんまり小説的な道具立てにはしたくないのかもしれませんが。
【人物】
夜野。話者。恋心を認められないまま、夢に追い立てられて右往左往する。微ツンデレ。
朝岡。韋駄天のごとき陸上部員。割と親切。でも性格がよくわからない。少なくとも社交的な人物ではある模様。
リカ。他人の色恋沙汰が何より好きそうな人。訳知り顔でアドバイスしまくっている間に行き遅れるかもしれない。夢診断をしてくれたり最後に爆弾発言したり、美味しいところを持っていく。
朝岡のキャラが弱いと思いました。
キャラが弱いというか、描写が薄いというか。現状だと、熱血キャラでも爽やかキャラでも無骨キャラでもあり得そうです。一応、主役なのですから(一人称なので、話者である夜野=読者が意識の中心に置くのは朝岡だと思うのです)、もうちょっと活躍の場を与えてあげてほしいかなと思います。夜野が朝岡の練習風景をボーッと見守る場面を作るとか。
ちなみに一番キャラが立っていたのはリカでした。
【設定】
全体的にコミカルな雰囲気で、夜野の性格も相俟って展開が速く、さくさく読めました。文体の指摘っぽいですが、雰囲気の指摘なのです。
前述しましたが、夢の使い方が素敵です。深層心理の発露に利用し、現実との境界を曖昧にしたり、頬をつねるという古典でコミカルな雰囲気を助長したり。……あれ? なんか同じこと繰り返してるだけですね。それくらい素敵だったのですよ、てことで。
あ。そういや、夢占いって、占いと名はついていますが実際には確か心理学の分野のひとつですよ。「夢診断」と同義のはずです。星座占いとか動物占いとかとは、ちょっと違います。あんまり当てにならない気がするのは確かですが。
【文体】
なんかこれも前述してしまったっぽいですが、コミカルで読みやすい文章でした。話者の語調を崩さず、でも地の文としての働きも損なわず、という個人的に好きな距離感です。
今回、メモ取りながら読んでいたので、細かいところも指摘できてしまいます。ふっふっふ。
あ、適当にスルーしてくださいね。初めての人には刺激が強すぎるかもしんないです。
>横目に朝岡の様子を観察する。やつは手持ち無沙汰にシャーペン回しをしていた。
ペン回しにはペンが必要です。この時点では授業が始まっていないので、彼はわざわざペンを取り出しているという……。暇つぶしのためだけにペンを取り出す人はいないような気がします。多分。人によるのかもしれませんが。
>一人で考え込むのはやめよう、と思うことにした。こんなとき、友達という大きな存在が力を貸してくれる。
「友達という大きな存在」、表現が壮大すぎる気がしましたが、さすがに細かすぎる気もしてきました。でもメモに書いてあったので、一応。
>わたしは遅刻した。無我夢中で顔を洗っていたら三十分以上もたっていたのだ。一時限目の開始には間にあったから、たいした問題じゃないけど。
どうせならばっちり遅刻したほうが良いと思います。そんで朝岡に「珍しいな」とか言われてあわあわすれば良いと思います。「たいした問題じゃない」のであれば、描写する意義があんまりないです。
>指が触れたくらいでこんなにドキドキするなんて、小学生じゃあるまいし!
中学生、のほうが良いかなと思いました。小学生にそんな情緒はありません! 今時の小学生はそうでもないのかな。どうなんでしょう?
>だめだ。せっかく優勝のチャンスだったのに、わたしのせいで無理になってしまった。
「チャンス」にかかっているので、「無理」→「無駄」かなと思います。多分。
あれ? これって「チャンスだったのに」ですから、「無理」はチャンスに対応してますよね? 「優勝」のほうなのかな。「わたしのせいで優勝が無理になってしまった」だと意味が通りますね。でも、「~チャンスだったのに、わたしのせいで、もう無理だ」でもしっくり来てしまうという。日本語、ワカリマセン……。
単に「無理になる」という表現に慣れないだけですかね? うーむ。
>「これなら休憩時間のたびに来て損したよ、まったく」
台詞が説明的です。「これなら」は削ったほうが良いです。というか、高校生男子の心理としては、女子のお見舞いに来ていることには羞恥がありそうなので、リカに「休み時間のたびに来てたじゃん」とか言わせたほうが良いかなと思います。
朝岡がお調子者キャラならこの限りではありませんが。
>「寝言がすごかったよお。大声で『朝岡のことが好き』だなんて!」
>(中略)
>ああもう! わけわかんないこと口走っちゃった! リカはにやにやするばかりで聞く耳を持たないし、朝岡は困惑しながらも照れ笑いを浮かべている。
聞いてたのかよ。それにしては、朝岡の応対がちょっと変かもしれません。何を普通に会話してんねん、という話です。男子高校生としては、もっと浮き足立つべきです。「お、おう」と唐突にぶっきらぼうキャラが発動したり。
ふわふわした夢のテンションが、目覚めたところで途切れてしまっている感じです。実際には「朝岡のことが好き」は夢と現実両方に作用している台詞なので、「夜野、自分の叫び声で目覚める」→「横で気まずげな二人」→「でも寝ぼけて気づかず、普通に会話する夜野」→「あ、なんかテンション普通だね、と朝岡も普通に会話」→「リカが蒸し返す」というような流れのほうが良いかなと思いました。
以上です。
執筆お疲れ様でした。
こんにちは、拝読したので感想を失礼します。
これは……もしかして、以前に鼻血のお話書きました?
