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新人賞応募の際の序盤の展開についての返信(元記事)

どうもご質問の3つのポイントにダイレクトに回答するのが難しく、お示しの構想についてこう思ったということを申し上げてみます。勝手に推測した部分も多く、もし「いや、そういう話ではない」ということでしたら、お聞き流してくださると幸いです。

1.冒頭での母親の死は重みを与えにくい

冒頭のツカミとしては、主人公の唯一の理解者である母親の死を持ってくるというのは悪くありません。確かに誰にもショッキングと分かる出来事です。ですが、長編の冒頭で常に考えないといけないのは、読者の感情移入の程度です。主人公の母親はもちろんのこと、主人公ですら読者にとっては赤の他人です。

しかも、母親は死んでしまうということは、動くキャラとしては物語から退場です。もう母親自身がドラマを動かしたりすることはない。読者としては考えなくていいキャラとなります。主人公の記憶にある母親のみとなります。重みを持たせるのがなかなか難しそうに思えます。繰り返しますが、たとえ死でも赤の他人の死だからです。

2.母親が序盤で死ぬ有名作事例

つい先日亡くなられた漫画家のジョージ秋山さんの有名作、といっても70年代のものですが「銭ゲバ」という作品があります。主人公は生まれ落ちたときに既に誰の目にもあまりにも醜い子だったため、差別意識丸出し(でも当時はそれが通例だったらしい)の人々、父親までもが疎んじ虐げた。唯一、母親だけは優しく接し、愛してくれた。その母親が金がなかったばかりに死んでしまう。以降、主人公は金に執着し、あくどく歪んでいく。

「銭ゲバ」では母親の死までに、相当量の主人公への迫害が描かれます。その間、母親だけが唯一の希望となっています(母親を通じて主人公への感情移入も起こる)。そうしておいて、その母親を(わずかばかりの金が不足しただけで)退場させる。そうしたからこそ、主人公のその後の無道ぶりが際立つとともに、読者も納得できるわけです。

ただ、読むのは辛いものとなります。ジョージ秋山さんは同時期に「アシュラ」という問題作も描いてまして(室町時代の設定)、こちらは第1話から飢えた母親が我が子を食う、なんてシーンがあります。どちらも作者としてはかなりの冒険ですが、ジョージ秋山さんの知名度、人気、出版社の支持・支援などで連載が続けられたようです。

3.序盤ではキャラは読者には赤の他人で軽い

スレ主さんの構想でも、主人公の大事な母親の死でインパクトを与えようというわけですね。ですが、主人公が(長期計画の)かたき討ちを志すのを読者が納得するだけの重みを与えようとすれば、事前に母親をきちんと描写しておく必要が生じます。すると「銭ゲバ」のように重い話を冒頭から続ける必要性が出てしまう。ツカミになるほどのものを作ろうとすればするほど、嫌悪感漂う描写が続いてしまうわけです。

その先が面白くなると確信できないと、なかなか読み続けられない展開となります。作者が誰かを評価基準にしない公募や、たとえネット公開だとしても我々無名の者としては不利な戦略です。掌編ならそれでも読んでくれるかもしれませんが、かなりの読書時間を費やす長編では途中で読むのをやめられてしまう危険性が高そうです。

繰り返すようで恐縮ですが、我々無名の作家志望者が冒頭で示すキャラは、主人公含めて、読者には赤の他人です。どんな設定を付そうが、最初は読者の興味がゼロだということは覚悟する必要があります。

4.読者にはまだ重みがないキャラの扱い

しかし、設定や話の運びを少し変えれば、リスクを下げることは可能です。例えば、母親が死ぬのではなく、拉致されてしまうとしたらどうでしょうか。主人公に海賊を追わせやすくなります。母親の印象を非常に強める必要性も下がります。
(例えばですが、主人公がようやく母親にたどり着いたら、既に死んでいた、というのは中盤辺りならアリの展開。そこから主人公は殺害犯をヒロインと疑い、いやそうではなさそうとしておいて、やっぱりヒロインが犯人だが事情があって、と二転三転させていったりする。)

あるいは、物語開始時点を「主人公は奴隷となり、海賊の中にいた一人の少女(ヒロイン)の所有物となる」の後か、「主人公は少女と修羅場を共にする」ところから始める。主人公は奴隷としてヒロインに従いつつも、ちらちら反抗的な態度を示しますよね。主人公の態度の理由を徐々に明かすなら、母親の死からかたき討ちの決意までを重みを持たせて語ることも可能です。

