小説の書き方講座「主人公を褒める!」ジャンルを問わず人気を出す秘訣

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どんなジャンルの小説でも使える人気を出す方法「主人公をベタ褒めする!」

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なろう系ラノベの人気の秘密は主人公が「すごい!すごい!」と褒められること

なろう系ラノベの特徴の1つは、主人公のことを仲間や配下が「すごい!すごい!」と、ことあるごとに褒めてくれることです。

読者は主人公になりきって物語を楽しみます。「主人公=読者」であるため、主人公を賞賛すれば、読者は心地よい気分になれます。

現代人が小説に求めるおもしろさの1つに、この「賞賛してもらえる心地よさ」があります。自分は価値ある存在なのだと認識する承認欲求の充足こそ、老若男女問わず、現代人が最も求めているものだからです。

例えば、大ヒットラノベ「転生したらスライムだった件」 (2014/5 刊行)は、「強い支配者となって自分を尊敬してくれる配下や仲間から、すごい!すごい!と褒められる」ことを通して、読者の承認欲求を満たすという価値を提供しています。

その証拠に、この小説では、主人公のリーダーとしての苦悩は、まったく描かれていません。
それは支配者となって尊敬される快感を壊しかねない、真逆の要素だからです。

おじいちゃんも褒められたい。時代小説の書き方

主人公を褒めるのが有効なのは、時代小説でも同じです。
時代小説は高齢者向けの小説ですが、ライトノベルとの共通点が多く、おじいちゃんラノベと言われることもあります。

「江戸の雷神」(2018/11 刊行)という時代小説を例にあげてみます。

主人公は剣の達人で、火盗改の頭です。今で言う警察署長ですね。
町民や配下から慕われており「江戸の雷神」と呼ばれています。
必殺技は「秘剣。土竜(もぐら)」。

主人公は自分の命を狙う強敵から、
「うぬは強いな」
「歴代の火盗改の頭で最も強いのではないか」
「こんなときでなければ、俺はうぬに惚れたかもしれぬ」
などと、べた褒めされます。

現実では、死闘の最中、またはこれから剣を交える前に敵からこんなことを言われることは、まずあり得ないと思いますが、このように褒められるということは、それが読者の求めているものだからです。

また、主人公は配下や目下の者からは尊敬され、ことあるごとに褒められます。以下のセリフは、p213からの引用です。

「それがしは火盗改のお頭を務められたお方を何人も存じておりますが、これまで伊香さまのようなお方は一人もおられませんでした。このようなときは、では俺たちが賊を捕らえてやろうと、前に出られるお方ばかりでしたので……」

つまり、おじいちゃんも褒められたいのです。

ハリー・ポッターの人気の秘密。世界中の子供は褒められたい!

世界で5億部以上売れたJ・K・ローリングのハリー・ポッターシリーズの第1巻『ハリー・ポッターと賢者の石』(1997年英語版刊行)を例にあげて解説します。

1997年にイギリスで刊行された児童文学ですが、なろう系ラノベかと思うほど、主人公をもちあげて褒めちぎっています。

物語の冒頭で、魔法の世界を恐怖におとしいれた闇の魔法使いヴォルデモートによって、主人公ハリー・ポッターの両親が殺されるも、まだ赤ん坊だったハリーにヴォルデモートの力はなぜか通用せず、ハリーの額に稲妻型の傷をつけるだけで退散したエピソードが語られます。

このことによって、ハリー・ポッターは赤ん坊であるにも関わらず、魔法世界の救世主として超有名になります。

ハリーは有名になりすぎて、魔法世界で育つと教育に悪いので、物心つくまでは、ふつうの家で暮らした方が良いという理由で、魔法とは無縁の叔父夫婦に預けられます。
このことについて、魔法使いのマクゴナガルは以下のようなセリフで反対します。

「連中は絶対にあの子のことを理解しやしません! あの子は有名人です――伝説の人です―今日のこの日が、いつかハリー・ポッター記念日になるかもしれない――ハリーに関する本が書かれるでしょう――私たちの世界でハリーの名を知らない子供は一人もいなくなるでしょう!」

このように、極端なほど主人公をもちあげて褒めちぎっています。

ハリー・ポッターは叔父夫婦の家で虐待に近い扱いを受けますが、成長して魔法学校に入学する段階になると、魔法世界の救世主として、褒められて褒められて褒められまくる! 非常に気持ちがいい環境に置かれることになります。

つまり、世界中の子供も褒められたいのです。

文芸、キャラ文芸の読者も褒められたい!

次に累計260万部突破の大ヒット小説『君の膵臓をたべたい』(2015/6 刊行)を例にあげます。

これはキャラ文芸、あるいは文芸に分類される恋愛小説です。

あらすじは、ヒロインが膵臓の病気で死ぬことが冒頭で示されます。
主人公は、ヒロインが秘密にしていた膵臓の病気のことを知ってしまい、そのことで、クラスの人気者であるヒロインの遊びに強引に付き合わされるという内容です。

「君の膵臓をたべたい」とは、ヒロインなりの主人公への遠回しな愛の告白です。
最初は、このように回りくどい好意の示し方をしていましたが、どんどんヒロインの主人公好き好き大好きアピールが加速し、露骨になっていきます!

「そうだよ。その子はね、どうやら一般的に見て外見も可愛かったみたいで、クラスにいた明るくてかっこいい人気者な男の子が持って行っちゃった」
「へえ、人を見る目がないね」
「どういう意味?」
引用:『君の膵臓をたべたい』p68

これは主人公が、ヒロインから「好きな子はいたの?」と質問された際のやりとりです。

主人公の失恋に対して、ヒロインは「相手の子は人を見る目がない」と、あからさまに主人公に好意を伝え、褒めています。
(好意を伝えられるのは最高の賞賛)

それに対して、主人公はヒロインの好意に気づかないような、とぼけた返答をします。
こういったやりとりが繰り返されます。

ダメな受け身主人公が人気者の美少女に強引に誘われて遊ぶというのは、涼宮ハルヒ的な学園物ラノベのテンプレート。
最初から、ヒロインが理由もなく主人公が大好きで、彼を全肯定するのは、ラノベヒロインのテンプレートです。

どちらもラノベが読者の承認欲求を満たすために作り出したテンプレであり、これを文芸に持ち込んでいます。

文芸読者も、人気者の美少女のような価値ある存在から「褒められて承認されたい!」という願望を持っているということです。

ラノベ、キャラ文芸、時代小説、海外児童文学。ジャンルを問わず、主人公を他の登場人物が褒めて肯定するのは、人気を出すための有効な方法と言えるでしょう。

恥ずかしがらずに思いっきり主人公を褒めましょう!

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