お悩みの点につきまして、おそらくそういうキャラの表層的な表現(僕っ娘、萌えしぐさ・言動等)では決まらず、そのキャラの物語への関わり方次第だと思われます。要は書きよう次第となってしまうんですが、以下、もう少し詳しく説明を考えてみました。
「とある魔術の禁書目録」は、今ですとアニメ3期やっててくれまして、原作の第17~18巻の英国で第二王女キャーリサのクーデター・騎士派の叛乱の話ですね。その時点まででの世界観や設定は、ウィキペディアなどで見ても、かなり複雑で壮大なものに見えます。
ですが、アニメを見てみると非常に分かりやすい。ライトノベル原作の特徴がよく出ているように思います。人間や世界をどうするかを考える組織やら、国家やらが策謀し、争っているにも関わらず、分かりにくさに戸惑うことがない感じです。
なんでだろうと考えると、メインキャラの分かりやすさではないかと思います。原作のある時期以降は、主人公・上条当麻の一人称から外れることが多く、他の(そのエピソード、シーンでの)メインキャラ視点も多くなりますが、上条当麻と同様の特徴を持っているように思います。
その特徴とは「卑近」であること。上条当麻ですと、持っている異能(幻想殺し:イマジンブレイカー)からして、手の届く範囲で有効です。勢い、上条当麻の活躍は手の届く、直に目に見える範囲でのことになります。加えて、上条当麻はあまりややこしいことを考えない。平和な日常、で充分な勝利条件と考えている節があります。
ややこしそうなことは、アレイスターなどが考えていそうなわけですが、ときどき出て来て不思議なことを呟くくらいですよね。たまにしか出てこないキャラだと具体的にドラマを動かすことがなく、分からなくても問題ないから気にならない。単に、まだ何か裏とか深い先があるんだなくらいの印象作りだけで問題ない。
主要キャラが何をやっているかといえば、世界を理解して動かす、なんてことではなく、個々のキャラとの戦いとか和解とかです。重大な事態が発生し、影響が世界に及ぶことは示唆されてるんだけど、カギを握るのは主要敵キャラ数名と重要アイテムのいくつかに集約してあったりします。
だから上条当麻や主要キャラは全体を知らないまま、そういう点を追って行って、線を描くように物語を進めていける。だから作中キャラにとって分かりにくくならない。コンピュータRPGをプレイみたいな感覚でOKになっています。これは、読者・視聴者にも分かりやすくなります。感情移入先の主要キャラが限定した情報で、見えている範囲で活動するわけですから、読者・視聴者も膨大な情報や思考、感情を意識しなくて済む。
攻殻機動隊ですと、草薙素子からして幼少時から義体なわけで、作中で重要になることをかなり熟知しています。ややこしい世界の仕組みとか、その世界による人間への影響とか、何が人間を動かしているかという外部条件。また人間(特に意識)はどういうもので、だから世界に対してこうなっているとかの内部条件。人間と外界、あるいは現実と虚構の境界はどうなってるんだとかの境界条件。
そういうキャラに感情移入しようとすると、おのずと深く考えないと付いて行けないことになります。それが面白くできたから、「すべては虚構」といった作風をお持ちの押井守さんが独自の解釈を加えてアニメ化したりもしています(どうも原作より分かりにくくなっているような)。ファンの間で、草薙素子とはどういう存在か、なんて結論が出そうにないことを、あえて議論して楽しんだりするようになる。
仮に攻殻機動隊原作やアニメ版を、できるだけ忠実にノベライズしたとして、ライトノベルになるかどうか。おそらく、難しんじゃないかと思います。オリジナル要素を入れて(あるいは翻案物にして)、草薙素子の自称を「ボク」にしても、萌える振る舞いをさせても、ラッキースケベを入れても、軽くも分かりやすくもならない。草薙素子が複雑な状況を深く理解するキャラである限り、ライトにはなりそうもありません。
キャラクター重視の小説(ラノベ、ライト文芸、etc)である限り、世界(観)がヘビーであろうがなかろうが、キャラクターに感動のポイントがある以上、キャラクターがヘビーかライトかで、小説のイメージが決まるように思います。
攻殻機動隊の世界でも、もし上条当麻を放り込んだら、ラノベ的な活躍を見せてくれることになるはずです。上条当麻ならば、世界をどうこうしようとしている組織、人物よりも、偶然知り合った人の困りごとをなんとかしようと四苦八苦する。勝利条件は、みんなが普段通りの生活を送れること、くらいになる。結果、ラノベになる。
ですので、ヘビーな世界観でライトな主人公キャラを動かすと、高確率でラノベ的になるとは思います。言い換えると、キャラの持っている、欲している情報や思考の深さ次第ということになります。サブキャラだと、そのキャラの重要度(≒描かれる度合い・頻度)により、どの程度ライト寄りになるかが決まって来る。
ヘビーな物語でも道化役はいるもんでして、主人公や物語に関わることが浅ければ、重い話の息抜き役になるかもしれません。それはそれで、創作として成功ではあるわけで、キャラのライトさが世界観を壊しそうと感じたら、物語のテーマから遠ざけておけばいいと思います。そうすると息抜き役になれます。
ただ、「僕っ娘の持つクールでミステリアスな印象」のはちょっと気になります。特に「ミステリアス」ですね。分からない部分があるからこそのミステリアスであるわけで、それがヘビーな世界観の中で動くのなら、やはり読者に考えさせることになり、ライト(≒分かりやすさ)から遠ざかります。
お考えのキャラが主人公か重要サブキャラ(ヒロイン等)で、読者から見てもミステリアスならば、ラノベを狙わないほうがいいかもしれません。もし、周囲のキャラからはミステリアスだけど、周囲に知られていない面では分かりやすいのなら、ラノベにできると思います。
それでも、読者からもミステリアスで、かつラノベ狙いにしておく方法がないわけではありません。「分かりやすい」って、本当に分かる必要まではなかったりします。分かった気がすればいいんです。お考えのボクっ娘が分かりやすく、親しみやすい属性を持っていれば、分かった気にさせるのは(簡単とはいいませんが)可能です。例えば「やたら猫になつかれる」、「コンビニのある銘柄のシュークリームが異様に好きで、隠れて常食している」などですね。
なお、キャラクターより世界(観)を見せるのが、例えば大河小説などにはあります。キャラクターを通して世界を浮かび上がらせるといった、世界観提示を狙うのなら、キャラがどうであれ、ラノベにはしにくいんじゃないかと思います。キャラが分かったって、そこが感動ポイントではないわけですので、キャラの知らない、分からないことを読者が把握せざるを得ません。ラストでようやく全体が見えて、感動できるタイプの物語ともなり、いずれにしても軽いノリでは読めるようにするのは、かなり難しいだろうと思います。