自分が感情移入できないと物語も書けない?の返信
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自分が感情移入できないと物語も書けない?(元記事)
とあるテレビの特番で、「ONE PIECE」の作者尾田栄一郎さんがこう言っていました。
「泣くシーンを書く場合、自分が泣けないと読者も泣かすことができない」
これって、小説でも同じことが言えるのでしょうか?
自分が感動したと思う場面
自分が胸熱と思うバトルシーン
自分が笑えると思うやり取り
自分の心に突き刺さる台詞
等等
そうやって、自分の心が動くシチュエーションを小説に書いていってこそ、読者の心を動かしたり笑わせたりするのでしょうか?
とはいえ、自分の価値観や感性が読者と同じなのかと聞かれると、なんおとも言えませんが......
よろしくお願いします
自分が感情移入できないと物語も書けない?の返信
投稿者 手塚満 投稿日時: : 0
そのレベルの原則論ですと、小説もコミックも同じでしょう(さらにアニメでも実写でも)。以下も「フィクションの創作ではどうか」ということにしまして、小説か否かは特に区別しないことにします。
結論を先に申せば、「そんなことを言う人もいる」レベルで受け取り、今は気にしないほうがいい、ということになります。以下、少し説明してみます。
0.面倒くさい余談(飛ばして大丈夫)
そのことの説明の前に、ご質問文で気になる点を少し。
> 自分の価値観や感性が読者と同じなのかと聞かれると
「読者」と十把一絡げに考える、あるいは代表的、平均的な読者みたいな捉え方をするのであれば、危険です。これは「読者の心を動かしたり笑わせたり」も同様です。読者個々人の好み、価値観、それらを形成する人生経験等は多様です。
ですので、ある読者が大好きな作品、シーン、題材等は、別のある読者は大嫌い、なんて普通です。小説は作者1人に読者複数です。ある読者はスレ主さんと好みが似ているでしょうし、別の読者は正反対だったりするでしょう。漫然と「自分と読者」みたいな対比をするのは危険です。
1.感動したまま書くと独りよがりになりがち
面倒くさい前置きをお詫びしまして、ご質問について。結論から申せば、
> 尾田栄一郎さんがこう言っていました。
> 「泣くシーンを書く場合、自分が泣けないと読者も泣かすことができない」
については、尾田さんがそうしている、という尾田さん個人の方法論だと割り切るべきです。参考にしてもいい。しかし我々作家志望者全般に対する基本的なアドバイスと捉えるべきではありません。
尾田さんの言を少し具体的なイメージにしてみます。主人公が泣くとして、自分(作者)としてはアホ臭すぎて泣くに泣けないシーン、台詞にしかならないとしたら、確かに読者を泣かせることは難しいでしょう。「なぜこれで泣けるか分からない」ようでは、泣ける要素があるはずがない。
では、構成を工夫し、シーンや台詞を練りに練って、自分も感動して泣くほどとなり、涙しながら書いて行ったら、読者も泣いてくれるか。残念ながら非常にリスキーだと思います。感動してしまっているからです。言い換えれば感情が高ぶっている。そういうときは自分を疑えなくなります。
つまり、感動しちゃうと感動しない可能性を考えられなくなる、気づけなくなるんですね。そのため独善的となり他人に伝わらないものになります。興奮している人の話って、その人に何か大きなことがあったと察せはしても、何があったかは分かりにくいものです。だから「まず落ち着け。何があったんだ?」みたいなテンプレなことを言わねばならなかったりします。
2.感動ではなく感動した経験で書く
感動しても、他の人に伝えたいなら落ち着かないといけないわけですね。その意味で尾田さんの言を自分なりに言い換えるなら、
「泣くシーンを書く場合、自分が前に泣いたことがあるものでないと、読者も泣かすことができない」
となりましょうか。もう少し具体的に申せば、
1. 自分(作者が)泣くほど感動する。
2. 感動したことを反芻しつつ、感動の感情が鎮まるのを待つ。
3. それでも感動したことを飽きるまで反芻する。
4. 感動はなくなり、感動した記憶のみ残ったら、それを元にどう伝えるか考える。
くらいの段取りになります。「前にこれで泣いたけど、今となっては飽きてアホ臭い」くらいになってから、ようやく作品に取り入れられるということです。
3.断片的な言辞から学ぶのはリスキー
ご質問からは副次的なことになりますが、有名作家がテレビ番組(特にバラエティ系)で言ったことを、そのまま受け取るのは危険です。なぜなら、
1. 相手は天才的かトップレベルの熟練者なので我々には真似すら難しい。
2. 視聴者を感動させるよう計算された話になってることが多い(たいてい台本あり)。
3. 個人的な経験談であり、その個人としても創作手法の断片でしかない。
等々があるからです。ある作家/創作指導者が1冊の本にまとめたことを、1冊まるごと一貫して系統的に受け取るなら、まだ大丈夫でしょう。しかし、断片的なものを分かったつもりになるのは危険です。断片的な説明でも大事な教示やヒントになるのは、上級者の世界です(なぜなら、その断片を取り巻けるものを、もう持っている人たちから)。
守破離でいえば、我々志望者は最初の「守」(たった1人の師、1つの流儀から学ぶ)ですよね。基本的なことで学ぶことが、まだまだたくさんある。あっちこっちから集めてきたバラバラの知識をまとめ上げる力はまだない。なにせ1つの流儀すら身に着いてないんですから。
ですので、あちこちで見聞きしたことに影響されるのは危険です。それができはじめるのが「破」(他の流儀、いろいろな上級者からも学ぶ)のレベルでしょう。お示しのような断片的なものですと、そろそろ「離」(自分の流儀を確立する)に行けそうな人でないと参考にはできなさそうです。
カテゴリー : ストーリー スレッド: 自分が感情移入できないと物語も書けない?