はいかけめじかさん一押し!(男性・17歳)
「人間レベル2」の僕は、教室の中でまるで薄暗い電球のような存在だった。野良猫のような目つきの美少女・百瀬陽が、僕の彼女になるまでは―。しかしその裏には、僕にとって残酷すぎる仕掛けがあった。
「こんなに苦しい気持ちは、最初から知らなければよかった……!」
恋愛の持つ切なさすべてが込められた、みずみずしい恋愛小説集。
言わずと知れたストーリーテラー、乙一さんの別名義によるラブコメ小説(本人談)。短編集。
ホラー寄りのミステリ作家として認知されることの多かった乙一が、そのラベルから逃れるために違うペンネームを用いたよう。
そして、乙一は恋愛小説でもすごい!
何がすごいって、やっぱ筆頭は抜群のストーリーテラー。魅せます。気持ち悪いくらい上手い。
雑誌のインタビューで、「神話の構造を流用すると上手くいくことがある」と話していたけど、まあ、多分そうなんでしょう。古典を換骨奪胎するのはエンターテイメントの基本ですし。みなさんもどうぞ。あまり露骨になりすぎないよう注意してね。
ストーリテラーつながりでもう一点。文庫版の解説(By瀧井朝世)より引用。
(本書の魅力の秘密の――引用者注)三つ目は、これがかなり重要なポイントになるのだが、ミステリ的な仕掛けの存在。(中略)。
もちろん「そうだったのか!」という驚きが味わえるのも醍醐味だが、そこからさらに、その謎に関わる人物がどんな痛みを抱えて生きてきたか、あるいはそれによってどんな誤解が生じていたかを思う時、人生の皮肉や哀しさを感じずに入られない。
ってか、こういうタイプの紹介なら、書店に足を運んで手にって、自分で解説読んだほうが早くね?
というわけで、独自路線で語ってきましょー。
中田永一には2012年時点で、二冊の短編集と一冊の長編がある。長編は本屋大賞4位獲得の『くちびるに歌を』。
なんか、小学館なんたら児童文学賞?みたいのを取った模様。
でも、乙一は短編の名手ですよ。短編です。長編だとやっぱ少しだれちゃう。
私にとってのベストは連作短編集の『GOTH リストカット事件』と、『失はれる物語』等に収録の「しあわせは子猫のかたち」だ。
「子猫」は、中田永一名義の作品と通じるところのある、いわゆる白乙一。ぜひ読んで。
で、中田永一の短編の中から一つを選ぶなら、断然「百瀬、こっちを向いて。」。
何がいいのか。
いや、そんなの知りませんよ。知ってたら自分で書きます。まあ、自分で読んで感じてください。
「百瀬」のハイライトは、なんと言ってもラストのシーン。というかラストのパラグラフ。
ネタバレは書かないけど、鳥肌間違いなし(保障はしない)。
アレだアレ。青春学園小説と言えば、恩田陸のデビュー作『六番目の小夜子』の伝説的シーンがあるじゃないですか。
あの、体育館の中で朗読みたいなことする場面。あの衝撃を超えたね。いやマジで。
そりゃ、ホラーって観点なら完敗だけど、たった数行で表現しちゃったあの感動。あな恐ろしや。
まあ、正直予想通りのラストでしたけど、エンターテイメントなんて雛形使ってナンボだし、それを乗り越えてこそ意味がある。
「百瀬」はもういっちゃったよ。
だから読め。
お気に入りのキャラはいますか? どんなところが好きですか?
「百瀬、こっちを向いて。」の主人公相原の友達、田辺。
すげーいいこと言うやつです。泣けるよホント。
59、60ページ(文庫版)の彼は輝いてます。「薄暗い電球」なんかじゃない。
この作品の欠点、残念なところはどこですか?
ええ~っと。主人公が暗い。
私みたいに、感情移入しちゃえる残念人生を送ってきた人や、エンタメだからって流して読めるような人じゃないと無理かも。
全く受け付けない人もいるはず。
収録されている短編集が、どれも似たパターン。暗い主人公が前向きになろうとする、お決まりなやつ。でもそれがいい。
ストーリーテラーで魅せる作家だけあって、作りすぎっぽくみえたりもする。いや、あまり気にならないけどね。
ライトノベルからはみ出てて、一般文芸に足の先ぐらい突っ込んでる感じがある。
「百瀬」では、学校のアイドル的先輩の、何年か後に妊娠している姿がある。
あくまでラノベ的見地から読む場合の欠点であって、普通の小説としてなら問題ナッシング。
奇抜な設定が奇抜すぎて(あるいはありきたりで)、「う~ん」と思えるようなことも。
ま、語りというか見せ方が上手いから全然OKだと。
なんかすごい切ない。
失恋した状態で読むと「クソッ、この野郎ッ!」となぜかムカつく。
乙一名義で多用した非日常的ギミック(ファンタジー要素)が無いから、物足りなく思う人もいるのかもねー。私は別に思わないけど。