人間の感情は、落差に弱いです。
いかめしくて恐ろしい印象を抱いてた相手が、お馬鹿な面や隙を見せると、最初のイメージとギャップがあるため、お馬鹿な面が大きく際立ち、ただそれだけで笑いが取れます。
このため、ライトノベルにおいては、
魔王やこれに類するような恐ろしく威厳のある存在が、お茶目な面を見せたりお馬鹿な言動をすることで、笑いを取るという黄金パターンが確立されています。
例えば、累計発行部数140万部越えのラノベ『はたらく魔王さま!』 (2011年2月10日刊行)は、世界征服一歩手前まで行った魔王が、現代の日本にやってきてファーストフード店のバイトとして働くというものです。
この設定だけ聞いただけで、笑ってしまう人は多いのではないでしょうか? かくいう私もプッと吹き出してしまいそうになりました。
また、集英社スーパーダッシュ文庫の『六花の勇者』 (2011年8月刊行)には、魔王の座をかけて争う3体の魔物が登場します。このうちの一体であるテグネウが非常におもしろい性格をしています。
彼は最初、冷酷で知謀に長けた恐ろしい存在として描かれます。
主人公のアドレットが幼いころ、テグネウは村にやってきて「もうすぐ人間が滅び、魔神の支配する世の中がやってくる。しかし、魔神に仕え魔物と共に生きる意志のある人間をぼくは快く歓迎する」と告げます。そして、魔物の仲間に迎え入れる条件として、魔神の支配に反対する村人を殺すように村人たちに要求します。アドレットの姉は、これに反対し弟を逃したために、村人に処刑されてしまいます。自らの意志で魔神の支配領域に移住した村人たちは、奴隷として酷使された上に、勇者を殺すための兵器に全員が改造されてしまいます。
そういう訳で、勇者となったアドレットは、テグネウを激しく敵視しています。
しかし、このテグネウは、おかしなこだわりを持った魔物で、あいさつが好きなのです。
「ええ。挨拶は明るい暮らしの第一歩。ずっと昔から言っていたわ。テグネウ派の凶魔は挨拶をしないと怒られるの」
何なんだあいつは、とアドレットは思った。
引用・六花の勇者2巻 2012年4月25日刊行
なんとも子どもの教育に良さそうな奴ですね。
魔物のボスが明るい暮らしを目指しているというのが、ギャップとなって笑いを誘います。
さらにテグネウは、アドレットたちの前に、王座を争うライバルに攻撃されてピンチなので、一時的に手を組んで欲しいと白旗を揚げて一人でやってきます。勇者たちが唖然としていて挨拶を返さないので、挨拶を返すように言います。
挨拶を要求するテグネウに、アドレットたち三人は仕方なく応じた。アドレットが軽く会釈すると、そんな挨拶があるかと怒られた。なんでこの凶魔は挨拶にこだわるのだろうか。アドレットは理解できない。
引用・六花の勇者3巻 2012年11月22日刊行
シリアスなバックグランドが存在する中で、このようなお茶目な行動を取るので、可笑しさが際立ちます。
次は『ハイスクールD×D4巻』でのシーンです。
「メイドのグレイフィアです。我が主がつまらない冗談を口にして申し訳ございません」
「いたひ、いたひいひょ、ぐれいふぃあ」
静かに怒っているグレイフィアさんと、涙目で朗らかに笑っている魔王さま。隣で部長が恥ずかしそうに両手を顔で覆っていた。
引用・ハイスクールD×D4巻 停止教室のヴァンパイア 2009年9月20日刊行
主人公の兵藤一誠の家に、悪魔を統べる魔王ルシファーがやってきて、彼の両親に挨拶したシーンです。ルシファーは配下のグレイフィアを妻だと紹介して、彼女に怒られています。
ルシファーは2巻に登場した段階では、威厳のある魔王として振舞っていましたが、4巻では一転、お茶目な面を見せています。
最初に恐ろしいイメージを与えておいてから、お馬鹿な言動をさせることで、笑いをとっているわけです。
ハイスクールD×Dはこのパターンのキャラ造形が好きなようで、他にも四大魔王の一人である、セラフォルー・レヴァイアタンが、魔法少女のコスプレが好きなロリっ娘という設定になっています。
「言うのを忘れていた――いえ、言いたくなかったのだけれど、現四大魔王さま方は、どなたもこんな感じなのよ。プライベートの時、軽いのよ、酷いくらいに」
引用・ハイスクールD×D4巻 停止教室のヴァンパイア 2009年9月20日刊行
このようなキャラ造形をする理由は、それがキャラを立たせるだけでなく、笑いを取るために効果的だからに他なりません。
恐ろしい存在がお馬鹿な面を見せることが、笑いに繋がるのです。
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