ライトノベル作法研究所
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  4. 弁証法の構造公開日:2012/01/09

弁証法の構造を物語に取り入れる

 これは上級者向けの技です。
 『動機、抑圧、目的の達成』で、物語の仕組みと流れを説明しましたが、これをよりダイナミックにする方法があります。

 目的を持った主人公の行動『主』が、それを妨げる環境(敵・悪役)の『対』の勢力と激突し、しのぎを削ることによって、新しい『成』の状態を生み出す。
 その一連の流れを『セグメント』と呼びます。
 物語は、このセグメントの連続によって成り立っており、2つの勢力が総力を挙げて対決する最後の大激突、「クライマックス」によって終わります。

 物語の内容を盛り上げるためには、セグメントを関連性無く、ただ順番に並べたのではダメです。

 最初のセグメントで生まれた『成』が、次のセグメントの『主』となり、これにまた新しい『対』が激突し、そこでまた生まれた『成』が、次のセグメントの『主』となるという具合に、連鎖反応的、重層構造的にセグメントを組み合わせるのです。

 なんだか、難しい話をしてしまって申し訳ないですが、

 つまり展開の山場となる第一関門を突破した主人公の前に立ちはだかる次なる試練、第二関門は第一の挑戦をクリアしなければ決して挑戦できないよう設定すればOKです。

 この際、主人公の成長に合わせて、次なる関門のハードルを上げていきましょう。
 関門はギリギリ、クリアできるか否かくらいのレベルにするのがミソです。
 現時点で持ちうる力と知恵を振りしぼり、仲間の力を総動員して、時に挫折しそうになりながらもこの関門にぶつかっていく過程で熱いドラマが生まれます。

 あれれ? なんか、聞いたような話だなと思いませんでしたか?
 そうです。『努力』『友情』『勝利』の法則の中で取り上げた、『ドラゴンボール』の構造がそのままスッポリあてはまります。

 悟空がピッコロを倒すことによって、両者に武術家としての奇妙な信頼関係が芽生えます。
 これがピッコロ編の『成』です。
 この『成』にサイヤ人急襲という『対』が激突します。
 ピッコロが悟空と共闘するという考えられない状況が起こります。
 サイヤ人編の『成』は、死んだ仲間を復活させるためにナメック星にドラゴンボールを探しに行くというものです。
 そこにまたフリーザという『対』がぶつかってきます。

 こうすることによって、ドラマは次第に緊張感を増し、クライマックスに向けてパワーとテンポを高めていくことができるのです。

 実はこれは、ヘーゲルの『弁証法』に則った物語の構造です。
 弁証法とは、あらゆる事象の変化・発展を本質的に理解するための理論です。

 ヘーゲルは、生物が発生し、さまざな進化の枝をたどって多様な生態系を持った大自然に発展したこと。人類の社会システムが、奴隷制、君主制から、自由で平等な法治国家へと発展してきた歴史までもを、この概念で説明しています。

 もともとあったAという状態にBという対立因子がぶつけられ、Cというより進化した状態が誕生する。
 さらに、このCに対立因子であるDがぶつけれ、Fが生まれるという連鎖をなしていく。

 これが宇宙に存在するあらゆる概念・事物の進化、発展の仕組みであり、物語の展開もこの構造を取り入れることで、合理性とリアリティを与えられ、なおかつ、話が進むにつれてスケールアップしていくというわけです。

 ドラゴンボールの作者・鳥山明のような作家として大きな才能を持った人間には、おそらく、哲学の大家ヘーゲルが長年かけて発見した宇宙の法則を直感的に理解する能力が備わっているのでしょう。

 実は、この構造には、もう1つ大きな利点があります。
 それは主人公(キャラ)が徐々に成長していくということです。

 関門をクリアするごとに、強い敵に打ち勝つごとに彼(彼女)は、能力的・精神的に強くなっていくのです。
 最初は弱くて貧弱な主人公が、試練を乗り越え、たくましくなっていくというのは、感情移入して読んでいる読者に格別な快感をもたらします。

 まるで、わが子の成長を見つめているかのような、応援したくなる気持ちが生まれるのです。

 同じく少年ジャンプに『ダイの大冒険』という冒険ファンタジー漫画があります。
 この漫画に登場するキャラクターにポップという魔法使いの少年がいます。
 彼は最初は、仲間を見捨てて逃げるようなヘタレな精神と、貧弱な力しか持たないキャラでした。
 このため当初は読者から反感を買っていました。
 しかし、ポップは、逃げたくなる気持ちと葛藤し、苦しみながら試練を乗り越えていきました。
 そして、徐々に精神的、能力的に強くなり、最終的に仲間からは絶大な信頼を寄せられ、敵軍からは「アバンの使徒(主人公の仲間)で最も恐ろしい男」と呼ばれるほどに成長しました。
 このこともあり、ポップは主人公のダイに次いで、人気投票では後半、常に2位をキープするほどの人気者になりました。

