追記
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小説の視点についての返信(元記事)
◎主人公は知っていて、読者には知らせない重要な情報がある。
この状態を作ることはショートショートなら可能で、いわゆるミスリードものは大抵そういう形になります。
しかし、長編の場合は認識ギャップ状態を長く持続させなければならないので、だんだん主人公の言動が不自然に見えてしまうリスクがあります。
くわえて一人称の場合は、「一人称の語り手は読者に嘘をついてはならない」という暗黙のルールがあります。例えば殺人犯を主人公にした一人称小説では、当然彼は世間や警察には自分が犯人であることを隠しますが、読者にはすべて正直に語りますよね? 読者もそういうものだと思って読んでいるので、後になって「実は俺が犯人だったんだ」と言われると、「それはズルいんじゃない?」となります。
嘘はつかず、重要な情報をわざとぼかしたり飛ばしたりする書き方も有るにはありますが、それでも「作者都合で文章を操作したのではないか? それはアンフェアだ」という疑念を読者に持たれてしまうおそれはあります。
*外国ミステリの有名な古典に、実はこれを見事に逆手に取った名作があります。やればできるんだなあ、という好例ですが、ネタバレになるのでタイトルは書けません。
* * *
重要な問題点は、ほぼ以上に集約されると思います。
逆に言うと、上記の問題をクリアする工夫さえできればよいということになります。
以下は、あくまで例として。サタンさんが仰っているように、物語の性格によって可能だったり無理があったりします。
1)その「真相」をめぐって、主人公が強いトラウマを抱いている。
これは、読者に嘘をついているのではなく、心理的な抵抗があって無意識にそこに触れるのを避けてしまうんですね。
極端なケースでは、主人公は殺人事件の真犯人なんだけれど忘れてしまっている、など。そこまでやると必然的にサイコなストーリーになってしまいますが。
2)作者が文章を操作して読者を騙していることは明白なのだけれど、騙し方が鮮やかなため批判されず、むしろ作品の長所になる。
そもそもミスリード、叙述トリックというのは、そういうものです。繰り返しますが、この手法はショートショートなら比較的容易、尺が長くなるほどテクニックが必要になります。
* * *
いずれにしても、こういうことをあくまで主人公の一人称でやりたいという前提で考えるなら、けっこう難しいとは思いますよ。
重要な真相を知っているのになぜ伏せていたのかという疑問が生じやすく、主人公の行動の動機まで伏せなければならないという事態が生じてしまう場合もあり、感情移入もしにくくなります。
そのあたりを、どう処理するかがカギかと。
追記
投稿者 あまくさ 投稿日時: : 1
あるいは。
まったく違う一例として、少し前にアニメ化された、最強チートなのに慎重すぎる勇者がなんとかかんとか、みたいなタイトルの作品がありました。
このストーリーは、勇者が極端に慎重な性格になった理由が前世にあるんですね。ただ、視点キャラは勇者を召喚したオッチョコチョイ女神で、勇者の超慎重ぶりに振り回されるという展開でした。それがギャグにもなり、興味を引かれる疑問にもなるという形。
また、たしか勇者の前世の秘密に実は女神も係わっていたことが最後に分かるのですが、前世のことなので記憶がないという。
あのストーリーは女神と勇者のダブル主人公という感じでしたが、その二人に係わる重要な秘密が思いっきり隠されているのに、見事なまでにアンフェア感なんてありませんでした。そういう自由奔放な使い勝手の良さが、異世界転生モノが流行した要因の一つなのでしょう。
御作はファンタジーということなので、参考になるかもしれません。