ヒット小説の分析「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」

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2015年8月に刊行されアニメ化されたヒット作品です。
女性向けラノベでは、久しくなかったアニメ化作品として話題になりました。
なぜヒットしたのか分析したことを紹介します。

自分が悪役令嬢なので、悪役令嬢からいじめられることはありません。 王子からはおてんばで他にはいない魅力的な娘だと思われて好かれます。

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ログライン。ストーリーを一言で紹介

ログラインとは、ストーリーを一言で表したものです。優れた作品はログラインが優れています。

主人公は前世の記憶を思い出し、ここが自分が死ぬ前にプレイしていた乙女ゲームの世界であること、このままだと自分は婚約者の王子に殺されるか、犯罪者として国外追放されるしかないことに気づき、未来を変えるために行動する。

ヒットの理由。キャラクターのポイント

主人公は公爵の娘カタリナという立場に転生しますが、性格は、王子と木登り対決をする、王子に蛇を投げつけるなど、お姫様にふさわしくないおてんば娘です。

これは「キャンディ・キャンディ」、「足長おじさん」など、女性向け物語の王道的なヒロインの性格です。

しかし、自分が悪役令嬢という立場なので、悪役令嬢からいじめられることはありません。それでいて、王子からは、行動が読めない他にはいない魅力的な娘だと思われて好かれるので、王道ヒロインと悪役令嬢のいいとこ取りをしていると考えられます。

(悪役令嬢の良いところは「公爵令嬢という立場の強さ」。綺麗なドレスを着れて、華やかな屋敷で暮らし、最初からみんなから大事にされるところ)

カタリナ様は、他の令嬢や男性たちのコンプレックスを持ち前の明るさで解決し、好かれていきます。どんどん仲間が増えていくプラスを積み重ねるおもしろさがあります。これはONE PIECEなど、少年ジャンプのおもしろさに通じるところがあると思います。

悪役令嬢からいじめられるというストレスから解放されながら、正統派ヒロインのおいしさも手に入れています。

カタリナ様は、魔法が苦手、バカで自分の欲望に忠実といった、読者に共感してもらえる欠点や隙となるポイントが多いです。

おそらく女性読者には、男女問わず他人から「愛されたい」願望があり、これを満たす物語であると考えられます。ヒロインのチート能力は、あるがままに振る舞っているのに関わらず、他人から愛されてしまう「ひとたらし」です。

カタリナ様(主人公)の侍女アンが作中で述べているように、女性は他人から気に入ってもらえるよう振る舞うことを教育されます。女性の願望として、あるがままに自由に生き、かつ他人から好かれたいという気持ちがあります。

カタリナ様は他人の目を気にせず行動し、その結果、王子や令嬢たちから絶大に好かれます。これは女性が思い描く、理想的な自分の姿であると考えられます。

ストーリー展開のポイント

主人公にとっては迷惑だが読者にとってはおいしいシチュエーションを作るのがラブコメの肝だと言われています。

また、女性向けラノベでウケる要素は昔から「姫、嫁、巫女」と言われており、お姫様になって、イケメンの王子や皇帝に嫁がされるというのは王道のパターンです。

女性読者は、イケメンの王子様から結婚して欲しいと言われたいのです。

しかし、王子と婚約すれば破滅の未来が待っているので、主人公にとっては危機的な状況です。

まさに、主人公にとっては迷惑ですが、読者にとってはおいしいシチュエーションを作り出しています。

また、主人公を危機的な状況に落としながらも、読者にストレスを与えない工夫をしています。

主人公は未来において破滅することが不可避ということが冒頭で示されますが、これを回避するための策をすぐに思いつき、仲間をどんどん増やして、一人で生きていくための農作業能力()も身につけるので、実は、破滅の未来が迫ってくるドキドキというのは、最初以外ではあまり感じられません。

中盤、魔法学園に入学して、ゲームの主人公マリアに会うところで、破滅をまた意識しますが、そのマリアでさえ、カタリナ様はたらしこんでしまいます。

なろう小説では、挫折は最初の一回だけで、あとはどんどんプラスを積み重ねていくのが王道です。

この王道を守り、読者にストレスを与えないストーリー構造になっています。

(破滅がはるか先にあり、これを回避できることが予感できている)

(なろう読者は、ドキドキ、ハラハラをあまり求めていない)

設定、世界観のポイント

・「シュタインズ・ゲート」のようなタイムスリップ物に近い印象を受けました。主人公は自分が破滅する未来を知っている。それを回避するために行動する、というのは転生というより、従来のタイムスリップ物に近い感じがします。

・タイムスリップ物を、より現代の読者に受けるように改変したのが、悪役令嬢テンプレだと考えられます。

シュタインズ・ゲートのように何度繰り返しても破滅の未来がやってきてしまうというストレスフルな物語ではなく、思うがままに振る舞いながら、大勢の人たちから好かれ、貴族令嬢としての人生を満喫できます。まさに「なろう」。

その他。ヒットの理由分析

・外見に気を使わない間抜けなオタク女子高生という主人公の最初の設定が共感を呼びます。木登りが得意で活動的な性格とゲーム廃人の設定が若干、合わないような印象を受けますが、共感ポイントが高いので、それほど気になりません。

・また、トイレに行きたいのを我慢して言い放ったセリフや、お菓子が食べたいだけで行動した結果が、正義感から来た堂々とした態度だと受け取られるなど、主人公のトホホな性格から来る言動が、やさしく威厳あるお姫様だと良い方向に誤解され、信奉者を増やします。

これは大ヒット作オーバーロードと同じ、「読者の共感を誘い、かつ読者の承認欲求を満たせる」優れた構造です。

古くは漫画「エンジェル伝説」で使われていた手法。(心の優しい天使のような少年が外見が悪魔のように怖いので誤解され、不良のボスとして君臨する)

冒頭5話までで読者をつかんでいる秘訣

・主人公の間抜けさ。徹夜でゲームして慌てて学校に行って、事故で死ぬという点が、まず共感を誘います。次に、すぐに王子から婚約して欲しいと言われるところ。乙女の夢をすぐに叶えている、最初に大きな快感を作り出している点が優れていると思います。

同時に主人公が大きな危機に直面していることがわかりますが、大きな快感とセットになっているので、ストレスが緩和され、嫌な感じを受けないようになっています。

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