100年経っても変わらない読者を感動させる方法!

この記事は2015年7月11日にライトノベル作家のファーストさんが秋葉原で開いたラノベ勉強会『ライトノベル・オフ会@AKIBAPOP:DOJO7/11土』で、講義させていただいた内容です。ストーリーの作り方のヒント『読者の心を揺さぶるには?』を加筆修正したものです。

特定の感情を募らせておいてから、その対極となる感情をぶつける

物語で読者の心を揺さぶるには、特定の感情を募らせておいてから、その対極となる感情をぶつけることです。例えば、拒絶から受容、希望から絶望、不満から満足、安心から不安、破滅から栄光、などです。

例えば、人気漫画『進撃の巨人』(2010/3/17刊行)でも、このテクニックが活用されています。

登場人物のライナーは、自分より仲間を大事にする男で、仲間のコニーが巨人に襲われた時、右腕を負傷しながらも、命がけで彼を守ります。そんな姿に主人公エレンは、彼のような兵士になりたいという尊敬の念を抱いていました。
ところが、その直後のエピソードで、ライナーの正体は人類の宿敵である「鎧の巨人」であることが提示され、彼はエランをさらおうとします。そして、巨人を憎むエレンと激しく戦うことになります。

ライナーに対するプラスの感情、「仲間想いで良い奴」「尊敬できる男」という気持ちを募らせておいてから、「実は自分たちを殺そうとしていた裏切り者だった」「ずっと自分たちを騙していた」という事実を突きつけることによって、読者に大きな衝撃を与えているのです。

これによって、「ライナーって何なの?」という強い興味を読者に植え付け、物語に引き込むことに成功しています。

嬉しかった後に悲しい方が、より悲しい!

人間の心はゆらぐ波のような性質を持っています。
喜びのようなプラス方面でも怒りのようなマイナス方面でも良いので、特定の感情を抱くようなエピソードを提示し、そこから対局の感情に振れるようなエピソードを持ってくれると、プラスとマイナスの落差によって、心が大きく揺らぐのです。

ただ、うれしい、悲しいより、悲しかった後にうれしい、うれしかった後に悲しい方が、人間の心はより深くうれしさや悲しさを感じるようにできています。

他にも映画にもなった人気小説『悪の教典』(2010年7月30日刊行)を例にあげてみましょう。
主人公の蓮実 聖司(はすみせいじ)は、教育熱心で生徒想いの人気教師として登場します。彼は、悪徳教師に弱みを握られてセクハラを受けていた女子生徒を全力で守ったり、暴力問題を起こして辞職に追い込まれそうになっていた同僚の教師を救ったりする「良い人」としてのエピソードが上巻の前半において語られます。

しかし、彼の正体は、自分の都合の悪い人間を30人以上も裏で殺してきたという共感能力がまったく欠如したサイコパスでした。
蓮実は、自分を悩ますモンスターペアレントの家に放火して生徒の親を殺したり、自分に恋愛感情を抱いた女子生徒に手をだした挙句、彼女が自分の殺人の証拠を偶然知ってしまったため、自殺に見せかけて殺そうとしたりします。

この前半と後半とのギャップによって、蓮実という男の異常性が際立ち、いったいこの男は何なのか? なぜ守った生徒を邪魔だからという理由で罪悪感なく殺せるのか? という興味を掻き立てられて物語に引きこまれていくのです。

時代が変わっても通用する普遍的な心理!

この手法は、人間の不変の心理を利用したものなので、時代が経過しても通用するものです。その証拠に100年前に書かれた、文豪、芥川龍之介の短編小説『蜜柑』(1919年刊行)でも、使われています。

『蜜柑』のあらすじを簡単に説明します。
主人公の二等兵が横須賀線の汽車に乗ると、薄汚い格好をした娘が入って来ます。主人公は、その子を見て、嫌だなと思いました。彼女は汽車がトンネルに入る前に窓を開けて、車内を煤煙だけらにしてしまい、主人公は内心、非常に怒ります。
しかし、トンネルを抜けると、三人の幼い男の子たちが手を上げ、声を張り上げており、娘はその子たちに向かって、5つか6つくらいの蜜柑を投げます。
それを見て主人公は、おそらくこれから奉公先に上がろうとする娘が、自分を見送りに来た弟たちの労をねぎらうために蜜柑を投げたのだと知って、朗らかな気分になれた、というものです。

娘に対する「嫌な気分」を募らせておいてから、それとは対局の好感を与える「姉弟愛」が伝わるシーンを持ってくることによって、感動を与えているのです。

死亡フラグの構造

他にも例をあげてみましょう。

1・「この戦争が終わったら、彼女と結婚するんだ」と話す兵士は必ず死ぬ。
2・非道な悪役が正義や愛に目覚めると、悪の組織に裏切り者として殺される。
3・怪しい物音がしたので調べてみると、猫だった。「なんだ~」と、安心した直後に殺される。

以上のような物語に共通するパターンがあり、死亡フラグと呼ばれています。
この死亡フラグを分析すると、多くの場合、感情をプラスの極からマイナスの極へと、振っていることに気づくと思います。

1の場合は、「幸せな未来」を予感させておいて「破滅」へ。
2は、「わかりあえること」を予感させておいて、「破滅」へ。
3は、「安心」から「破滅」へ。

このように、プラスの極に持ち上げておいてから、不幸のどん底に突き落とすと、悲劇性が増し、読者は心を激しく揺さぶられるのです。

絶望を味あわせた後にこれを解消すると感動!

死亡フラグの逆、生還フラグでも同じテクニックが使われています。

崖から水底に主人公が突き落とされ、悪役が「……この高さでは助かるまい」などと言って去った場合、主人公はまず生きています。
これはまず助からない状況を作り出し、絶望を味あわせてから、実は生きていた、という喜びを与えることで、読者の心を揺さぶっているのです。

2014年10月に放送されたファンタジーロボットアニメ『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』では、この手法が極端な形で使われていました。
重要キャラが胸を銃弾で撃たれて川も流れていない断崖絶壁から突き落とされ、主人公がその死をさんざん悲しんだ後に、ひょっこり生きて戻ってきたのです。しかもなぜ助かったのか詳しい説明はしませんでした。

ご都合主義だと言われても、悲しみの後に大きな喜びを持ってきた方が、多くの人はおもしろいと感じるのです。
(ただ、アニメよりもストーリーの整合性が求められる小説で、クロスアンジュのようなことをやると、読者を興冷めさせるリスクが高くなります)

使い古された手ですが、それ故にこそ有効であり、今でも多くの物語に使われています。
みなさんも、特定の感情を募らせておいてから、その対極となる感情をぶつけるという手法を活用してみてください。