 ストーリーを盛り上げ、キャラの魅力を増すこともできるこの構造には、かなり強烈な効果があります。
 少年漫画的な冒険活劇を描こうとしている方は、ぜひ、この構造を取り入れてみることをお勧めします。
(『ダイの大冒険』はこのセグメントの構造のお手本のような物語なので、未読の方は読んでみることをお勧めします)

●キャラクターを成長させるポイント

1・能力的な成長について

 例えば、最初に戦う敵に勝つためには、強力な必殺技を身に付けなければならないとします。
 主人公は、努力して必殺技を獲得し、この敵に打ち勝ちます。
 次に戦う敵は、この必殺技に対して、対抗策を持っていると設定します。今の力では通用しません。
 この敵に勝つために、努力して必殺技をさらに改良して進化させるか、別の技を編み出すか、肉体を鍛えて基本的なスペックを上げたり、強力な武器を手に入れるなどします。
 そうやって得た新たな力で、主人公はこの敵に打ち勝ちます。
 あとは、この構造の繰り返しで、キャラは物語の進行と共に能力的に成長していきます。

 困難にぶつかった場合、努力して自身の能力を向上させるという解決策を取らせると、能力的な成長を描きやすくなります。『努力・友情・勝利の法則』における『努力』の部分ですね。
(格闘漫画などは、このパターンが繰り返されるので、どこかでセーブしないと強さのインフレが進行していく)

2・精神的な成長について

 例えば、臆病な少年が敵の襲撃から家族や仲間を守るために、魔法使いに弟子入りしたとします。
 厳しい修行を乗り越え、彼は魔法を使えるようになり、その力で敵を一時的に撃退しました。
 これによって、辛い修行に耐え抜く忍耐力や、自信を手に入れます。

 ここでポイントなのは、修行前と修業後の精神的な変化を描くことです。

 最初は、臆病でひ弱な彼が、強い動機を持って試練に挑み、獲得した力で敵に勝利するという成功体験を経ることで、自信を持ち、言動が変化していく様を描くと、説得力があります。
 最初は、オドオドと人の顔色をうかがっていたのが、他人にしっかり意見できるようになるなどです。
 言葉だけでなく、敵に襲われるとまっさきに逃げ出していたのが、先頭に立って戦うようになるなど、行動的な変化も取り入れます。

「お前、本当にあの○○かよ!?」
 と、周りにいた人間が、その成長ぶりに驚くようなシーンを入れるのもコツ。

 ただし、短期間で、あまりにも完璧超人に化けさせすぎると、説得力がなくなるので、成功の中で自信をつけながらも、未だにどこか弱い部分を引きずっているような態度を描くと良いです。
 例えば、おだてられて調子に乗って、大変な失敗をするなど。
 この失敗を自戒し、彼はさらに成長していく……
 とすると、徐々に精神的に強くなっていく様が描けます。

 特に、スタート地点の彼(彼女)をダメな人間に設定するほど、精神的な成長が描きやすくなります。
(逆に目立った欠陥のない人格的に成熟したキャラだと、精神的な成長を描く余地がなくなります。
 ライトノベルやゲームの主人公にまだ未熟な少年少女が選ばれるのは、この理由もあります)

 他には、虐待によって人間嫌いになってしまった少女が、仲間と協力しながら困難を乗り越えることで、徐々に他人に心を開いていけるようになる、などといったトラウマ克服型のパターンもあります。
(『努力・友情・勝利の法則』における『友情』の要素)

 いずれにしても、根底となるキャラの個性を損なわずに内面的な変化を描かなくてはならないため、能力的な成長を描く場合に比べて、難易度が高いです。

 栗本薫の長編大河ファンタジー、『グイン・サーガ』などでは、キャラクターの元々持っていた素質の一部が大きくなっていくような形を取っています。

 この物語に登場するイシュトヴァーンは、16歳の頃は、義侠心に富んで弱い者を助けるような一面がありましたが、元々戦いを好む性行と、自己中心的なところもありました。
 彼は親友に捨てられ、好きな女の子に裏切られ、弟のようにかわいがっていた少年を失う、といった痛手を忘れるために、戦いを求めて残虐な行為を繰り返していくうちに、元々持っていた義侠心などは小さくなり、冷酷な一面が肥大化して、殺人王などと呼ばれるようになります。
 これはマイナス方面への変化と言えますが、外からの大きな圧力の連続と、元々持っていた素質が絡まって内面が変っていくことによって、変化に説得力を与えています。

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