何度も繰り返して恐縮ですが、我々無名作家志望者は読者からしたら赤の他人です。その我々が語る主人公などのキャラも読者には赤の他人です。赤の他人が語り始めた赤の他人の物語に耳を傾けてくれるよう工夫しなければなりません。しかも、文字通りの絵空事です。目を引くだけでは不足で、気持ちも惹きつける必要があります。不快描写でそれを為すのは相当の高等テクニックか、作者の知名度が必要と割り切るべきかと思います。

それに対し、燃える/萌えるものがあるとか、好奇心を刺激するとか、読者も欲しいと思うようなものを主人公が追い求めるとかなら、冒頭のツカミを作りやすいように思います。

5.冒頭のテンプレの是非

テンプレは多用されてきたからこそテンプレと呼ばれるわけです。なぜ多用されるかといえば、受けやすいから。それが発展するとジャンルにもなっていき、長く使われるならセオリーと呼ばれるようにもなります。ジャンルも長く保てば王道ともなります。

テンプレは単独でも読者のツボを突きやすい性質、構造をしていると考えてよいと思いますが、それ以外にも受けやすい理由があります。多用されているからこそのテンプレであるわけですが、言い換えれば、そのテンプレを使った人気作が多数あるということでもある。

例えば「剣と魔法の世界で、主人公が邪悪な魔法使いや狂暴なドラゴンと戦う」と要約できる作品は多々あるはずです。読者(や視聴者、観客)が、そのパターンだと認識すれば、過去の鑑賞経験による刺激が出てきます。

つまり、読者としてもいろいろな作品でそのテンプレで感動したことがあるわけですよね。そういう経験が積み重なると、そのテンプレが出た途端、過去の感動が甦るという効用が出てきます。つまり、作者側のメリットとしては、テンプレを使えば過去の名作の力を借りることができるわけです。テンプレが持っているものは描かなくていい。これは読者の読む手間を省いて負担を減らすことにもなります。つまり読み進めやすい。

6.主人公の動機はテンプレに頼るべきではない

ただし、テンプレ臭などの批判としてもよく言われます。これは使い方が悪い以外のなにものでもありません。スレ主さんの構想で言えば「優しかった母親が殺害された→かたき討ち」の部分が、そうなってしまう危険性が高い。

「優しかった母親が殺されたら恨んで当然だろ」というテンプレになるわけですが、主人公の動機付けにテンプレは使うべきではありません。主人公(だけではなくメインキャラ全員が)はオリジナルでないと、読者を惹きつけにくいのです。

冒頭~序盤における主人公の行動、言動を発生させる動機はきちんと描かれていないと感情移入をしにくいのです。しかしスレ主さんの構想では、その主人公の動機をきちんと印象付けるには、冒頭が不愉快な展開が続くしかなさそうで、不利であるわけです。ですので、失った悲しみ→怒り、よりは、奪われた→追う、とか、物語の開始時点をずらせるとかしたほうがいいかもと申し上げてみました。

7.多指症・吃音等、現実を設定に採用するのはハイリスク

指が1本多いというのは、他の方かも注意喚起がありますが、現実にある症状です。他に、例えば腕が極端に短いという症例もあります。吃音も現実にある症状です。会話に支障となる症状に、場面緘黙もあります。現実にある疾病、症状、特徴などをフィクション作品に登場させるのは、かなりの注意を要します。

よほどに詳しくないと描写が現実から乖離し、多少知っている人からも激しく非難されることは容易に予想できます。公募であれば、そんなリスキーな作品は選外とされやすくなるでしょう。
(字数制限により続く)

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投稿者 手塚満 投稿日時: : 1

(No: 13の続き)

8.フィクションでは仮想のものに置き換えることが多い

ですから、フィクション作品では架空の症状、疾病などを登場させます。漫画「からくりサーカス」(藤田和日郎著)では「ゾナハ病」という設定があります。初期症状としては、他人を笑わせないと苦痛が生じるという奇妙なものです。現実のどんな疾病、症状とも似ていません。不特定多数に供する作品として、読者の誰も自分に似たような症状があると思って不快にならないよう、計算してあるわけです。

かつ「ゾナハ病」は話が進むにつれて謎と解明が深まり、ラストに深く結びつく設定でもあります。単にキャラを動かすためだけのツール的な設定ではない。つまり「チェーホフの銃」(観客/読者に銃を見せたら、その銃は使われなければならない)の使い方をされているわけです。

多指症や吃音を主人公に与えたのなら、もしそれで大多数に嫌われるという便利設定(←あえてこう申しておきます)にしてしまうならリスキーです。その特徴はドラマの解決のために使われる必要があります。しかしその特徴の扱いは難しい。