人違いだったらごめんなさい。
超がつくほどの一人称が、今作もいい味出してました。
人違いだったらごめんなさい。
ツボった人の名前はなかなか忘れないんですよねー。
人違いだったら(ry
自分も以前夢占いにはまっていた時期があったので、比較的親しみやすいテーマでした。
しかし「夢になぜこの人が? という時はたいていは好きな人の身代りとして出てきていたりして、たいした意味は無い。しかしそこから勘違いして恋に落ちる可能性がある」みたいな感じで書いてあった気がするので、リカが執拗に誰のことかと聞くのは変かもです。
でも、本によって書いてあることまちまちだったので、自信ないです。
あ、前に夢占いやってたよってアピッてるだけです。
ああ、ストーリーの上で全く問題ないどころか素敵なシーンだったので、変更しないでください。
何言ってるんだろう……。
……なんだかごめんなさいw
こんな風に書いてあった本もあったよってことでお願いします。
それにしても、文章が非常に面白かったです。
>「ほああああああああああああああっ!」
女の子にこんな奇声を出させてしまう辺り、ツボですw
ラストシーンの朝岡くんが、ちょっと落ち着きすぎてるのが気になりました。ええ、他の人との感想と丸かぶりですが(汗
ついでにわがままを言うと、告白しちゃってたと気付いた後の朝岡くんの台詞が読んでみたかったです。
悪いことかわかりませんが、すっぱり終わりすぎてる気がしたので。
>わたしからすれば、歯牙にもかけないエキストラの一人にすぎない。
まだ主人公のキャラをつかみ切れて無いうちにこの文は、なんだか偉そうなので少しひっかかりました。や、クローズアップしなければ全く問題ない文なんですけどね、重箱の隅を少々。
では、楽しいお話をありがとうございました。
はじめまして。タカテンと申します。
楽しんで読ませていただきましたので、感想を送らせていただきます。
ああ、いかん、実に自分好みです。
恋に恋する時代(カモン!白馬の王子様)に終わりを告げ、本当の恋を自覚するお年頃の戸惑いと無茶ぶりが上手く表現されていると思います。
主人公が朝岡君になかなか素直になれないところがいいですね。
思えばツンデレなんて生まれてまだ十年も経っていない言葉だと思いますが、その行為自体は随分昔から存在していたんだなぁと今作を読んでいて実感してしまいましたよ。
個人的に気になったのは、自分も数多くの方と同じく朝岡君の魅力がいまいち伝わってこないこと。
特に主人公の寝言告白を聞いていたのに、あのあっさり風味な態度はえらく落ち着いた奴だなぁと、本来ならもっとポイントを稼げるところなのに逆にマイナスになっていて勿体無いです。
実は自分、大学生の頃に寝言告白の現場に居合わせたことがあります。
その時は野郎の告白でしたが、相手の女の子のリアクションたるや凄まじかったですよ。
本人の名誉のために詳細には書けませんけど(けど、いつかネタにして書くつもりでしたw)、まるで漫画みたいなパニクリ方で実に面白かったです>オイオイ
今作の場合、年齢も年齢ですし、ここでもっと朝岡君があたふたしちゃった方がより初々しさが出たのではないでしょうか。
うん、個人的にはそれだけでプラス十点ですヨ。
それでは他の方と感想がかぶってしまい、あまりお役には立てなくて申し訳ですが、これにて失礼いたします。
執筆お疲れ様でした。次回作も楽しみにしております。
初めまして、seriと申します。
とっても楽しく読ませていただきました。
私は一人称でかくのがあまり得意ではないので、文章の勉強にもなりました。
まさに学生の恋愛で、ほほえましくてほんわかしました。
これからも楽しい作品待ってます。
頑張ってください!!
こんばんは、高野聖です。
拝読しました。
読みやすく、笑いどころもたくさんあったので、とても楽しめました。
自分はつい最近小説を書き始めたのですが、いろいろ勉強になりました。
特に勉強になったのは、夜野のキャラクターについてです。
心情描写・行動描写・セリフの3つが上手く組み合わさっていて、「夜野って元気でかわいいやつだなあ」という好印象を受けました。
これからの作品も楽しみにしています。
入江ミト様。はじめまして。田中敬介と申します。
面白い作品を探していたら、ここに辿り着きました。感想を残したいと思います。
結果として、読んでよかったです。面白かったです。
>ここはジャングルだ~
もう、ここからニヤニヤが止まりませんでした。やっぱりな、と。意識しちゃってるな、YOU!とね。
こういうのはニヤニヤ負けとでも言うのでしょうか。他の人がしている批評は全く気にならなかったです。いちいち書き込んでおいてアドバイスなしとはいい度胸をしているなと自分でも思うのですが、なんかもう……この作品は完璧だぜ!
これからも、沢山の人をニヤニヤさせてください。
それでは、そろそろ失礼します。