はじめまして、風月さん。ご投稿ありがとうございます。
文章がうまくなりたい、というその熱意、そしてご自身の文章を公開して意見を求める勇気に、まず敬意を表します。酷評されたとのこと、さぞお辛かったと思いますが、それは風月さんの作品がそれだけ人の心を動かした(たとえ今はネガティブな方向でも)証拠ですし、何より「もっとうまくなりたい」と思えたことが、上達への何よりの才能だと思います。
岩淵悦太郎氏の『悪文』を読まれたとのこと、素晴らしいですね。文章の基礎体力をつけようという意志が伝わってきます。
さて、ご提示いただいた小説『異能魔法戦アポカリプス』を拝読しました。
結論から言うと、**風月さんの文章は「ひどい」わけでは決してありません。**むしろ、独特の世界観、スピーディーな展開、魅力的なキャラクターを創り出す力は、かなりのものだと感じました。
ただ、「何を言っているのか分からない」という感想が生まれる理由は、いくつか考えられます。これは「才能がない」のではなく、「技術」で解決できる問題です。内容には踏み込まず、純粋に「文章技術」の観点から、改善のためのポイントをいくつか提案させてください。
小説の文章分析と改善ポイント
ご自身の文章と見比べながら読んでみてください。
ポイント1:情報の出し方と「視点」の整理
読者が「分からない」と感じる最大の原因は、「誰の視点で、何が起きているのか」が瞬時に理解できないことにあります。特に戦闘シーンのような目まぐるしい場面では、読者の視線をしっかりガイドしてあげる必要があります。
【原文】
激しい運動と緊張で混乱する脳味噌を、死にたいのかと脅して無理やり冷静にする。逃げることは不可能。今から数秒の間に全てを決めねばなるまい。時刻は午後五時、年と季節を一六九に分けたところの一五つ目。昨日の天気は雨。周囲には樫と蜜柑の木、足元にはシダとヒイラギ、イバラの仲間。蛇の目の岩がぬかるんで、イカルの群れが空に鳴く。菅谷は呪文を導き出し、唱える。
【問題点】
オークに殺されそうな極限状態で、いきなり季語や天候、植物図鑑のような情報が羅列されるため、読者は「え、何? どういうこと?」と混乱してしまいます。これが呪文の材料だと後で分かっても、読んでいる瞬間は物語から突き放された感覚になります。
【改善案】
「なぜ」その情報が必要なのかを、先に示してあげましょう。
激しい運動と緊張で、脳が思考を放棄しようとする。菅谷は「死にたいのか」と自らを叱咤し、無理やり冷静さを取り戻した。逃げることは不可能。今から数秒で、この場にあるすべてを利用して、呪文を編み上げなければならない。
菅谷は感覚を研ぎ澄ます。――時刻は午後五時。年と季節を一六九に分けたうちの一五。昨日の雨でぬかるむ蛇の目の岩。樫、蜜柑、シダ、ヒイラギ。空を鳴きながら横切るイカルの群れ。全ての要素が術式へと組み込まれていく。彼は答えを導き出し、唱えた。
【解説】
「呪文を編むため」という目的を先に書くことで、一見無関係に見える情報の羅列が、「主人公の必死の行動」として読者に伝わります。
ポイント2:一文を短く、分かりやすく
特にアクションシーンでは、短い文を重ねることでスピード感が出ます。一つの文に情報を詰め込みすぎると、読者は内容を理解するために立ち止まらねばならず、物語の勢いが削がれてしまいます。
【原文】
動物的な、しかし流れるような攻撃。すんでのところで無詠唱の魔術を展開し、致命傷は免れるも、体は大きく突き飛ばされて、背中から木に激突する。
【問題点】
読点(、)で文が長く繋がっており、主語が誰なのか分かりにくい部分があります。
【改善案】
思い切って文を切りましょう。
攻撃は動物的でありながら、流れるように鋭い。菅谷はすんでのところで無詠唱の魔術を展開した。致命傷は免れた。だが、その衝撃で体は大きく突き飛ばされ、背中から木に激突する。
【解説】
一つ一つの動作が明確になり、映像として頭に浮かびやすくなります。主語(誰が)と述語(どうした)を意識して書くと、文章は格段にクリアになります。
ポイント3:「説明」ではなく「描写」で見せる
読者が物語に没入するのは、登場人物の行動や会話を通して、その世界の出来事やキャラクターの感情を「体験」する時です。
【原文】
菅谷達は数十分ほど世間話で盛り上がった。
【問題点】
これは「説明」です。二人がどういう関係性なのか、読者には伝わりません。
【改善案】
具体的な会話や様子を少しだけ「描写」します。
「王都の酒場の娘は、まだお前の噂をしていたぞ」
「はは、勘弁してくれ。あいつに惚れられたら面倒でかなわん」
焚き火を挟んで交わす他愛もない会話に、先ほどまでの死線が嘘のように遠のいていく。犬牙見とは、こういう男だった。
【解説】
たった二言の会話でも、二人が旧知の仲であること、緊張が和らいだ雰囲気が伝わります。これが「見せる」ということです。
文章がうまくなるための具体的な勉強法
風月さんがされている「読書」は絶対に無駄にはなりません。ただ、そのやり方を少し変えるだけで、効果が飛躍的に上がります。
「分析読書」と「分析写経」
「この文章は読みやすいな」と感じたら、ただ写す(写経する)だけでなく、「なぜ読みやすいのか?」を分析してみてください。
どこで改行しているか?
一文の長さはどれくらいか?
難しい言葉を使っているか、平易な言葉か?
会話と地の文のバランスは?
なぜこの言葉を選んだのだろう?
この視点を持って好きな作家の文章を書き写すと、ただの作業だった写経が、最高の文章レッスンになります。
リライト(書き直し)を繰り返す
今回私が提案したように、ご自身の文章を**「もっと分かりやすくできないか?」**という視点でもう一度書き直してみてください。これが最も効果的な練習です。時間を置いてから読み返すと、客観的に自分の文章のクセが見えてきます。
読むべき本について
『悪文』は素晴らしい選択でした。次の一冊としては、少し方向性の違う本もおすすめです。
三島由紀夫『文章読本』: 美しく、力強い文章とは何かを教えてくれます。少し難しいですが、間違いなく血肉になります。
清水義範『国語入試問題必勝法』『入試国語問題集』: 小説の「お約束」や「作法」を、ユーモアたっぷりに、かつ鋭く解説した小説です。楽しみながら「読者に伝わる型」を学べます。
プロの脚本: 脚本はセリフとト書き(動きの指示)だけで物語を伝えるため、無駄がありません。情報の見せ方、会話の作り方の参考になります。
最後に
風月さん、あなたの武器は、魅力的な世界観とキャラクターを創り出せる「想像力」です。それは訓練で簡単に身につくものではありません。あなたに今必要なのは、その素晴らしい想像力を読者に正確に、そして魅力的に伝えるための「技術」です。
今回指摘された点は、少し意識するだけで劇的に改善します。落ち込む必要は全くありません。むしろ、大きな伸びしろを発見できた、と前向きに捉えてください。
あなたの文章が、これからどう磨かれていくのか、とても楽しみです。応援しています。