小説の書き方。なろうテンプレ分析『史上最強の大魔王、村人Aに転生する』

4.0
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テンプレを制する者はラノベを制する

人気のあるラノベを書くためには、人気作の研究が欠かせません。ここでは『史上最強の大魔王、村人Aに転生する』のヒット要因を詳しく分析します。

●ストーリーの概要

最強であるが故にボッチとなってしまった大魔王が村人に転生して、友達を作ることを目的とする。残念系美少女イリーナと仲良くなり、彼女を狙う魔族を倒して無双する話です。

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総評

まさに『テンプレを制する者はラノベを制する』

主人公の転生後の能力値は、古代世界の平均値であるというのは大ヒット作「私、能力は平均値でって言ったよね!」。

大魔道士の息子で、学園でいきなり教師陣よりすごいと言われるのは「賢者の孫」。

転生したら自分を神と崇める宗教ができており、自分に祈りを捧げなくてはならなくなるのは「魔王学院の不適合者」。

などなど、人気のなろう小説の要素をこれでもかとかき集めてミックスしています。

また、ラブコメ要素も入っており、この小説を一冊読んで分析すれば、なろうやラノベテンプレがほぼ理解できると思います。

優れたなろう小説は、キャラ、設定、ストーリー、そのすべての要素を主人公を活躍させて、周囲からすごいと言わせるため、読者の承認欲求を満たすために有機的に機能させています。そのお手本とも言える逸品です。

キャラはこうだから良いのかなポイント

主人公のアードは最強であるが故にボッチになってしまったという、憧れと共感を満たす最強テンプレです。

・出てくる登場人物がモブも含めて、みな変態でキャラが立っています。キャラクターの個性は極端にするのがコツ。
実力がある作者さんはすべてのキャラを立たせるといいますが、この方はこれができています。

・主人公のアードとヒロインのイリーナは、いじめられている子を助けるなど、善人として描かれています。そこが鼻につかないように、二人とも普段は、自分のことしか考えていないように描かれています。さらっと、自然に人助けをしている感覚です。

・イリーナは主人公が大好きです。彼女は天才ですが、主人公より実力が低く、娘か尻尾をふるワンコのような存在。主人公をヨイショするためのマウンティング要員としての役割と、邪神の生贄にされる王道ヒロインという大きな2つの役割を持っています。

・ヒロインのキャラを立たせるため、ヒロインの数を絞って少なくするべく、1人のヒロインに複数の役割を与えていると考えられます。イリーナは娘であり、友達であり、忠犬であり、教え子であり、恋人です。そのすべての役割が、主人公を承認するために使われています。すばらしい。

展開はこうこうこうだから良いのかなポイント

・主人公は魔物に襲われているエルフの美少女イリーナを無双して救ったことで、彼女から好かれて、友達となります。p14ページ。

早くも主人公の欲求を満たしてしまうという、美味しさを序盤に入れています。

・終盤では、イリーナは邪神の血を引いており忌み嫌われる存在。主人公は強すぎることで他者から恐怖されるので、お互いの絆が壊れるかも知れない、という危機感を示し、これをラスボスを倒すことで乗り越えるという手法で感動を与えています。

チープな俺すげぇーっ! と従来のラノベ型のボーイ・ミーツ・ガールを合体させた複合型ストーリーとなっているのが特徴です。

・ヒロイン二人と演劇鑑賞に行く回がすごいです。
まず、デートイベントで主人公がモテる快感を得ます。

次に主人公の前世の魔王の英雄譚を鑑賞することで、読者の承認欲求を満たし、魔王軍の配下たちリディアなどのキャラ紹介を行って、伏線にしています。
1巻のラスボスとなる狂龍王エルザードの紹介、世界観の紹介などもここで済ませています。

1つの場面に複数の意味を持たせる無駄のない上手い構成です。

・ヒロイン枠の1人のように登場した美少女講師のジェシカが、実は狂龍王エルザードだったという展開。このような仲間と思わせていたキャラが、実は敵というパターンは、王道作品でたまに見かけます。

名探偵コナンのようなミステリーでも、協力者が犯人という意外性を狙ったパターンは多いです。

ジェシカは講師ということで、主人公と必要以上に仲良くなりません。おそらく、ヒロインが裏切るような展開だと読者に嫌がられるため、メインヒロインだと勘違いされないように工夫しているのだと考えられます。

・魔族を討伐した報奨のために王城に呼ばれた主人公は、いきなり美人の女王から、褒美として「そなた、わらわの夫となれ」などと言われます。リアリティより、美味しさを優先させた方が、なろうではウケるのだと考えられます。

また、衝撃的な一言や展開をぶつけることで、場面を盛り上げるという狙いもあると考えられます。

設定、世界観はこうだから良いのかなポイント

ゲームっぽいノリの異世界ですが、神話や歴史には重厚感があります。

・うまく世界観を小出しにして重厚さを演出しています。

・軽いノリ。ダンジョンで【ブラック・ウルフを倒した!】など、メッセージが書かれた半透明な灰色の板が現れ、誰もこれを疑問に思わないなど。これによってゲームっぽさを演出しています。

・魔王の英雄譚を通して、重厚な歴史、神話体系も匂わせ、重厚な世界観が好きな人にもウケるように工夫しています。

その他ここはこうだから面白いのかなポイント

ラノベでエロはウケないという定説があります。

しかし、この作品はエロい。淫魔のサキュバス美少女が第2ヒロインとして登場。主人公をエロで誘惑します。
純情なイリーナと淫魔のサキュバスの二人をヒロインとして対比させることで、エロをあえて強調しています。

・イリーナが邪神の生贄に捧げられる場面では、エロゲーばりの触手怪物を出しており、かなりエロを煽っています。このエロ要素が差別化要因として機能しているのではないかと思われます。

エロを出す場合は、徹底的にエロに寄せたほうが良いという一例と言えるかも知れません。

作品に感じられる工夫(特に冒頭10話で、読者をつかんでいる秘訣)

・ラノベテンプレの集大成的な作品。作者の読書量の多さ、ラノベを研究し尽くしている様が伺えます。

・主人公は最強の魔王の生まれ変わりで、大魔道士の息子。ヒロインは英雄の娘と、周りからすごい、すごい、と言われるための舞台装置が完璧に整えられています。

正直、胸焼けするほどの数の主人公様すごいが序盤から繰り返されます。徹底していて、実に良いです。

・主人公は魔法学園の校長から、「キミは天才、怪物、いや神だ!」とまで言われる始末です。学園には友達を作るために入学しており、授業では、ふつうの生徒を演じようとしているのに教師以上の神話級の実力を発揮して、すげぇーっ! と言われます。

・主人公にとっては低レベルすぎることが、この世界の基準においては神クラスの異常レベルであり、すげぇーっ! と周りから驚かれ、畏怖、賞賛されるなろうテンプレをとにかく繰り返しています。

ウケる美味しい展開を繰り返す。
それがなろうのコツの1つです。

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