ですので、フィクションでよく使われる、仮想のものに置き換える手法を使ったほうが無難だろうと思います。例えば「指が1本多い」を「見えない指が1本ある」にしておくとか。主人公が小さい頃、主人公の手の近くにあるものを見えない指で動かして遊んだりしますと、周囲は不気味に思うはずです。それで迫害される。が、その見えない指を駆使して危機を脱するシーンを作る、とする手も考えらえます。

吃音も主人公に対する仮の障害として、例えばヒロインと心から和解したら吃音がなくなった、なんてやらかすと、おそらく非難する向きも出てくると思われます。吃音に限らず、障がいを何かの罰とか、呪いとか、不幸の象徴等々に使うのは、当事者としては不本意でしょうし、そういう当事者の知人、友人も受け入れがたいでしょう。

何より安易であることが問題です。こういう状況なら困るだろう、それを脱したら幸せだろう、というものですから。吃音なら吃音のままで主人公が目的達成すべきですし、主人公はそういう自分を誇りに思うようでないと、長丁場を読んできた読者としても共感はできません。

これが敵役/悪役が「主人公を殺すまでもないとは思うが、自分たちに敵対したり、不利な証言をされるのを防ぐため、呪術的に喋れなくした」のなら、例えばヒロインとの和解が呪いを説く条件だった、みたいな展開でも不快に思われるリスクは下がります。作中の悪役の作為で、現実にはないものなら描写の自由度が高いのは、過去の人気作でも証明されています。

9.作者として辛い方向のほうが実はやりやすい

「実は母親を殺したのは少女では無かった」についてなんですが、お示しの構想でこれが特に気になりまして。これをもし、主人公とヒロインの葛藤のドラマ解決にストレートに使うと、まずそうです。母親を殺してなかったと分かったのでヒロインに対する恨みもたちまち解消、だとしたら、たぶんがっかりする展開です。ドラマの解決ではなく解消になってしまいますから。

たぶんですが、お示しの構想を私が書いてみようとすると、たぶん自分もヒロインが殺してなかった、としたくなるだろうと思います。主人公と深く結びつく予定のヒロインだと、あまり傷を作りたくないという自然な人情です。

ですが、作者が気持ちいいのは読者には無関係です。むしろ、作者が書いていて楽しいとか、避けたいと思うことは、読者には正反対の感情を呼び起こしがちです。作者として安易だからです。作者として好きなキャラへのえこひいきと言い換えてもいいでしょう。作品世界の神がフェアでなかったら、読者に見抜かれます。

やはり、ヒロインが母親を殺害したとしておくのが無難かと思います。いったんヒロインが真犯人と明らかになり、主人公が憎む展開のほうがやりやすいでしょう。そして殺害後のヒロインが密かに悔いていたとか、事情があったとかでひっくり返す。例えば、確かにヒロインが母親を剣で刺し殺したけれど、実は母親が背後に隠した主人公を他の海賊に見つけられないためだった、とか。

もしヒロインが真犯人でないとする展開なら、母親を殺そうとした仲間の海賊を止めようとしたんだけど、主人公にはヒロインが促したように見えた、とかでしょうか。その後、ヒロインは密かに悔いていて、主人公がヒロインの奴隷となったとき、知らない奴だと振舞ったけれど、実際には「あのときの男の子だ」と認識していた、とか(この場合、ヒロインが表面上は主人公につらく当たるも、危機に陥れば救うという展開が入れやすかったりする)。

10.余談的に「少女」の数年前の母親殺害について

細かいことですがちょっと奇妙に感じたもので最後に少しだけ。主人公がかたき討ちに来るのが数年後で、その時点でも少女としまして、ヒロインはまだ10代、例えば17歳だとします。高校生くらいですね。その数年前だと中学生、どうかすると小学生くらい。

それで母親を殺害することができるのはちょっと不自然な感じがします。主人公が「かたきはこいつだ」と思うようなことをやらかしたはずですよね。その主人公がかたき討ち時に青年とすると、ヒロインより年長でしょうか。

もしそうならですが、主人公は海賊襲撃~母親殺害時に何をしてたんだ、年下の女の子に母親を目の前で殺されたとしたら、ちょっと情けなくないか、とも思えます。主人公は数年で船を率いるまでの力を持つわけですよね。だとすると、海賊襲撃時でもそれなりに力があるはず。

これは詳細をお伺いしてませんので、もしかしたら整合性ある描写になるのかもしれませんが、粗い設定案としては気になりましたので、申し上げてみることにしました。

(終

カテゴリー : ストーリー スレッド: 新人賞応募の際の序盤の展開について

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